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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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65話 ダンジョンズ&ねこちゃんず5

 先頭を歩く新田さんのスピードが速くなった。体の震えも大きくなった気がする。

 ドアがあっても目もくれず階段を探して進む。


「せりすん、トイレだいじょーぶ?無理してなあい?」

「心配してくれてありがとう、ぷーこちゃん、全然大丈夫よ!」

「無理しなくていいからね。ちいとの目隠しは任せて!」

「……」


 ……最低だな、ぷーこ。

 新田さん、本当に大丈夫なのか?

 ……まさか、「ぷーこに屈するくらいならここでしてやるわ!」なんて事になったりしないよな?

 考え過ぎだと思いたいが、新田さん負けず嫌いだからな。

 確かにぷーこに頭を下げるのは屈辱だが、モニタ監視されてる中で用を足すよりはマシだ。

 その時はそれでいいかもしれないが後で絶対後悔する。一生残る傷になると思う。


「ちいとはまた役立たずだったわね」

「うるせえ!」


 もともと勝つ気なんかなかったんだよ!知ってて言ってるだろ!


「みーちゃんばっかりに戦わせないで自分で戦ったらどうだ⁉︎」

「何言ってんのよ、姫を守るのが騎士の役目でしょ。ねー、みーちゃん!」


 ぷーこの言葉にみーちゃんが同意するように「みゃあ!」と鳴いた。


「私、早くこの子の本当の名前を知りたいわ」


 新田さんは大丈夫アピールのつもりで話に加わったのだろうが、表情は硬いし、声は震えてるし、体はもぞもぞしているしで、かえって「もう限界が近いです」と言っているようなものだ。

「本当に大丈夫か?」と心配してもムキになって否定するに違いない。ここは気づかない振りをすべきだろうな。


「まだレベル三だからな。今日中は無理だろうな」

「しょうがないじゃない。足手まといがいるから。ねっ、ちいと!」

「ムカつくが事実だ。ここは素直に認めよう。俺は大人だからな」

「痛い痛い!何が大人よ!」

「おお、悪いな。俺は素直に受け入れてたんだが、クララは納得していなかったみたいだ。困った奴だぜ」

「何がクララよ!左腕は関係ないでしょ!」


 俺はぷーこが振り回す腕を避けた。


「む、確かに。ぷーこは賢いな」

「あ、そのセリフってアレ?」

「ん?アレって?」

「な、なんでもない!忘れて!」


 もしかして今の言葉は漫画かアニメで有名なセリフだったのか?

 まあ、深く追求するのはやめておこう。

 って、新田さん、まだそんな話する余裕があるのか?


「……く、ちいとのくせに……もう許さないわ!パーティ解除よ!」

「何……?」

「みーちゃん、ごー!」


 ぷーこが俺を指差すとみーちゃんが飛びかかってきた。

 みーちゃんの一撃で俺のヒットポイントはゼロになり、天井から悲しい曲が流れる。

 そして空中に"Mission Failed"と大きく表示されたかと思うとダンジョンが消え、元の部屋に戻った。



「俺、みーちゃんに殺されたのか?」

「そうよ、光栄に思いなさい!」

「思うか!」

「ゲーム終わったの⁉︎」

「そうよ、ちいとが死んだからね」

「俺のせいみたいに言うなよ」

「……よかった」


 新田さんの目には安堵の光があった。

 

「お前からゲームを終了させるとは思わなかった」


 新田さんを追い詰めていたことを怒りで忘れたか?

 俺のファインプレーだな!

 と思ったのだが、


「どうせもうすぐ終わりだったからね」

「なに……?」

「このシステムの最大利用時間は二時間なんだけど、あたしの権限で延長してたのよ。再延長は出来ないからこのまま進めてもあと数分で強制終了してたわ。どうせ終わるならちいとのせいで終わらせた方が気分いいじゃん?」

「俺はよくねえけどな」

「ぷーこちゃん、私達の猫ちゃんのレベルはどうなったの?」

「大丈夫。レベルは維持されるわ。猫ちゃん達は雇い主が死んだら、死体に唾を吐いてねこギルドに戻る設定になってるのよ」

「そう、よかった」

「唾吐くとか、そんな設定要らねえだろ!」

「うるさいわね!さあ、お腹すいたからご飯にしましょ」

「お前、一人だけ非常食食ってたじゃないか」

「非常食は別腹よ」

「なんだそりゃ」

「ぷーこちゃん、その前にお手洗い行きたいんだけど」

「どっち?」

「え?」

「大か小か?」

「……それ、言わないといけないの?」

「うん、ちいとが聞けって」

「言ってねえだろ!……って、なんで新田さん睨んでるだよ!ぷーこもバカなこと言ってんじゃねえよ!」



 お手洗いから戻って来る新田さんを見てぷーこが呟く。


「……時間からして間違いなく大ね」


 ぷーこの声が聞こえたのか新田さんがムッとした表情になったように見えた。


「……お前なあ。化粧直しとかだってあるだろ」

「あたしは必要ないわよ」

「お子ちゃまだからだろ」

「する必要がないほど元がいいからよ!」

「はいはい」

「これで一つはっきりしたことがあるわ」

「何だよ?」

「せりすんは美少女じゃないって事よ」

「は?」

「美少女はね、トイレに行かないの。大なんて以ての外よ!」

「そんなわけねえだろ。って言うかそれ、人間じゃねえよ」

「体だって汚れないからお風呂も必要ないのよ!」

「ほう、じゃあ、お前も美少女じゃないな」

「なんでよ⁉︎」

「もう忘れたのか?澄羅道場で会った時、すげー臭かったぞ」

「ちょー失礼ね!臭くなかったわよ!あんた、自分の臭いと勘違いしてんじゃないの⁉︎」

「何だと⁉︎」

「相変わらず仲が良いわね」

「全然」

「いっぱい出た?」

「お陰様で」


 ニッコリ顔のぷーこに笑顔で答える新田さん。


 怖えな、その笑顔。



「ちいと奢りなさいよ!」

「なんで俺を殺した奴に奢らにゃならんのだ?」

「私が奢るわ」


 む……?

 自分を追い詰めた相手になんて寛容な………って、絶対違うな。

 餌付けするつもりだな。きっと。


「流石せりすん!あらゆる意味で太っ腹………痛い痛い!」

「どう言う意味かな?」


 ぷーこのこめかみをグリグリする新田さん。よく見るとひねりを加えているようだ。

 免許皆伝だな。俺はもう何も教えることはない。

 ……教えてねえけど。

 それにしても新田さん、嬉しそうだな。



 俺達は同じ階にある小部屋に移動した。

 広さは六畳程度、内装は長テーブルに椅子が四つ、テーブルの上にタブレットが一台。それだけだ。

 ぷーこがタブレットを手に取り操作する。このタブレットで昼食を注文出来るらしい。

 メニューは豊富で和洋中全て揃ってる。


「そう言えば、ここに来てから誰にも会ってないよな?」

「この階にはあたし達しかいないからね」

「そうなのか?」

「入ったばかりの新人と部外者に会わせるわけないでしょ!秘密が漏れたら大変じゃない」

「それもそうね」

「まあ、お前の言うことは理解出来るがこの中で一番危ないのはお前じゃないのか?」

「失礼ね!あんた、ご飯抜きにするわよ!」

「お前、それが人に奢ってもらう奴の態度か?」

「別にあんたに奢ってもらうわけじゃないでしょ!」

「今まで何度奢ってやったと思ってる⁉」︎

「過去の事をいつまでもしつこくグダグダいうからモテないのよ!」

「ほっとけ!」



 注文してしばらくして、タブレットから呼び出し音が鳴り、ぷーこは料理を取りに部屋から出て行った。


 新田さんと二人きりか。そう思うとちょっと緊張するな。

 この部屋にも監視カメラがあるはずだ……ぱっと見わからないが。だから二人きりと言うのは正しくないか。

 よく考えたらさっきまで美少女二人に囲まれてマンガの主人公みたいだったんだよな。

 だが、さっきの方が緊張しなかったな。

 ……そうか、ぷーこは美少女の前にバカだからだ。

 バカには緊張をほぐしてくれる効果があるんだな。


「進藤君、お祖母様から私達のこと、聞いたんでしょう?」

「え……?ああ」

「……驚いた?」

「まあちょっとな」

「ちょっと、なんだ?」

「慣れてきたんだな。この半年で色々あり過ぎて、だからあやめ様から話を聞いたときも、『ああ、そういう事もあるよな』って」

「そうなんだ……。私は驚いたわ。けど嬉しかった」

「嬉しかった?」

「ええ。私にあの化け物達と戦う力があると知ったから」


 ラグナだよな?新田母がぽろっと口滑らせたから知ってる。やっぱこういう時は聞くべきか?


「力って?」

「秘密。今度機会があれば、ね?」

「……そう、でも危険だぜ?今度は死ぬ、かもしれない」

「それは前からでしょ」

「そりゃそうだな」

「……進藤君には申し訳ないと思っているの」

「腕のことか?」

「それもあるけど、進藤君がこちら側、普通の生活を諦めることになった原因は私にあるのよね?全部じゃないかもしれないけど、ゼロじゃないことも確かだわ」

「そう、だな」


 確かに最初に戦闘に巻き込まれたのは新田さんを助けるためだった。

 だが、元はと言えば俺がにゃっくと出会ったからだ。

 あの時、にゃっくを無視したらどうなっていたのだろうか?

 今ここにいることはなかったかもしれない。

 だが、それであの事件が起こらなかった訳じゃない。

 殺人鬼の事もそうだ。

 俺が関わらなくてもいずれ組織が始末しただろう。

 だが、それまでに何人の犠牲者を出しただろうか?

 俺の知り合いだって被害に遭っていたかもしれない。


「……俺はこの道に進んだことに後悔はない。これからも後悔しない、とまでは言い切れないけどな。それにまだ普通の生活を諦めたわけじゃない。大学だってちゃんと卒業するつもりだしな」

「……そうね。私もそう。あ、そうだ!」

「ん?」


 新田さんがポケットから取り出したのは、"聞いてミルンデス"だった。


「返すの遅くなってごめんなさい」

「いや、俺もすっかり忘れてた」

「私、もう必要ないから」


 それはつまり、普通に霊が見えるようになったということか。


 俺は聞いてミルンデスをポケットに突っ込んだ。



「話は変わるんだけど」

「ん?」

「進藤君、外堀埋めてない?」

「え?何の事だ?」

「……別に。ただ、最近お祖母様が『ひ孫はいつ抱けるんだ?』って」


 そう言って、新田さんは俺を睨む。ちょっと頬が赤い。

 あやめ様と会った時の言葉が蘇る。


「いや、それは大きな誤解だ!俺は何もしてない!言ってない!」

「……ふうん」


 何ですか、新田さん、その表情は?


「いや本当に……」


 と、ドアが豪快に開いてお盆を持ったぷーこが現れた。


「お待たせー!待ちきれなくて交尾始めてないでしょうね!」

「するか!アホ!」


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