12 仇敵
アイリスは、テテュスがファントレイユを庇う為に立ち塞がるその目前に、立ちはだかる大柄な騎士がノルンディルだと気づき、一瞬にして青冷める。
「テテュス!」
ずばっ!目の前の賊を斬り殺すと、シェイルの背を突き飛ばしてテテュスの元へと、走る。
走り行く先からいきなぎらりと銀に光る剣が弧を描くのが視界に入り、アイリスはその歩を一瞬で止め、降って来る剣を首を捻って避けた。
ぶんっ!
凄まじい音が、空を切る。
顔を、上げる。
赤毛の豪腕、フォルデモルド…。
長身な自分でさえ見上げる、オーガスタスと並ぶ程の大男。
「久しぶりだな!アイリス!
どうしてオーガスタスが居ない?」
いつもその赤毛と巨体で彼と比べられ、劣ると言われ屈辱を受けているその男が、この期にオーガスタスと白黒付けたいのは明白だった。
アイリスはテテュスの目前のノルンディルを睨め付け、前を塞ぐ近衛のその力自慢を呪った。
ゼイブンは左から襲いかかる賊の腹を思い切り蹴り、長剣を交えていた賊の腹も次いで蹴って、男が仰け反り様、長剣を振りかざして胸をばっさり殺ると、ファントレイユの背後から捕まえようと手を伸ばす賊を見つけ様、短剣を振り上げる。
が、その時男はもう、飛び来る短剣に胸を射抜かれ、膝を折っていた。
視線を振るとローフィスが、やっぱり長剣で正面の賊の剣を受けて力比べをしながら、こっちを見ていた。
感謝の視線を向けるがローフィスが顎をしゃくり、正面から剣を振りかぶって襲い来る賊に、ゼイブンは慌てて長剣を振り上げてその剣を受ける。
がつん…!
『糞…!』
ゼイブンは視線を、それでもファントレイユのガラ空きの後方を次々と狙い走り寄る賊達に投げ、肝が冷える。
ざんっ!
いきなりふっ!と、剣を押す力が消え、見るとギュンターが飛んで来て、一瞬でその男の背に激しい一撃を、喰らわせていた。
はぁ…!
倒れる賊越しに、金の髪を乱しこちらを見つめる、きらりと光る紫の瞳と目が合ったが、その背に襲いかかる敵を見つけ、咄嗟にギュンターに素早く背後に視線を促す。
が、ギュンターは腰を落としたその体勢のまま、しなやかに後ろに振り向き様、ずばっ!と一刀の下賊を斬り殺す。
がつん!
見とれてる間無く、自分に降りかかる剣をゼイブンはまた、慌てて剣を引き上げ、受け止める。
が、開いた左で、ファントレイユの腕を掴む男に短剣を投げ付けた。
「ぐわっ!」
男は腿を押さえて崩れ落ち、ファントレイユが自分に振り向くその見開かれたブルー・グレーの瞳を見つめ、正面の男の剣を押し止めながら、肩をいきなりがつんとブチ当て男との距離を外し様、ずばっ!と斬りつけた。
今度こそは!とファントレイユの元に駆け寄ろうとするが、襲い来る剣に長剣を合わせる。
がん…!
ゼイブンは正面の賊の下卑た顔に、唾を吐きかけ怒鳴る。
「畜生!餓鬼をさらおうなんざ、大概鬼畜だぜ!」
怒鳴るが、その背後にまだ三人もの賊がゼイブンを殺そうと狙い付く。
ギュンターが素早く滑り込み、その三人に相対す。
「いいから何とか、短剣を投げ続けろ!」
ギュンターに言われ、ゼイブンは目前の敵と戦いながらもファントレイユを襲う賊が寄り来るのを、その場から短剣を振って殺し、防いだ。
ギュンターはテテュスの目前のノルンディルが、その手を伸ばしてテテュスを捕らえようとするのを目に、チラと周囲に視線を送る。
アイリスの目前にフォルデモルドの巨体を見つけて舌打ち
「どけ!」
と激しく剣を振り下ろして賊を、斬り倒す。
が倒した賊の背後居た二人が代わって正面に回り付き、行く手を塞ぐのを目に、業を煮やして大声で怒鳴る。
「ノルンディル!俺はここだ!
目当ては俺だろう?!
他は一切関係無い!一対一で決着を付けろ!
それで白黒付く筈だ!」
皆がそう怒鳴るギュンターに、戦いながらも視線を送る。
が怒鳴る間にも斬りかかる賊にギュンターは、剣をさっと振り上げ、敵の剣が届くその前に、あっという間に振り下ろす。
ずばっ!
「ぎゃっ!」
ギュンターがその紫の瞳をぎらり…!と前を塞ぐ男に向ける。
ノルンディルはギュンターが斜め右、かなり向こうに賊に囲まれ、飛んで来られないのを嗤う。
そしてその背後に、自分の部下達が向かう様を見て、更に。
「…残念だがもう、それで済まない。
俺とやりたきゃお前の方から飛んで来い!
…それが、出来るならな!
お前もアイリスもぶった斬ってローランデとシェイルを頂き、可愛がってディアヴォロスを絶望の淵に追い込んでやる!」
そう怒鳴り、テテュスに向き直る。
ギュンターはギリ…!と唇を噛むと、目前の邪魔者をその凄まじい紫の瞳で睨め付けた。
ローランデはノルンディルの、ギュンターへの返答を耳にし、数を減らしても尚、ぐるりと取り囲み足止めし、一気に斬りかかって来ない賊らに業を煮やし、自ら突っ込んで矢継ぎ早に斬り殺す。が、斬られて倒れ伏す賊達に代わって周囲を取り囲み始める男達が賊では無く、近衛の騎士なのに目を見張った。
ノルンディルの、部下か…。
「メーダフォーテが随分あんたを探してたのに、同行してたとはな!」
その言葉に、ローランデはかつての同僚達を激しい青の瞳で睨め付る。
「今では北領地[シェンダー・ラーデン]護衛連隊長と成った私を殺したら厄介な事になると、メーダフォーテは計算出来なかったのか?!」
騎士の一人が笑う。
「殺しの命令は、受けてない」
それを聞いた途端、ローランデは底冷えする笑みを周囲の元同僚達に投げかける。
「剣を握るこの私を、生け捕りに出来ると?
…随分、舐められたものだな…!」
ノルンディルの部下達は、かつて味方として共に戦地に出向いた男の瞳が敵として向けられた途端、その迫力に身が竦み、どの地方の護衛連隊長もが突出した剣の腕の持ち主で誰よりも剛胆な事をいきなり思い出すと、背筋にぞくりと寒気が走るのを皆が皆、感じた。
ローランデはばさり…!と血糊で濡れた剣を振り、つぶやく。
「…では謹んで、お相手しよう」
多勢に無勢でも顔色も変えないその優しげな外観の男の剛胆さに、取り囲んだ男達は皆一様にごくり。と、唾を飲み込んだ。
テテュスは正面の男が、アイリスやギュンター。そしてディンダーデンらと同じくらい大きく強そうなのにごくり。と喉を鳴らす。
横に、死体が手放した剣が落ちているのを目にし、大きなノルンディルが屈み、手を伸ばして腕を掴もうとした瞬間、テテュスは素早く屈んで剣を掴み、その手めがけて斬りつけた。
ざんっ!
ノルンディルは寸でで身を引き、が、腕に掠り傷を負わされ、その衣服が破け、切り傷からつつぅ…。と血が滴るのに、凄まじい怒りの形相でテテュスを睨み付ける。
だがテテュスは一歩も引く気無く、自分の三倍以上ある大きなノルンディルを、剣の柄を力を込めて握り込み、睨め付けた。
「父が父なら、息子も息子だな!
餓鬼の癖に俺を倒せると、本気で思ってるのか?!」
アイリスはフォルデモルドの向こうにその様を見、震う心を抑え、内心つぶやいた。
『ノルンディルを…本気にさせた…!』
が、テテュスはアイリスの心配を余所に、ファントレイユを背に回したままノルンディルに立ちはだかる。
ギュンターも、ノルンディルがテテュスに総毛立つ程怒ってる様子を、振って来る剣を一瞬で避け、ずばっ!
と鋭い剣を振り金の髪を散らしながら見やる。
ローランデも歯がみし、前を塞ぐ男を、睨め付けて突っ込んで行った。
ディングレーは自分よりずっとテテュスに近い筈のアイリスとローランデが、その前を遮られて進めないのを目に、賊と剣を交えたまま、その深い青の瞳で睨め付けるとぐいとその剣を、上へつっ放し様ざんっ!と音を立てて振り降ろし、敵が叫んで仰け反るのも構わず、そのまま背を向け駆け出す。
ローフィスは背後をすっ飛んで行くディングレーに気づき、チラ…!と遙か後方、拳程に小さく見えるテテュスと目前のノルンディルの、立ち塞がる姿に視線を送る。
が、間髪入れずに剣が、降って来る。
草原下方から押し寄せる敵の相手を一身に受けていたギュンターが後方に回った事で、今や自分が矢表と成り、連中の足止めをしなけりゃ背後のレイファスが狙われる。
幸い、シェイルはレイファスの手を握ったまま離さず、周囲ぐるりと目を配り、寄り来る敵の喉を次々に掻き切っていた。
が、アイリス、ディングレーが消えた今、前方に居た賊をディンダーデンが一手に引き受ける羽目と成り、背後のシェイルとレイファスへ、駆け寄ろうとする敵を矢継ぎ早に、剣を車輪のように振り回しては撃退していた。
それでも…!
ローフィスはまた、背後に回り込もうと横を擦り抜ける賊の背に、短剣を投げた。
「ぐわっ!」
仰け反り、倒れる男から視線を前へと戻す。
剣を合わせていた賊は離し様、叩っ斬ろうと振り上げる。
咄嗟に剣を引き、腹へと突き刺す。
「ぐっ…!」
口から血を吹き出して、男は体を斜めに倒し、もんどり打って地に伏した。
が直ぐ次…!
かん!
降って来る剣を長剣で止め、心の中で叫ぶ。
『アイリス…!
子供を捕られたら、終わりだ…!』
だが、いつもなら信頼感溢れるアイリスの、目に見えぬゆったりとした“気"を感じるのにその様子が無い。
「くっ…!」
ローフィスは思い切り体を倒して相手の腹に、足蹴りを叩き込み、吹っ飛ばし様剣を思い切り振る。
胸を深く抉り賊は後ろに、血を迸らせながら吹っ飛んだ。
咄嗟に振り向き、アイリスの姿に視線を送る。
がその正面で、フォルデモルドがにやけ面で仁王立ちしその豪剣を振り、行く手を塞いでいた。
アイリスの、歯噛みして憤る、悔しそうな横顔が視界に飛び込む。
だが殺気を感じて顔を正面に戻すと、剣を真っ直ぐこちらに向け、賊が突っ込んで来ていた。
ローフィスは一気に“気"を溜めると、やはり剣を、相手の腹を突き刺すように前に突っ立て、向かい来る賊目がけて突っ走って行く。
賊の剣は、正面左から腹目がけて真っ直ぐ襲い来る。
交差する一瞬で、ローフィスは右横に体をスライドし、右手に持つ剣を放し様左手でがっ!と握り込んで、そのまま敵の腹へと突っ込んだ。
どっ!
「ぐふっ…!」
敵の剣は空を突き、ローフィスの剣は賊の腹に刺さった。
ざんっ!
剣を引くが、まだ直ぐ次が、飛び込んで来ていた…。
テテュスの背に庇われたファントレイユに駆け寄る賊を見つけては、ゼイブンは短剣を投げつける。
「がっ!」
賊の呻きにファントレイユは振り向くと、賊は胸を短剣で突かれ、仰け反って倒れる。
ファントレイユがゼイブンを必死で見つめる。
ゼイブンは目前の賊が、斬り殺そうと頭上から降らす刃を咄嗟に長剣で止めながら、それでも視線を息子に向けた。
自分を見つめるファントレイユの横から、捕らえようと手を伸ばす賊に、ゼイブンは開いた左手で短剣を素早く投げ付ける。
「ぐっ!」
ファントレイユは横の賊が倒れ込むのに振り向き、それでも再び必死でゼイブンに振り返って見つめた。
ゼイブンと戦う賊は剣を引き、ゼイブンに再び、その剣を振り下ろそうとしている。
「ゼイブン!」
ファントレイユの絶叫に、ゼイブンは一瞬で屈み、左肘を相手の腹に思い切り叩き込んで引き、賊が腹を押さえて前屈みに成り曝したその背に、長剣でずばっ!と斬りつけ、怒鳴る。
「いいから、そこに居ろ!
お前が動くと、狙えない!」
そしてまた、ファントレイユを捕らえようと襲い来る賊に閃光のように短剣を投げ、賊は
「ぐわっ!」
と叫び、後ろに転がる。
ファントレイユはゼイブンと目前のテテュスを交互に見つめ、微かに震い、それでもゼイブンに頷いた。
ギュンターはゼイブンに背を向け、目前の敵を殺し続けテテュスの元へ駆け込む機会を狙い澄ますが、次々に絶え間なく襲い来るしつこい賊達に思い切りその行く手を遮られ、腹立ちのまま向かい来る男に、一瞬で剣を振り上げ降ろす。
「ぐわっ!」
「死にたくなけりゃ、いい加減道を空けろ!」
が、それでも身を屈めて隙を狙う男達を見つめ、ギュンターは眉間を、寄せる。
さっき迄斬り殺していたのは確かに賊だった。
が今や自分を取り囲むその男達は、賊じゃなく騎士で、近衛の男達だった。
…ノルンディルの、部下か。
だとしたら狙いは俺で、ノルンディルの為に一太刀でも喰らわせたいのも無理は無い。
アイリスは豪腕フォルデモルドの大振りの剣を、二度、三度と首を左右に振って避け、じりじり隙を狙う。フォルデモルドの背の向こう、テテュスが剣を持ち、烈剣ノルンディルに立ち向かう姿に生きた心地がしない。
ディングレーは最後尾のテテュスとファントレイユに視線を向け、横から行く手を遮ろうと寄り来る賊に走る足を止めず、一気に一太刀浴びせ斬り殺した。
がその正面に年上の、近衛でも剣豪と名高い『死の刃』ラルファツォルの、自分と同じくらい長身の逞しい体躯が不気味な“気"を放ち、ゆらりと立ち塞がるのを目に、一瞬で進む歩を止め、奥歯をぎり…!と噛む。
「どけ…!」
腹の底から狼の咆吼のように怒鳴るディングレーの声に、だがその歴戦の強者は嗤った。
「ひよっ子が…。
左将軍に目をかけられ、いっぱしのつもりか?!」
ディングレーの激しく睨むそのきつく深い青の瞳に、ラルファツォルは動じる事無く睨め返す。
ディングレーは、さらりと銀の髪を肩に滑らすその年上の剣豪に、静かな咆吼で威嚇する。
「…なら、どかせる迄だ!」
ラルファツォルの、淡いグレーの瞳が陽を弾いて銀に光る。
「俺をか?」
「無論!」
ディングレーの、荒い気性そのままの早い剣が飛び、ラルファツォルは一っ飛びで後ろに下がり避け、ぶんっ!と音を立てて空を切るディングレーの剣が下がると一気に、頭上からその手に握る剣を振り下ろす。
がっ!
ディングレーは下げた剣を咄嗟に引き上げ、交え止める。
ラルファツォルはその手応えに、嗤った。
「“左の王家”の血筋は、伊達じゃないか…?
だがお前は、ディアヴォロスともレッツァディンとも役者が違う!」
ディングレーは深い青の瞳でその強者を睨め付け怒鳴る。
「ぬかせ!
お前を叩っ殺し、何が何でもその道空けてやる!」
ディンダーデンはその男が、シェイルを狙おうと歩み寄るその前にすっ、と立ち塞った。
ディングレー、そしてディアヴォロス同様「左の王家」特有の黒の長髪を降り、男は蒼の瞳で激しく目前の邪魔者を睨め付け吠える。
「どけ!ディンダーデン!」
ディンダーデンはその咆吼に口の端を持ち上げ、青の流し目をくべると静かに応える。
「よう…。レッツァディン。“狂い狼”。
…はるばるこんなとこ迄、ギュンターを仕留めに来たのか?
それとも…」
チラ…と視線を、背後に護る銀髪の美青年シェイルに向け、つぶやく。
「奴をディアヴォロスから奪って、鼻を開かすか?」
ゆらり…!と剣を下げたまま立ち塞がるディンダーデンの背のかなり向こう、寄り来るノルンディルの部下を蹴散らすギュンターが金の髪を散らし、激しく剣を振るう姿が見える。
が…目前の敵ディンダーデンの真後ろには、ディアヴォロスをひれ伏させる恰好の材料、美貌の恋人シェイルの姿。
レッツァディンはディンダーデンの忌々しい青の流し目を睨み返す。
「まずはお前からだ!」
「面白い。
お前とは剣でやりあう事は、無かったな…!
一応、味方同士だからな!」
そう言い放つディンダーデンは、軍で一目置かれる男だけあって他の奴らとは違い、激しく睨め付けてもびくともせず、剣を相変わらず下げたままゆらりと肩を揺らし、不適な笑みをその青の流し目に浮かべる。
レッツァディンが、長い黒髪の先迄ぴりつかせ、獣じみた蒼の瞳で睨み据え唸る。
「俺が、怖く無いようだな!」
ディンダーデンは近衛で名を轟かせたその剣豪に、全開で笑った。
「動く死体と比べりゃ、お前がどれ程のもんだ!」
がっっっ!
どちらも長身で逞しい男達が、力任せに剣を激突させ、ディンダーデンはさっと身を引くと再び豪腕で剣を振り、レッツァディンは胸を開けて後ろに飛び下がる。
びゅん!
胸元をその豪快な剣が掠り、レッツァディンは返礼とばかり、斜め上から激しく振り下ろす。
ディンダーデンは右肩を捻ってすかし、その肩に顔半分埋めたまま、笑う。
「どっちも互い、致命傷を与えるのに苦労しそうだな。
より多く傷を作るかの勝負か!」
ざんっ!
ディンダーデンの素早い剣が上から振り下ろされ、すばっ!と肩口を掠り様レッツァディンは後ろに飛び退く。
ざんっ!
が直ぐ襲い来るレッツァディンの剣が胸元に飛び込むのを、ディンダーデンは間一髪で避けるが、胸元の衣服が破れ、血の筋が浮かぶ。
が、直ぐ様ディンダーデンは剣を素早く振り上げる。
「そっちも、浅いか?!」
言って、斜め横から振り下ろす。
ぶんっ!がっ!
豪快な剣をその剣で受け、だがレッツァディンはその剣を押して来る力に、肩に負った傷が痛むように顔を一瞬しかめた。
ディンダーデンが、合わせた剣越しににやりと笑う。
「ちょいと俺の付けた傷の方が、深いようだな?」
「ぬかせ!」
ざんっ!
気性そのままの激しい剣で振り払われ、ディンダーデンは後ろに飛び退く。
が、ディンダーデンは鮮やかに剣を後ろに振り下げ一歩後ろに引くと、身を屈め一気に間を詰める。
レッツァディンが懐深く飛び込むディンダーデンに血相変え後ろに跳ね飛び、ディンダーデンの豪剣は空を切って炸裂した。
どんっ!
その凄まじい音にレッツァディンの眉間が寄り、その顔がきつく、厳しく成った。
「調子に乗るな!」
レッツァディンの早い剣が斜め横から振り、ディンダーデンは素早く避けると、やはり斜め上から振り下ろす。
「…そっちもな!」
が、レッツァディンは肩を落としてそれを避け、直ぐ様剣を返し構え、ディンダーデンを睨め付けて襲いかかる。
「減らず口は、それ迄だ!」
ローランデは足元に転がる二人の近衛の騎士の死体を避け、足場を探す。
それでもノルンディルの部下達は引く、様子を見せず斬りかかる機会を狙い澄ます。
「まだ、生け捕りたいか?」
足元の死体を目で差すと、正面の男が振りかぶって斬り込んで来る。ローランデが栗毛を散らして避ける方向に、敵の騎士は一瞬でスライドして来、仕留めようと剣を振ろうとするその瞬間、ローランデは身を屈めた。
「ぐっ…!」
どうして…。
敵の騎士は一瞬で間を詰められ、腹に突き刺さる剣の感触に目を見開く。
ローランデが一気に剣を抜く瞬間激痛が走り
「ぐわっ!」
と叫んで血の吹き出す腹を、押さえて崩れ落ちる。
ローランデは背後を覗うが、襲って来る気配は無く、正面その向こう、テテュスの向かいで剣を握るノルンディルの姿を見、駆け寄ろうとした途端、前をまた、近衛の騎士が塞ぐ。
「どけ!」
腹の底から怒鳴り、その男にローランデは剣を下げて、突っ込んで行った。