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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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69話 迫る脅威

「お待たせ」

「じゃあ行こうか」

「ええ」


 新田さんのリュックが膨らんでいる。あの店で何か買ったようだが俺は全く興味がなかったし、下手に聞いて機嫌を悪くされても困るので何も聞かなかった。


「そういえば新田さん大丈夫か?」

「何が?」

「門限だよ。今からアキバに行って戻ってくると九時を過ぎるんじゃないか?」

「ああっ!アキバね!うん、今日は大丈夫。お母さんに断ってきたから」


 ……なんだ、その妙な反応は?


「まさかとは思うけど、買い物に夢中でアキバ行くこと忘れてたってことはないよな?」

「そ、そんな訳ないでしょ!」


 顔が赤くなってるぞ。

 自分から言いだしておいて忘れるとは、よほど価値のあるお宝をゲットしたと見える。

 優しい俺は追及しないけどな。


「……何よ?」


 どうやら表情に出ていたようだ。これは話題を変えるべきだな。


「新田さんって、一体いくらお年玉もらったのかな、と思って。さっき買ったやつお年玉で買ったんだろ?」

「なんで知って……あ、キャットウォークに書いちゃってた?」

「ああ」

「おじいちゃんがいっぱいくれるの。それに張り合ってお父さんも」

「そうなんだ」


 あの二人そんな事でも張り合ってるのか。


「進藤君は?」

「俺?ゼロ。誰からも貰わなかった」

「そうなんだ。私、甘やかされてるのかな?」


 そうだな、

 とはもちろん言わないぜ!


「どうかな。少なくとも俺は参考にならないと思うぜ。父さんとはちょっと色々あってさ、俺からくれとは言いたくないんだ」

「色々って、妹ちゃんの事でしょ?」

「く……、またもや母さんか。余計な事を!」

「それは聞かなくても想像つくわよ」

「いいんだよ、母さんを庇わなくても」

「別に庇ってないわよ」

「その事はいいよ。後で説教しとくから。で、お年玉だけどくれるっていうなら貰っとけばいいと思うぜ」

「そうかな?」

「ああ。俺だってくれるっていうんなら断らない」


 あっ!

 こんな事よりもっと大事な事あるじゃないか!


「ところでさ、あの子、ゆきゆきに何か感じなかったか?」

「何かって?」

「いや、なければいいんだ」

「よくなくないでしょ。すごく気になるんだけど」


 うーむ、じっと見つめられては(人によっては睨まれているというかもしれないが)答えない訳にはいかないな。


「その、俺と同じ感じしなかった?」

「優姫に進藤君と同じ感じ?実は血の繋がった妹とか?」

「あの子、本名はゆうきっていうのか。いやそういうんじゃなくて」


 俺は立ち止まり新田さんの耳元でささいた。


「俺は彼女が組織の人間じゃないかと思ってる」

「……え?」


 新田さんは気づかなかったか。


「説明しづらいんだが、彼女からは魔法使い特有の感じがしたんだ」

「魔法使い、ね……だから優姫のこと覚えてたの?」

「ああ。そのときはあれが魔法使い特有の感じとはわからなかったんだが……」

「進藤君って魔法使いなの?」


 あ……、まずったかな。


「……違う。少なくとも今は」

「今は?」

「魔法使いとしての素質はあるらしいんだが魔法を一つも知らない」

「そうなんだ。じゃあ魔法を見たことがあるの?」

「実はない」

「え?それって……」

「疑うのはわかるよ。直接使ったのを見たことはないけど魔法でもなければ説明つかないことを体験したことはある」

「それって?」

「以前魔物との戦いに巻き込まれて大怪我をしたことがあるんだ。その後気を失って気がついたらその傷が綺麗さっぱり消えていた。傷跡もまったくなかった。魔法でもなければありえないだろ?」

「そうね。進藤君ってそういう事に巻き込まれやすいのね」

「え?」


 確かに俺、結構魔物に遭遇してるよな。自分から飛び込んでいった事もあるが近くで起きる事多すぎる気はする。


「進藤君……?」

「……あ、悪い、何?」

「優姫の事だけど直接聞いてみる?」

「え?」

「メアド交換したの」

「やめてくれ。答えるとは思えないし、組織と敵対している側の人間である可能性もあるんだ」

「ごめんなさい」

「いや、こっちこそごめん。余計なこと言った」

「ううん。話してくれて嬉しかったわ。ありがとう。それでね、さっきから気になってたんだけど……」

「ん?」

「人、少なくないかしら?」


 辺りを見渡すと、いつの間にか俺達以外誰もいなかった。


「……おかしいな」


 もう直ぐ午後五時だ。時間的にも場所的にも通行人が一人もいないなんて普通じゃ考えられない。

 つまり、普通じゃないことが今起こっているということだ。


「そういえば、さっき遠くで叫び声のようなもの聞こえなかったか?」

「進藤君も聞こえてたの?気のせいかと思って黙ってたんだけど。私には悲鳴のように思えたわ」


 がさがさっ、とキャリーバッグの中で物音がした。


「みーちゃん?」

「みゃー!」


 今までずっと沈黙を保っていたみーちゃんが鳴いた。

 その声は警告に聞こえた。


「新田さん、気を……」


 新田さんは俺が注意を呼びかけるまでもなく真剣な表情で周りの様子を窺っていた。


「絶対変よね?」

「ああ」


 俺は辺りの景色の異変に気付いた。少しずつ暗くなっているのだ。

 照明が暗くなっている、という感じではない。


「みゃー!」


 俺がキャリーバッグを開けるや否やみーちゃんは飛び出し、俺の肩に乗った。

 周囲を警戒するように頭を動かす。その毛が頬に触れくすぐったかった。


「みーちゃん、これ、<領域>か?」

「みゃっ!」

「<領域>って、以前私がレイマに連れ込まれたっていう特殊な場所?」

「ああ。俺達、<領域>に取り込まれたようだ」

「ここにレイマがいるの⁈」

「それはわからない。<領域>は人工的に作ることも出来るんだ。前に組織のロボットが発生させたのを見たことがある」

「ロボットってどんな⁉︎」


 うわっ、新田さん食いつき半端ないな。


 みーちゃんが俺の頬をつつく。

 どうやらロボットという呼び方が気に入らなかったようだ。

 とはいえ、みーちゃんに教えてもらった型番は覚えてない。


 プリンセス・イーエスならすぐに出てくるんだがな。これ言ったらみーちゃんは不機嫌になるだろう。


「見た目は人間にそっくりだった。と言っても身長は二メートルくらいでガッチリしてたからかなり目立つ」

「私も見て見たいわ!」

「そのうち見れるんじゃないか。もしかしたら今日見れるかもしれないぜ」



「……何も出て来ないな」

「そうね」

「みゃ」

「なあ、みーちゃん、人工的に作り出した<領域>かどうかって見分ける方法はないのか?」

「みゃ?」

「進藤君、仮にみーちゃんが知ってたとして猫と話せるの?」

「あ、」


 うっかりしてたぜ。

 みーちゃんに俺のスマホを貸せば会話できるかもしれないが、俺のスマホは猫用にカスタマイズしてないからキー操作に時間がかかるよな。


「このままここにいてもしょうがないな。みーちゃん、脱出できそうな場所に案内できるか?」

「ちょっと待って!何もしないの⁉︎」

「レイマがいるかもしれないんだ。さっさと抜け出した方がいい」

「助けを求めてる人がいるかもしれないのよ!」

「そうかもしれないが、まずは自分の身の安全が第一だろ?新田さんにもしもの事が……」

「進藤君は私の保護者なの?」

「いや、違うけど……ん?」

「どうしたの?」

「あそこ、なんか近づいて来る」


 まだ五十メートルほど離れていると思うが、前方から何かが近づいてくるのが見えた。


 黒い……蛇?

 こんなところにか?


「どこ?……あ、私にも見えたわ。進藤君てすごく目がいいのね。あれ……蛇かな?」

「……いや、違う。あれは多分……レイマだ」

「え……?アレが?」

「正しくはレイマの触手、かな?」


 だが、触手だけで行動できるのか?

 今まで出会ったレイマ達の触手は本体から離れると消滅していたはずだ。

 もしかしたらラグナや魔法、そういう特別な力じゃないと切断したりしても消滅しないとか?

 あ、皇帝拳で切断した触手も消滅したよな。皇帝拳は青く発光したりしないからラグナじゃないはずだが同じような力があるってことか。

 って、考えるのは後だ。


「逃げよう新田さん!」

「……」


 だが、新田さんはその場にリュックを下ろすと中から縄跳びのような物を取り出した。

 縄跳びもどきのヒモの長さは一メートルちょっとで片方の先端にはグリップがなかった。


「新田さん、それは?」

「ワイヤーブレード。木刀とか持ち歩いてたら職務質問受けたりするでしょ?」


 新田さんがグリップを握るとワイヤーに青い光が走り、ピンと伸びた。

 それはSF映画でよく見るレーザーソードのようだ。


「まさか、戦う気か⁉︎」

「進藤君は後ろに下がってて」

「ちょっと待てよ!」

「みーちゃん、進藤君をお願い」

「みゃ」

「いや、お願いじゃないだろ!みーちゃんも『みゃ』じゃない!新田さん、危ないから逃げよう!」


 だが、少し遅かった。

 黒い触手もこちらに気づた。

 一気に新田さんに迫り、飛びかかってきた。


 シュッ、


 新田さんのワイヤーブレードが一閃し、触手は両断されて空中で消滅した。


 ワイヤーブレードが一瞬伸びたように見えたが気のせいか?


「新田さん、今のはラグナ?」

「ええ」


 新田さんの頬が赤い。戦いに興奮しているようだった。


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