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「アースルーリンドの騎士」別記『幼い頃』  作者: 天野音色
第三章『三人の子供と騎士編』
31/115

11 手柄

 ギュンターは顔を上げて、オーガスタスを、見た。

オーガスタスは首領を見、笑みをたたえていた。

大柄な、ライオンのように風格のある男の微笑みに少し気圧されながらも、首領が口を、開いた。

「楽しそうだが、お終いだ。お前も近衛の男か?」

首領に訊ねられ、オーガスタスはにっこりと笑った。

「そうだ。左将軍の側近をしてる」

「位が、さぞかし高いようだな」

オーガスタスは肩をすくめる。

「…そうでも、無い」


ディングレーが、吐き捨てるようにつぶやく。

「で?俺達は皆殺しか?」

ギュンターは生き残った三人の盗賊のいかにも剣の使え無さそうな様子に

『こんな下手くそな奴らに斬られるのは絶対ごめんだ』

と、思い切り眉をしかめた。

ローフィスも、気持ちは解る。と俯いて短い吐息を、吐く。


頭はぞっとする下卑た凶悪な顔を歪め、黒髪の気品ある尊大なディングレーに、笑った。

「こんな夜盗の手にかかって死ぬのは、誇りが許さんか?」

ディングレーが顔を大きく、揺らして頷いた。

「良く、解ってるな」



アイリスが見つめていると次の間に居た男が、両手に剣を抱え、部屋に入って来た。

「奴らを、見張ってろ!」

レイファスに短剣を突きつけた男はその男に言うが、男は寝台の上のファントレイユを見つけて、目を輝かせた。

「お宝が、もう一人居る。

手柄をお前に独り占めされるのは、ごめんだ」


ファントレイユはその男が、レイファスを捕まえてる男の横で邪魔な剣を下ろし、一本だけ腕に携えて、自分の方へと進むのを、見た。


捕まえる気だ…!

毛布を握る、手が震える。

アイリスをそっ、と見た。

テテュスが目を見開き、自分の方へと駆け寄ろうとし、アイリスにその手を、掴まれ止められた。

が、賊が寝台の端迄来、寝台に足を掛けて乗ろうとした時、どん…!と戸口を塞ぐアイリスの背を突き飛ばして男が飛び込んで来た。

さっ!と、素早く寝台の上に飛び乗り、ファントレイユの目の前にその背と髪の色が飛び込んで、それがゼイブンだと解る。


「息子だ…!よせ…!」

賊の前で両手広げ、ゼイブンはファントレイユを、その背に庇っていた。

賊は後ろの、喉に短剣突きつけられたレイファスを、顎でしゃくった。

「…殺されたく、無いだろう?」

ゼイブンは顔を、揺らした。が、低い声音でつぶやく。

「息子の方が、大事だ」


テテュスが叫んだ。

「駄目…!レイファスが傷つけられる!」

悲鳴のような声だった。

アイリスが、必死にもがくテテュスを抱きしめる。

ゼイブンはアイリスに視線を送るが、アイリスは言われる迄無くテテュスを決して放さないと、ゼイブンをきつく、その濃紺の瞳で見つめ返した。

ゼイブンは男が入って来た戸口から、ローランデとシェイルが音も立てず姿を、見せるのも、見た。

そして顔を歪めて、息子を拉致しようとする男に怒鳴った。

「俺は、丸腰だ!」

賊は確かめるようにゼイブンの腰回りを見、両手で息子を庇い武器を持っていないのを、確認する。

ゼイブンは尚も叫んだ。

「…解らないのか?!

俺にとっては自分の息子が、一番なんだ!

いいからとっととそいつを連れて、出て行け!」


その言葉に、ファントレイユはそっと、震える手でゼイブンの、背中を、掴んだ。

ゼイブンは一瞬、びくん…!と顔を揺らすと、瞬間後ろに振り向き、ファントレイユの暗がりに透けて輝く、ブルー・グレーのあどけない瞳を一瞬視界に映し、男に振り向くと、本当に顔を歪め叫んだ。

「連れて行くなら、そいつだけにしろ!

俺の息子は絶対…渡さない!」

男は業を煮やし腕に持つ剣を、鞘からすらりと抜く。

ファントレイユはゼイブンの、後ろにそっと回した指先がベルトの間から、短剣を音もなく抜くのを、見た。

賊が目をぎらつかせ、怒鳴った。

「どかないんならお前を先に、殺す迄だ!」

男が剣を後ろに引き様、いきなりゼイブンの腹へと突き立てた。


「…ゼイブン!」

月の青い光差す暗い室内に、レイファスの絶叫が響き渡った。

が、その時レイファスを拉致した男の背後ろから、ローランデとシェイルが同時に襲いかかる。

ローランデが、レイファスに短剣を突き付ける男の腕を背後から掴むとほぼ同時に、シェイルは後ろから男の頭を掴み、引き下げ、その喉に短剣を押し当て、すっと引いて掻き切った。

ローランデは男の腕を引き剥がしてレイファスの腰を捕まえ、男の喉から血が吹き出す前にレイファスを自分の腕に、抱き寄せた。


テテュスは呆然とそれを見、ゼイブンを殺した筈の男が、ぐったりとゼイブンに、もたれかかるのを、見た。

アイリスはテテュスの腕をそっ、と放すと、見上げるテテュスの瞳を優しい濃紺の瞳で覗き込み、だが直ぐに窓辺に走り寄って、窓を押し上げるなり庭に向かって、身が震えるような低く通った声音で叫んだ。

「害虫は、死んだ!」



首領が呆然と、窓辺で叫ぶ男を見上げた。

残ったたった三人の男が、激しく睨むディングレーとギュンター、ライオンのような大きなオーガスタスに恐れを無し、縄を掛けられずに首領に怒鳴られ、やっとローフィスに、手を差し出せと、縄を掛けかけた、矢先だった。

が、目を正面に戻した時もう、ディングレーもギュンターも、屈み様剣をその手に、握っていた。

ローフィスは縄を掛けていた男を、足で蹴って突き飛ばし、ディングレーはその剣を、振るう気満々で下げたまま握り直し、ギュンターはびっ!と血糊を振って、飛ばしては、首領を見据えた。


オーガスタスが殺る気満々の二人に静かに視線をくべ、腕組みしたまま言った。

「どのみち死刑だろうが、いい子に務めれば恩赦もある…。

それともここで、ひと思いに死ぬか?」


が、オーガスタスの言葉が終わるか終わらない内に、首領と残った三人は駆け出していた。

オーガスタスがローフィスを見つめ、ローフィスは垂れた縄を手首に掛けたまま、何げに腕を、振り上げた。

髪を掻く仕草のように見えたが、首領の背に短剣は刺さり、首領は前に倒れた。

残る三人はいきなり倒れた首領を見

「ひっ!」

と叫んでそのまま、駆け去って行く。


ローフィスはオーガスタスに訊ねた。

「あれは、どうする?」

「好きにしろ」

ローフィスは思い切り右腕にかかる縄を取り払い、短剣を三本持つ手を振り上げ、それを立て続けに投げた。

「あっ!」

「ぐっ!」

「ぐえっ!」

皆、腿に刺さり、男達は足を押さえて地面に転がった。


オーガスタスが腕組んだまま青い月明かりの中、無数に黒く浮かび上がる転がる男達を見回すと、心からうんざりしてつぶやいた。

「後片づけが、大変だ」

ギュンターもディングレーも、全く同感だ。と、頷いた。



「…野郎の癖に、図々しい!」

ゼイブンが、自分にもたれかかる男を、押し退ける。

男は喉に短剣を突き刺し、その手に剣を握ったまま、後ろに、倒れた。

テテュスが目を丸くして、ゼイブンを、見た。

ゼイブンは暗がりからブルー・グレーの瞳を輝かせ、テテュスに、吐き捨てるように言った。

「心臓じゃない。喉だ」

シェイルはそれを聞いて、どう違う?と、肩をすくめた。

アイリスが窓辺からゼイブンに振り向くと、低い声でつぶやく。

「息子を助けて殺したんだ。今度は落ち込むなよ」


レイファスはローランデの腕にしがみ付き、ローランデは彼を自分の子供のように大切に、抱きしめて耳元で、ささやいた。

「本当に、ごめん…。怖い思いをさせて…」

小さなレイファスにきつくしがみつかれ、ローランデはずっと彼の耳元で、ささやき続けた。

「もう大丈夫。怖く無いから…」



「…八……九……」

ギュンターが死体を引きずり、ディングレーは山に成った死体にまた一人、放り込んでは数え、オーガスタスは怪我人を引っ張り寄せては、縛り上げていた。


ローフィスが腕組みし、つぶやく。

「オーガスタスは殴り、ギュンターとディングレーが殺しまくったんだな?」


ギュンターとディングレーは死体を引きずりながらじろりとローフィスを、見た。

「…中途に逃げられたら、手加減しようが無いだろう?」

ギュンターがぼやくと、ディングレーも頷いた。

「結局、殺すか逃がすかだ」


ローフィスは殴って気絶してる男達をぐるぐる巻きにしてるオーガスタスを顎で、しゃくった。

「ああいうやり方もあるって、知らないんだな」

ディングレーが、むすっとローフィスを睨んだ。

「あいつ程腕が、長く無い」

ギュンターはそれを聞いて、言った。

「俺は足が、長く無い」

ローフィスが二人を見ると、ギュンターがぼやく。

「いつもより、間合いが遠いから届かない」

ローフィスは肩を、すくめて屋敷に行こうとした。

「首領とあの三人は、あんたの仕事だ」

ギュンターの素っ気ない声に、ローフィスは背を向けたままつぶやいた。

「確かに。だが後片づけはそれとは別だろう?」

ディングレーはローフィスの肩を叩き、その手に縄を握らせ、笑った。

「そうでも、無いぜ」



 四人が後片づけを終えて部屋に入ると、レイファスはローランデの腕の中に居て、ローランデはレイファスを抱いたまま椅子に掛けていた。


テテュスは一人かけの椅子に掛けてアイリスに飲み物を渡され、ゼイブンは長椅子に掛け、後ろからファントレイユに、背中にしがみつかれて呆けていた。


「…レイファスが、人質か?」

ローランデの横のソファに掛けていたシェイルが、血糊や泥で汚れたくたびれた衣服で横に立ち、その明るい栗毛を肩の上で揺らして顔を傾けて問い掛ける青い瞳の、ローフィスに頷く。

ギュンターが、ローランデの座る椅子の横にやっぱりくたびれた衣服で立つと、腕組み、ローランデの胸に顔を埋めるレイファスをため息混じりに、見た。

その気配でレイファスが顔を上げ、金髪で美貌を煌めかせる、紫の瞳のギュンターを見上げてそっと、言う。

「借りてる。でももう返さないと、駄目?」

ギュンターが、ぶっきら棒に告げた。

「もう少し、貸しといてやる」

レイファスは頷くと、またローランデの胸に顔を、埋めた。

シェイルが腕を伸ばすと、直ぐ隣の椅子のレイファスの頭を、思い切り小突く。

「お前、怖いんじゃ無いな?」

レイファスは顔をローランデの胸に突っ伏したまま、そっとつぶやく。

「そりゃ、半分は寝ぼけてたけど…。

あんな臭い奴に掴まれて、喉に短剣押しつけられたりしたら最悪な気分だ」

ローフィスが椅子に座るシェイルの横に立ったまま、腰のベルトに両手かけ、レイファスの方へと顔を傾け、尋ねた。

「…で、ローランデの胸は居心地いいのか?」

レイファスは、うん。と頭を揺らした。

「すごく、頼もしくて安心する。品が良くていい匂いもする」

シェイルの、その銀の波打つ髪を胸に垂らした、素晴らしい美貌の眉が寄った。

「お前、ただ甘えてるだけじゃないのか?!」

ローランデが、目にくっきりと飛び込む鮮やかなエメラルド色のシェイルの瞳を見つめ、いいから。とその澄んだ青の、優しい瞳でたしなめた。


ディングレーは、まだファントレイユに後ろから、しがみつかれて呆ける、乱れた銀に近い明るい栗毛を肩に乗せてるゼイブンを、伺い見た。

「…ファントレイユが抱きついて、良く喚かないな?」

ファントレイユはゼイブンの背からきっ!とその綺麗な顔を上げ、黒髪の男前の騎士を見つめ、怒鳴る。

「だって、背中だから!」


オーガスタスも、そのもしゃもしゃと絡む、赤茶の髪を肩と胸に垂らし長い腕を組むと、鳶色の瞳でその様子を眺めて静かにつぶやく。

「…でも野郎はどうだと、喚かないな」

また、ファントレイユが顔を上げ、父親そっくりな銀に近い栗毛をふんわり背に垂らし、ブルー・グレーの瞳を細めて怒鳴った。

「違う!ゼイブンは僕を庇う為に人殺しして、落ち込んでいるから僕が、慰めてる!」


ディングレーは黒髪を揺らすとオーガスタスを見、オーガスタスはディングレーのダーク・ブルーの瞳を受けて、さりげなく感想を述べた。

「レイファスと、逆だな」


ゼイブンはそれを聞くなりさっ!とファントレイユに振り返り、背中に張り付く息子に怒鳴った。

「そうなのか?!

お前が怖くてしがみついてると思ったから…俺は野郎でも、我慢してたんだぞ!」


ディングレーもオーガスタスもが、そのふざけた親子にやれやれと首を横に振った。



テテュスはゆったりと濃い茶色の髪を品良く背に垂らすアイリスを見上げ、その頬をハンケチでそっ、と拭った。

白のハンケチが赤く染まり、アイリスが訊ねた。

「付いてる?」

テテュスが言った。

「動いちゃ、駄目。

…アイリスも、いっぱい殺した?」

アイリスは首を横に振って、自分と同じ色の髪を長く背に垂らし、白い頬をして濃紺の輝く瞳で自分を見上げ、一生懸命頬の血糊を拭う可愛らしい息子に、そっとささやいた。

「上に、上がろうとした奴らだけだ。

ディングレーやギュンターに比べれば、うんと少ない」

テテュスは頷き、また聞いた。

「ゼイブンが何とかするって、解ってた?」

「ゼイブンはいつもとんでもない手を使うから、予想は出来なかったけど…」


レイファスがローランデにしがみつきながら、その鮮やかな肩迄ある栗毛を振って、きっ!と振り向いた。

その、青紫のくっきりとした瞳が潤んでいた。

「僕はゼイブンが、死んだと思った!」


その、悲鳴に近い声に皆が彼に、振り向いた。

「…僕のせいで、ファントレイユにどう謝っていいのか解らなくて、胸が張り裂けそうだったのに!」

そう言ったレイファスの可憐な顔が、泣きそうに歪み、アイリスが慰めるように濃紺の、優しい眼差しを彼に注ぐと、そっとつぶやく。

「大丈夫。ゼイブンは殺しても死なない。

それに、あれだけの腕前に成ったのは死にたくない一心だから。

あそこで死んだら今までの鍛錬が全部無駄に成るし、ゼイブンは絶対そういう無駄は、しない男だ」


皆が、そうだろうな。と一斉に顔を揺らして頷く。

が、ゼイブンはブルー・グレーのその淡い色の瞳でアイリスを見つめぼやいた。

「殺したら、普通死ぬだろう?俺を何だと思ってんだ?

…あんただって人を誉めるのは凄く、ヘタだ」

アイリスは真顔でそう言うゼイブンを、たっぷり見つめ、言った。

「誉めて無い」

ゼイブンは、だって誉め言葉だろう?と皆を見回すが、誰も顔を背けて彼と目を、合わさなかった。


ローランデが明るい栗毛に濃い色の筋が混ざる、優しい艶やかな髪を胸に流し、それでもまだ、腕の中で震えている小さなレイファスに、そっとつぶやく。

「悪いのは私達だ。奴らを君達の寝室迄上げてしまったんだから。

君は少しも悪く無いし…もし、ゼイブンが死んだとしても、君のせいじゃなく私のせいだ」

レイファスはそれを聞き、顔を上げ、また泣き出しそうに表情を歪めてローランデの胸に顔を突っ伏し、鮮やかな栗毛を揺らして叫んだ。

「大好きだ!ローランデ!」

ギュンターが、しがみつくレイファスを羨ましげに見つめて腕組みし、シェイルも、その気持ちは凄く解る。と吐息を、吐いた。


ローフィスは顔を上げると、長椅子に掛けるゼイブンとローランデの椅子の横に立つギュンターを、交互に見つめて問い正した。

「で、どういういきさつで奴らが屋敷に侵入したんだ?

俺が聞いたのはゼイブンが酒場を一人で護ってるから、援軍を寄越せと言う話だった」

シェイルも銀髪を揺らして唸った。

「襲われてたのは、酒場じゃなかったのか?!」

ゼイブンが肩を、すくめた。

「ギュンターに付いて屋敷に行った連中が、屋敷に宝がわんさかあると思ったんだろう?

酒場より金に成る」

アイリスが呆けてゼイブンに聞く。

「酒場に宝が、あったのか?」

ギュンターがつぶやく。

「酒場にあったのは、宝じゃなく女だ」

オーガスタスが、呆れて言う。

「じゃ、ゼイブンは酒場と言うより女を護ってたのか?」

ギュンターが肩をすくめた。

「しかも、男の居る女だ」


皆が呆れまくった。

が、ゼイブンは反論した。

「だが賞金首はギュンターで、近衛の隊長を仕留めたら金に成るからお前に付いていったんだ」

ギュンターがかんかんに成った。

「女を助ける為に、俺が近衛の隊長だと連中にバラしたのはお前だ!ゼイブン!」

だがゼイブンも怒鳴り返した。

「近衛の隊長が賞金首だなんて、俺に解る訳無いだろう?盗賊にダチが居る訳じゃなし!」


アイリスが、大きなため息を付いた。

「身を呈して息子を助け、連中の気を引いて隙を作り、逆転の機会を作った大した奴なんかじゃなくて…自分の迂闊なミスを、ただ単に、埋め合わせしただけなのか?」

皆に一斉に見つめられてゼイブンは、そう言うアイリスに怒鳴った。

「お前やローフィスだって、女がごろつきに連れて行かれたら黙って見て無いだろう?」

ギュンターが、唸った。

「そうだな。アイリスやローフィスなら間違いなく、自分が戦って女を救った。

女を助ける役だけを引き受けて、俺だけに剣を抜かせるマネはしない」

ゼイブンは目を見開く。

「だってお前、爆発寸前で憂さ晴らししたかったんだろう?

殺気立ってたし、今後ここの連中の面倒事も減るから、いい機会だとお前に譲ってやったんだ!」

ギュンターが沸騰して怒鳴った。

「いらぬ世話だ!」

が、ゼイブンは済ました顔で続ける。

「他の連中に聞いて見ろ!

お前が余所で暴れて発散してくれて幸いだと、絶対言うぞ?」


ギュンターは皆を見回したが、誰も彼と、目を合わせず、ゼイブンの言った通りだとギュンターに教えてギュンターの居心地を、最悪にした。


子供達は大人の言い争いについ、顔を上げた。

「…じゃあ…ギュンターが連れて来たの?」

テテュスに聞かれ、ゼイブンは、そうだ。と頷いた。

「酒場の前に三十人を軽く超える奴らが集まり、まずい事に成ったなと思ったら一人が馬で駆け込んで、その後一斉にその場を駆け去って行った。

残ったのはたったの六名で…ギュンターが一人で三十人以上の相手と戦うのかと思い、俺を内心恨んでいても約束事でそれを口に出せなくて気の毒だなと、思ったもんだ」

「約束事?」

オーガスタスに聞かれ、ギュンターが素っ気なく言った。

「どっちの数が多くても、恨み事を言わない約束だ。がこっちはたったの四人だった」

「じゃ、残り全部、賞金首のお前を置き去りにして屋敷に侵入したのか?」

ゼイブンが聞くと、ローフィスも俯く。

「そりゃギュンターの首なんかより、目の前にお宝がわんさかありそうな屋敷がありゃ、そっちを襲うよな」

が、シェイルがぼやいた。

「東の門の近くの石塀に、大きな裂け目があるぞ。アイリス。

公道から通りかかると月明かりで丸見えだ。

多分屋敷を知らせに走った奴、途中で気づいて首領に注進したんだ」


アイリスが、まずい。と俯いた。

ディングレーが思わず怒鳴った。

「お前んとこの、屋敷の管理はどうなってる!」

ファントレイユもレイファスも、思わずアイリスを見た。

アイリスはため息を吐いて、つぶやく。

「忘れてると思うけど…」


皆、睨みながら彼の言葉を、待った。

「葬式と、テテュスの事で忙しくて、気が回らなかった。

君達が居る時に襲ってくれて、本当に幸運だった」


それを聞いて、皆が一斉にやれやれと、首を垂れた。





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