表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
89/247

80話 ペンダント

 母さんと俺の可愛い(とにゃっく)は昼ご飯をすでに済ませていた。

 俺達は俺の可愛い妹がお昼寝する時間まで遊んだ後、遅い昼食を取りに外へ出かけた。

 とりあえず駅前の商店街に向かい、そこで適当な店に入ることにした。

 その後、喫茶店にでも入って時間を潰せば、帰ってきた時には発送してもらったPCケースなども届いているだろう。

 みーちゃんはパーツの側から離れようとしないので、ご飯を置いておいた。


「みーちゃん、ちゃんとご飯食べてるかしら?」

「どうかな。前にタブレットを買った時は食事にまったく見向きもしなかったからな。俺が食べさせたんだよ」


 新田さんがクスッと笑った。


「本当にみーちゃんは変わってるわね」

「ああ。みーちゃんは俺の知ってる皇帝猫の中で一番機械に詳しいんだぜ。いや、機械扱えるのはみーちゃんだけかもな。メールも打てるんだぜ」

「ええっ⁉︎……あ、でもわかるかも。本当に人間ぽいっていうか、たまに猫って事忘れちゃったりするし」

「ホントだぜ。みーちゃんとパーツの相談してる新田さんの姿はほんと危ない人だったぜ」

「酷い!それは言い過ぎでしょ!」


 ちょっと頬を膨らませて睨む新田さん。


 なんかいいな。この感じ。

 はたから見て恋人同士に見えているのだろうか?

 バカップルに見られてないよな?


「どうしたの?」

「いや、なんでもない」



 店先に立てかけられている看板に書かれたランチメニューを見ながら入る店を探しているとジュエリーショップが目に入った。

 以前、新田さんの誕生日に何を贈ろうかと悩んだ時になんとなく入った店だ。

 店の前では店員がチラシを配っており、その店員と目が合った。

 店員がにっこり笑った。


「お久しぶりです」

「あ?ああ」

「知り合い?」

「いや、知り合いっていうか………」


 マジかよ?一度入っただけなのに覚えてたのか?

 あれから何度か見かけたし、偶然目が合ったことも何度かあったが話しかけられたことはなかった。

 だから俺のことはすっかり忘れてるものと思っていたんだが、すごい記憶力だな。

 俺なんかファミレスでバイトしてたが、客の顔なんか覚えてねえぞ。余程印象に残るような事でもない限りな。

 ……って、まさか俺おかしな行動したか?いや、してないはずだ!


「もしかして、この方のだったのですか?成る程、この方でしたらきっとお似合いですよ」

「おいっ」


 何言い出すんだ!確かにその通りだが贈る相手が違ってたらどうするんだ⁈

 下手したら修羅場だぞ!


「実はこんな事もあろうかとお取り置きしておいたのですよ」

「いや、頼んでねえし、ただ売れ残っただけだろう?」

「……こんな事もあろうかと……ふふ」

「新田さん?」

「え?あ、うん、それってなんの事?」

「それは是非ご自分の目で確かめられては如何でしょうか?」

「いや、俺達、用事あるんで」

「あ、そうでしたか。失礼致しました」

「ああ、じゃあ………」

「本当に大変失礼致しました。プレゼントのお相手はこの方ではなかったのですね」

「……」


 決して大きな声で言ったわけではない。だが、その言葉はしっかりと心に響いた。


 っていうか、ぐざっと突き刺さったぞ!

 この野郎!新田さんが誤解するじゃねえか!

 あ、その顔、ワザとだな?ワザと言いやがったな!


「………」


 新田さんがスッゲー不信感丸出しの顔で俺を見る。


「違うんだっ、前に新田さんの誕生日プレゼントに考えたやつなんだよ!」

「ふうん」

「ほ、ほら、あの時はただの友達だったから、あげたら重すぎかなぁって」

「あの時は、ですか。では今は全く問題ないのではありませんか?」

「お前はうるせえよ!」

「とてもお似合いですよ。いやあ、彼の目は確かですねぇ」

「うるせえ!さあ、行こう!」

「……せっかくだから見てみたいわ」

「へ?」

「どうぞどうぞ。きっと気に入っていただけますよ」

「いや、腹減っただろ?飯食ってからにしない?」


 もちろん、飯食った後に寄る気など百パーセントない。飯食った後は店の前を通らない道で帰宅。

 これだ!これしかない!


 だが、


「ちょっと見るくらいいいでしょ?……それとも私が見たら困る事でも?」

「いや、別にないさ。さっきも言っただろっ。新田さんのプレゼントに考えた奴だから」

「じゃあ、問題ないわよね。進藤君がどういう趣味なのかも気になるわ」

「あ、そう……」

「ささ、どうぞ」


 新田さんは店員に案内されて中に入って行く。


 ……はあ、行くしかないのか。

 嫌な予感しかしないんだが……。



 店員は「しばらくお待ち下さい」と言って奥に消えた後、手のひらに収まるくらいの小さなケースを持って現れた。

 フタを開けると中から青い宝石がはめ込まれたペンダントを取り出した。


 間違いない。あのときのペンダントだ。

 以前と同じく自ら光を放っているように見える。以前にも増して光り輝いているような気もする。それはまるで俺との再会を喜んでいるようだ。


 って、そんなわけあるか。


「綺麗……」

「身につけられては如何ですか?」

「いいんですか?」

「おいっ」

「では彼氏様からどうぞ」

「む、」


 店員の思惑通りに事が運んでいるようで気にくわないが、彼氏と言われて悪い気はしないよな?

 人にペンダントを着けるのは初めてなのでちょっと緊張して手間取ってしまった。


「とてもお似合いですよ」


 それは認める。確かに似合っている。


「ちなみにですけど、これおいくらですか?」

「そうですね、今はセール中ですので税込で五万円となります」

「五万円ですか……」


 そうそう、結構するんだよな……ん?五万だと?


「ちょっと待て。前はもっと安かったぞ!確か三万くらいじゃなかったか?」

「価格改定がありまして」


 と平然とした顔で抜かしやがった。


「ぼったくりだ!」

「いえいえ、そんなことはございません」


 笑顔を絶やさず即答する店員。


「……うーん」

「あの、新田さん、本当に悩んでる?」

「うん。今までアクセサリーは買ってまでして欲しいって思ったことなかったんだけど」

「それはそれでどうかと思うけどな」

「でもこのペンダントは別。すごく惹かれるわ。進藤君がいいと思ったのもわかるわ」

「それは俺のセンスがいいって事だよな?」

「そうね、このペンダントに関してはそうね」

「……なんで限定なんだ?」

「たった一度で進藤君のセンスがいいって決めつけるのはどうかと思って」

「それはそうかもしれないけどさ……」


 そこは、「そうね」でいいんじゃねえ?

 実は俺と同じセンスなのが不満だとか?


「お二人ともお目が高いですね。そう、このブルーサファイアは特別なのですよ」

「特別?」

「何がだよ?」

「これはブルーサファイアの中でも、別名『ミーティア』と呼ばれております」

「ミーティア?隕石?」

「はい。別名の通り、このブルーサファイアは隕石から採取されたのです」

「隕石に宝石なんか含まれているのか?」

「はい、非常に稀にではございますが」

「前はそんなこと言ってなかったぞ」

「それは私のミスです。申し訳ございません。あのとき売れていましたら大赤字でした」

「それが本当なら希少なんだろ?五万でも安過ぎないか?」

「はい。ですがセール中ですので」


 嘘くせー!


「私達は運が良かったのね」


 ……あれ?新田さん?信じたの?こんな胡散臭い話。


「いかかでしょう?非常にお似合いですよ。まるでお客様のために作られたと言っても過言ではありません」

「うーん、お年玉で買えなくはないけど……」


 出たな、お年玉。

 少なくとも五万円以上はお年玉を貰ったって事か。パソコンの買い替えを考えていたくらいだから予想はしてたが、羨ましいな。


「では彼氏様にホワイトデーのお返しに頂いてはいかがでしょう?」


 店員が満面の笑みでとんでもないこと言いやがった。


「ふざけんな!」

「ああ、申し訳ありません。貰っていなかったのですね」

「貰ったわ!」


 ボケ竜に食われたけどな!


「流石にお返しでこれは貰えないわ。高過ぎよね」


 うんうん、そうだろ?

 俺、ここ最近金使い過ぎなんだぜ。

 特にパソコンは言われるままにカードで支払ってたから気づかなかったが、後で合計金額見たらとんでもないことになってた。


「いえいえ、お返しはその方のお気持ちです。値段など関係ありません」

「それはそうだけど……」

「ちょっと待て!その言葉、普通安いもの贈るときに使うもんだろ!」

「そのような決まりはございません」

「いや、そりゃそうだけど……」


 このくそったれ店員め、どうやってでもこの売れ残りを俺達に押しつける気だな!


「でも不思議ね」

「何が?」

「確かに高いけど、それは学生の私達だからであって、働いている人なら買えない値段じゃないでしょ?」


 ん?そう言われてみればそうだな。


「当然の疑問でございますね。実はですね、私、この人は、と思う方にしかお見せしておりませんでした」

「だから奥にしまってたのね」

「はい」

「いやいや、新田さん、騙されちゃダメだ。俺が最初に見たときは普通に店頭に並んでたから」

「私はきっとあなた様が購入されると信じておりましたから」

「いや、だから俺が入る前に……」

「顧客満足第一でございますから」

「意味わかんねえよ!」

「決めた!」

「新田さん?」

「私、買います」

「へ?」

「お買い上げありがとうございます」



 結局、ペンダントは俺がホワイトデーのお返しでプレゼントすることにした。

 新田さんはこのペンダントが相当気に入ったみたいなんだ。今の様子を見ると今後はずっと身に付けることになるかもしれない。

 もしそうなったら、俺が購入拒否したものをずっと見ることになるわけで、それはもう拷問だよな?

 そんな苦痛を味わうくらいなら俺が買った方がスッキリする。



「本当によかったの?今からでも……」

「いいって。それよりメシにしようぜ。急がないとランチ終わっちゃうぜ」

「うん。ありがとう。大切にするわ」

「ああ」


 この数日の出費は昼飯を安くあげたくらいでなんとかなるようなもんじゃないが、それでも切り詰められるところは切り詰めないとな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ