75話 集う力3
レイマを観察していた静が驚くべき事を口にした。
「奴の体にコアはない」
「「「「え!?」」」」
「……」
コアがないだと?
「さっきのナルシーの攻撃ですでに破壊されてたとか?」
「それじゃ、こいつはゾンビレイマか?ってそんな事あるのか?」
「聞いた事ないわ」
レイマの攻撃がだんだん激しくなって来た。
翔は砂嵐の壁を効果が切れる度に作り出すが、レイマは砂嵐が切れた瞬間を襲ってきたり、砂嵐の壁を破って襲って来るようにもなって来た。
キリン達はあれ以来、レイマに魔法攻撃をしていない。魔粒子は有限だからだろう。優姫が我慢できず攻撃を仕掛けようとしたがキリンに止められた。
「今は無駄に力を消費すべきじゃないわ」
「でも何かしないと!どんどん状況は悪くなるわ!」
「だからといって考えなしに魔法を使ってはいざという時に何も出来なくなるでしょ!」
冷静な判断が出来る人がいてよかったぜ。
しかし、優姫ちゃんのこの無鉄砲さは新田さんに似ているな。オタクだし。
と内心思っていると新田さんと目が合った。
「……なに?」
「いや、別に」
「……」
ナルシーは激化するレイマの攻撃を今も華麗にかわしている。完全に自分の世界に入り込んでいるように見え、ブレスは期待できそうにない。
それでもレイマの攻撃を分散させているので十分役に立ってはいる。
ちなみにぬーくんは、ちゃっかりこちら側に避難してナルシーの応援に専念している。
この状況は殺人鬼がレイマ化したときと同じだな。
レイマは今の体に適応し始めてる。
翔の力だって無限に使えるわけないはずだし、早くなんとかしないとマズイぞ!
しかし、一体どういうことなんだ?実はあれは本体じゃないとか……。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「俺がねじ切った腕はどうなった?」
「あ、そういえば……あれじゃない?」
新田さんが指差す先に黒美少女の腕が落ちていた。その手には鎌が握られたままだ。本体から切り離されても消滅していなかったようだ。
だが、
「あんな場所だったか?」
「そう言われてみればそうね……」
俺が鎌を観察していると鎌の目がギョロリと俺を見た。
その血のように赤い目には今までに感じたことのない殺意が込められていた。
「キリンさん!あれだっ!あの鎌!あっちにコアがあるんだ!」
「え!?」
なんてこった!
あの黒美少女は弱点を振り回してたんだ!
俺が腕をねじ切った時、黒美少女は腕の事について何も言わなかった。
大したダメージじゃないからだとその時は思ったが、コアがある鎌に注意を向けさせないためだった……いや、違う。
きっとその事に突っ込んで欲しかったんじゃないか?
もし俺が腕の事に触れたらあっさりそこにコアがある事を言ったかもしれない。
あいつは自分の死を恐れていなかった。楽しければ死んでもいと思っていたように思えた。
今となっては確認しようがないが。
レイマは俺達がコアの在処に気付いたと知ると鎌を取り込もうとした。
「目だ」
「「ライ・ディー!」」
静の言葉を受け、キリンと優姫が同時に魔法を放ち、一方の魔法が鎌の目を貫いた。
レイマが動きを止め、鎌の消滅とともにその肉体も消滅した。
「決まったわね」
「優姫、当てたのは私よ」
「な、何言ってるのよっ!今のはどう見たって当たったのは私の攻撃でしょ!」
「「「「………」」」」
「ということよ」
正直なところ、俺にはどっちの攻撃が当たったのかわからなかった。だから何も言わなかったのが、
「……あなた達、覚えてなさいよ」
と優姫は俺と静を睨んだ。
なんでだよ?
まあ、ともかく、今回もどうにか生き延びることが出来たようだ。
俺達の上空をナルシーが華麗に舞う。その表情はやりきった、と満足そうに見える。
本当にそう思っているかはわからないが。
ぬーくんがナルシーの真似をして舞うがやはりその動きはおかしい。
「せりす、これ、あなたのでしょ。向こうに落ちてたわよ。あとこれもかしら?」
そう言って優姫は新田さんにリュックとワイヤーブレードを渡した。
「ありがとう!優姫!」
「せっかく手に入れた戦利品は大事にしないとね」
「ええ」
新田さんの表情から見て戦利品とやらは無事だったようだ。
俺も自分のリュックを回収した。
俺は戦利品?の本命チョコを失った以外は問題なしだ。
クララだが、俺の腕が治ったのと戦闘で無茶な使い方をした事を知ってキリンが組織に持ち帰る事になった。
俺の首にしがみついたみーちゃんをみてキャリーバッグの事を思い出した。
「優姫ちゃん!キャリーバッグ見なかったか?新田さんの荷物と同じ場所に落ちてたと思うんだが」
「見かけたけど空だったら放って来たわ。あとちゃん付けしないで!」
「ああ、くそっ。……まあ、元の世界に戻ってから回収するか」
「元の世界に戻って来るとは限らないわよ」
「マジかよ⁉︎」
「諦めなさい。もうすぐ<領域>が解除されるわ。元の空間に戻っても安全とは限らないから私達から離れないで」
「……わかった」
キリンさんに言われては従うしかないな。俺達に戦う力もないし。
しかし、あれ結構高かったんだぞ。もとの空間に戻ってることを祈るのみだぜ。
「進藤君」
新田さんが笑顔で近づいて来る。
改めてその姿を見ると、俺と違い直接レイマと戦いを繰り広げた新田さんの服はあちこち破れている。
「結構ボロボロだな」
「この服、お気に入りだったのに」
「命が助かっただけでもよしとするしかないさ」
「そうね」
新田さんが俺に右手を差し出してきた。
生き残った事への喜びを分かち合いたいんだと思い、素直にその手を握る。
だが、
「右手、やっぱりちゃんと動くのね」
はっ!?
新田さんが手に力を込めた。
「い、痛いって!」
「感覚も戻ってるんだ」
しまったー!!
「進藤君、その元通りになった右手で私にやりたい放題したわよね?」
新田さんがちょっと顔を赤らめながら俺を睨む。
む、それは違うぞ!
はっきり訂正せねばなるまい!
「やりたい放題はしてない!やれる範囲でしかやってない!」
「……」
あれ?更に機嫌が悪くなった?言い訳したからか?
「ほ、ほらっ、胸とかは触ってないし……」
「それは進藤君がお尻にしか興味がないからでしょ」
「いや胸だって好きだぞ……」
「……」
ダメだ。どんどんドツボにハマっていく。
「……これはもう進藤君のお仕置きはなしでいいわよね?」
「それはダメだ!」
「何騒いでるの?<領域>が解除されるわよ!」
ヤバいぞ、俺!
ここでうまく説得出来ないと、俺が戦いの中で必死に考えた"嬉し恥ずかしお仕置きスペシャル"を新田さんに出来なくなってしまう!
だが、もとの空間に戻ったとき、そんな事を考える余裕などなかった。
足だけなく、全身を激痛が襲った。それに加えて呼吸困難。
もう何も考えることが出来ない。
自分がいつ倒れたかもわからなかった。
「進藤君、演技はやめて………進藤君?進藤君⁉︎」
「どうしたの?せりす……千歳⁉︎マズイわ!」
「どうしたの、キリン?……ってこの人、千歳だっけ?キリンっ、これって……」
「……カオスに落ちたわ」
「そんなっ!」
「でもこんな事って……さっきまで普通に話してたし……」
もう痛みは感じない。
それどころかすごく気持ちがいい。
宙に浮いているようで、あらゆる束縛から解放されたようだ。
ゆっくりとだが、体が落下しているように思える。
意識が消えていく中で遠くから新田さんが俺を呼ぶ声が聞こえた。
「進藤君!私のお仕置きが済んでないわよ!」
……他にいう事あるんじゃね?




