29 戻り行く為の儀式
まだこの辺り、ちゃんと校正すんでません。
時間が無い~(涙)
ひきつれたように痛む…闇の刻印が解かれ行き…ディスバロッサは懐かしい乳母アンタネストの、昔のように聖母のような美しい…彼女の白い指に触れ…恍惚と夢の中に居た。
ディアヴォロスはそれを見…瞳潤ませ、ワーキュラスに感謝を述べた。
そっ…と目開けると、抱くオーガスタスの、泣き出しそうな顔見つけたからつい…囁く。
「猛者左将軍補佐にしては…随分感傷的な表情だから、余所には見せられないな?」
オーガスタスは怒鳴ろうとし…が出来ず結果、ディアヴォロスをきつく、掻き抱き顔を伏せた。
頭の中でそれを見てるらしいディンダーデンが、ぼそり…と告げる。
「随分熱烈だな?」
「違うあれは…」
ローフィスが言いかけ、ギュンターも頷いてディンダーデンに説明する。
「滅多に無い泣き顔、見られたくなくて、ディアヴォロスで隠してる」
ぷっ!
ラフォーレンが噴き出し、皆に見つめられて慌てて背を向けた。
がやはり…笑い続けてるらしくその背は、揺れていた。
が、上空の「夢の傀儡王」がとうとう、キレる。
“いつになったら説明する!”
が、ラキュサスティノスは素っ気無く呟く。
“時空超えての接触だから、もう限界だ。
タナデルンタスに聞くんだな”
そう言って、気配消す。
その時…「夢の傀儡王」にははっきりと、解った。
“貴様…私が作った、幻影では無いな?”
タナデルンタスは笑う。
“光の国に居る、実物だ。
光竜に導かれて来たら…私の幻影が居るから、面白くて重なってみた”
「夢の傀儡王」はどうしてそんな事が可能か、考えあぐねた。
外からの回路は壊れてる…。
が、タナデルンタスも過去のラキュサスティノスもが、ワーキュラスの中の回路を使いここに入ってるのだと突然理解する。
ここに居るワーキュラス自身が、過去の回路と光の国との回路を持っている。
彼らは『光の民』同然。
だから…人間を呼び出す事を考えれば簡単に…光竜にとっては簡単に、出来る事…………。
だがそれも、この世界に幻のタナデルンタスが居るからこそ。
その類似により、ワーキュラスは光の国に居るタナデルンタスを呼び寄せ、回路の容量増し過去のラキュサスティノス迄、呼び出す事を可能にした………。
“…………………………………………”
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォぉぉ!
ワーキュラスが瞬間、飛ぶ。
皆一斉に揺れる地と、そして空をそれぞれ見る。
メーダフォーテは地面が凄まじく揺れるのに、必死で近くの柱にしがみつき、叫ぶ。
“崩れる!!!”
アーチェラスが上空で、結界の天井の亀裂が凄まじい速さで伸び行く様に、悲しげに眉寄せる。
が、ワーキュラスは上空覆う天蓋に到達するなり、その光を伸ばし包み行く。
皆そこに輝く黄金の巨大な竜が…崩れゆく天井をその巨大な背で、支えるのを見た。
“!!!おのれ…おのれ最後迄邪魔する気か!”
ワーキュラスからの鋭い命に、アーチェラス、ドロレスが共に頷く。
瞬時にそこに居た者らを次々、派手に揺れまくるレアル城広間に送る。
が、広間の天井からどんどん崩れた瓦礫が降り注ぐ。
アーチェラスが即座に天井に飛び、光這わせ崩れるのをその身で止め、ドロレスとサーチボルテス、アッカマンらは必死で次々、彼らを広間へと飛ばす。
“保つか!”
「夢の傀儡王」の呪いの咆吼に、がワーキュラスはその身発光させ結界作り出した「夢の傀儡王」に重なりその世界を強引に自分の物にして行く。
自分の作り出した世界から、ワーキュラスに強引に弾かれ行き、「夢の傀儡王」は叫ぶ。
“我無くして皆がこの世界より抜け出られるか!”
途端…だった。
かっ!と光る金の光に、「夢の傀儡王」の意識が包まれたのは………。
“おのれこんな…!こんな事が…………”
サーチボルテスに代わりアースラフテス現れると叫ぶ。
“早く…!”
アイリスは一瞬でワーキュラスの中から自分に戻ると、横で気絶してるノルンディルを抱える。
『広間はどっちだ!』
スフォルツァもラフォーレンも、瓦礫で足元が危ないその広間を見回す。
次々に、一瞬の光の後、仲間達が姿現す。
“アシュアーク!”
“アルファロイス様!”
オーガスタスはかき抱くディアヴォロス事飛ばされ、ぱらぱら落ちる粉を見その天井を顔上げ見るが、アーチェラスが張り付くように背で支え、光伸ばし天井全てを覆っていた。
腕に抱くディアヴォロスが、光で運ばれ来るディスバロッサの姿見つけ、安堵の吐息吐く。
冷たい仮面の下…。
微かに蠢くディスバロッサの意識………。
いつ…それが死んでいくのかずっと…はらはらし通しだった…。
ワーキュラスにさえ、言われた…。
母レキウナスと『闇の第二』。
その重圧跳ね退けてあの微かな意識が…表に出る事はとても無理…と。
だが「左の王家」の血はそんな微かな…ディスバロッサの意識守り通した………。
ローフィスが、現れると直ぐディスバロッサに駆け寄り…アースラフテスに語りかける。
アースラフテスは一瞬でディスバロッサの肉体と精神を、光で包み込む。
アッカマンはゼイブンの目を通し、皆の位置をドロレスに送ると、その頼りになる神聖騎士は次々一気に人を運び行く。
本体ある館に、到着した部下は直ぐ癒やし手呼び寄せ、癒やし手がディスバロッサとムストレス光で包み込んだ。
アイリスは足元揺れ崩れゆくレアル城内で気絶した重たいノルンディル担ぎ、歯を食いしばった。
が、瞬時に光に包まれ…気づくと古代風の広間に居て、天井のあちこちから粉注ぎ落ちるその中、皆の姿見つけ微笑む。
咄嗟肩に担いだノルンディルを滑り落とし、途端ローランデが突進するように抱きついて来るのを、受け止め微笑んだ。
「また…お会いできて光栄です」
ギュンターが目を剥き進もうとするその肩を、ディンダーデンが咄嗟、掴んで止める。
そして、頭の中で喚きまくるメーダフォーテに気づく。
「ああ…忘れていた。
お忙しいでしょうが…」
言った途端、アイリスの回路伝いその場探し当てたドロレスが、メーダフォーテを瞬時にアイリスの目前に送る。
メーダフォーテはかんかんだった。
「貴様…!
忘れたフリして置いて行く気だったんだろう!」
アイリスは目の前で喚くメーダフォーテに肩竦めた。
が、アイリスに抱きついていたローランデが瞬時に振り向き、メーダフォーテの喉元の衣服事掴んで締め上げる。
「お前が首謀者か!」
滅多に怒らないローランデのその凄まじい怒号に、皆がぎょっ!として目、見開く。
メーダフォーテは一瞬で怒気に包まれ、瞬時に剣抜き貫く気配をその剣豪ローランデから感じ、咄嗟叫んだ。
「謝る!
ひれ伏して謝るから!」
アイリスが背後で、襟首掴まれたまま必死の形相のメーダフォーテ見、囁く。
「…自分が死ねば、お前もここから出られない。
って脅す間も無いのか?」
メーダフォーテは凄まじい形相のローランデに睨み付けられ、息詰まらせて、くぐもる声で告げる。
「…それを言い出す最初の一音で、斬り殺されてた」
アイリスはローランデを見た。
ローランデは、目恐怖に見開き戦意の欠片も無い、普段決して見せないメーダフォーテの慌てふためく様にようやく、少し落ち着きを取り戻したようで、ほんの僅かだが我に返る。
が、まだ沸騰したような怒気に包まれたままで、アルファロイスですら声がかけられなかった。
エルベスが、テテュスとレイファスに駆け寄り、アイリスは愛息の姿に振り向き、瞳潤ませる。
が、ドロレスが叫ぶ。
「時間が無い!
アーチェラスもワーキュラス殿も必死で支えてる!
最後の契約の儀式を!」
皆が瞬時にアイリスを見る。
アイリスはテテュスに寄りかけ、その顔が成長しやっぱり…見慣れた愛おしい微笑を湛えるのに感激が押し寄せたが、突き刺さる全員の視線が痛い程で、ほっ…と吐息吐く。
ワーキュラスの荘厳な声が広間に響き渡る。
“アーマラスであるギュンター。
救い出した姫、アイリスに再会の口づけを。
それでこの呪いは解ける”
ギュンターは周囲の視線が一斉に注がれるのを見た。
が、固まり続けた。
今やワーキュラスは「夢の傀儡靴王」と重なり、一体化してその意識を、乗っ取っていた。
ドロレスに告げる。
“長くは保たない。
私は人では無く、私の中に居たアイリスの知恵借りて殆どの「夢の傀儡王」の意識と同化してる。
が、完全で無い…。
解放の回路は抑えた。
後は吸着解ければ回路伝い全ての魂が解放される。
…吸着解く術はそれしかない!”
皆が一瞬で語られるワーキュラスの言葉なんとなく理解しつつ、ギュンターをやはり喰い入るように見つめる。
が、ギュンターは固まったまま。
ぱらぱらと相変わらず天井から粉があちらこちらにに降り注ぐ中、皆が静まり返ってギュンター、そしてアイリスを見つめていた。
「何してる!さっさと…」
メーダフォーテが直ぐ、口閉じる。
怒りの頂点のローランデが、掴む襟首解き、さっ!と剣を抜いたので。
オーガスタスはディアヴォロスが咄嗟、抱いている自分押しのける様に目、見開く。
ディアヴォロスはギュンターの横に付いて腕掴み、アイリスの前へと強引に引き立てる。
ギュンターは滅多に直接的行動に出ない主、ディアヴォロスに促されるようにアイリスの目前で腕放され、しぶしぶアイリスを見る。
アイリスはテテュスと感激の再会が出来ず、ぶすっ垂れていた。
が呟く。
「私からでは駄目か?」
ワーキュラスが尚も告げる。
“アーマラスが、口付ける”
皆、動かず固まるギュンターに怒り心頭の視線向ける。
アルファロイスだけがそっと…横の愛息。
時空超えて会えたギデオンに視線、注ぐ。
ギデオンは父に振り向く。
その眉が、切なく寄る。
アルファロイスの腕がふわっ…と…。
ギデオンの体を包み込んだ。
ギデオンは父の腕に包まれて、思った。
このままずっと………。
ずっとこうしていたい。と………。
煮え切らないギュンターに郷煮やし、ローフィスがさっ!とオーガスタスに視線振る。
オーガスタスはそれを受け、ギュンターへ怒鳴り付ける。
「いつも山程垂らしてるんだろう!」
とうとうディンダーデンが、ギュンター横にずかずかと来てその左腕掴む。
同時にディアヴォロスは右腕掴み、目前アイリスの方へとギュンター押し出す。
ゼイブンは『気持ちは解る』と顔背け、スフォルツァとラフォーレンが怒り狂って
『さっさとしろ!』
とギュンターを睨み付ける。
ゼイブンがふ…と顔上げると、その先にやっぱりディングレーの同様の、見ていられない。と俯く顔見つけ、二人同時に吐息吐き出した。
シェイルはアシュアークが、首傾げるのを見たしローフィスとオーガスタスの中に、ギュンターへの同情が微塵も無いのを見た。
相変わらずぱらぱらと…天上から粉は降り続け、アーチェラスが張り付くように天井を支え…今やドロレスまでもが、顔を苦痛に歪めながらもその背で大きな亀裂走る、天井を支えてる。
透けたその向こうでは、この世界を大きな黄金の背で支える巨大な竜。
ワーキュラスが微動だにせず崩れ始める結界を止めていた。
レイファスはテテュスが、アイリスの気持ちに引きずられ、近寄りそうな気持ちをぐっと堪えているのを知っていた。
が、やはり冷静なエルベスが、テテュスの肩をそっと掴み、止めているのを見て、吐息吐く。
ファントレイユは無言で、世界を支える二人の神聖騎士らと光竜ワーキュラスを心の瞳で見つめ…そっと、成長した愛息ギデオンを抱く、若き右将軍、アルファロイスに振り向く。
…まるで、その姿を心に永久に留め、別れを告げるように。
腕痛い程両側からディアヴォロスとディンダーデンに掴まれ、ギュンターは尚も内心
『本気か?』
と問い続けていた。
アイリスは目前のギュンター見るもののテテュスに振り向き
『ちょっとくらい、成長したテテュスをもっと近くで見たい…!』
と切望し同時に、ワーキュラスと神聖騎士らが限界近いのを知って、真正面ギュンターを真っ直ぐ見つめる。
真正面からアイリスに促すように見つめられ、ギュンターは一瞬泣きそうな気分で斜め横でメーダフォーテに剣抜いてるローランデに、縋るような視線を送る。
が、ローランデはじろり。とギュンターを睨め付け、ギュンターは思い切り顔下げ、が、顔上げると掴むディアヴォロスの腕を、肩振ってやんわり外し、ディンダーデンの掴む肩を激しく振り払うと、ままよ…!
とアイリスの腕引いて抱き寄せ、そっ…と顔、寄せる。
アイリスは内心
『頭の中で私とローランデをすり替えてるな』
とは思ったが、皆さっさとここから出たい気持ちをひしひしと感じたから、重ねてくるギュンターの唇を、目を閉じて受け止めた。
途端ラフォーレンの
「これだけ大騒動して、最後があんな見たくない場面で締めくくりですか…?」
とぼやく声がし、横でスフォルツァが
「まあ、見たくないもの連続だったから、ある意味相応しいと、言えなくも無い………」
と答える声が皆の耳に聞こえそして………意識が皆同時にふわっ…。
と浮き、夢の中のように漂い現実感が…薄れ行くのを感じた。
ファントレイユは意識がぼやけ行くその時…横に居たギデオンが離れ行く父、アルファロイスを呼ぶ…絶叫するその、声を聞いた。
『ファイ…!嫌だ逝かないで……!』
…ファントレイユは咄嗟、振り向く。
訃報を聞いた時、そして葬儀でも…多分一度も彼が言った事の無い本心…。
ファントレイユはギデオンが上げた初めての哀切溢れるその絶叫に、胸が潰れそうに痛んだ。
その姿が…広間が皆の姿が…朧に消えて行く。
気づくと…寝台で、そこに白い隊服の神聖騎士が立っていて、目覚める自分に一つ、頷くと一言も無く消えて行った。
テラスの窓が開いていて、風でカーテンが翻る。
横には昨夜過ごした女性が寝息を立てていて…ファントレイユは暫く惚けた。
が、魂の奥から聞こえた、ギデオンの今は亡き父呼ぶ絶叫が木霊し胸掻きむしられあまりに…哀しくて頬に涙滴らせ…そして結局俯き髪で顔を隠しながら…泣いた。
ギデオンが…あまりに可哀想で。
ギデオンはバルコニーで月光を浴びていた。
風がさわさわと頬を撫で…問うた。
懐かしい…暖かい…そして哀しい夢だったように思う……。
少しも覚えてないのに、どういう訳か。
部屋に入り、寝台横の小さな肖像画を手に取る。
「(ファイ…………)」
不思議と、父が微笑みかけてる気がして、ギデオンは肖像画に笑いかけた。
「(ファイ…私は元気でやってる。
心配は、少しも要らないから)」
アルファロイスが少し、切なげに微笑み、そして…頬に、髪に、肩に触れ…遠ざかって行く気がし、ギデオンは胸掻きむしられた。
が、言った。
「でも私は知っている。
体が消えても貴方の魂は…ちゃんと私の、側に居る」
ファイが、頷いてる気がし、ギデオンは再び…肖像画で笑う父に、微笑みかけた。
レイファスは子供の自分が…融合解かれ時空のその先へと帰る時、何か言いたげに振り向き…視線振るのに笑って告げる。
“俺も…結構、捨てたもんじゃ無いだろう?”
子供のレイファスが、頷く。
が、離れ行く意識にやっぱり子供の自分が
“…だとしてもやたら、弱っちく見えるな…”
と吐息交じりに呟く声がはっきり聞こえ、つんのめって転びそうになって、慌てて踏み止まった。
テテュスは子供の自分に別れ告げ…そして…駆け寄るとても若いアイリスが一瞬間近に見え…が、透けて遠ざかる姿に微笑を送る。
アイリスはたったの一瞬の逢瀬で泣きそうな表情で、朧に透けて遠ざかり行き…エルベスがアイリスの横に立ち、微笑って見送る姿に手を上げて振る。
“未来で必ず、会えるから…!”
声が、届いたかどうか解らない。
けど…透けた子供の自分がアイリスの横に立ち、途端アイリスが背を屈め、子供の自分を抱きしめる様に胸が、きゅん。と痛んだ。
…知っていた…。
貴方が…誰よりも私を、愛おしんでいる事を………。
そんな風に必死に。
テテュスは心に決めた。
大人になりもう…アイリスと本心で話す事は、互いに暗黙の内に避けていた。
けど帰ってアイリスに出会ったら、告げよう…。
貴方をとても愛し、頼ってる。と。
子供の自分がその心を…光の塊として胸に受け取り、暖かいと感じて笑ってる気がして、テテュスは告げた。
“きっと…そうする”
子供の自分が、大きく頷いているのを感じる。
あんな風に…素直だったのはいつ以来だろう…?
ずっと…いっぱしの男に成ろうと必死で…そんな、暇も無かった…。
アイリスの与えてくれる愛に、応える間も無くて…。
置き去りにし…それでもアイリスはいつでも…。
いつでも出会うと決まって必ず微笑んで、力に成ってくれた。
“何か、困ってる?”
…そう…とても優しい微笑浮かべて。
テテュスは暗闇で離れた時空に背を向け…眠る自分の中へと吸い込まれて行く。
子供の自分と約束した…嘘、てらいの無いアイリスの、自分への想いを光る暖かい…形の無い光として胸に、抱きながら………。
ドロレスとアーチェラスは凄まじい速さで、ウェラハスとダンザインの意識に包まれるのを感じる。
アーチェラスがそれでも崩れようとする天井に目向け
“まだ…!”
と叫ぶが、ダンザインに抱き止められ、かたくその腕に抱かれ、凄まじい速さで細く…けれど強いその回路を、小さく小さくなってダンザインに包まれ、運ばれ行くのを感じる。
ダンザインと…同時に少し遅れた背後、ウェラハスに包まれたドロレスの意識も感じる。
凄い速さでその細長い回路を飛び行く。
ぼんやり…ディアヴォロスやアルファロイス、エルベス…。
子供のテテュス、レイファス、ファントレイユら…。
この回路を必要とする人間達の魂を想った。
が、ダンザインが囁く。
“人間の魂は、解放の扉が開いた途端、この結界から解き放たれてる…!
が君達は違う!”
一瞬細い…光の回路の出口…眩しい光に包まれた瞬間、ウェラハスが大声で宙に向かい叫んだ。
“もう、結構です!”
……………その時、自分の肉体に戻るその一瞬…眩しい光の中で、広大な世界を支える巨大な光の国の光竜が、振り向いた気が、した………。
大きな…金の美しい鱗……。
初めてその全貌を目にした…その一瞬の姿を、アーチェラスは心に刻み込んだ。
自分の体に戻った途端、ぐらっ!と揺れ、どさっ!と横のホールーンに抱き止められる。
ひどい目眩に、ホールーンから光注ぎ込まれるのを感じ、ホールーンの叫ぶ声を聞く。
“無茶も大概にしろ!
幾ら君がタフでも!
とっくに限界超えてる事すら、気づいてないなんて!!!”
ドロレスはとっくに、意識が無かった。
ムアールとエイリルが、薄れかかる意識のダンザインとウェラハスへ必死に…声送り光、注ぎ込んでいた………。
“長…!”
“ウェラハス!!!”
二人の呼ぶ声は悲痛で…彼らのひどい消耗を感じ、アーチェラスは心の中で呟く。
それでも…助けに来てくれた。
二人が。
必死に成って………。
アースラフテスの姿が、薄れ行く意識の中、浮かび上がる。
“さあ…!
もう何も心配せず、心安らかにお休み下さい…!”
アーチェラスはその声に促されるように…意識無くし夢の中へと、消えて行った………。
皆が眠る寝台横。
…びっちり目には見えない茨で取り囲まれていた…その茨が透けて消え行き、一人一人が目を開ける姿に、“里”の癒やし手達が狂喜乱舞し、飛びはね大声で歓声を上げていた。
その大騒動の中、次々に皆が身を、起こし始める。
「…やたら五月蠅いな…」
ディンダーデンが唸って額に手をやりながら、身を起こす。
ディングレーが目を開けた時、冷静な筈のミラーレスが、横で全開の笑顔でぴょんひょん飛び跳ねてるのを見、目を見開き見つめ、視線が吸い付いて離れないのを感じた。
アイリスは飛び起きると叫ぶ。
「テテュス!」
そして首振り、周囲に姿が無いのに寝台から飛び起き…だが長い間眠っていた為、足がもつれ転び駆けても構わず、叫ぶ。
「テテュス!!!」
転び駆ける様を抱き止めた“里”の者が見かねて、テテュスの寝室へとアイリスを、一瞬で送った。
ローランデは目を覚ますと、ギュンターに、きっ!!!と振り向き、オーガスタスもローフィスも憮然。と身を起こしてやはり、ギュンターに怒鳴り付けようとし、ローランデに先越された。
「たかかキスくらい!!!
どうして君はさっさと出来ないんだ!!!」
直ぐ様飛び起きたラフォーレンとスフォルツァが追随する。
「天下の垂らしでしょう!!!」
「相手がアイリスってだけで、あの“間”の長さは、何だ!!!」
最後に追随して、アシュアークまで叫んでた。
「どうして私が相手じゃ、ないんだ!!!」
「………………………」
スフォルツァとラフォーレンが同時に、叫ぶアシュアークに振り向き、どっちがアシュアークに説明するかを譲り合った。
オーガスタスとローフィスは口開けたまま怒鳴り付けそびれ、はっ!と気づくオーガスタスへ、ローフィスが顎しゃくり、促す。
オーガスタスは寝台飛び出し、咄嗟“里”の者が気を利かせ、ディアヴォロス、アルファロイス、エルベスらが眠る別寝室へと飛ばす。
ローフィスはほっ…。
と吐息吐くと、睨むシェイルに怖気て振り向く。
途端、シェイルが怒鳴った。
「傷は…?!
あれだけ無茶したんだから!
また開いてたら、もう容赦しないからな!!!」
「痛むが…開いてない………」
「ホントだな?!」
ゼイブンが、思い切り情けないローフィスに同情し、顔を下げた。
ギュンターはローランデに怒鳴られ続け、キョロキョロしたいのを必死で我慢した。
だって…幻影判定の部屋に居たはずだ。
…どうして一緒の部屋に寝てるんだ。
心の中で“里”の奴らを呪いつつ、ローランデの怒号を聞き続け、どこで腕を掴み、口づけで黙らせようか。と、顔下げたまま、機会を伺い続けた。
止まぬローランデの罵り声のその向こう…笑いこける、ディンダーデンの笑い声を聞きながら、心の中でディンダーデンに怒鳴り付ける。
“笑ってないで、ローランデを止めろ!!!”
「日頃あれだけ平気な君がどうして!!!
あそこで躊躇うんだ?!
どれだけみんなが苦労して、あの幻影から出ようとしていたのか!!!
君は解らないくらい馬鹿か?!
しかもたかが、キスだ!!!
しかも君は垂らしが代名詞だろう?!」
ゼイブンは止まぬ噴出したローランデの怒号の周囲で、“里”の者らが…サーチボルテス、アッカマン達迄も、狂喜で飛び跳ねてるのをぼんやり見つめ…流石、アースラフテスは居ないな…。
と、ほっとしてる自分に気づいた。
アースラフテス迄飛び跳ねていたら、きっとこれはまだ夢で、目が覚めたらまたあそこに戻ってるんじゃないか…。
と思い、きっと大層、ぞっとした事だろう…。
ディングレーはギュンター怒鳴り付けていたスフォルツァとラフォーレンが一転、アシュアークに、どうしてギュンターのキスの相手が、アイリスじゃなきゃならなかったのか。
を、それは苦労して説明してるのをぼんやり見つめた。
“あれだけ苦労して死にかけて…これが結末か?”
凄く口に出して言いたかったが、我慢した。
テテュスとレイファスは、突然寝室にアイリスが飛び込んで来てテテュスをきつく抱きしめてるのに、びっくりした。
ファントレイユがそっ…と隣の寝台の、レイファスに囁く。
「何か金髪の…凄い綺麗な人…居たよね?」
「…アシュアーク?」
「ええと…………」
ファントレイユは説明しようにも…確かに在った存在感がどんどん霧散して朧になっていく様に、困惑した。
どんどん…消えて行く。
確かに…あの金髪の美しい人は横に居て…けど、掴まえようとすると、灰のように崩れて…掻き消えて行く………。
レイファスは横のファントレイユの頬に、ぽろっ…と涙が滴り、頬に伝うのを見て、囁く。
「…うん…。
僕も、帰って来られて嬉しい」
ファントレイユは一瞬
『違う…』
と言いかけ、だが頷いた。
レイファスはファントレイユの大人のちゃらい騎士姿を、からかおうとしたけど、記憶がどんどん薄れて行くのに首、捻る。
飛び魔や狂凶大猿や…。
けど、口にしようとすると途端、あれ程…怖かったその姿が、どんどんぼやけて行く。
掴まえようのない、霧のように。
「…確かに、居たよね?」
ファントレイユは咄嗟に顔上げ、大きく頷く。
『うん!!!居た!!!
あの金髪の美しい人は、間違いなく!!!』
テテュスはあんまり…アイリスがきつく、きつく抱く腕の中で、アイリスを必死に抱き返した。
記憶は砂の城のように崩れ、どんどん鮮明さを無くす中、アイリスの温もりだけが、確かなもののように思われて。
その、綺麗な形の青年の頬に頬寄せ、その濃紺の自分を見つめる瞳が、潤んでるのを見つめ返す。
「大好きだ。アイリス。
戻って来てくれて…」
そこ迄言って、喉が詰まる。
決して、決して失いたく無い人。
アイリスも感極まって、言葉が出ない。
ぎゅっ!と小さなテテュスの体を、抱きしめる。
確かに…大きかった。
肩並べる程。
数年先に、きっと会える。
けど今は…………。
小さな、愛おしい息子を抱きしめられた感激で、やっぱりアイリスは言葉出ず、ただテテュスをかき抱き続けた………。
ディアヴォロスはワーキュラスが…微笑むのを感じた。
黄金に輝く彼が身の内に居るのを今は確かに、感じる。
途端、オーガスタスが目前で…潤む黄金の瞳を、向けていた。
もう…体当たるように抱きついていて…ディアヴォロスもが、感激で瞳が、潤んだ。
オーガスタスは無言で抱き付きながら、全身で告げていた。
“来てくれて嬉しい”
ただその言葉だけを、繰り返し繰り返しその温もりでずっと、語り続けていた………。
エルベスは起き上がるアルファロイスの横顔を見つめる。
もう…記憶が薄れ始めていた。
が、解った。
アルファロイスが何を思い…遠い目で消え行く幻影を追うのかを…。
宙に視線を、彷徨わせたまま。
エルベスですら、思った。
抱き止めた、大人のテテュスの感触。
アイリスと…重さは同じくらい。
けれど…そうあれは間違いなく…今のテテュスがそっくり大きくなったような…。
素直で誠実で…木訥な。
が、やはりそれがどんどん…空虚な幻となって消えて行く。
エルベスもアルファロイスも…その感触を思い起こしながらそれが記憶の中から消えて行くのを…黙して宙を、ただ見つめていた。