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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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番外8 キタノアイナ

 新宿地下道。

 そこにキタノアイナはいた。

 といっても今の姿を見て彼女だとわかるものなどいないだろう。

 辛うじて人の形はしていたものの、全身がドス黒く変色し、顔はのっぺらぼうで体からは複数の触手を生やしていた。

 もはや人と呼ぶには無理があった。

 彼女の足元に散らばっているチリはかつて人間だったものだ。 


「ば、化け物!」


 彼女に絡んできた男達の一人がそう叫んだ。

 キタノアイナは声を上げた男に顔を向けると同時に顔の中央あたりに真紅の目が生まれ、声の主を捉えた。

 次の瞬間、体から生えた黒い触手がシュッと素早く動き、その男の首を刎ねた。

 宙を舞う頭は恐怖の表情のまま固まっていたが、地面に落ちる前に触手が突き刺さり、チリと化した。

 頭を失った体が首から大量の血を流しながらゆっくりと崩れ落ちる。その体に次々と触手が突き刺さり、これまたチリと化した。


(さあ、パーティを始めましょ。出血大サービスのね。といっても血を流すのは私じゃないけど)


 キタノアイナはそう言ったつもりだったが、変態したばかりの顔にはまだ口がなく、その言葉が声として出ることはなかった。

 逃げ出そうとした男の仲間すべてをチリに変える。

(……ああ、気分いいわぁ。こんなの初めて、……いいえ、久しぶり!ああ、楽しい!)


 キタノアイナの殺戮ショーはまだ始まったばかりだった。



 キタノアイナはほんの数分前までは至って普通の女性だった。

 月見症候群患者、ムーンシーカーであることを除けば。

 彼女はネバーランド号事件で家族を失い生活は激変した。

 ムーンシーカーであることで周りから偏見の目に晒されるようになったが幸か不幸か、彼女もまた他のムーンシーカーの例にもれず、感情が欠落していたので他人にどう思われようとあまり気にならなかった。

 ムーンシーカーと認定されたことで国から生活補助が支給され、両親の生命保険もおり仕事しなくても生きていけた。

 あらゆるものに興味を失った彼女にとって毎日は同じ事の繰り返しだった。


 しかし、昨年東京で起きたテロの時、彼女は偶然現場に居合わせ、革命家を名乗る男と出会ったことで彼女に変化が起きた。

 革命家を名乗る男は当初キタノアイナを殺すつもりだった。

 キタノアイナはその男とは初対面で殺される理由はわからなかったが、生への執着がなかったので特に抵抗しなかった。

 だが、男は彼女がムーンシーカーであると知ると考えを変え、言葉巧みに仲間に誘ってきた。

 男の言葉は魅力的に聞こえた。何事にも関心を失っていた自分がそう思った事に驚いた。

 もし、この男に敵対する者達の到着がもう少し遅かったら、男の仲間になっていたかもしれない。

 その男は敵対する組織の自称魔法使いによって倒された。

 生死はわからない。


 その日を境に彼女は何者かの声を聞くようになった。

 最初何処から聞こえてくるのかわからなかったし、言っている事もわからなかったので気にも留めなかった。

 だが、最近になってその声が自分の中から聞こえていることに気づくと言葉もわかるようになった。

 言っている事は単純だった。


 俺を解放しろ


 ただそれだけだ。

 ナニを解放するのか?

 どうすれば解放できるのか?

 言っている言葉がわかっても結局キタノアイナにできる事はなかった。



 今日、彼女が新宿に来たのは月に一度の定期検診があったからだ。月見症候群患者は毎月検査を受けることが義務付けられている。

 いつもなら検査を終えたらそのまままっすく帰宅するのだが、この日は違った。


(ハラガヘッタ)


 そう思ったことに彼女自身違和感を覚えながらもファミレスへ向かった。

 店員はすぐに彼女がムーンシーカーであることに気づいた様で怯えたような態度を見せたが、よくあることなのでまったく気にならなかった。

 キタノアイナは目玉焼きハンバーグセットを頼んだ。

 目玉焼きの食べ方にはこだわりがあった。まず半熟の黄身の中心に箸で穴をあけ、そこに醤油をたらし食べる。

 これはムーンシーカーになる前からの習慣だった。

 だが、運ばれてきた目玉焼きは半熟どころか完全に固まっていた。

 箸で黄身に穴をあけ醤油を垂らしてみたが、当然醤油が黄身に染み込むことはなかった。

 キタノアイナは久しぶりに不機嫌という感情を味わった。



 キタノアイナが新宿地下道を歩いていると男達が絡んできた。

 ムーンシーカーに対して人々がとる態度は大きく二種類だ。

 一つはさっきのファミレスの店員のように関わりを避けようとする者、もう一つはネット流れている噂など信じず、この男達のように絡んでくる者だ。

 彼らはムーンシーカーが感情欠落により言いなりになる者が多いこと知っており、一人でいるムーンシーカーは彼らの絶好のカモだった。

 今回の男達も色々言いがかりをつけてきて金品を奪うつもりだった。

 誰もが関わりも持ちたくないとその場を早足て通り過ぎて行く。

 キタノアイナが黙っていると男は彼女の体をまさぐりはじめた。

 いつもの彼女なら彼らの言いなりだっただろう。

 だが、今日の彼女は違った。


(ハラガヘッタ)


 再び心に聞こえた声。

 それが自分の中にいるもうひとつの存在であることに気づいた。


(……そう、あなたがお腹をすかせていたのね……。いいわ、好きなだけ食べましょう。まずはこの男達ね)


「ぐあーっ!」


 キタノアイナの体を弄っていた男が悲鳴を上げた。

 何事かと男の仲間がその男の腕を見て驚愕する。

 キタノアイナの服を中から引き裂いて現れた黒い触手の様なものが男の腕を貫いていたのだ。


「お、おお…、ごほっ!」


 男は最後まで言葉を発することができなかった。

 更に現れた触手に体を串刺しにされたのだ。

 その体が一瞬で干涸び、砕け、チリと化した。

 キタノアイナの体が黒く変色し、顔がずるりと剥けのっぺらぼうになった。

 キタノアイナはレイマに変態した。



 キタノアイナは標的を通行人に変更し襲い始める。

 その間にもキタノアイナはレイマとして覚醒していく。


 (……そうかぁ、そんな能力があるんだ)


 キタノアイナは全身に真紅の目を生み出すと全方位を視界に捉える。

 不幸にもその目を見てしまった者が、恐怖という鎖に縛られ動きを止める。

 そこへ容赦無く、黒い触手が伸び、体を串刺しにする。


 (なるほどなるほど。こうすればいいのね。でもこれじゃあ、簡単過ぎてつまらないわね……そうだ、今度はこれにしましょう!)


 キタノアイナは新たに得た力を発動させた。

 それは<領域>だった。


 (さあ、生死をかけた鬼ごっこよ!逃げて逃げてね!逃げないと殺しちゃうわよ!正義の味方さん、いたら早くきてね!早く来ないとみんな死んじゃうわよ!)


 キタノアイナ、いやレイマは<領域>で狩を始めた。


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