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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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64話 ダンジョンズ&ねこちゃんず4

 俺のバディ猫と新田さんのバディ猫がぴょんぴょん飛び跳ねた後、キメ顔?でポーズを決める。


「猫ちゃん、レベルアップしたの⁉︎」

「たぶん」


 俺がバディ猫に触れて確認するとレベル二になっていた。

 どうやら経験値は個人ではなくパーティに均等に割り振られる設定になっているようだ。

 でなければ俺のバディ猫のレベルが上がるわけがない。情けない事に俺はまだ一匹も倒してないんだからな。


「……ち、設定変えとくの忘れてた」


 ぷーこがボソッとつぶやくのが聞こえた。下手なこと言って今から設定変えられても困るので聞こえなかった事にする。



 新田さんのヒットポイントが回復するまで休憩する事になった。

 新田さんは肩で息をしており、ヒットポイントが減ってなくても休憩は必要だった。

 俺達はその場に腰を下ろした。地面は見た目は岩でゴツゴツしているが、感触はそうでもない。


「ホントに一人で倒すとは思わなかったわ。あたしを驚かせるなんて……やるわね、せりすん」

「何好敵手を見るような目で見てんだよ。お前は澄羅道場での訓練サボりまくってたって、新田さんのお母さんから聞いたぞ。比較するだけ失礼だろ」

「うっさいわね!」

「え?ぷーこちゃん、澄羅道場で訓練したことあるの?全然知らなかったわ。もしかして会ったことあったのかな?」

「ふ……昔よ。遠い昔」

「嘘つけ!今、こいつ、離れに棲み着いてるんだ」

「そうなんだ」

「こら!勝手に人のプライベートをペラペラ喋るな!」

「お前にだけは言われたくねえ」

「まあまあ」


「しかし、本当によく勝てたよな」

「最初はびっくりしたけど、動きは熊に似てたしパターンがわかればどうってことないわ。次は無傷で勝つわ!」

「そうなんだ………って、いやいや!動きが熊に似てたって相手は熊だぜ!そんな事……」

「『熊殺しのせりすん』の二つ名は伊達じゃなかったってわけね!」

「呼ばれてないから」

「もしかして本当に熊と戦ったことあるのか?」

「もう!進藤君まで。別にいつも戦ってたわけじゃないからね!」

「戦ったことは否定しないんだな……」


 冗談のつもりだったんだが……。

 新田さんはあやめ様とどんな特訓してたんだ⁉︎


「進藤君だってすごかったわ。どうして敵の作戦がわかったの?」

「ああ、あれは『ここどこ戦記』に載ってたんだ」

「ここどこ戦記?」

「新田さんは知らない?月刊グフップ、だったかな、に連載しているマンガなんだけど。あっ、今は休載してるんだっけかな?」

「え?マンガにあの魔物出てるの⁉︎」

「驚くのは無理ないよな。俺も最初信じられなかったんだが、このマンガには向こうの世界の魔物が出てくるんだ。能力も結構詳しく書かれてる」

「それって組織が関係してるの?ぷーこちゃん」

「あたしは知らない」

「本当か?オタクのお前が知らないなんて」

「失礼ね!そんなつまらないマンガ知らないわよ!」

「なんだ、やっぱり知ってるんじゃないか」

「そのマンガつまらないの?」

「ああ。すげーつまらん。俺は資料と割り切って読んだ」

「そうなんだ。でも役には立つのよね。これ終わったら探してみるわ」

「貸すよ」

「え、でも……」

「これ何処にも売ってないんだ。増版もしてないみたいだし、ネットとかでも探したんだけど見つけられなくて、俺は皇にもらったんだ。前のイベントの手伝いの報酬として」


 本当は皇は貸すだけと言っていたが、俺に返す気がないから俺のものと言っても過言ではない。

 だから人に貸すのも問題はないよな!


「じゃあ、今度貸してね」

「ああ。なんならこの後取りに来てもいいぜ」

「そうね、時間があったらそうしようかな」

「……こうしてせりすんはちいとの仕掛けた罠にまんまとハマり、ぱっくり食べられたのだった。お間抜けなせりすん……イタイイタイ!」

「誰がお間抜けですって?」

「嘘です!罠と知ってて喜んでついて行ったんです!……ってイタイイタイいたい!頭に穴があくよぉ!」


 なんでこいつはひどい方へ言い直すかなぁ。

 あ、バカだからか。


「……まったく」


 新田さんが頭グリグリをやめると、ぷーこは涙目でその場にうずくまった。


「仲良いな。姉妹みたいだ」

「……」


 あ、機嫌悪くしたか?

 話を変えるか。


「次からだけど俺も戦うよ」

「あんたごときじゃ、十秒ももたないわよ!」


 おお、もう復活したのか、ぷーこ。

 それ程痛くなかったのか、もう頭グリグリは耐性ができたのか?

 新しい技を開発する必要があるか………って今はそんなことどうでもいい。


「別にマクーと戦いたいわけじゃない。あれの相手をするのは無理だってわかる」

「ビッグマウスなら勝てる?すっごい苦戦してたけど?」

「俺だってただ見てたわけじゃねえ。ビッグマウスなら次は一人で倒してやるさ。それに逃げてばかりじゃここに来た意味がない」

「でも進藤君が学んだのって護身術がほとんどでしょう?相手に触れられないここじゃ難しいと思うわ。だから私に任せて。今まで守ってもらってばかりだったから今度は私が守るわ」

「いや、気持ちは嬉しいけど……」

「あんた程度の力で戦うって片腹痛いわ!あんたはね、ザコに成り下がった初期のライバルのように『な、なにー⁉︎』とか『こ、これはまさか⁉︎』とか隅っこで解説でもしてればいいのよ!」

「何だとっ⁉︎」

「ぐふふ。守ってもらうって、まるであんた、お姫様みたいね……って姫はあたしよ!」

「うるせえ、黙れ!」

「何ですって⁉︎」

「お前が口を挟むと話が進まねぇ」

「……どうやら身の程ってやつを教えてあげる必要がありそうね」

「奇遇だな。俺もお前に教えてやらねえと、と思ってたところだ」

「仲がいいわね。兄妹みたい」

「さっきの仕返しか?こんな出来の悪い妹いらねえ!」

「こんなケチな兄なんかいらないわよ!」

「本当に仲良いわね」

「だから違うって……」

「ところでぷーこちゃん」

「なによ?」

「その、お手洗いはどこかな?あ、べ、別に今すぐってわけじゃないんだけど……」


 俺はぷーこが一瞬悪党顔になったのを見逃さなかった。


「ないわよ」

「え……?」

「モンスターがお行儀よくトイレで用を足すとでも思ってるの?自分達を退治する冒険者のために用意をするとでも?」

「そ、それはそうだけど」

「我慢できないなら、そっちの角で済ませれば?ちいとは見張っとくから」

「覗かねえよ!」

「で、でもここ、あの部屋よね?」

「大丈夫。掃除するのあたしじゃないし」

「……」

「心配性ね。ちゃんとちいとは見張ってるわよ」

「覗かねえって言ってんだろ!っていうかそういうことじゃねえだろ!」

「……さあ、そろそろ行きましょうか」

「しないんだ?」

「だから念のために聞いただけだから」

「ちいと、全然信用されてないわね!」

「そういう問題じゃねえって言ってるだろ!」

「監視モニターもあるから安心よ」

「……」


 ダメだ、こいつ。


「新田さん、まだ緑に変わってないんじゃないか?」

「体力は回復したから大丈夫。もう攻撃食らわないし」

「いいじゃん。せりすんがいいなら出発よ!」


 ぷーこは先を歩き始めた。



 俺達は地下三階にきていた。

 地下一階以外でも稀にだがビッグマウスは出現し、俺はここに来るまでに二匹のビッグマウスを仕留めていた。

 ビッグマウスの行動パターンは読めてきたので一対一ならもう負ける気はしない。

 ビッグマウスの攻撃を食らうこともあったが一発あたりのダメージは大したことはなく、癒し猫によって回復するので問題ない。



「大分戦いに慣れて来た気がするな」

「そうね……」


 新田さんが小刻みに震えている。

 いや、まあ何となく理由はわかる。

 そろそろ限界に近づいているんだろう。

 もしこれがぷーこ自身なら間違いなくゲームを中断しただろう。

 勝てるチャンスがあれば誰であろうとどんな手を使っても勝つ。

 それがぷーこだ。


 ……最低だな、こいつ。


 どうやらトイレに行くためにはこのゲームを終了するしかないようだ。

 俺はスマホを取り出して時間を確認した。

 午後一時を過ぎたところだ。

 開始時間をはっきり覚えていないが二時間は過ぎているはずだ。


 意地汚いぷーこを心変わりさせるにはちょうどいい時間だな。

 胃袋一本釣り作戦と行くか。


 先を歩くぷーこに優しく声をかける。


「なあ、ぷーこ。腹減らないか?」

「……ふぉへ?」

「お前何言って……って何一人で食ってんだよ⁉︎」

「(もぐもぐ)冒険に出るのに非常食の一つや二つ持って来るのが当然でしょ」

「こいつ……」

「あげないわよ!」

「要らねえよ!」


 くそっ!

 まさか胃袋一本釣り作戦が失敗するとは……。


 こうなると残るは地下十階に到達するか、誰かが死んでゲームオーバーになるかだが、まだ地下三階だぜ、さすがに地下十階まで新田さんはもたないだろう。

 新田さんは意地っ張りだから自分から死ぬことはしないだろうし、ぷーこは間違いなくパラメーターにズルをしているから魔物にやられることはないだろう。


 新田さんは平静を装ってるつもりかもしれないが見てるこっちが辛い。

 普通ならこんなところで用を足すとは考えられないが、追い込まれた人間はどんな行動をするかわからない。


 もし、ぷーこに頭を下げるくらいなら、なんて考えになったら……新田さん、結構無茶するからなあ。


 ……やっぱ俺が死んでゲームを終わらせるしかないな。


 そんな事を考えているとちょうど目の前に魔物が現れた。

 俺は魔物に向かって突撃した。

 新田さんは俺の意図を読み取ったのだろう。俺を止めようとはしなかった。

 魔物の名はグラバッハとかいう名前だったと思う。能力は思い出せない。

 見た目はゴリラに近いが、その両腕の太さが尋常じゃない。胴体ほどの太さがあるんだ。

 俺の今の実力じゃ真剣に戦っても勝てるはずもなく、パンチ一発で即死だろう。攻撃を防御しただけでも死ぬかもしれない。

 案の定、俺の素人に毛が生えた程度の蹴りはその太い腕に防がれる。

 実際にはグラバッハの体をすり抜けるのだが、俺のヒットポイントが減り、デバイスのモニタが黄色に変わった。

 グラバッハの丸太のような太い腕が俺に向かって振り下ろされる。


 終わったな。


 だが、その一撃を間一髪で飛び込んできたみーちゃんが受け止める。


「せりすん!あたしが助けなかったらちいと死んでたわよ!守るんでしょ!自分の言葉には責任持ちなさいよ!」


 ニヤニヤ顔のぷーこ。


「そ、そうね、ごめんなさい」

「お前が責任とか言うな!」


 新田さんが戦闘に参加する。

 新田さんの攻撃は自棄っぱちに見えたが、みーちゃんがうまくフォローする。


「あ、そうだ、"自棄っぱち"って言葉あるでしょ?あれはね、昔、にゃん八って名前の皇帝猫がいたのよ。この子は自分の力を過信し過ぎてね……」


 ぷーこが一人アホ話をしている間に新田さんとみーちゃんの連携でグラバッハは倒された。



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