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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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87話 ムサシの子

 俺とにゃっくはばあちゃん家に来たときによく使う二階の空き部屋で寝ることになった。この部屋は元々は母の部屋だったらしい。今は私物は何もない。

 ちなみにばあちゃんの寝室は一階、ぷーこは俺と同じ二階でいつも両親が使う部屋だった。


「夜這いにきたら鉄拳制裁よ!」

「勝手に言ってろ!」



 朝、俺は子猫の鳴き声で目が覚めた。

 最初、にゃっくかと思ったが、にゃっくは滅多に鳴かないし、可愛すぎる。


 ばあちゃんは猫飼ってないよな?

 いれば昨日会わせてるはずだ。


 部屋ににゃっくの姿はなかった。

 子猫の鳴き声は部屋の外からから聞こえる。

 俺は部屋を出て鳴き声のする場所を探す。


 ま、予想はつくけどな。



「……やっぱりか」


 予想通りその声はぷーこがいる部屋からだった。

 ノックするが返事はない。


「開けるぞ」


 ドアを開けるとぷーこが大の字で寝ていた。

 掛け布団は蹴り飛ばされていた。

 服装はパジャマでもジャージでもなく、猫のぬいぐるみ?を来ていた。ダメ着っていうんだったか。

 とても暖かそうで、それだけで布団は不要に見える。


 子猫はぷーこの腹の上で鳴いていた。

 そのそばににゃっくがいた。


「にゃっ…いやなんでもない」


 当事者に聞いた方が早いな。


 俺がぷーこに近づくと子猫は鳴くのをやめ、じっと俺を見つめる。


「おい、ぷーこ」

「……」

「ぷーこ!」

「……にゃ?」

「にゃ、じゃねえ!」


 俺は目覚ましがわりの頭グリグリをお見舞いする。


「うぎゃー!な、なにっ⁉︎なんなのっ⁉︎って……ちいと⁉︎」

「ちいと言うな」

「な、なんであたしの部屋にいるのよっ⁉︎」

「ここはお前の部屋じゃねえ」

「……あんたやっぱり夜這いに来たのね⁉︎あたしの可愛さに本能を抑えきれなくなったのね!」

「アホか。もう朝だぞ」

「じゃあ、朝這いに来たわね!」

「なんだそりゃ……ってそんな事よりその子猫はなんだ?」

「ん?」


 にぃ。


「あー、お腹空いたのね」

「お前の猫か?」

「まあ、そんなところね。ばっちゃには内緒よ!」

「いや、もうばれてるだろ。あんだけ鳴いてれば」

「な、何ですって⁉︎ダメでしょ、静かにしてないと!」


 にぃ。


「無理言うな。こんな子猫に」


 俺が手を差し伸べると、つつ、と寄ってきて俺の手にしがみついた。

 人見知りしないようだ。


「く……、なし崩し作戦がダメになったわ……」

「何だよ、作戦て?」

「前からこの家にいたかのように偽装工作するつもりだったのよ」

「……は?」

「ばっちゃ、歳だからさ、偽装工作した後で、『あたしも猫も前からいたわよ』って言い張れば信じるはずだったのよ!それですべて解決だったのよ。それをあんたが来たから計画が台無しよ!どうしてくれるのよっ⁉︎」

「アホか!ばあちゃんはまだボケてねえぞ!お前がボケだ!」

「何ですって⁉︎」

「お前、ほんと、よくそんな下らん事思いつくよな」

「失礼ね!もう作戦変更よ!ちいと、あんたが責任とって面倒みなさい!って、そうよ!みーちゃんと交換でいいわ!等価交換よ!」

「どこが等価交換なんだ。こいつはどう見てもただの猫だぞ。戦闘力ゼロだろ」

「確かに戦闘力は皇帝猫にはちょっとだけ劣るわ。でも番猫としてなら十分よ!」

「何がちょっとだ。とてもそうは思えん」

「大体ね、あんたはその猫と無関係じゃないんだからね!」

「何だと?」


 俺は手の平に乗った子猫をじっと見る。


 にぃ。


 見覚えないな。


「いい加減な事言うな」

「あんた、本当に最低男ね!この子はね、あんたの相棒の子よ!」

「何だと⁉︎」


 俺がにゃっくを見るとにゃっくにしては珍しくびっくりしたような顔でぶんぶん首を横に振る。


「違うって言ってるぞ。ってことはみーちゃんの……」

「何言ってんよっ!みーちゃんはあたしの相棒でしょ!」

「じゃあ、誰だよ?俺の相棒って」

「ムサシよ。この子はね、ムサシの忘れ形見なのよ!」

「ムサシ?誰だよそれ?」

「何ですって⁉︎……ああ、そうか、あのときはまだムサシじゃなかったわね、タケゾウと言ったらわかるわよね?」

「わかんねえよ」

「……信じられない。あの殺人鬼との戦いであんたをサポートした猫がいたでしょ!それがタケゾウよ!タケゾウのお陰であんたは生き延びることができたのよ!被害者を救う事が出来たんじゃない!」

「……ああ、あの猫、タケゾウっていう名前だったのか」


 俺を助けるために自ら囮となって殺人鬼に突撃した猫。

 殺人鬼にシカトされたが、俺を助けようとしたことは事実だ。

 ……ん?ちょっと待て。新田さんの家からの帰りに見た猫、あれ、タケゾウ、いやムサシだったんじゃないか?


「この子猫が忘れ形見ってことはムサシは死んだのか?」


 俺の時のように誰かを庇って死んだのか?

 あの時見たのは幽霊だったのか……。


「バカなこと言わないでよ!生きてるわよ!」

「……は?」

「別の任務に出てるのよ。今頃は静岡辺りかしらね」

「バカはお前だ。日本語勉強しろよ。いや無駄か」


 バカだからな。


「ムサシは最後までこの子の事を心配してたのよ。で、絶対の信頼を寄せるあたしに託したわけよ!」

「お前を?」

「そうよ!」


 そりゃ藁をも掴む気持ちだったんだろうな。

 で、やっぱりぷーこじゃ心配だってんで俺の前の現れたってところか。


 ぷーこの言う事はもちろん納得いかない。

 だが、だからといってこいつにこの子猫を育てさせるのは危険だ。

 さてどうしたものか。

 母さん、もう一匹飼うって言って納得するかな?


 と考えていると、下からばあちゃんの声が聞こえた。


「千歳ちゃん、子猫の鳴き声が聞こえたけどにゃっくちゃんなの?」

「あ……ちゃーんす!」


 ぷーこが悪党のような表情をする。


 こいつ、にゃっくのせいにしてこの場を乗り切る気だな。

 そうはさせるか。


「何がチャンスだ。にゃっくで誤魔化そうとしても無駄だぞ」

「なんでよ?それでみんな幸せになるのよ?」

「何がみんなだ。俺がばあちゃんに話す」

「ちょ、ちょっと!」



「……というわけでこのバカが子猫を隠れて飼ってたんだ」

「誰がバカよ!誰が!」

「おまえだ。おまえ」


 子猫がばあちゃんの膝の上で丸くなっている。

 その子猫の頭をばあちゃんが優しく撫でる。


 にぃ。


 子猫が気持ち良さそうな声を上げる。


「じゃあ、私が飼おうかしら」

「え?」

「昔、猫飼ってたのよ」

「それは聞いたことあるけど。いいのか?」

「何言ってるのよ!いいに決まってるじゃない!ばっちゃ、ボケ防止になるわよ!」

「そうだねえ」

「お前がボケ直せ!」

「わかったわ」

「何?」


 てっきり反論するものとばかり思ったが、


「じゃ、みーちゃん返して。あたしのボケ防止にはみーちゃんが必要よ!」

「そう来たか。それはみーちゃんに言え。みーちゃん自身が戻りたいなら反対はしねえ」

「言ったわね?その言葉忘れないでよ!」

「はいはい」


 こいつの自信は一体どこからくるんだ?


「これであたしも安心してぐうたらできるわ!」

「するなよ、働け」

「あたしはもう十分働いたからいいのよ!あたしのおかげで十年は科学が進歩したって言われてるのよ!」

「それはすごいねえ」


 ばあちゃん、全然感情こもってないぞ。もう、ぷーこがどういう人間かわかったんだな。


「誰にだよ?」

「あたしよ!」


 ダメだこいつ。

 こいつだけはこのままにしておけん。



「……むにゃ……ん?」


 ち、起きたか。


「……んー……ちいと!何⁉︎ここどこ⁉︎」

「車の中だ」

「あ、あんた、お昼御飯に睡眠薬入れたわね!」

「入れねえよ。勝手に昼寝したんだろ」

「あたしをどこへ連れてく気?……はっ⁉︎ラ、ラブホ……」

「んな訳ねーだろ!組織だよ」

「なーん……ですって⁉︎」

「声が出けえよ」

「と、止めなさい!今すぐよ!これ、命令だから!」


 やっぱ、素直に帰る気はないか。


「にゃっく頼む」


 にゃっくがぷーこの肩に乗り、右前足をぷーこの首元に当てる。


「……今動いたら、やられる!」

「じゃ、にゃっく、悪いがそのまま頼む」


 目の端ににゃっくが頷くのが見えた。


「……ちいと、覚えてなさいよ」


 そう言った数分後には寝息が聞こえてきた。

 こうして俺はキリンさんとの待ち合わせ場所までぷーこを連行していったのだった。


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