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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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78話 アキバ

 俺が目覚めると隣で寝ていたはずの新田さんの姿はなかった。


 ……体が重いな。


 ゆっくりと体を起こし、左腕に着けた腕時計型のウェアラブル端末、“計ってミルンデス”を操作する。

 この”計ってミルンデス“は装着者の魔粒子量を計る機能がある。キリンさんに「これを着けないと病院から一歩も外へ出さないわよ!」と言われ無理矢理着けさせられたのだ。

 俺は普段腕時計を着けない。腕を締め付けられる感じが嫌なんだ。

 腕時計を着けるのは自動車免許の試験以来だった。

 魔粒子測定アプリを実行すると画面が黄色に変化した。

 色の意味は緑色が正常、黄色が注意、赤が危険だ。

 着けた時は緑色だったから”がんばってる“時に新田さんに魔粒子を奪われたのだろう。そう感じる時があったしな。


 新田さんの能力はキリンさんによって“マナドレイン“と名付けられた。この能力に似た魔法からとったらしい。

 詳しい能力については俺が協力して調べることになっている。

 俺は普通の人より魔粒子が多いし、回復も<領域>内程ではないが早い。もっと言えば俺は彼氏なので”いろんな“事を試せるのだ。俺ほどの適任者はいない。


 ふっふっふっ……ん?

 今、十一時?……あれ?チェックアウトの時間過ぎてねえか?

 

 と浴室のドアが開いた。

 最初に出て来たのはタオルをそのでっかい頭に乗せたみーちゃんだ。続いてバスタオルで頭を拭きながら新田さんが出てきた。


 風呂上がりの新田さんは色っぽかった。

 ……丸見えだしな。


 昨晩のことが思い出される。

 

「あ、起きてたんだ。おはよう」

「みゃ」

「おはよう」


 新田さんは頭を拭きながらこちらに歩いてきたが、途中で自分の姿に気づき慌ててバスタオルで体を巻いた。


「……見た?」


 それ、確認する必要あるか?


「綺麗だった」

「……ばか」


 新田さんは俺に見えない位置に服を持っていき着替え始める。

 服はレイマとの戦いでボロボロになったものではなく、昨日の夜、ホテル階下にあるショッピングモールで買ったものだ。


「今更隠す必要はないと思うんだが」

「恥ずかしいものは恥ずかしいのよ!」


 そういうものなのか?


「そういえば、チェックアウトの時間過ぎてないか?」

「ええ。進藤君、ぐっすり眠ってて起こすの悪いと思ったからもう一泊することしたわ」

「そうか」


 それはつまり、そういう事だよな?今晩のためにしっかり体力を回復せねば。


「この後どうする?」

「ご飯?もうすぐお昼だし、アキバで食べましょう」

「アキバ?なんで……あ」


 そうだった。元々俺達はパソコンを買いに来たんだった。レイマに遭遇するわ、カオス落ちするわ、終いには魔王に会うわ、と色々ありすぎてすっかり忘れてたぜ。

 あと、ゆきゆきと静君との再会もあったな。ゆきゆきはともかく静君とは話がしたかったんだが……まあ、また会うこともあるだろう。彼も組織の一員のようだし。

 

「……もしかして忘れてた?」

「みゃみ⁈」


 二人?の冷たい視線が突き刺さる。


「まさか、あははは」

「……」

「じゃあ、俺もシャワー浴びるから」


 二人?の尋問を避けるため浴室に逃げ込んだ。



「あー、サッパリした」


 俺の服は昨日と同じだ。下着は新品だぜ。


「進藤君、さっきスマホが鳴ってたわよ」

「サンキュ」


 キリンさんからメールか。

 ……うわー。マジかよ。


「どうしたの?」

「え?あ、顔に出てた?」

「うん」

「実は、キリンさんからのメールで、俺の魔粒子量が減った理由を詳しく説明しろって……」

「え?」

「この“計ってミルンデス”のデータは向こうでも見れるみたいなんだ」

「ええ⁉︎ちょっと待って、詳しくって……」


 新田さんが顔を赤くする。いや、新田さんだけじゃない。俺も赤くなってるはずだ。顔がめちゃくちゃ熱い。


「……どこまで説明するの?」

「……まあ、嘘ついてもすぐバレるだろうしな。このホテル予約取ってくれたのキリンさんだし……」

「……」

「出来るだけ簡潔に説明するよ」


 で、三十分程度で作成した報告書を新田さんに見せる。


「これで出そうと思うんだけど」

「……本当にこれで報告するの?私、すごく恥ずかしいんだけど」

「俺だって恥ずかしい。だけど、新田さんの能力は珍しいらしいから詳しく知りたいんだってさ。大丈夫、プライバシーは守るさ」

「……」

「じゃあ、これで送るから」

「……」


 新田さんの抗議の視線を感じつつもメールの送信ボタンを押した。



 俺達はホテルを出ると新宿駅へ向かった。

 昨日の今日だが、思ったほど報道陣の数は多くない。

 あちこちに警官の姿をみかけるが、事件のあった地下通路は今は通れるようになっているとテレビで言っていたし、日常と変わらないと言っていいだろう。



 アキバに到着するとキャリーバッグが揺れた。見るとみーちゃんが内窓を開けて外の様子を見ていた。

 その表情はとても嬉しそうだ。

 このキャリーバッグはキリンさんから貰ったものだ。俺のキャリーバッグは結局戻ってこなかった。誰かに拾われたのかもしれない。



「まずはメシだよな。猫友カフェ?だっけ?」

「ええ」


 猫友カフェは猫カフェの一種で、飼い猫を連れて来てもオーケーなのだ。流石趣味の街アキバ。

 関係ないか。

 猫友カフェで初めて知ったのだが、みーちゃんはモテるようだ。

 飯食ってる間に何匹ものメス猫がみーちゃんに言い寄ってきた、ように見えた。

 だが、みーちゃんは全く相手にせず黙々とご飯を食べていた。


「みーちゃん、モテるのね」

「ああ、そうみたいだな。羨ましいぜ」

「へえ、そうなんだ」


 う、なんか今の声、低くなかったか?


「そ、それだけ魅力があるって事だろ?あるに越した事ないじゃないか」

「私はそうは思わないけど」


 う、新田さんはモテて苦労してたんだよな。迂闊すぎだな、俺。


「そ、そうかもな」

「そうよ」


 うむ、この話は終わりにした方がいいな。

 さっさと飯食ってパソコン買いに行こう!



「揃えるものたくさんあるから買い忘れないように気をつけないとね」

「ん?たくさん?」


 新田さんがスマホのメモアプリを起動し、メモを読み始める。


「CPU、マザーボード、グラフィックボード、メモリ、HDD、電源、ケース、モニタ、キーボード、マウス、OS、あ、OSはSSDね」

「みゃ」

「そうそう、進藤君のパソコンのHDDのデータをリストアするためのツールもあったほうがいいわね」

「ちょ、ちょっと待った!」

「どうしたの?」

「新田さん、自作するつもり?」

「そうだけど」

「俺、やった事ないんだけど」

「大丈夫。プラモデルみたいなものだから」

「みゃ」

「ほら、みーちゃんも簡単だって」

「いやいや、流石にみーちゃんはやった事ないだろ。静電気で壊しまくりそうだぞ。その前にその手じゃ無理だよな」

「大丈夫だって。私も手伝うから」

「いや、でもネットで調べた時、今は自作の方が高くつくって……」

「でも自作の方が自分好みにカスタマイズ出来るでしょ」


 いや、自分好みっていうか、新田さん好みになるんじゃないのか?


「……ダメ?」


 く、そんな目で見られたらダメと言えねえ。金がなけりゃそれを理由に断れたんだが、今の俺は組織から給料貰ってるし、昨日の話では特別手当も出るって言ってたしな。それを新田さんも聞いてたし。


「……まあ、いいけど。あ、新田さんも買おうかなって言ってなかったか?」

「え?ああ、私はまた今度にするわ」

「そうなんだ」


 なんだ、今の微妙な表情は?


「じゃあ、とりあえず店を一通り見て回りましょう!」

「みゃ!」

「え?一通り?」

「ええ、せっかくアキバに来たんだし、一番安い店で買いましょう」

「みゃ!」


 と新田さんは嬉しそうに言い、キャリーバッグの中でみーちゃんが同意するように鳴いた。


 いつからこの二人?はこんなに仲良くなったんだ?

 そういや、今朝、一緒に風呂入ってたな?

 まさか、新田さんとみーちゃん……って馬鹿か俺は。


「でも……そうだ、喫茶店にでも入ってネットで情報を集めてから行動しないか?」

「掘り出し物はネットに載ってないわよ」

「みゃ」


 く、ダメか。


「そんなに嫌?」


 く、だからその表情は反則だ。

 流石に今晩のために体力温存したいなんて言えねえよな。


「わかったよ。俺の買い物だしな」


 俺の意見が通ってないけど。


「よかった!じゃあ行きましょう!」



 ……俺は完全に役立たずだな。

 新田さんはパーツの相談を俺ではなく、みーちゃんにしてる。

 いや、相談されてもわからんけどさ。なんか寂しいぞ。

 ……ん?

 新田さん、なんかやけに注目されてねえか?

 美人だからってわけでもなさそうだぞ。

 ……あ、そうか、ただでさえ目立つのに、真剣な顔で猫に相談しているから余計に目立ってるんだ!

 危ない人と思われてるんだ!


 俺は新田さんにだけ聞こえるように小さな声で言った。


「新田さん、みー、猫に相談してるように見える」

「見えるって、実際に……あ」


 新田さんも気づいたようだ。


「すごく目立ってるからやめた方がいい」

「でも、みーちゃん、すごく楽しそうだし……」

「みゃ……」


 く、みーちゃん、お前もそんな悲しそうに鳴くなよ。


「わかったよ。とりあえずこの店は出よう。……次からは目立たないようにな」

「ええ、気をつけるわ」

「みゃ」


やれやれ。



 結局、全て揃えるのに四時間程かかった。

 ケースやモニターなど大きい物は自宅に発送してもらう事にした。明日の夕方には全て揃うはずだ。


 俺はもう足がガクガクだぜ。何度も往復したしな。


「新田さん、大丈夫か?疲れてない?」

「疲れてない、って言えば嘘になるけど、まだまだ大丈夫よ。進藤君は?」

「正直結構疲れた」

「ふふ、まだまだ鍛え方が足りないわね、お母さん……じゃなくて私が鍛えて上げようか?」


 あれ?今のちょっと変だったな。


「そういえばさ、二日も外泊してお母さんとかおやじ……お父さん、心配しない?」

「大丈夫」


 何⁉︎それはもしかして俺達の交際が公認ってことか⁉︎


「お母さんとは今喧嘩中だから」

「なんだ……って、全然大丈夫じゃないだろ!どうしたんだよ?」

「……私の病気の事隠してたから、その事で言い合いになったの」

「ああ」


 月見症候群のことか。


「あ、そうか」

「ん?」

「進藤君は先帰ってもいいわよ。妹ちゃんに会えなくて寂しいんでしょ?」

「何言ってんだよ。俺も泊まるに決まってるだろ」

「無理しなくていいわよ。もう私は用済みでしょ?」

「無理してねえよ!それに用済みってなんだよ!まだお仕置きが済んでないだろ」

「昨日、あんだけ色々しといて?」

「まだ半分も済んでない!」

「……進藤君、サイテー」


 そう言ったもののその表情はどこか嬉しそうに見えた。


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