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「アースルーリンドの騎士」別記『幼い頃』  作者: 天野音色
第六章『光の里での休養』
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5 中央護衛連隊、次期連隊長推考議会の決定

 フィンスはエルベス公の、アイリスとの血統を示すような巧みな弁舌で皆の中に、ギュンターは中央護衛連隊長として相応しい、十分な実力と実績を兼ね備えた適任者である。と強く印象付けるのを、安堵の心持ちで拝聴していた。


更に身分が伴わないとの批判にも、ダーフス大公と口を揃え

「彼に、連隊長に相応しい身分を与える準備がこちらにはいつでもある」

と言って反対意見を退け、更に所用で遅れて着いたダンザイン迄もが

「彼程人命が尊いと知って居る者は居ず、他の候補から抜きんでており、近衛の実績もそれを物語っている。

あれ程の激戦のさ中、部下を一人も失わずに帰還出来る隊長が、他に居ようか?」

と発言し、ディアヴォロスの側人カッツェの

「代理として、座っているだけでいい」

の言葉道理に成りそうで、胸を撫で下ろした。


だが、強固な反対意見を発言していたゲロス公がとうとう黙り、議長が会議の終了を、告げようとした、その時だった。

使者が駆け込み、ゲロス公に耳打ちし、ゲロス公が顔を上げて議長に合図する。


エルベス公もダーフス公も一瞬顔を見合わせ、そして…議長がゲロス公に、発言の許可を与えるのを、見守った。


ゲロス公は立ち上がる。

彼はグーデンの、叔父に当たった。

その甥の為に、もう一肌脱ぐ気か。と皆が見守る中、彼は渋い顔でそれを告げる。

「…確かに、候補者の一人グーデンは私の甥だ。

が、選出は公平であるべきだ。

そちらの押すギュンター隊長は、実績がある。と推薦者の方々は申される。

ではそれを、実証して頂こう。

我が甥グーデンも、皆に相応しい実証を、示す機会を切望している。

何せ彼所属の宮中護衛連隊は、激戦等無くそれを示す機会を、与えられていない」


エルベスが、まさか…!とゲロス公を凝視する。

「幻影判定で、甥グーデンは貴方方に、長足るに相応しい実力を示すだろう」

皆が一斉に、ざわめいた。

幻影判定とは、候補の実力が切迫している時、仮定の幻の中でその実証を、示す。と言うもので、候補者、そして判定者達は共に神聖神殿に出向き、幻術使い達の集う中で眠り、夢の中で仮定の戦闘での彼らの戦い振りを、観戦する。と言うものだ。

無論、候補者は夢でありながら幻術者達の見せる、実際の戦闘で戦うし、ヘタをすればその場で命を落とし、二度と目覚めない。という危険を伴う判定だった。


が、中央護衛連隊。と言う重責を担う者が幻の戦闘で死ぬのでは、話に成らない。

かつて数度その判定は行われ、選び出された者は全てが、『私欲の民』を断固として退ける剛の者ばかりで、その判定は最も信頼出来る選出方法として、皆の信頼を勝ち取って来た。


エルベスは幾度も、それを口にしようとした。

が、ダーフス公は首を横に、振った。

誇り高い「左の王家」の血を継ぐ者が、自ら“良し”としない判定を強行すれば、後々面倒な遺恨を残す。と。

グーデンは本当に、剣が使えなかったので。

もしそれを言い出せばあちらは、殺気立ってそれを言う者の暗殺も辞さない程、追い詰められるだろう。

選出に凶行は、避けるべきだ。

神聖神殿隊、神聖騎士団の推薦を得るだけで十分な説得力があるから、それで押し切る方が無難だと。

だからダーフス大公は、それを言ったゲロスを目を見開き見つめた。

“気が狂ったのか?”

そんな瞳でダーフスに見つめられ、ゲロスは不機嫌な表情で、本心は全くの不本意だ。と言う顔を、崩さなかった。

エルベスはつい、皮肉にささやいた。

「ギュンターを上回る実績を、そちらは示せるとお考えのようだ」

二人の実力を知る者なら誰もが、ヘタをしたらグーデンは目覚めず、そのまま葬式を出す羽目に成るだろう。

と予測した。

ダンザインですら、ゲロス公を見つめる。

神聖神殿隊が管理する以上、不正が入り込む余地が無い。

また判定者達は共に眠り、事の次第を見守る役目を担い、彼らの戦いを実戦さながら、観察する。

どう頑張っても、誤魔化しは効かない。

だが議長はとうとう決定する。

とエルベス、ダーフスに顔を向ける。

「異論はありますか?」

エルベスはダーフスを見た。

ダーフスは暫く沈黙し、が、頷く。

エルベスが口を開く。

「我々に異論はない」


 議会の終了に、ダンザインは議場を出ようと扉に歩を進める。

フィンスが駆け寄り、目前へと飛び出す。

ダンザインは了承している。と言うように、優しげに微笑むとつぶやく。

「…なぜ彼らが幻影判定を持ち出すのか?

それを知りたいんだろう?」

フィンスはその、西領地[シュテインザイン]中央護衛連隊の長でありながら同時に、神聖騎士団の長でもある、人外の神秘的な人物を驚愕の表情で見つめる。

が躊躇いながらもつぶやく。

「…ご存知なら話が早い。

だって奴らには圧倒的に不利の筈だ!

………違うんですか?」

「不正が介入する余地があるか?

と問われたら、全く無い。とは言い切れない。

がほぼ不可能だ。

私も立ち会うが、神聖神殿隊の幻術師が不正を計れば直ちに判明する」

フィンスはほっ。と安堵の吐息を漏らす。

いつの間にか、二人の背後にダーフス、そしてエルベスが聞き耳を立てていた。

フィンスは振り返り、両者に会釈する。

ダンザインも同様振り返り、二人に微笑む。

「貴方方もご心配ですか?」

年配のダーフスがおもむろに口を開く。

「彼の、言う通りだ。

自分達に不利な事を言い出すだ等と。

ゲロスは全くどうかしている!

不正を行わなければグーデンがギュンターに勝る事は不可能な筈だ」

ダンザインはちょっと首を傾げる。

彼はこの中で誰よりも長身だったので。

「…メーダフォーテは多分、グーデンに下駄を履かせる方法を、見つけたんでしょうね」

エルベスがそれを聞いて即座に口を開く。

「だがたった今、不正を働く事は不可能だと!」

「それは幻術使い達が。だ。

が…幻の中に、その実力を増幅させるような物を、持ち込む事は可能。

だがそれだとて、幻を操る幻術師達に知られなければ。の話。

幻術師達が気づけば、即座に不正。と糾弾を受ける」

ダーフスは俯いたし、エルベスは吐息を吐いた。

フィンスが言った。

「だがギュンターが勝れば問題無いはずだ。

違いますか?」

ダーフスもエルベスも同時に顔を、上げる。

ダンザインは微笑んだ。

「その通り。

彼はそれは勇猛だ。

怪我を負ったと聞いたが、『光の里』の結界の中。

判定迄には、癒えるだろう」

ダーフスはそっ。と頷く。

が、ダンザインの肩にその手を触れてささやく。

「貴方だけが頼りだ。

私共は共に眠り、彼らが戦う夢を受け取るのみ。

不正が働いているかどうか等、知る術も無い」

ダンザインは微笑むとその、「左の王家」の血を継ぐ、黒髪の大物政治家に告げる。

「私の他に、神聖神殿隊の長も見守る。

アースラフテスは自らが仕切る神聖神殿隊隊員の、不正を決して許しません」

ダーフスもエルベスも…そしてフィンスもそう告げるダンザインを、微笑を浮かべた明るい表情で見つめ返した。


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