表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
70/247

63話 ダンジョンズ&ねこちゃんず3

「あ、ドアがあるわ!」

 

 新田さんの指差す先、前方右手の壁にドアが見えた。

 ダンジョンに入ってからしばらく経つが下へおりる階段は見つからず、遭遇する魔物といえばビッグマウスだけという単調さに退屈しかけていた新田さんは嬉しそうだ。


「調べるわよね?」

「魔物が潜んでいるんじゃないか?さっさと先に進んだ方がいいと思うぜ」


 俺の意見が気に入らなかったことは二人の顔を見ればわかる。


「あんた、よくそれで冒険者になったわね?」

「なってねえ」

「こんな体験滅多にできないんだから楽しまないと」

「いや、だからこれ……まあいいや。じゃあ入ってみるか」

「最初からそう言いなさいよ!いるのよねぇ、いちいち文句言わないと気が済まない奴!」

「なんだと⁉︎」

「まあまあ、じゃあ開けるわよ」

「え、ちょっと待って、せりすん……‼︎」


 ぷーこの制止は間に合わず、新田さんはドアを開けた。

 すると、中から魔物が飛び出して来た。

 またもビッグマウスだった。


 新田さんは飛び出して来たビッグマウスを鉄拳一発で仕留めると「ふふふっ」と嬉しそうに一人中に突入した。


「ちょ、ちょっと新田さん!」

「しょうがないわねぇ……みーちゃん、ごー!」


 みーちゃんが新田さんに続いて中に突入する。

 俺と俺のバディ猫、そしてぷーこは外で待機だ。

 あ、新田さんのバディ猫もいるな。

 新田さんのバディ猫は前足をぺろぺろ舐めると毛繕いを始めた。

 俺のバディ猫は大きなあくびをして丸まる。


 こんなとこまでプログラミングしてんだな。



「終わったわよ!」


 部屋の中は戦闘によるものかテーブルや椅子が倒れていた。

 部屋の奥、すっきり顔の新田さんの足元に大きな箱があった。


「それ宝箱?」

「そうみたい。開けてみるね!」

「ストップ!せりすん!」

「何?」

「あのねえ、せりすん、興奮するのはわかるけどちょっと落ち着きなさいよ。トラップがあるかもしれないでしょ?」

「あ、そうね。ごめんなさい」


「ぷーこに諭されるなんて一生の不覚だぞ」と言いたいところだが、何もしていない俺はぐっと我慢した。


って、これじゃあいつもと同じじゃないか!

おかしいなぁ、こうならないために組織に入ったはずなんだが………。


「ぷーこちゃん、トラップ調べるスキルとか持ってるの?」

「そんなものないわ。こういうのは冒険猫に任せるのよ」

「冒険猫?」

「あ、そうか、あんた達の中に冒険猫いなかったわね」

「そういうクラスがあるのね?」

「そうよっ。冒険猫がいればトラップ解除の他に自分の現在地も調べることができるのよっ」

「それは便利ね」


 新田さんをバディ猫が悲しそうな顔で見つめながら鳴いた。


「あ、別にあなたに不満があるわけじゃないからね!」


 新田さんがバディ猫の頭を撫でると嬉しそうな声で鳴いた。


「で、これはどうするんだ?俺達の中にトラップ調べる奴いないんだろ?」

「何言ってんのよ。あんたの出番じゃない」

「は?」

「あんた、ばか?」

「何だと!」

「進藤君、落ち着いて。進藤君のバディ猫は癒やし猫だから万が一トラップに引っかかっても回復できるって言いたいんでしょ?ぷーこちゃん」

「そゆこと」


 ムカつくが、確かにその通りだ。

 俺は左手で宝箱に触れてみる。何かに触れたという感覚はあった。

 宝箱に鍵はかかっておらず簡単にひらいた。

 幸いにもトラップはなかった。


 まあ、ゲームだったら地下一階からトラップはないか。


「……ベルト?」

「首輪かしら?」

「こ、これは……!」

「何大げさに驚いてんだよ。これが何だかわかるのか?」

「見ての通りよ。バディ猫用の装備よ」

「ほう。さっき装備は実装してないって言ってなかったか?」

「猫ちゃん用はあるのね?」

「当然でしょ!」

「何が当然なのか俺にはよくわからんが……」


 俺が首輪に手で触れてみるとアイテムの名前が表示された。


「癒しの首輪?」

「癒しの首輪はね、装備すると回復のアビリティがつくのよ」

「つまり俺の癒し猫と同じアビリティってことか?」

「まあね。でもバディ猫はレベルが上がると回復量も上がるけど、このアイテムは固定よ。回復量もそれほど高くない。これはせりすんが持つべきね」

「え?でも……」

「いいのよ。みーちゃんは"トロの首輪"を装備済みだし、ちいとの猫はもとから回復持ちだし」

「そうだな。新田さんの猫は回復能力ないし、何より敵倒したのは新田さんだしな」

「みーちゃんも倒したけどね!」

「はいはい」


 新田さんが首輪を取る動作をすると『バディ猫に装備させますか?』と表示され、その下に"はい"と"いいえ"のボタンが現れた。

 新田さんが"はい"を選ぶと首輪が消え、次の瞬間には新田さんのバディ猫に装備されていた。

 装備した時の動きなのか、くるっと一回転してキメ顔?を新田さんに向ける。


「似合ってるわよ、ナナシちゃん!」


 新田さんのバディ猫は嬉しそうに尻尾をブンブン振った。



 その後、更に二部屋発見したが、中にはビッグマウスがいるのみだった。

 冒険……もとい、訓練開始から二時間程経った頃、やっと二階へおりる階段を見つけた。

 本当に階段をおりている感覚があった。

 俺達がこの部屋に入る前に渡されたものといえば腕につけるデバイスだけだ。

 このデバイスに五感に影響を与える仕掛けがあるのか、あるいは部屋自体に仕掛けがあるのか。


 考えてもわかるわけないし、ぷーこに聞くのも癪だから今度アヴリルに聞いてみよう。

 ……そういや、最近アヴリル見かけねえな。



 地下二階で新たな魔物が登場した。

 その名はマクー。

 こいつもここどこ戦記で出てきた魔物でその姿は熊に似ている。

 ここどこ戦記では召喚された主人公達に瞬殺されて弱いイメージがあるが、並みの冒険者には強敵だ、という説明があったことを思い出した。

 俺達の前に現れたのは一頭。

 マクーが唸り声を上げながら立ち上がり俺達を威嚇する。


「……二メートルは超えるわね」


 新田さんは相変わらず恐怖を感じていないようで、自ら前に進み出る。


「この程度の雑魚はせりすんだけで十分ね」


 ぷーこがつぶやくと新田さんの体がピクッと反応し、ちらっとこちらを見た。


 決して大きな声じゃなかったが聞こえたようだ。


 新田さんが先に動いた。

 マクーが迫る新田さんに剛腕を振り下ろす。

 それを華麗にかわすと、腹に拳を打ち込んだ。

 ビッグマウスならこれで消滅していたところだが、マクーは反撃してきた。

 新田さんは反撃を想定していなかったようで攻撃を避ける事が出来ず受け身をとる。

 マクーの実体のない腕が新田さんの体をすり抜けた。

 素早くマクーとの距離を取った新田さんの表情にさっきまでの余裕はない。


「新田さん⁉︎」

「……モニタが黄色に変わっちゃった」


 今の一撃で半分削られたってことかよ⁉︎

 一階おりただけで魔物の強さ極端じゃないぞ!

 だが、その前に納得いかな事がある!


「ぷーこ!今の攻撃は受け流したんじゃないのか⁉︎」

「そんな事VRに期待しないでよね。魔物の攻撃は基本受けちゃダメなのよ。あんたは知ってると思ったけど?」

「そ、それはそうだが、マクーには特殊な能力はないだろ!」

「なんでそう言い切れるの?」

「そ、それは……」


 確かに俺が遭遇した顔取りは本来とは違う能力を持っていた。

 悔しいがぷーこの方が正しい。


 新田さんの攻撃はマクーに効いてはいるようだが致命傷をなかなか与えられない。

 もう一撃食らったら終わりとわかってるから、思い切った攻撃ができないようだ。


「新田さん!俺が囮になるからその隙に……」

「いらない!」

「でも……」

「お願い、一人でやらせて!」


 マクーから目を離さずそう叫ぶ新田さん。

 俺は思わずぷーこを見た。


「あんたは一発で死ぬわよ?」

「それは俺のヒットポイントが新田さんの半分もないってことかよ⁉︎」

「さあ?」


 いやらしい笑みを浮かべるぷーこ。

 どんだけ俺弱い設定なんだ。

 ……こいつ、俺のパラメータいじったんじゃないだろうな?

 それとも新田さんがそれほど強いのか?

 ……あれ?

 確か新田さんはラグナを使えるようになったはずだよな。なんで使わないんだ?使えば楽に勝てるだろうに。

 もしかしてラグナの設定がないのか?


「おい、ぷー……」


 いや待て。

 使う気なら新田さんが真っ先に聞くはずだ。そうしないのはラグナを使う気がないからだ。あるいは使えることを知られたくないか。

 ……そういえば新田母に、黙ってて、って言われてたんだ。

 もう少しで新田母との約束を破るところだったぜ。危ない危ない。


「ちいと、なんか言いかけなかった?」

「あ……いや、お前は加勢しないのかよ?」

「せりすん、望んでないし」


 口ではそういうものの、心配してるようで足元ではみーちゃんがいつでも助けに入れるようにスタンバイしていた。


「新田さん。気をつけろよ!」

「ありがと!絶対に勝つから!」


 新田さんは着実にマクーにダメージを与えていく。それはマクーの動きが鈍くなっていることからわかる。


「……どうやら勝てそうね」

「そうだな……」

「なに?悔しい?」

「いや、そうだな、それもあるが……」

「何よ?」

「何か忘れてるような気がするんだ」

「?」


 ……ん?

 そういやこいつ、もう状況不利だとわかってるはずだ。

 なぜ逃げない?

 そういうパターンがない……?


「……そうだ!」

「びっくりした!いきなり大声あげないでよね!」

「マクーは獲物を挟撃するんだ!」

「え……?あー!みーちゃん!」


 ぷーこの叫びに反応し、みーちゃんが高くジャンプする。

 みーちゃんを目で追った俺は天井に釘付けになった。

 俺の丁度真上の天井にマクーが張り付いていたのだ。

 マクーが俺に向かって襲いかかろうとするが、それより前にみーちゃんの皇帝拳が炸裂し、マクーは四散した。


 ほぼ同時に新田さんがマクーを倒した。


 ちゃっちゃっちゃーん!


 どこからかロールプレイングゲームでレベルアップした時に流れるような音がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ