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8話 皇夫妻、今ここにある離婚の危機?

 俺は小場Q百貨店の前に来ていた。あと三十分もすれば開店だ。

 入り口にはすでに何人か並んでいる。


 ここに来た理由はもうすぐ三歳になる俺のかわいい妹の誕生日プレゼントを買うためだ。

 父親は俺に対抗心を燃やしており、俺が何を買うかしきりに探りを入れてきたがもちろん言わない。

 言うわけがないだろう!


 といってもまだ何を買うか決めてないんだけどな。

 だが俺には強い味方がいる。

 皇だ。

 皇はゲーム、アニメ、漫画に詳しい。自分でも漫画を描いているそうで今年の夏には有名な同人誌即売会に参加したらしい。

 以前、テレビでその即売会の中継を見たことがあるが俺には無理だ。なんであんな人ごみに自ら進んで飛び込むんだ。まったく理解できん。

 それはともかく、

 皇はそれ以外におもちゃにも詳しく、今子供に人気のあるおもちゃもわかるそうなのでプレゼント選びを手伝ってもらうことにしたのだ。

 おもちゃなら専門店の方がいいと思うのだが、まあ皇には何か考えがあるんだろう。

 たぶん。


 皇は待ち合わせの五分前に現れた。

 今回は俺のほうが早く着いたが皇も時間には正確だ。お互い遅れたことはない。

 これが普通のはずなんだが時間にルーズな奴は結構多い。遅れてきて謝りもしねぇ奴もいる。

 最初はそれとなく注意したが、言ってもだめな奴はだめだな。そういう奴らと待ち合わせする時、俺はわざと遅れたりする。

 それでも俺のほうが早いってどういうことだよ?


 ん?

 皇は一人ではなかった。

 若い女性が一緒だった。

 手をつないでいるので仲がいいのかと思ったが相手の女性はどこか不機嫌そうだった。

「待たせてごめんね」

「あ、いや時間通りだろ」

 俺の視線に気づき皇が相手の紹介をする。

「妻のつかさです」

 ほう、この女性が学生結婚したという…

 はっきり言って美人だ。うらやましいぞ。


「俺は進藤千歳、よろしく」

「坂井つかさ」

 皇嫁がぶっきらぼうに名乗った。

 ってなんで旧姓まで名乗る?

「つかさちゃんは義理堅いんだ」

 そうか?そういう割には文句言いたそうな顔でお前を睨んでるぞ。

「突然ごめんね。つかさちゃんも一緒に行きたいって言うから。いいかな?」

「別に構わないぜ。女性の意見も貴重だろう」

 同性の方が好みに合うかもしれないからな。皇嫁は俺に冷たい視線を向けた。

 ん?なんかまずいこと言ったか?

「あー、つかさちゃんはあんまり詳しくないから」

「そうなのか」

「まったく興味ない」

 つまり、なんだ、夫婦水入らずを邪魔したんで怒っているのか?

「とりあえず列に並ぼう」

「あ、ああ」

 俺は皇夫妻の後に続く。



 俺達は小場Q百貨店の中にある喫茶店でお茶をしていた。

「助かったぜ、これならきっと妹も喜ぶと思う」

 皇は子供達に人気で品切れ状態が続いていた商品が今日ここ小場Q百貨店に緊急入荷する情報を得ており俺は楽してゲットすることができた。

 父親とのプレゼント勝負に間違いなく勝ったな。


「力になれたなら良かったよ」

 そう言った皇の隣に座っている皇嫁は相変わらず不機嫌そうだ。

 ここは謝っておくか。

「夫婦の時間をとって悪かった」

 俺の言葉に皇嫁は冷たい視線を向ける。

「そんなもの元からない」

「あ、そう…」

 じゃあ、何で怒ってるんだ?

 いや、まさかこれが普通の表情なのか?

「私は零がどれほど卑劣な人間か教えてやるために来たのよ」

 ん?何言ってるんだ?

「まさか好き好んで学生結婚なんかしたと思うの?」

 いや思うだろう、普通。

 できちゃった婚じゃないんだし。

「もう、つかさちゃんは…」

 皇が困った表情をする。

 そして皇嫁は今まで黙っていた分を吐き出すように皇の悪事?を話し始めたのだ。


 皇とつかさは幼馴染だった。

 家が隣同士ということもあり小さい頃からよく一緒に遊び、将来は結婚しようね、などとよくある約束もしたそうだ。

 俺にそんな話はなかったがな。

 二人は毎年互いに誕生日プレゼントを送っていたが、あるとき喧嘩をしてつかさは誕生日プレゼントを送らなかった。

 仲直りした時にはプレゼントを買うお金は残っていなかった。

 皇は昔から絵を描くのが好きだったので、つかさに誕生日プレゼントとしてモデルになることを要求した。


「純情無垢な私はこのケダモノの口車にまんまと乗せられてヌードモデルをさせられたよ。今思えばあの喧嘩もこうなることを見越しての罠だったのよ」


 この一件により、つかさは毎年誕生日プレゼントにヌードモデルを強要されるようになった。

 その様子を親に見られ、怒られるかと思いきやあっさり親公認の仲にされた。その後も皇の巧妙な罠によりつかさの逃げ道は塞がれていき、高三の大晦日、これまた皇の陰謀により酒を飲まされ酔ったつかさは皇の部屋に連れ込まれ初体験を迎える。

 これを朝起こしにきた皇の親にしっかり見られ、つかさの親にも知らされた。

 あとはトントン拍子に結婚話が進み、皇が十八歳になったときに籍を入れることになったのだ。


「酷い奴よね」

「確かにその話だと僕は酷い奴だね」

「事実じゃない」

「おかしいなぁ。所々僕の記憶と食い違うんだよね」

 そう言って今度は皇が話を始める。

 っていうかこんな話、よく平気でするよな。聞いてる俺の方が恥ずかしいぞ。


 ある時つかさはどうしても欲しいものがあり、皇へのプレセント代をそれに使ってしまったことがあった。プレゼントを用意できなくなったつかさは自ら絵のモデルになると言い出した。これ以降つばさからの誕生日プレゼントはヌードモデルになった。これもつかさ自ら言い出したことだった。

 最初は幼い頃から一緒に風呂に入っていたこともあり、つかさは皇に裸を見られるのに抵抗がないのだと思った。

 中学生になりさすがにまずいんじゃないかと思った皇がつかさに確認を取ると、

「それはつまり、私の裸は零ごときの誕生日プレゼントにもならないってこと?」

 とキレられた。

「僕はこのとき気づいたんだ。つかさちゃんは露出癖があるんだって。そのことに本人は気づいていないようだったけど。もちろん僕にも責任はあるかもしれないよ。僕のモデルになったことがきっかけだったかもしれないからね」


 初体験については以前から高三の大晦日にしようと約束していたそうだ。当然酒は飲んでいない。


 しかし、なんだこの食い違いは。

 羅生門を思い出すぜ。

 こうなると二人の両親の話も聞いてみたいものだ。また違うこと言うんじゃないか?


 さて、俺はどっちのいうことを信じればいいんだ?


 と悩む必要はなかった。

 どちらも俺の意見など求めていなかったんだ。


「私に露出癖なんてないわよ。モデルだってもうやらないって何度も言ったじゃない」

「それは本…」

「でも実際に誕生日になったら何も文句言わず自分からモデルやってくれたじゃないか」

「零の記憶違いよ。いえ妄想よ。記憶改変よ。私は零に言いくるめられて無理やりやらされたのよ」

「それこそ記憶改変だよ。つかさちゃんの言うことが本当なら他にプレゼントを用意してないとおかしいよね。僕貰ったことも見たこともないよ」

「……」


あー、なんだ、体がむず痒くなってきたぞ。


「零は私の裸を万人に晒しているのよ。今年の夏、零が描いた漫画見たんだから。あのヒロイン、私がモデルでしょ。この最低くず男が」

「そ…」

「そんなことないよ。参考にはしてるけどそのまま描いてないし」

「それは私の体がもっと貧相だと言いたいわけ?」

「そんなこと言ってないよ。つかさちゃんが一番だよ」

「……」


 ……えーと、なんだ、

 皇がこんなに話す姿は初めてだな。

 これまで俺と大学で話した分は余裕で超えてるんじゃないか。


「もう十分結婚生活堪能したよね。そろそろ別れどきじゃない?」

「まだ二ヶ月も経ってないよ」

「……」

「私は大学で新しい出会いをしたいのよ。運命の人と出会えなかったらどうしてくれるのよ?」

「いやいや、運命の人は僕なんじゃないかな?」

「自分で言ってて恥ずかしくない?」

「つかさちゃんもね。大体つかさちゃんの大学、女子大じゃないか」 


 ……さて、俺は可愛い妹の写真でも見て心を癒すか。

 スマホのアルバムアプリを起動する。

 最近の写真はほとんどにゃっくと一緒に写っている。

 本当に俺の可愛い妹はにゃっくがお気に入りだ。にゃっくはどこか嫌そうな顔をしているように見えるが気のせいだろう。


 来年には俺の可愛い妹は幼稚園に入園することになる。

 きっと人気者になるだろうから友達もたくさんできるだろう。

 男友達は俺がしっかり選別する必要があるな。ゼロでも構わない。

 間違っても俺の可愛い妹に皇夫妻と同じ轍を踏ませるわけにはいかない。

 一生俺が面倒見てもいい。っていうかそのつもりだ。

 

 俺が可愛い妹の将来について考えていると肩を軽く叩かれた。

 皇だった。

「そろそろ行くよ。もうすぐ予約した映画の時間なんだ」


 手をつないで去っていく二人を見送る俺。


 結局、なんだったんだ?


 はっきりしているのは、本人達が否定しようと俺はいちゃついているところを見せつけられた、

 ということだ。

 まあ、俺には可愛い妹がいるからぜんぜん悔しくないけどな!


 ……ふう、言ってて虚しいぜ。



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