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「アースルーリンドの騎士」別記『幼い頃』  作者: 天野音色
第七章『過去の幻影の大戦』
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27 帰還

 城門から解き放たれた騎兵達は、横半分荷車へと続々寄り、その向こう翼はそのまま、ダキュアフィロスの軍勢へ向かいつっ走る。


“来る!”

頭上でアースラフテスの声響き渡る。

アシュアークが身一気に屈め、矢のように突っ込んで行くのを目にし、シェイルは手の上に、短剣の重み感じて敵、先頭集団目がけ次々投げる。


走る横から自分追い抜き、前方来る敵を、次々馬上から落とす短剣の銀の閃光見ても、アシュアークは剣振り上げ一気にすり抜けようとする横の敵、斬り殺す。


ずばっ!

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


馬車の中でアーチェラスもドロレスもが顔、上げる。

アースラフテスが二人に囁く。

“戦闘は私にお任せ下さい”

“かたじけない”


アースラフテスはそう答えるアーチェラスの返答を聞き、軍勢より馬車横にずらし止め、監督してるような頭上のワーキュラスに、頷く。


ワーキュラスからダンザイン、ウェラハスへと言葉が繋がれ、二人は寝台に眠る、幼いテテュスとレイファスの夢の中で二人の、手を取る。


ダンザインは手を取ったテテュスが、再び戻れる事に、心の底から感激で震えるのを感じた。

“危険な…場所なのに?”


危険だからこそ…。


ワーキュラスが、声に聞こえぬ程のささやかな声でさざめくように囁くのを、ダンザインは聞いた。


…必要とされて嬉しいんだ。彼は。


ダンザインは手を取る幼いテテュスを見た。

最早騎士。

彼はただの…幼子では、無かった…。


ウェラハスは急く、レイファスの心感じた。

“俺が居無くったって大人の俺は大丈夫だろうけど…!”


ウェラハスはそっ…とレイファスに囁きかける。

“けれど…君らを戻した後暫く回路が使えない。

再び使えるようになるまで、君達に頼らざるを得ない”


ウェラハスのその言葉に、だがレイファスは嬉しそうに微笑った。

“活躍の場が、あるんだな?

敵は『影』か?”

ウェラハスが、頷く。

“総動員してきている”


レイファスが、前を向く。

再び仲間の元へ戻れる事が、心から嬉しいように、頬染めて。


ダンザインもウェラハスも、二人の幼子の魂を、光で包み込む。

先導はワーキュラス。

回路を抜けて行く。

が、結界内に入った途端、ずん…!

と重みがかかる。


ダンザインとウェラハスの、顔が歪む。

必死で包むように、二人の魂、“気”で抱きかかえる。


ワーキュラスがその向こう。

巨人のように透けて結界内に居る、夢の傀儡王を見る。

夢の傀儡王は笑っていた。

“このまま重みに、耐えられるか…?!”



ワーキュラスが咄嗟、夢の傀儡王が下す圧力跳ね退けようとし…はっ!と力、抜く。


くっくっくっ…と夢の傀儡王が嗤う。

“結界崩すか?

必死で仲間の命護る、全て諸共!

お前が力使えば一瞬!

全てが硝子のように砕け散る!”


ダンザインとウェラハスはそれでも凄まじい重みに耐えて、神たる光竜に告げる。

“我らは大丈夫。

何としても…”

声は、途切れた。

が…。

言わずとも凄まじい重圧に子供らの精神抱きかかえ耐え、ダキュアフィロス軍勢より外れた、馬車を目指す。


進むにつれ、二人へとかかる重圧は凄まじさを増す。

が、二人は体をバラバラに砕きかねない重圧の中、最小限の力周囲に張り巡らせ、結界崩す力使うまいと耐えている。


ワーキュラスは自分の“力”、二人に分け与えたかった。

がそれが出来る者…ディアヴォロス、アイリス…ゼイブン、ローフィスですら、目前の敵と戦うので精一杯。

余裕等まるで無い。


ワーキュラスは二人の神聖騎士達が、それでも何が何でも!と僅か進む毎に凄まじい重圧かかり行くその中を、必死で少しでも進もうとする様を見守った。


“もう…いい。

そこで”


馬車の手前の空間で、ワーキュラスはやっと二人にそれを告げられ、本当に嬉しかった。

二人の手から幼子の魂受け継ぐ。


瞬間、大人の彼らとの間に以前自分の作った回路呼び寄せ、二人の魂送り込む。


一瞬で二人は、嬉々として吸い込まれていった。

アースラフテスがワーキュラスの悲鳴のような吐息に促され、大声で叫ぶ。

“二人の神聖騎士を直ちに!”


ホールーン、ムアール、エイリルが必死で“気”伝わせ回路支え、飛べる神聖神殿隊騎士らが回路伝い、二人の神聖騎士達目がけ飛び走る。


二人の上には凄まじい見えない重みがかかっていて、だが助け手達は躊躇する。

が、二人を包む光の結界内へと回路通し、その細い僅かな回路より、二人を吸い出す。


二人が消えた途端、光の僅かな結界は粉々に重圧に、押し潰された。

“まずい!”


外では“運ぶ者”の最大能力者、ダッセフェルが一気に回路に居る者らを回路より運び去る。


ず…………んっ!


神聖神殿隊騎士らが、回路支えていたホールーン、ムアール、エイリルが気絶する様に駆け寄る。

そして…粉々に砕け散る回路がそれでもまだ、道として存在するのに、神聖騎士らの所行を褒めた。


が…この、砕け歪む回路を修復しないことには、中の者らの元へは、飛ぶ事叶わぬ。


アースラフテスは大声で指令出す。

“神聖騎士らを癒やしの結界内に!

他の者らは回路の修復だ!

急げ!!!


コウコーガ・デュラキス・アソッサヌス・フスオレリアンを、唱えられる者は見つかったのか?!”


神聖神殿隊騎士は慌ただしく飛び回り、癒やし手らは新たな患者に駆け寄る。


“里”の者らは叫ぶ。

“待ってくれ!長!

声の届かぬ場所に居る者らを今、あたってる!!!”

“急げ!

もしどうしても見つからぬのなら!

禁忌の呪文を専門家からひったくって来い!

私が唱える!!!”


長の決意に、神聖神殿隊騎士らはぎょっ!とし、手隙の者は全部、飛び回りそこら中に散って行った。



ワーキュラスは透けて結界内に、神の如く巨大な姿見せ立ち塞がる、「夢の傀儡王」を睨め付けた。


回路は、中に居る人間達を繋ぐ細く管のみが、神聖騎士らの庇護の光で護られ、通っているだけ。


それ以外はあちこちが歪み、砕け…最早通路としてはほぼ、役割を果たしていなかった。

ワーキュラスは「夢の傀儡靴王」が、自分に微笑うのを睨め付ける。


“全てを、滅ぼそうというのか?”

「夢の傀儡王」はその透けた巨大な姿で頭垂れ、言った。

“貴方の力及ばなければそうなる”

そして心から楽しげな笑み浮かべ顔を上げ、独り言のように呟いた。

“真の神を対戦相手に迎えるゲーム程…心躍るものは無い。

数百年眠っていた、甲斐があったというもの”


ワーキュラスは透けた巨大な…“神”を奢るその対戦相手を睨め付け続けた。



ゼイブンは戻るテテュス、レイファスの存在を感じ、サーチボルテスに囁く。

「回路が潰れたって、本当か?」

“中に入ってる人間に通じてる細い管だけは、かろうじて神聖騎士らが護りきったが、外からは気軽にここへはもう、入れない”


ゼイブンは忙しく巨大な荷車に這い上る敵へと短剣降らせ続け、囁く。

「つまり…今の俺達みたいに、憑依型で無ければあんたら、出られないのか?」


“君達の他の者らは、我らに意識明け渡すやり方に熟達してないから、もし我々がその意識使って現れようものなら、その後暫くは戦闘不能になるぞ?”


ゼイブンはアッカマンの言いたい事が解った。

最終決戦。とばかり、開いたレアル城門から敵が続々押し寄せ来る。

こんな中で気絶したりしたら、まさしく命取りだ。



ローフィスは自分の馬護る、斜め横下のスフォルツァが一瞬怯むのを見、腹の底から叫ぶ。

「全て幻影だ!」

スフォルツァは自分に斬りかかる美女に、ローフィスに怒鳴られ様反射的に剣振り上げ、上から剣を叩き降らす。


飛び散る血浴びても、スフォルツァは心の中で

“これは幻。これは幻…”

と呟き続け、次に襲い来る、女に再度剣を一気に振り下ろした。


ローフィスは安堵と共に反対側のギュンター見るが、相手が子供だろうが、躊躇無しに一刀の元、斬り殺す。

「(ある意味、流石だ)」


ギュンターは、金の髪散らし次の子供も斬り殺して内心怒鳴る。

「襲って来る奴は誰だろうが敵だろう!」

そして腹立ち紛れに荷車の上を見る。


それで…ローフィスにも解った。

ローランデの、側に行けない腹立ちをギュンターは、戦闘で晴らしてるんだと。


が、サーチボルテスを通して“里”のごった返す様子に気づいた途端、一つの記憶が紐解かれる。


古代書庫の中の呪文を引き出したい。と問い合わせた時副長ローレスが瞬時に現れ、書庫の一冊を手に取り、渡してくれた事。

あの時、呆れて聞いたものだ。

“古代書庫の表題、全て知っているのか?”


そしてつい…膨大に古本の本の並ぶ書庫内を見回した。

優に三階分はあるその広い場所の、上へ上へと左右共に本棚は積まれ行き、遙か上へは宙飛ばぬ限り届かない。


そんな書棚が無数に積み上げられたその書庫の、たったの一冊を彼は的確に心読んで手渡してくれた。


礼告げて背を向けた時、ローフィスの頭に言葉が飛び込む。

“知識無くしては長に助言出来ぬ。

副長担う役目だと、書庫の番人に提言されているからな”


振り向いた時、ローレスの姿はとっくに消えていた。


…書庫の番人は少なくとも八人は居て、項目別に専門知識を受け持っている。

その一人の守備範囲だって膨大。

更に番人は意識化して実態を持たないから、特殊な呪文唱えない限り会話出来ないばかりか、呪文唱えても応えてくれない時がある…。


…八人併せた全部を副長は知識として、持っているのか?

ローフィスの意識読んだサーチボルテスは、ふと思い当たりローフィスに頷く。

相変わらずローフィスの手に次々短剣を振らせながら。

ローフィスは手に重み感じた途端、それを敵に放っていた。



サーチボルテスは書庫に意識飛ばす。

が、書庫の番人に当たってる担当の者が、番人の内六人が目覚め、次々と自分の情報を語り出し互いに論争始め、返答の無い二人は参加せず、今だ議論が混迷してる様に困り切ってる様子を送って来るのに項垂れ、仲間に囁く。


“副長ローレスが…知ってないか?

夢使いに頼んで、眠る副長に尋ねてくれ”


サーチボルテスの言葉に数人が気づき、眠る副長の元へ飛ぶ。

夢使いが現れるが、寝台に横たわるローレス見た途端無言。

つい、先に着いた二人がそんな夢使いを見つめる。


夢使いは一つ、大きな吐息吐くと、こん。と杖で床鳴らし、すっ…とその姿、ローレスの中へと消した。


どんっ!

凄い音と共に夢使いは弾かれて飛び出して来、一人が空間で彼を止める。

そして、横に降ろす。

夢使いは

「弾き出された」

と言っていきり立つ表情見せ、きっ!と杖、こん!と鳴らし再び中へと吸い込まれていく。


暫く後、また…。

どんっ!


今度は宙へ弾かれる夢使いを、もう一人が空気で受け止め、横にそっと降ろす。


夢使いは膝付き肩で息をし、が何とか顔上げると、横の二人に告げた。

二人は直ぐ様、告げられた仲間捜し空間へと消え去った。




アーチェラスとドロレスは、ゆっくりと瞳開ける二人を見た。

テテュスもレイファスも、嬉しそうだった。

「ヨォ…」

レイファスは子供の自分の存在する腹に向かって微笑み、テテュスは一瞬幼子の感激する表情を自分の表情の上に、浮かび上がらせる。


そしてレイファスが、横のテテュスを見て、告げる。

「レアル城だ」

テテュスも頷くと言葉を返す。

「最終目標だな」


アーチェラスはテテュスの横で告げる。

“ゼイブンとローフィスに憑依した神聖神殿隊騎士の力を借り、飛ばす事は何とか出来る。

我らが出来る事は、護る事と癒やす事”

途端、テテュスとレイファスの脳裏に、戦場の様子が映し出される。


テテュスもレイファスも、望みを言葉にしなかった。

が、いつの間にか、景色は変わっていた。


ダキュアフィロスの軍勢のただ中。

周囲、起き上がり始める影。

それを操る、少し後ろに控え見える、『影』の男。


テテュスはそっ…とレイファスに囁く。

「そっちは任せた」


レイファスが見ると、死んだ騎兵が次々起き上がる。

遙か向こうの上空から、僅か残った飛び(イレギュレダ)が数匹、豆粒程の大きさで飛び来るのが視界に入る。


テテュスはもう、「傀儡(くぐつ)の凶王」相手に、戦いの呪文を始めていた。



アーチェラスは癒やしの光、弱り切ったドロレスに放出し、『影』相手に戦うテテュスとレイファス見上げる。


戦場の映像はその頭上に大きく、広がる。

空飛ぶ飛び(イレギュレダ)

助けたい!


が、止めるワーキュラスの警告。

ディアヴォロスとディスバロッサの呪文が煙のように結界内に広がり、結界の内壁振動させている…。


そして…自分達が“力”使い出来た大きな…亀裂………。


アーチェラスは顔、下げて回路見つめる。

歪みきった回路を、神聖神殿隊騎士達はそれでも必死に、修復して回る。


アースラフテスに告げる。

“荷車の者ら…そしてテテュス、レイファスは私が護る”

アースラフテスの、戸惑う感情。

が、頷くと透けた巨大な腕の中で護る彼らを、その申し出る神聖騎士に、譲り渡した。


荷車の屋根の上、アーチェラスは一瞬で姿現すと、皆を光で包み込む。


アースラフテスがそっ、とアーチェラスに囁く。

“今…神聖騎士の皆が貴方を助けられない”


が、アーチェラスは笑った。

“…つまり“輪の中心”ミューステールからの光を私が独り占めだ。

この回路は私自身と繋がっているから、どんな事があっても途切れない”

“だがそれも、貴方が気を、失わなければの話”


アースラフテスの警告に、アーチェラスは一つ、頷いて応えた。

“では決して、気を失うまい”


静かな、言葉だった。

が、底に秘めた確固たる決意に、アースラフテスはその見事な、騎士達全てが仰ぎ見る最高峰の神聖騎士へと、敬愛の頭を垂れた。




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