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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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88話 仲良し兄妹の邪魔をする者達

 俺は俺の可愛い妹と一緒にぜりんの映画を観る為に小場Q百貨店の七階にある映画館に来ていた。


 皇とスペーストレックを観に行った時とは違い、今回はちゃんと予約してある。パソコンが組み上がってすぐWebサイトから予約していたのだ。

 俺の可愛い妹の前で映画館に行ったら席がなかった、なんて失敗するわけにはいかないからな!

 映画の内容についてはネタバレサイトで研究済みだ。どんな話を振られてもついていけるぞ!

 ちなみにその後の予定もバッチリだ。昼食後は最上階のイベント会場で開催中の魔法少女ぜりん展に連れて行く予定だ。


 俺が俺の可愛い妹と手をつなぎながら発券機を操作しているときだった。


「あ、いた!」


 どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。

 と思ったらどっかの人妻がこっちを指差していた。

 皇嫁だ。隣には新田さんもいる。


「こんなところで偶然ね」

「今『いた』って言ったよな?」

「い、言ってないわよ!ね、せりす」

「ええ、気のせいよ」


 新田さんと直接会うのはあれ以来だが態度はいつもと変わらない。


「おねえちゃん、こんにちは」

「こんにちは、ななちゃん」

「ちぃにぃ」

「ん?ああ、こっちは皇の嫁だ。って皇覚えてるか?」

「うん。おぼえてるよ。ちぃにぃのおともだちのおよめさんなんだね?」

「そうだよ。ななは賢いなあ」

「えへへ」

「あ、その言葉、」

「ん?」

「な、なんでもないわ。ななちゃん、彼女はつかさよ」

「こんにちは、つかささん。あたしはななみです」

「あ、うん、ななみちゃん、こんにちは」


 さっきまで不機嫌そうな顔をしていた、っていうか、俺にはその顔以外記憶にないが、流石俺の可愛い妹!大天使!皇嫁がおそらく生まれて初めてであろう優しい笑顔を見せる。


「つかさ、外では”ななちゃん“て呼んであげて」

「あ、そうだったわね。本名で呼ぶとちいとが怒るんだったわね」

「こんだけ可愛いんだぞ。悪い奴らに知られたら大変だろ」

「いや、そんなこといっても……」

「つかさ」

「わかってるわよ、せりす。言う通りにするわよ」

「それで新田さん達はなんでこんな所にいるんだ?」

「映画を観に来たに決まってるでしょ」

「何を観るんだ?」

「それは、」

「ねえ、せりす」

「ん?」

「ちょっとこっち。逃げるんじゃないわよ!」

「なんで俺が逃げなくちゃならないんだ?」


 皇嫁は俺の問いには答えず、新田さんを連れて少し離れる。


「何?」

「本当に映画まで観る必要ある?」

「あるわよ」

「あなたが観たいだけじゃないの?」

「映画終わったらお客が一斉に出てくるのよ。見つけるのは困難でしょ?」

「そりゃそうだけどさぁ……」


 内緒話をしているつもりかもしれないがしっかり聞こえている。

 その事を二人に教える気は無いけどな。

 どうやら二人が観る予定の映画は皇嫁の方は乗り気ではないようだ。

 内緒話?が終わり二人が戻ってきた。


「で、何観るんだ?」

「ぜりんよ」

「そうか、って、俺達と同じじゃないか」

「あら、偶然ね」


 この言葉を素直に信じる奴がいるだろうか?

 いや、いるはずが……


「すごいぐうぜんだね!」


 ……流石、俺の可愛い妹は純真無垢な心の持ち主だな!

 だからこそ、俺がしっかり守ってやらないとな!

 それにしても俺の可愛い妹はよく“ぐうぜん”の意味を知ってたな。

 お兄ちゃん、鼻高々だぞ!



「この時間にいるって事は俺達と同じ次の回か?」

「そうよ。丁度いいから一緒に入りましょう。いいでしょ?」

「ああ。別に構わないぜ」


 小さな子供向けである魔法少女ぜりんを大学生だけで観るのは抵抗があるのだろう。

 自称非オタクである新田さんとオタク嫌いの皇嫁なら尚更だ。

 皇嫁はオタク嫌いのくせに夫を始め気の合う奴はオタクばっかりだよな。

 って思ってたら新田さんに睨まれた。


 やべっ、俺声出してたか?


 時間になり、俺達は一緒に入場した。


「ね、ななちゃんと一緒に入れば恥ずかしくなかったでしょ?」

「いや、それ以前に私、この映画に興味ないんだけど」

「つかさ、自分の都合ばかり言ってちゃダメよ。大事な話があるんでしょ」

「でもこれって逆効果じゃないの?ちいと、不機嫌になってない?」

「ちいと言うな」


 それは事実だ。

 兄妹水入らずを邪魔されたんだからな。

 とはいえ、不機嫌とかお前が言うなよ、と言いたい。

 言わないけどな。

 しかし、大事な話だと?一体なんのことだ?

 間違いなく皇の事だろうがまったく思い当たる節はないぞ。

 まあいい。今はぜりんの映画に集中だ。


「じゃあ、俺達こっちだから」

「うん、後でね」

「ああ」


 後でか。

 これ以上兄妹水入らずを邪魔されたくない。新田さんには悪いが、観終わったらさっさと退散したいなぁ。

 ……無理だろうけどな。


 俺達が席に着くと俺達とは逆方向に歩いて行った新田さん達がこちらに向かってくるのが見えた。


「わー、おねえちゃんだ!」

「あら、お隣はななちゃんだったのね。すごい偶然ね」

「うん!こういうのって“うんめい”っていうんでしょ?」

「ななちゃん、難しい言葉知ってるのね」

「えへへ」

「……絶対、偶然じゃねえだろ」


 俺が映画を予約したとき新田さんはそばで見ていたからな。

 俺の見ていないところで俺達の隣を予約したのだろう。

 ん?

 って事はあのときから一緒に観るつもりだったのか。

 恐るべし新田さん。



 映画を観終わると四人で小場Q百貨店のレストラン街で昼食を取ることになった。

 食事の間、俺の可愛い妹と新田さんは映画の話で盛り上がっていた。


 ……おかしい、それは俺の役目だったはずなのだが。

 盛り上がってるところに強引に割り込んで万が一にも七海の機嫌を悪くさせては大変だしな。

 しょうがない、暇そうな皇嫁の相手でもしてやるか。


「映画どうだった?」

「……まあ、思ったよりは面白かったんじゃない」

「それは良かったな。せっかく金払ったんだから」

「別に。お金出したのはせりすだから」


 成る程。

 そういや皇嫁は俺に用事があったんだよな?


「なんか俺に用事があったんじゃないのか?」

「そうなんだけど……」


 そう言ってチラリと俺の可愛い妹を見た。


「ちょっと、今はね……」


 成る程、幼い子供の前では話せない事か。

 こいつにもそんな心遣いが出来たんだ。

 俺の中で皇嫁への好感度がちょっぴり上がった。

 と言っても現在マイナスなんだけどな。



「じゃあ、俺達これから予定があるから」

「予定って何よ?」

「ぜりんのね、てんじかい?をみにいくんだよ!」

「ああ、最上階でやってるやつね。つかさ、私達も観に行く?」


 皇嫁が観に行くと言うとは思えん、と思ったのだが、皇嫁は俺に意味深な笑顔を見せる。


「どうしようかなぁ」


 まさか、俺達仲良し兄妹の邪魔をする気じゃないだろうな⁉︎


「ちいと、明日時間空けときなさいよ」

「なんだよ、その言い方。それが人にものを頼む態度か?」

「嫌なら、私も展示会に行きたくなるかも」

「わかった、明日な」

「即答したわね……」

「満足だろ?何が不満なんだ?」

「私が言うのもなんだけど、少しくらい考える素振り見せたら?一応、せりすはあんたの彼女なんでしょ?彼女と一緒にいるより妹を選ぶってどうなの?」

「どうなのって、言われてもな。それは俺のように可愛い妹を持った者にしかわからんよ。悔しかったら可愛い妹を持ってみろ。いいか、ただの妹じゃないぞ。超絶可愛い妹だぞ!」

「ちょ、あんた……」

「つかさ!進藤君、おかしなスイッチ入っちゃったじゃない!あれ程妹の事には触れるなって注意したのに!」

「いや、そうだけど、零からも聞いてたけど、まさかここまで……」

「もういいから!じゃあ、進藤君、明日ね、連絡するから!ほらっ行くわよ!」

「で、でも、せりすはそれでいいの⁉︎」

「大丈夫よ、展示会はまだやってるから」

「いや、そっちじゃなくて、ってか、なんなの⁉︎あなた達は⁉︎」

「お前には言われたくないな」


 こうして新田さんと皇嫁は去っていった。


「じゃあ、行くか?」

「うん!」


 この後、兄妹水入らずを満喫したのだった。


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