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「アースルーリンドの騎士」別記『幼い頃』  作者: 天野音色
第七章『過去の幻影の大戦』
103/115

28 コウコーガ・デュラキス・アソッサヌス・フスオレリアン

 オーガスタスとローランデは真ん中に、ディアヴォロスとディスバロッサを挟み、襲い来る敵を斬り殺し続ける。


傷の消えたオーガスタスは、『闇の第二』との激しい戦いの消耗の微塵も無い戦い振り。


ローランデはその、赤い獅子の戦い振りに、体に炎が噴き出すように、“闘牙”が沸き上がるのを感じる。

荷車の上にはアルファロイスとギデオンが。


忙しく足場変え、やって来る敵をしなやかに薙ぎ倒してる。


目前の二人を時間差で剣振り斬り殺すと、ふ…と、敵軍と戦う、金の髪靡かせたしなやかな野獣、アシュアーク。

そして短剣次々と投げるシェイルの姿が浮かび上がる。


つい…アシュアークを護るように戦う、シェイルの姿に瞳の奥が熱くなる。

本来…脆い彼はそれでも必死に、自分庇い死にかけたアシュアークを助けてる。


側に居るエルベスが気づいて微笑む。

“シェイルは私が。

必ず守る”


アイリスに良く似た…けれどもっと大らかで清々しい“気”をエルベスから感じ、ローランデはどれ程、ほっとした事か…。


が途端…肌に暖かな“気”が触れ、上空を仰ぎ見る。

アルファロイス…ギデオンもが。


そして戦うオーガスタスですら、“気”を上空に向ける。


白い隊服はためかせ、長い金のくねる髪を宙に靡かせた…アーチェラスが守護の光で皆を、包んでる。


胸に熱い感激が…多分自分だけでは無い。

アルファロイス、ギデオン…そしてオーガスタスからも沸き上がる。


ムストレスはディアヴォロス、ディスバロッサの横で両膝付き深く俯き、顔も上げない。

その上空に黒い濃い靄が一瞬、皆を包む神聖騎士の守護の光に覆われ、震えたように感じる。


ディスバロッサ、ディアヴォロス共に小さく呪文唱え続け、一心に心傾けている様子に、心が震える。


その向こう。

レアル城門近くに姿現す『影』と、飛び来る飛び(イレギュレダ)睨め付ける、テテュスとレイファスの姿が、敵に飛び込むダキュアフィロス軍勢の中、浮かび上がって見える。


ローランデは思わず心で叫んでた。

“『影』が…”

“来る!”

意志の強い言葉に引き継がれ、ローランデはアルファロイスを見る。


右将軍は少しも淀む様子無く、剣を鮮やかに振り切っていた。

ディアヴォロス居ない戦場で…彼がどれ程兵らの、心の支えになるか思い知っていた。


アルファロイス、ディアヴォロス揃った戦場では最早、“敗戦”の文字は誰の頭の中にも思い浮かばない程。


二人の、圧倒的な存在感が全ての兵を、包んでいた。

人とはこれ程…大きくなれるのか………。

ローランデはそれを思い知った近衛での戦闘を思い浮かべる。


そして…何より心強い…頭上で白い隊服はためかせ立つ、騎士たる中最も崇高な神聖騎士が、護っていてくれる。


“絶対、帰る!”


ローランデのその叫びが皆の心を貫いた時、アルファロイスからは大らかな微笑が、ギュンター、ディングレーからは同意する固い決意が。


そしてテテュス、レイファスからは後押しするような強い意志が。

ローランデへ、瞬時に流れ込んで来た。


ローフィスは、ローランデの決意乗り移ったようなスフォルツァの表情見たし、馬操りながら剣振る、ラフォーレンの気合い籠もる表情も、見た。


ゼイブンは

“当然だ!”と叫び追随し、馬操るファントレイユはそんな父の様子に、嬉しそうに振り向く。


そしてディンダーデンは遙か、上空を睨む。


神聖騎士より更に上。

結界そのもののような、「夢の傀儡王」を。


「夢の傀儡王」はワーキュラスに

“護りきれるか?”

と打った手を披露し…再び棘のように突き刺さる…小さい癖に忌々しい、その男、ディンダーデンを睨め付けた。


元はと言えば、あの男だ。

『闇の第二』は破れるはずじゃ無かった。

あの男…透けて重なる、過去の…タナデルンタスが居なかったら。


腹が立ったから、あの男からタナデルンタスを、引き剥がそうともした。


…が、そんな事をしたら他の吸着も剥がれる。

一人と深く融合した物を、簡単に引き剥がせたりしたら神聖神殿隊騎士らが自分に取って代わってそれをして…人質達を全て逃がしてしまうに違いない…。


「夢の傀儡王」は仕方無く…人質らが居る空間にかけた、幻影の人物と深く重なる重圧を、解かず諦めた。


一人一人を個別の空間に、捕らえなければ無理。

が…この複雑な結界に更にそんな小細工を加えれば…自分とて制御不能の事態が起きて来る。


望む者が死に…望まぬ者が生きる。

そんな事態は想定外で到底…楽しくない。


大昔それを試みて…ずっと止めておきたい姫を永久に失った心の痛みが蘇る。

その…嘆きで『光の王』に敗れ去り氷室に閉じ込められた。


“お前のせいで、姫は死んだ!”

『光の王』に突き付けた言葉が、そのまま自分に跳ね返り責め続ける氷室に。



“…それでも懲りずに目覚めたらまた、自分の結界にお気に入りを閉じ込めるのか…?”


呆れたように呟く声に、耳と目傾ける。

ワーキュラスの中に居るアイリスが今、またディスバロッサにその手伸ばし、焼かれて弾かれそれでもまた手、差し伸べ続けてる。


もう…アイリスは肩迄焼き爛れていた。


“人の事が言えるのか?”

結界の遙か上空からその男、アイリスにそう呟く。


が、アイリスは笑う。

“殺す為でも捕らえる為でも無い。

救う為ならどれだけでも力が湧く。

それは“あがき”と人は呼ばない”


“人…はな”

「夢の傀儡王」は素っ気無く、自分に突き刺さった棘…ディンダーデン同様、忌々しいその男に言い下した。



今や呪文は成就目前…。

ディスバロッサは既に限界超え、殆ど意識無く、意志の力だけで呪文を続ける。


ディアヴォロスが幾度も、悲鳴のような意識ディスバロッサに向ける。

ディスバロッサの無意識は幾度もアイリスの守護の手跳ね退けながら怒鳴る。

“引け…!

我はここで滅びたとしても魂、天に昇れる!

我が闇に落とした魂全て解放して!

…それこそが目的…。

それこそが!


ワーキュラス!

神ならば我一人亡くしても他が救える手立て考えろ!

我は天に昇る!

何としても!

この機会…逃してはもう後は無い!

我が殺した魂全て、救う為に…!


光だ!

恐れるな、あれは救う者!

囚われた地の底、闇より抜け出でようぞ!

苦痛と苦しみから解き放たれようぞ!”


ディアヴォロスは心が慟哭するのを感じた。

と同時にディスバロッサの足元が揺らぐ。


土………。

最後の…。


意識無きディスバロッサは、微笑ってすらいた。


ディスバロッサが光で包み込まれる。

彼と共に囚われていた魂が全て、光に焼かれ絶叫上げる。


“ギィヤァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!!”


がその悲鳴轟き渡る中、ディスバロッサの足元。

“土”の“気”が大きく揺らぎ、波紋広げ宙へと…解き放たれようとした。


“ディアヴォロス!”


アイリスが咄嗟、ディアヴォロスを両手で包み込む。

が、ディアヴォロスの魂は透けて体抜け、ディスバロッサの身包み込む。


ワーキュラスの、声にならぬ悲鳴が空間に轟く。

同時にディアヴォロスの足元の波紋からも………光迸らせる土煙が巻き上がる…………。


高く…高く、ディスバロッサの光迸らせる土煙と螺旋描き上空………ムストレスの上に幾重もの結界に包まれた『闇の第二』を更に、縛る為に………。


透けて意識ほぼ無くすディスバロッサの魂抱き…ディアヴォロスの透けた魂が肉体かき抱くアイリスに振り向く。


アイリスは叫びたかった。

が、声が出ない。


“一緒に…逝く気ですか!!!”


…そう叫びたかった。

なのに………。

涙が頬、濡らしかけた時、ワーキュラスの荘厳な声音が空間に響き渡る。



“させぬ!”


声が…響く。

呪文引き継ぐ、第三の声色………。


上空で“神”の大切な魂潰えるのを、ほくそ笑んで見つめていた「夢の傀儡王」の、眉根が寄る。


さっ!と視線、戦場に向ける。

あの男は戦っている。


青の鋭い流し目。

長い栗毛を振り、豪快に剣振るディンダーデン。


なのになぜ………!

タナデルンタス!

お前が唱えてる………?!


タナデルンタスの向こう…透けて見える……あれは…あの男は………。

我の時代随一の…闇封じ……。


ラキュサスティノス………!


“「夢の傀儡王」なんて、呼ばれてるのか?

人の役にも立たない幻術使いが、後世では大層な扱いだな?”


「夢の傀儡王」はパニックに気が狂いそうになった。

自分のように氷室で眠り、生きながらえてる者じゃない…!


“お前は大昔に死んで…!

死んでいる筈だ!

第一どうして…タナデルンタスが呪文使うのにあの男は戦える!

あの…男はこんな大層な呪文使えば、瀕死の筈だ!

なのに………!”


「夢の傀儡王」は再び戦場を見つめる。

がそこにはやはり…栗毛散らし豪快に剣振る、ディンダーデンの姿………。


“神が我に…幻想を見せて謀っているのか?!

…そうに違いない…!

そんな事が…出来る筈が無い!

あの男とタナデルンタスは…深く幻想の中、繋がってる!

こんな…独立し、別々の人物のように…存在できるはずが無い…!”


が、第三の呪文唱える男が返す。

“俺は今、呪文成就させる為に忙しいから、後で種明かししてやる…!”


その第三の男…ラキュサスティノス重なるタナデルンタスは、ディスバロッサとディアヴォロスの透けた魂事、周囲に結界張り巡らせ、空へと飛ぶ二人の最後の“土”の光迸らせ螺旋描く“気”に、自分の“気”注ぎ込む。


一気に凄まじい光に覆い尽くされ、『闇の第二』が結界内の空間大きく震わせ、唸る。


ゥ゛ヴヴヴヴヴヴヴヴウォォォォォォオオオオオオオォォォォォォォォ………!


皆、戦いを中断させ上空伺い見る。


が、『影』だけは攻撃し続け、テテュスは二人の「傀儡(くぐつ)の凶王」に凄まじい神聖呪文ブツけ、レイファスは上空から飛来する飛び(イレギュレダ)数匹を焼き殺す。


シェイルはその様見てぎょっ!とし、叫ぶ。

「幾ら戻ったからって、こんな一気に力放出したら保たない!

もっと自制しろ!」


が、言ってる側から焼けただれた飛び(イレギュレダ)が落ちてきて、エルベスに押されその場を馬を急かし逃げた途端…


どすん!

どすん!


大きな音立てて、飛び(イレギュレダ)があちこちに落ち、兵達は下敷きになるまい!と馬と共に逃げ惑っていた。


が、エルベスが視線振るのでシェイルが見ると、馬からとっくに下りて斬りかかってるアシュアークは更なる敵に突っ込んで行ってる。

「…この…じゃじゃ馬!!!」


シェイルは馬を急き、アシュアークの後追って、援護の短剣、アシュアークの周囲に降らせる。

エルベスも鮮やかに馬回し、シェイルの護りに横に付く。


レイファスが、怒鳴る。

「「傀儡(くぐつ)の凶王」二体一気は無理だろう?!」

テテュスは肩で息吐いていたが、焼かれた一人の「傀儡(くぐつ)の凶王」担ぐもう一人を睨め付け、背後に視線振る。


その背後の『影』…古代に滅したアンカラス見、レイファスは唸る。




「!!!」

馬操る、ラフォーレンもファントレイユもが、起き上がる自分の影に怯える馬を、必死で御した。


ゼイブンも、ローフィスもが揺れる馬上で狙いかねて、短剣投げる手を止める。

その隙に遮二無二、荷車に登る多数の敵の背睨み、ローフィスが怒鳴る。

「何とかしろ!!!

上が大事になる!」


ギュンターが咄嗟、上に駆け上ろうと走り出し、ラフォーレンが怒鳴る。

「こっちは手薄!とか思ってる訳じゃないでしょうね!

自分の影って新たな敵まで居るのに!」


ギュンターは歩止め、後ろをじろり…と睨み

「てめぇは大人しく馬、操ってろ!」

と叫び、ふ…と、横に起き上がった自分の真っ黒な影が、笑って自分が握ってる筈の真っ黒な剣の影を、腹へと突き付けるのを瞬時に身横に泳がせ、かわす。



「…!」

スフォルツァは腹から血滴らせるギュンター見つめ、正面に起き上がる自分の影に、ごくり…。

と唾呑み込む。


相手が剣構えるのに馬上、ローフィスに向かって叫ぶ。

「もしかしてこれ…みっとも無く避け続けるしか、他に手が無いのか?!」

「それしか無い!」


ローフィスに叫ばれて、スフォルツァは横の敵に剣、振りながら自分の影が斬りかかる真っ黒な剣を避けて叫ぶ。


「どうして!

俺は横の奴斬ってるのに、影の癖に俺に向かって剣振るんだ!!!」


ギュンターも掠った腹から血滴らせながら、尚も自分の影の剣避け、斬りかかる敵に剣振り斬り殺しながらスフォルツァに怒鳴る。


「仕方無いだろう!

怒鳴ったって攻撃は止まないぞ!!!」

「あんたの、そういう変に利口なところが癪に障る!」

「こんな時に文句か!

聞いてやる暇なんか、一っ時も無いぞ!」


ギュンターが襲いかかる敵に、真横から剣振ってるさ中、ギュンターの影はギュンター目がけ、剣振り下ろす。


咄嗟ローフィス背後のサーチボルテスが、守護の光ギュンターに送る。


一瞬ギュンターに届く影の黒い剣は、ギュンター包む光に触れて、じゅっ!と音立てて溶けた。


ローフィスが、横に起き上がり来る自分とラフォーレンの影の、剣忙しく弾いて、自分の中に居るサーチボルテスに叫ぶ。

「ギュンターとスフォルツァ近くに呼び寄せれば、光の結界張れるか?!」


“視界が効かないし、アーチェラス殿は荷車の上しか、完全に影からの攻撃防げない…!

それでも守護が、無い訳じゃ無いから多少の傷は負うが、命は取られない”


ローフィスはその返答に、腹を立てて怒鳴り返す。

「攻撃され続けて命が保つか!」




途端、レイファスが凄まじい神聖呪文を、アンカラスに向けて放つ!

「ザーサスデスフリオネス・ドローラデルテス!」


サーチボルテスが、呆れて呟く。

“良くあんな、古代の呪文知ってましたね…”

アッカマンが気づいて囁く。

“書庫の番人が教えてる”


サーチボルテスは、ああ。と頷く。

が必死にギュンター、そしてスフォルツァに守護の光這わせるが、影の動きは鈍くは成ったものの、元の影に戻る様子が無い。




アッカマンは必死に守護の光を送る。

ディングレーは障壁の呪文唱え、その姿ははっきり見えたし自らも発光していた。


ディンダーデンは…どういう訳だか、光の者のように、光に包まれている。

ファントレイユは自分の影が、自分に斬りかかるが守護の光に触れる度、じゅっ!じゅっ!と音がするのに気づき、必死で手綱引いて馬に、語りかけた。


「怖く無いよ。大丈夫。

ちゃんと護られてるから安心して」


背後でゼイブンは、丸で女の子に語りかけるような、息子ファントレイユに呆れた。

が、馬は女の子のように、そのファントレイユの言葉に落ち着きを取り戻す。


「…お前…まさか馬まで、垂らし込んでた訳じゃないよな?

今迄」

ファントレイユに振り向かれ、ゼイブンはつい綺羅綺羅しいどう見ても垂らしにしか見えない、成人した息子を見つめた。



ディンダーデンは棒立ちのディングレーに気づいて咄嗟に走り、ディングレーに剣振ろうとする敵、一刀の元ずばっ!と音立て斬り殺し怒鳴る。

「呪文唱えると、剣振れないのか?!」

ディングレーが、顔上げると小声で囁く。

「…頑張ってみる」

ディンダーデンは一つ、髪揺らす程大きく頷くと、ディングレーとは反対側の、自分の定位置に戻って行った。



 ギデオンは下の様子に、自分の足元を見る。

が、影が動く様子が無い。

つい、顔上げて上空に居る、頼もしいアーチェラスに礼を心の中で告げた。


が、下からの援護で、かなり減っていた敵が続々登り来る。


アルファロイスはアシュアークが、荷車のローフィス側に飛び込むのを見、頭の中で叫ぶ。

「ここは安全だ!

登って来い!」


オーガスタスが目前の敵斬り殺し、ぐっ…と詰まる。

確かに影の攻撃からは守られてる。

が、安全とは程遠かった。

だがあの親子は、剣振り回してる限り安全なんだ。

と思い返し、反論を控えた。



サーチボルテスが、これ以上本体に怪我負うローフィスを、揺れる馬上に置く訳には行かないと、瞬時にオーガスタスの横に移動させる。


オーガスタスは横に現れたローフィスの肩掴み背後、庇うディアヴォロスの方へ押しやり、正面襲い来る敵に剣、振り下ろす。


が、ローフィスは突然場が代わり、オーガスタスに庇われた事知ると、かっか来て友の背に怒鳴る。


「俺が引けば!

あっち側面から敵がごろごろ押し寄せるんだぞ!」



ラフォーレンは突如背後が軽く成り、一瞬オタつく。

が、サーチボルテスは直ぐにアーチェラスより移動位置示され、ラフォーレンを荷車上に移動させた。


振り向くギュンターが歯を剥き、サーチボルテスはようやくその金髪美貌の野獣を、彼の望むローランデの横に送る。


一瞬で場移り、横にローランデの姿見つけた途端ギュンターは微笑み、向かい寄る敵を見もせず一刀で斬り殺し、尚もローランデに微笑を送る。


「…………斬り殺した相手くらい、見たらどうだ?」

ローランデに呆れて言われ、ギュンターは尚も笑って言った。

「どうせ幻影だ。

こっちが斬られなきゃそれでいい。

礼を、尽くす必要ある相手か?」


スフォルツァはラフォーレンと共に、アルファロイスの周囲に送られ黄金の髪の、彼らの主の姿に、心から安堵した。


アルファロイスは微笑って言った。

「君らが上がってきたから、こっち側は奴ら、登りたい放題だ」

言われ、スフォルツァもラフォーレンも続々よじ登り、上がり来る敵に、慌てて剣を構えた。



直ぐ、アシュアーク、シェイル、エルベスの姿も荷車上に現れ、シェイルはオーガスタスの横で短剣投げるローフィス見つけ、駆け寄って叫ぶ。

「それ以上動いたら!

オーガスタスに言って気絶させるからな!!!」


オーガスタスがシェイルの言葉の、その迫力に思わず振り向くと、ローフィスは短剣投げようとした姿勢のまま固まってた。


そしてローフィスは力無く短剣下げると、手差し出すシェイルの手の平の上に短剣落とし、大人しくディアヴォロスの、横に控える。


代わって投げるシェイルの短剣の

ヒュッ!

と言う音を聞き、背向け剣振る親友オーガスタスの、くすくす笑う忍び笑いを聞いた時とうとう、ローフィスは怒鳴り付けた。


「笑いたきゃ、思い切り笑え!」


ひゃっはっはっはっはっ!


左将軍補佐の豪快な笑いに、荷車上に居た皆がつい振り返り、そこにローフィスの、殺気籠もる表情で大笑いする友の背を、睨め付ける姿見つけ、全員呆れ果てて肩竦め合った。



反対側、ファントレイユ、ゼイブン、ディングレー、ディンダーデンの様子に、アッカマンは頭上のアーチェラスに応える。

“こっちはそれぞれ光の守護がなぜかあるから、大丈夫だ!”


ディングレーは言いたかった。

タナデルンタスの守護のあるディンダーデンと違い、自分は自ら守護結界を呪文唱えて作り出さなきゃ成らない。

そりゃ、「左の王家」特有の、元来持ってる光の守護は確かに存在するから、他の者らより抵抗力が、あるとは言える。

が。


呪文唱えながら剣振る行為は、不器用なディングレーにとって、厄介極まりなかった。


“俺だけでも上に上げてくれ”

喉を突いて出そうになったが、ディンダーデンが冷たく呟く。

「頑張る。と俺に言ったな?

俺一人でここの守護、させないよな?!」


ディングレーは“上げてくれ”の言葉飲み込み、ぐっ…と耐えて、剣振る間に必死に呪文、唱え続けた。




 飛び(イレギュレダ)の数匹が再びこちら目がけ、空より突進して来る。


テテュスが、アンカラスに呪文送り疲弊するレイファスに、振り向く。

“一人じゃ、無理だ…!”

レイファスの中から、神聖神殿隊騎士が告げる。


途端ふんわりと暖かい“気”で包まれた気がして、テテュスは反射的に顔、上げる。


上空にドロレスが、白い隊服はためかせ、自分らに守護結界を張っていた。


一瞬感激でその、青い空の中、白い神々しい隊服付けた神聖騎士に、素早く感謝告げる。


レイファスが憔悴した面それでも上げ、テテュスに振り向く。

テテュスは頷く間も惜しんで、即座にレイファスに意識寄り添わせる。

レイファスの中の神聖神殿隊騎士が、途端矢のように鋭い光の呪文を、アンカラスに向かい迸らせる。

空を、風切り裂き上空を大きな放物線描き、猛速で襲い行く光の閃光に、テテュスは増幅の呪文を上乗せし、光の閃光はその光の幅増し、凄まじい速さでレアル城門前に居る、アンカラス目がけ襲い行く。


アンカラスが気づき、レアル城門から中へ逃げ帰ろうとするその背を、光の閃光は追い一瞬で、その背貫く。


“ぎゃっあっ!”


その声が皆の頭の中に届いた途端…影はひしゃげ、元に戻り始めた。


頭上抜け、宙飛ぶ凄まじい光の閃光に、味方ダキュアフィロスの軍勢は一斉に凄まじい歓声上げる。


うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!


テテュスが大声で叫ぶ。

「死体の、手足を斬り裂け!

相手は死んでる!

遠慮は無用だ!!!」


レイファスはごそっと気力抜け、疲労甚だしい筈のテテュスのその咆吼に、つい下げた顔上げて見守る。


ぅおおおおおっ!

味方の了解の歓声聞きながら、が、やはりテテュスはがくっ!と前のめりに身を倒す。


つい、レイファスもきっ!と顔上げ、大声で吠える。

「荷車上に主が居る!

荷車に敵を上げるな!」


ぅおおおおおおおぉぉぉっ!


やはり了承の歓声聞き、レイファスがきつそうに顔、下げるのをテテュスは見、囁く。

「…高い分、君の声の方が通るな」


レイファスはきっ!とテテュスに振り向く。

「誰がどう聞いたってお前の腹に響く低音の方が、迫力あるに決まってる!」


テテュスは“そんな事、絶対無い”

と言いたかったが、レイファスがやはりど・迫力で睨むので、言葉飲み込み最後の一人の「傀儡(くぐつ)の凶王」倒す為、暫し回復の、間を取った。


その間も、どん!

どんっっ!

と、ドロレス張る結界に体当たる、二体の飛び(イレギュレダ)に結界揺すられ、レイファスは

「待ってろ…直葬ってやる」

と呪いの言葉を投げかけ、抜けた気力を必死で光たぐり寄せ、補充に努めた。



ゥ゛ヴヴヴヴヴヴオオオォォォォォォォン…


音が…小さくなって行く。

今や、その光は倍以上。

二人の「左の王家」の王族の力凌駕する程に溢れ返り、その場包む。


ワーキュラスは『闇封じ』ラキュサスティノスから呪文受け、タナデルンタスが力尽くで闇への空間への回路こじ開け『闇の第二』を、そこへ送り返す様を見守っていた。


『闇の第二』は最後に叫ぶ。

“おのれ…!

ディスバロッサ、裏切りがどんな結末を産むか…その身でこの後、確かめよ!

お前の魂決して…天等には昇らせまいぞ!!!”


一瞬、ディスバロッサの身に闇文字で刻印された、闇との誓いの言葉が黒く浮かび上がり、殆ど意識無くしていたディスバロッサの肉体が、激しく痙攣し始める。


が。

殆どタナデルンタスと同化していたような古代の闇封じ、ラキュサスティノスがすっ…と身乗り出し、透けたその手で、闇の誓いの古代文字に触れる。


ぎゃっ!!!


と、叫んだのは『闇の第二』。

その文字との回路を切られ、『闇の第二』はもう縋り付く者何も無く、慟哭上げて闇の世界に落ちる。


“ヴギャァァァァァァァァァァァァァ!!!”


ラキュサスティノスが叫ぶ。

“蘇生を!!!”


ワーキュラスに促され、アイリスは包んでいたディアヴォロスの体を離し、ディスバロッサの肉体に駆け寄る。


ローフィスが気づき、ディアヴォロスの身が、ぐらり…と揺れるのを必死で支え、オーガスタスが振り向くとローランデに

「ここを頼む!」

と一声叫び、ディアヴォロスの身支えるローフィスの横に付いて素早くその身を受け取る。


ほぼ正面からディアヴォロスを抱き止めるオーガスタスの横にローフィスは付くと、上空アーチェラスから力借り、呼び戻しの呪文を唱え始める。


アーチェラスから素晴らしい光送られ、ローフィスはかっ!と白金に光り、ディアヴォロスの身を包み込む。


アイリスは必死でワーキュラスの指示受け取り、ラキュサスティノスの力借りて床の上に倒れ込むディスバロッサの身に、手当て闇の刻印を、消しにかかる。


ワーキュラスが瞬時に、刻印…誓いを立てた主である、ディスバロッサの母を呼び出す。

レキウナス…「左の王家」集う中央テールズキースには住まず…好んで東領地ギルムダーゼンに近い、隠れ家のような鬱蒼とした森中の城に住む…最早魔女。と一族から恐れられる美女。


その美しく禍々しい透けた容貌を…ディアヴォロスは自分の肉体に戻り、霞む瞳で見つめる。



オーガスタスが抱くディアヴォロスの身に体温が戻り来る様に、安堵の表情を滲ませるが、横のローフィスは

“まだだ…!”

ときつい顔を崩さない。


ラキュサスティノスはその魔女に告げる。

“誓いの刻印を取り払え。

出来るのはお前のみ。

しないと言うなら、力尽くだ”


魔女…ディスバロッサの母、レキウナスは嗤う。

“おのれにそのような事が、出来ようか?

我はその子の母ぞ!

子は、母の意志そのもの!”


アイリスはワーキュラスの囁きを聞きながら、レキウナスに告げる。

“失礼。レディ。

ですが貴方に母性は無い。

産んだ。と言うだけで、その愛情が無い以上、正式に母とは言い兼ねる。

母。と言うものは、母の情愛注ぎ初めて、母と名乗れるもの。

産んだだけではその資格は、与えられません”


当然、レキウナスは怒る。


アルファロイスは下から登り来る敵が途切れ、ギデオンも吐息付くと、二人同時にディアヴォロスとディスバロッサへと振り向く。


“小賢しい小僧めが!

下賤な身分の汚れた男が何をほざこうぞ!”

“愛情の間に、身分は存在しない。

貴方が『闇の第二』に殺させた、乳母アンタネストの方が余程、ディスバロッサ殿の母に相応しい…。

そう。

貴方がディスバロッサの父であるリスティリア卿との仲を疑い、嫉妬で怒り殺した女性です…。

貴方は残酷にも、乳母アンタネストを“母”と慕う幼いディスバロッサの手を使い、『闇の第二』に殺させた。


それ以来ディスバロッサの心は闇に落ちた…。

どれ程深い傷を負わせた事か。

母。と名乗る貴方こそが、ディスバロッサの真の母を、殺させたのです。

なのに…今更貴方がディスバロッサ殿の母を名乗る?

どれだけ図々しいか、ご自分でお解になれない?

…哀れですね”


その、冷たく卑下するアイリスの言い様は、レキウナスを心底怒らせた。


が、アイリスは尚も畳みかける。

“おや。

嫉妬ですか。

嫉妬の炎が貴方から伺い見える。

死して闇に落ちて尚、ディスバロッサ殿の心には乳母アンタネストが母の象徴として残り続け、消えはしない。

貴方が心から愛したリスティリア卿ですら、貴方が残虐な方法で乳母アンタネストを殺した時、貴方に心から失望し、貴方から去って行った…。


そりゃ、嬲り殺しにしたいでしょうね?

あなたからしたら。

が、そうして殺し、魂を闇に捕らえても…ディスバロッサの心の中で…そしてリスティリア卿の心の中で、乳母アンタネストは聖母のように輝き続ける。


さあ…これをどう消します?

悔しいでしょうね?

リスティリア卿は貴方同様、「左の王家」の男。

簡単に、闇には落ちない。


それに…貴方を敵に回した時点で、一族の守護神光竜ワーキュラス殿に守護を頼み、貴方には為す術が無い。


その都度貴方は乳母アンタネストの魂を呼び出し、どれ程の苦痛を与え、朽ちていく様をその魂に現し醜く変え…その事にどれだけ毎度、ディスバロッサが心を痛め、恐怖と畏怖で貴方を“母”と呼んだか…ご存知無い?

それでも貴方は図々しく幼いディスバロッサ殿に、囁いた。

“これこそが真の、母の愛”と。


どれだけ図々しいんでしょう。

さあ…!

今すぐこの闇の誓いの刻印をお解きなさい。

さもなくば………”


“下賤の男がどうほざこうが、我の知った事か!”


ラキュサスティノスが、ワーキュラスに微笑んだ。

“上出来だ”

途端…だった。


レキウナスが自分の手、そして顔が崩れゆく様に恐怖の叫び、上げたのは。

“ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!”


顔の肉は腐りそげ落ち、目玉は変な風に支える肉無くし、傾き行く。

手、足ともどろどろと崩れ、腐った腐臭を放ち始め…。

美女が一転、化け物と化す映像に、ギュンターは俯く。


「(根性鍛えられてないと、『影』とは付き合えないな…)」

そして、チラ。とローランデ。

そしてローフィスを盗み見る。

二人共、表情も変えない。


「(どうしてあれ見て、ぞっとしないんだ…。

これじゃ当分、美女見ても勃たないぞ………)」


うんと離れた、ゼイブンも頭の中の映像で見てるのか、そっとギュンターに同意した。

「(気持ちは凄く、解る。

が、あれは『影』に浸った女、のみに起きる現象で、『影』とは無縁の美女は、年取って棺桶の中で朽ちる時迄あんなにはならないから、安心しろ)」


ギュンターはその時、ゼイブンの存在がどれだけ有り難いか、思い知ってしまった。


レキウナスは崩れゆく自分の姿に絶叫し…が、震える声で尚も、告げた。

“妾を…謀る気か…。

こんな…幻影を見せて!”


が、ラキュサスティノスが笑い交じりに告げる。

“『真実の光』を知らないのか。

光竜神ワーキュラス殿がその光浴びせれば…精神がそのまま、肉体に現れ真の容貌が描き出される。

お前の真の姿はそれだ”


“これは妾なんぞでない!

乳母アンタネストの姿…!”


アイリスは呆れて言った。

“だって真のディスバロッサを愛し、気遣う母の愛。

を持ってたのは乳母アンタネストで、貴方じゃ無い。

『真実の光』は貴方が偽物だと告げている。

貴方が『真実の光』を今迄拒めたのは、『闇の第二』がディスバロッサの中に居たから。


『闇の第二』が『影』の次元に封じられた今、貴方に『真実の光』拒む能力は無い”


ラキュサスティノスが、微笑んでディスバロッサの刻印を示す。

アイリスはその闇の誓いの言葉が、薄く消え行くのを見、ラキュサスティノスに微笑み返す。


“我がディスバロッサの母ぞ!

なぜ…!消える!!!”


ラキュサスティノスが笑い交じりに告げる。

“そのディスバロッサに聞け。

ただ、言葉だけの“母”で無く、真の愛情を注いでくれた相手は誰かと。

ディスバロッサは無意識に乳母アンタネストを選び…その刻印は、ディスバロッサの母で無くては効力を発揮しない。


つまりお前はディスバロッサにとって、言葉だけの母であり、真の母では無いから刻印は効力無くし消えるんだ”


“ええいディスバロッサ!!!

お前の母は…母は、我ぞ!!!”


が…もう無理だった…。

光に包まれたディスバロッサが思い返す…優しく暖かい愛情注いでくれた乳母アンタネストの姿にうっとりと…楽しかった時間の思い出に彼は…浸りきり、実母レキウナスの声など、到底届かなかったから。


ワーキュラスの、荘厳な声が響く。

“刻印が、消えた!”


ミラーレスが頷く。


その顛末をレアル城内に身隠し、こっそり伺っていたメーダフォーテは、嫌な予感がした。


東の聖地の裏にこっそり隠した館。

多分ムストレスとディスバロッサの実体はそこのどこかの寝台上にある筈。


きっと今頃、館に突然現れた『光の民』らにレッツァディンやララッツ。

ドラングルデやラルファツォルらが、ぎょっ!としてるに違いない…。


そして『光の民』らはディスバロッサの、寝台に眠る本体見つけ出し、その体からも闇の刻印消し去ろうと…するに違いない。


メーダフォーテはそれでも…光竜ワーキュラスの采配に、感謝した。

敵に縋りどれ程惨めだろうが…今はこの結界から、抜け出すのが先決。






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