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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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62話 ダンジョンズ&ねこちゃんず2

 リーダー気取りのぷーこの足元にはみーちゃんがいる。

 新田さんの足元にも子猫がいる。こいつは皇帝猫じゃない。ただの猫だ。

 で、俺の足元にも子猫がいる。こいつもただの猫だ。

 ……いや、ここにただの猫など存在しないんだったな。


 言うまでもないことだが、この猫達は猫ギルドで雇ったのだ。

 だだし、俺と新田さんは自分で選んだ猫じゃない。

 一度雇えば次から指名で出来るらしいが、俺と新田さんは初めてだったので、あのおやじが選んだのだ。俺達に拒否権はなかった。


 猫達にはクラスが設定されており、俺のバディ猫のクラスは”癒し猫”だった。

 名前はナナシでレベルは一。

 ナナシは”名無し”で本当の名前ではない。

 レベルが十になって初めて一人前と認められ、本当の名前を名乗れるとのことだ。

 レベルは普通のロールプレイングゲームのように敵を倒して経験値を稼いでレベルアップするらしい。

 ただし、経験値を稼ぐのは猫ではなく、俺達雇い主だ。

 癒やし猫のアビリティは回復で、毎分ヒットポイントを少しずつ回復してくれる。


 その他の能力値は表示されないのでわからないが、それは猫達だけのことではない。

 俺達の能力値は本人データをもとに設定されているらしいが、ヒットポイントを含めその値を知らないし、知る方法もない。

 ここで能力測定をしていないので俺のデータは澄羅道場での訓練結果をもとにしたのだろう。


 新田さんのバディ猫のクラスは”戦猫”。

 名前は同じくナナシでレベルは一。

 同じ名前で紛らわしいと思うかもしれないが、バディ猫に命令できるのは雇い主だけだから特に問題はない。

 アビリティは雇い主の攻撃力をアップさせるというものだ。


 ぷーこの猫はさっき言ってしまったが、みーちゃんだ。

 ぷーこは何度もプレイしており指名が可能で、当然のようにみーちゃんを指名した。

 これもヴァーチャルリアリティで作られたものだ。本物は今頃、俺の可愛い妹と一緒にお昼寝をしているんじゃないか。

 クラスは当然皇帝猫でレベルはMaxだった。

 アビリティはおそらく実際の皇帝猫と同じ能力を持っているのだろう。

 それはそれとして、みーちゃんがぷーこに甘える姿は違和感を覚える。


 現実とのギャップが大きいな。ぷーこが可哀想な子に見えるな。

 ああ、見えるじゃなくて実際に可哀想な子だったな。


「……あれ?この猫ちゃん、進藤君の家にいた子に似てるわね」


 あ、しまった!


「ふふふ!ついに動かぬ証拠を手にしたわ!」

「そうか?」

「え?どういうこと?」

「ちいとはね、私からみーちゃんを奪っといて知らないって言い張ってたのよ!」

「え……?あ、ごめんなさい!」

「いや、別にいいよ。でも誤解のないように言っとくとみーちゃんはぷーこに愛想を尽かして出て行ったんだ」

「ああ、それ、なんとなくわかる気がする」

「信じてもらえてよかった」

「ふん、勝手に言ってなさい!みーちゃんが冬眠から目覚めたら迎えに行くからご飯用意して待ってなさいよ!」

「誰がするか」

「感謝してあげるわ、せりすん。私の仕掛けたトラップに見事に引っかかってくれて」

「嘘つけ」

「……」

「ゆるいのはあそこだけじゃなかった………って、痛い痛い!」

「……」


 無言でぷーこのこめかみをグリグリする新田さん。

 ぷーこが悲鳴を上げる中、新田さんは俺に笑顔を向ける。


「こんな感じ?」

「……グッジョブ」

「何がグッジョブよー!痛い痛い!ま、間違ってました!ゆるいのはあそこだけです!って、痛い痛い痛いぃー!さっきより痛いってー‼︎」


 ……何故、悪い方に訂正した?

 言うまでもないか。

 バカだからな。


「……ふふふ。ほんとしょうがない子ね」


 笑顔でグリグリし続ける新田さんにちょっぴり恐怖を覚えた。



 俺達の目の前にはダンジョンが口をぽっかりとあけて待ち構えていた。


「準備はいい?」

「私はOKよ」

「……なんでこんな事してんだろう?」

「ちいと!」

「……あ、ああ。っていうか、ちいと言うな」


 俺達はあるビルの地下の一室にいるはずだったが、とてもそうは思えないほどこのダンジョンの完成度は高かった。

 ダンジョンは岩場をくりぬいた洞窟で両側の壁に蝋燭の火が灯っており、十メール先くらいまではどうにか見ることができた。逆にいえばそれより先は暗くてよく見えない。真っ平らの床を歩いているはずなのに岩の凸凹を足の裏に感じる。多分この雰囲気のせいでそう感じるのだろう。


 本当によくできてるな。本物のダンジョンにいるみたいだぜ。

 ……本物なんて入ったことないけどな。


 試しに壁に手を触れてみる。本来はそこには何もないはずだが、手に何かに触れた気がした。


 ということは足の裏の感触も気のせいじゃないってことか?

 すげえな、組織の技術力。

 そしてそれを遊びで使ってしまう、ぷーこ。

 ……こいつ、ただのバカじゃないってことなのか?


「なあ、今更だけどよ、場所がダンジョンっておかしくないか?」

「これでいいよ!」

「理由を言えよ。納得できる理由をよ。俺達がダンジョンで戦うことなんてまずありえないだろ?」

「リーダーの言うことは絶対なのよ!以上!」

「なんだと!」

「進藤君、いいじゃない。これはこれで楽しそうだわ」


 新田さんは自分の隣をちょこちょこ歩いてついてくる子猫を愛しそうに見つめている。


「いや、楽しそうって……俺達、ここに遊びにきたんじゃないんだぜ?」

「しっ!敵よ!」


 ぷーこが立ち止まった。俺も立ち止まり、目を凝らしてじっと前を見つめるが、暗くてよくわからない。


「新田さん、見える?俺は見えないんだが……」

「私も……あ」


 新田さんの表情が変わった。俺の目にも前方で何かが動いているのが見えた。


「ビッグマウスね」


 ビッグマウス。この名前には聞き覚えがある。そう、確か「ここどこ戦記」に出てきた魔物だ。

 ここどこ戦記の中では雑魚だったし、ここはまだダンジョンの入口付近だ。大したことはない敵だろう。攻撃は確か、噛み付くと引っ掻くだけだったよな。毒はないはずだ。


 ビッグマウスは三匹だった。

 俺達が知るネズミよりはるかに大きく、俺の膝くらいまでの高さがありそうだ。


「ちょうどいいわね。一匹ずつ片付けましょ」


 ぷーこはそう言うと仁王立ちになる。とても戦う体制には見えない。


「みーちゃん、ごー!」


 ぷーこの号令にみーちゃんが走り出し、ジャンプ一番猫パンチをビッグマウスに叩き込む。ビッグマウスは断末魔の叫びを上げて四散した。

 当然ながらそこに死体は残らない。


「みーちゃん、すごいわね。じゃあ、私も。ナナシちゃん、ゴー!」


 しかし、新田さんのバディ猫は身をぷるぷる震わせるだけでその場を動こうとしない。


「ダメよ、せりすん。信頼度が足りないから言うことは聞かないわよ」

「あ、そうなんだ」

「お前だけずるいな!」

「何言ってんのよ!これはあんた達の訓練なのよ!猫ちゃんに戦わせてどうするのよ!」

「こ、この野郎!言ってることは正論だがムカつくな!自分はいいのかよ⁉︎」

「いいのよ!私はあんた達の監督してるだけなんだから!」

「な、」

「ぷーこちゃんの言うとおりね。じゃあ、行ってみる」


 新田さんが残り二匹へ近づいていく。その動きに緊張や恐怖はまったく感じない。

 顔取りとの戦いとは大違いだ。

 それがあやめ様との特訓でついた自信からくるのか、ヴァーチャルとわかっているからなのか、俺にはわからない。

 一匹が新田さんの横をすり抜け俺に向かってくる。


「こいつらは雑魚を狙ってくるからね」

「誰が雑魚だ!いいさ、やってやるぜ!澄羅道場での成果を見せてやるぜ!」


 出現する魔物はいうまでもなく仮想現実で作られたものなので攻撃を受けても実際にダメージを負うことはないが、攻撃を食らう度にヒットポイントが減っていきゼロになったら死亡となる。

 今回のミッションでは一人でも死亡したらその時点でミッションは失敗となる設定だった。



「進藤君、大丈夫?」

「……ありがとう、新田さん。助かったよ」


 ビッグマウスとの戦闘で俺はヒットポイントを半分くらい削られたようだ。

 ヒットポイントの正確な値は知る事が出来ないが、腕につけたデバイスのモニターの色で大まかには確認することができる。通常はグリーンで表示されているが五十パーセント付近にくると表示がイエローに変わり、十パーセントを切るとレッドに変わる仕様だ。

 つまり、今の俺はイエロー表示に変わっているのだ。

 ちなみに戦闘していないぷーこがグリーンなのは当然として、俺の分のビッグマウスも倒した新田さんもグリーンのままだった。


「あんた、口だけだったわね。ああ、あんたもビッグマウスだったのね!」

「うるせえ!」


 くっそー、ぷーこのくせにうまいこといいやがる。


 俺が澄羅道場で学んだことはほとんど護身術で、それも対人用だったので、ビッグマウス相手では勝手が違い過ぎた。


 だが、悔やんでばかりでもしょうがない。この失敗を教訓にしないとな。

 ゲームと思ってバカにしてたけど、役に立つことあるじゃないか。


 回復アイテムは持っていないが、幸いにも俺のバディ猫は癒やし猫なので放っておいてもヒットポイントは少しずつ回復していく。


 俺のバディ猫が癒し猫でよかったぜ。


 俺のデバイスモニタがグリーンに変わるまで休憩することになった。


「なあ、装備を揃えるために一旦戻らないか?」

「何言ってんのよ、そんなの実装してな……必要ないわ!」

「今実装してないって言ったよな?」

「気のせいよ!」

「いや、確かに言ったぞ」

「待って進藤君。仮にあったとしても現実には剣とか持って歩けないでしょ?」

「ナイス!せりすん!」


 あれ?新田さんはぷーこ側なのか?


「いや、だけど、これ、もうゲーム……」

「違うわよ!これは実戦に限りなく近い訓練よ!」

「だったらバディシステムもダメだろ!」

「それはいいのよ!」

「うん。かわいいしね」

「いや、かわいいは関係ない……」

「うっさいわねー。気が向いたら実装しとくわよ。それでいいでしょ!」

「ちょっと待て、その言い方だとまるでこのゲーム、お前が作ったみたいじゃないか」

「何言ってんのよ、みたいじゃないわよ」

「いつもの嘘だよな?」

「そんなことはどうでもいいのよ!」

「そうね、私、早く続きがしたいわ!」

「「ね!」」


 あれー?おかしいのは俺なのか?

 それに、何故この二人は意気投合してるんだ?


「バンバン進んで魔王を倒すわよ!」

「えっ?魔王がいるの?」

「当然!ラスボスは魔王に決まってるんじゃん!」

「それ、楽しみ!」

「でしょ⁈」

「いやいや、それ、当初の目的と違ってるぞ!」


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