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「アースルーリンドの騎士」別記『幼い頃』  作者: 天野音色
第一章『ファントレイユとレイファス編』
3/115

3 一緒の、時間


挿絵(By みてみん)



 レイファスはセフィリアの前ではそれはしおらしく、病気の母親が心配な様子をして見せていた。


が、朝食後にファントレイユの家庭教師が来て、子供用書斎で書物を一緒に広げ始めると態度が一変する。

書物を、教師が読み進める間も与えず、次から次へと新しい言葉に対しての質問を、投げかけるのだ。

いつものどかに教師の朗読を聞いていたファントレイユは、心底びっくりした。


 教師は時々しどろもどろになって、レイファスの質問に答える。

数行読み、また知らない言葉を聞くとレイファスはその使い方を聞き、どんな風に言い回すのかの事例を尋ね、どんな場合に使うと効果的かも尋ねた。


一時間を超える時間の間レイファスは質問し続け、ファントレイユはどうしてレイファスがいつも、大人のように言葉を巧みに言い回すのかその理由が、とても良く解った。


まるで教師とレイファスの、戦いのような時間の後の、お茶を平和な気持ちで迎え、ファントレイユはレイファスに尋ねる。

「いつも、あんな風なの?」

その質問に、レイファスはファントレイユを見た。

「だって、ぼんやりしてると退屈じゃないか。

いつか来た時君が講義を受けてるのを見てたけど。

良くあれで、眠くならないな?」


ファントレイユは、呆れた。

レイファスの世界には安らぎとか、平和にのどかに時間を過ごすやり方は存在しない様だった。


「言葉を覚えるのが、好きみたいだ」

ファントレイユは、レイファスを見た。

およそ書物とか堅い物が似合いそうにない、それは可憐で可愛らしい、女の子のような顔立ちだった。


レイファスは見つめられて尋ねる。

「一人で居る時、本を読んだりしないの?

立派で格好いい騎士がたくさん出てくる、大人の冒険物とか歴史が大好きだけど、解らない言葉が出て来るとイラつくんだ。

意味が解らないと、せっかくなのにわくわく出来ないだろう?」

「本を、読むの?一人で?」

ファントレイユは本というものは大抵、セフィリアが読んでくれるか、家庭教師の読む物だと思ってた。


レイファスは、ファントレイユのとても綺麗な、人形のような顔をじっ。と見る。

が、ファントレイユにもその時、レイファスが自分をどう思ってるのか解った。

『姿が人形みたいで、頭の中も同様、脳味噌の代わりにおが屑が詰まってるんだ』

…そんな、表情だったから。


ファントレイユは少し、不機嫌になる。

「勉強は、嫌いじゃないけど」

「でも君は人に言われないと、何かをやろうと思わないみたいだ。

自分で、これをしようとか、あれをしようとかは、思わないの?」


ファントレイユはふと、レイファスが尽く人の意見を聞かず、自分のしたい事をどんどん実行する様子に気づいた。


確かに自分は彼に比べると、母セフィリアから

『これをするととても良い』だとか

『こういう事が必要だから覚えるように』だとか。

人に言われた事を、してきたと気づいた。

ファントレイユが言葉に詰まる様子に、レイファスはつぶやいた。

「何が好きで嫌いとか。

これはしたい。あれはしたくないって事なんだけど」

ファントレイユはか細い声で、つぶやいく。

「好きはいっぱい、ある。

嫌いは……。

薬草を煎じて飲むのは大嫌いだけど

あれを飲まないとセフィリアがとても悲しむんだ」

レイファスは、頷いた。

ファントレイユはきっととても幼い頃からいっぱい我慢して来たに違いない。

それでその我慢が、当たり前になってる。

「したく、ない事は?」

ファントレイユは顔を揺らした。

「じゃ、したい事」

「思い切り、水遊びしたい」

レイファスは全開で笑った。

 

 領地の外れの小川で、レイファスもファントレイユも素っ裸ではしゃぎ回った。

ファントレイユは幾度もレイファスに水を掛けたし。


浅いと言っても彼らは五歳だったから、水に浮かぶ事も出来た。

浮いていると青空がとても、綺麗だった。

木々の葉の間から、きらきらと陽光が煌めく。

風がさやさやと吹き渡る。

水は冷んやりと、体に染み渡る。


「気持ちいいだろ?」


レイファスが言うと、ファントレイユが返事した。

「とても」

レイファスはファントレイユを、見た。

あれをしちゃ駄目だとかを、全部聞いていたりしたら、こういう気持ち良さとか楽しいとか、わくわくした事を全部、諦めてるようなものだと言った言葉が、身に滲みて解った様子だった。


 髪と体を乾かす為、木にも登った。


「…………わぁ……」

ファントレイユの声に、レイファスが振り向いた。


「見晴らしが、いいだろう?」


風を受けて濡れた髪をなびかせ、ファントレイユは日頃見ていたものが足下に小さく見える、どこまでも広がる景色に頬を、紅潮させ頷いた。


ようやく人形に見えないそのファントレイユの姿に、レイファスはそれは、安心したようだった。




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