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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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53話 気になる客

 その客達は俺がシフトに入る少し前に来店したようだった。

 三人組で高校生らしき男女とそのどちらかの妹のように見えた。


「かわいいよな」

「ロリコン」

「アホか!そっちじゃねえ。将来楽しみではあるがな」

「お前は何様だ」

「くそっ、今日バイトが早く上がれたらなぁ」


 更衣室に向かう途中でバイト仲間のそんな話し声が聞こえた。


 いやいや、あと数時間、いや何日あっても何も起こらねえよ。


 そもそも店内でナンパなど禁止だし、禁止でなくても客に声かける奴なんてこの店にはいない。

 精々バイトの子に声をかける程度だ。

 ちなみにスタッフ内の恋愛は業務に支障を来すという理由で禁止になっているが、あくまでも建て前だ。つきあってる奴もいる。


「それはそれとしてよ、連れの男、なんかちょっと不気味だよな」

「どこが?」

「なんとなく、その、動きが機械的っていうか」

「あ、それ俺も思った」

「実はムーンシーカーだったりしてな」


 バイト仲間の話を聞きながらこっそりその少年を観察した。確かに動きにどこか不自然なものを感じた。具体的にどこが?と聞かれても答えにくいのだが。


 その席の呼び出し鈴が鳴った。

 美少女には興味があってもムーンシーカー?には近づきたくないらしく、皆躊躇する。

 ムーンシーカーは不思議な力を使う、という噂のせいだ。


 ムーンシーカーは人除けに使えるんだな。

 ……ん?


 ホールスタッフの視線が俺に集中していた。


 はいはい、わかったよ。


 何故か面倒そうな客は俺が相手をする事になる。

 俺は注文を取りに向かいながらその客達を観察する。


 まず皆が噂していた女子高生らしき美少女。近くで見ると一段と綺麗だった。

 最近、美人との遭遇率が各段にアップした気がする。あるいは俺が周りに目を配るようになったのか。


 次に男子高校生らしき少年。

 ムーンシーカーかどうかはその目を見ればわかると思っていた。

 ほとんどのムーンシーカーは目に生気が感じられず、まるでガラス玉で出来ているような印象を受けるのだ。

 もちろん、例外はあるぜ。


 だが、この少年は長い前髪で目が隠れており、この判断方法は使えなかった。


 ムーンシーカーだとわからないように目を隠しているのか?

 にしてもだ。それじゃ前見えないんじゃないか?

 ということでムーンシーカーかどうかは保留になった。


 最後に小学生らしき少女。恐らくどちらかの妹だろう。

 俺はこの子を見た瞬間、恐怖を感じた。

 何故かって?

 とても可愛いのだ。

 いや、勘違いするなよ!

 俺はロリコンじゃないぞ!

 もし、この子がもう少し遅く生まれていたら俺の可愛い妹の最強のライバルになっていたかもしれない。

 この俺にそう思わせるほど可愛かったのだ。



「お待たせ致しました。ご注文をお伺い致します」

「うむ、なのよぉ」


 どっちかの妹だろう、少女が一生懸命大人ぶっている姿は中々微笑ましかった。思わず顔が緩むのを必死で抑えた。

 が、

 次に少年が発した言葉が俺を驚かせた。

 言葉には感情が籠もっておらず、棒読みだったことで、この少年がムーンシーカーだと確信した。

 俺が驚いたのは少年がムーンシーカーだったことではなく、その内容だ。


「姉さんは牛肉コロッケとハンバーグセットでいいか?」

「うむ、なのよぉ!ごはんはおおもりなのよぉ。ドリンクバーもなのよぉ!」


 は?

 なんでその子が返事する?

 妹じゃなく姉?


「先輩は?」

「私は……」

「みずなのよぉ」

「はいはい。伊織ちゃんはいい子だから静かにしててね」

「ゆきゆきはしつれいのよぉ!ねんちょうしゃにむかってのたいどじゃないのよぉ!」

「姉さんの言う通りだ。失礼だぞ、ゆきゆき」

「失礼はあなた達よ!ゆきゆき言うなって言ってるでしょ!」


 ……ちょっと待て。

 今の話をまとめると一番幼い、妹だと思ってた子が一番年上だと?

 なんだそりゃ!

 

 ……ああ、これは、あれだな。

 ごっこ遊びだな。妹の我が儘に兄がつきあってるのだろう。

 というよりムーンシーカーは、自分の意志がないと聞いたことがあるからいいなりになってるだけかもしれないな。

 あ、でも美少女、ゆきゆきに対してはなんとなくだが反発する意志を感じるぞ。


「聞いてる?」

「あ、すみません」


 やっべえー。話聞き入っちゃったぜ。


「ーーで、ご注文は以上でよろしいですか?」


「うむなのよぉ。おおいそぎでたのむのよぉ」

「かしこまりました」



 喉が渇いたため紅茶を一口飲んだ。


「中々興味深いね。確かに最近、進藤は美女によく会うよね。つかさちゃんとか」

「続けるぞ」

「え、スルー?」


 当たり前だ。放っておくと恥バナを話し始めかねないからな。



 この伊織ちゃん、何故か俺もちゃん付けで呼んでしまうな、は更に驚かせた。

 ものすごく食うんだ。

 女の子としての恥じらいがあるのか、食べ終わった食器を自分の前から遠ざける。

 ゆきゆきの方へ。


「そんな事したら私が食べたみたいじゃない」


 もぐもぐ。


「そうだな。俺も先輩が食べたのを見た気がする」


 その言葉に伊織ちゃんが口をもぐもぐさせながら大きく頷く。


 って、今、どうやって意思疎通したんだよ?


「バカなことばっかり言ってると大和君に伊織ちゃんの悪い癖が移るわよ」

「……」


 ほう、この少年は大和というのか。

 名前と苗字のどっちもあるよな。まあどっちでもいいけど。


 次に発したゆきゆきの言葉がまたしても俺を驚かした。


「それにね、伊織ちゃん!あなた、来年は高校三年生なのよ!それでいいと思ってるの⁉︎」


 もぐもぐ。


「姉さんには考えがあるそうだ」

「どんなよっ⁉︎」


 もぐもく。


「秘密だそうだ」


 ……えーと、

 姉っていうのは設定じゃなかったのか?

 本当にこの子、高校生⁉︎

 

 

 視線を感じた。

 そちらに目を向けると、ゆきゆきが俺を見ていた。


 やっべー、つい聞き入ってしまったぜ。


 俺は止まっていた手を動かし、聞いていなかった振りをしてテーブルの食器を片付ける。


 大和は伊織ちゃんのためによく動いた。ドリンクバーのお代わり、追加注文などなど。

 ゆきゆきはそれを不機嫌そうな顔で見ていた。



 そして会計のときだ。

 当然ならがらまたも俺の出番になった。


「合計で一万五千六百四十円になります」


 料理の大半は伊織ちゃんが一人で食べたものだ。


「わりかんなのよぉ」

「わかった」

「何言ってるの?」

「割り勘とは自分が食べた分を払うのではなく、」

「知ってるわよ!」


 リアクションで驚きを示す伊織ちゃんと大和。


 どちらもわざとらしかったが、大和の動きはどこか機械的な感じがした。


「……バカにしてるでしょ」

「ともだちでごはんをたべたときはかならずわりかんなのよぉ。じょうしきなのよぉ」

「聞いたことないわね」

「姉さん、先輩は友達がいないんだ」


 何故だろう?

 棒読みだったはずなのにどこか哀れみを感じたぞ。


「あ、そうだったのよぉ」

「失礼ね!大和君にだけは言われたくないわよ!」


 美人は友達が少ないのか?

 新田さん、ついでに皇嫁も少なそうだよな。


「……いいわよ、もう、割り勘で」

「端数は俺が出すから一人五千円」


 ゆきゆきはぶつぶつ言いながらも財布を取り出した。


「しずちゃん、おねえちゃん、おさいふわすれたのよぉ。たてかえてほしいのよぉ」

「わかった」

「ちょっと待ちなさい!さっき買い物してたじゃない!財布がないわけないでしょ!」

「ゆきゆきはこまかいのよぉ、もうおかねないのよぉ。しずちゃん、たてかえてほしいのよぉ」

「わかった」

「だから待ちなさい!大和君、そうやっていつもたかられてるでしょ!︎今までに返してもらったことある⁉︎」

「ちょーしつれいなのよぉ!ゆきゆき、ちょーしつれいなのよぉ!しゅっせばらいするのよぉ!」

「そうだな。ゆきゆきは失礼だな」

「大和くんのために言ってあげたんでしょ!このオウム弟が!」

「じゃあ、先輩、七千五百円で」

「はあ?なんでそうなるのよ?」

「万が一、姉さんが返せなかった時のリスク回避で」

「意味わかんないんだけど?私はすでに割り勘の時点で伊織ちゃんの分を出してるのよ!」

「先輩はやさしいな」

「本気で言ってないわよね?」


 む?

 ゆきゆきはムーンシーカーの感情を読めるのか?

 って、感情読めない俺でもそう思うな。


「よろしくたのむのよぉ」

「全然感謝の気持ちを感じないんだけど!」

「さすが先輩だな」

「さすがゆきゆきなのよぉ」

「……ったく」


 結局、ゆきゆきはぶつぶつ言いながら七千五百円出した。


 もしかして、ゆきゆきは大和しずちゃん、この少年が好きなのか?

 それとも何か弱みを握られているのか?

 ……いや、単にこの不毛な言い争いに疲れたのかもな。


「しずちゃん、おんぶ」

「わかった」


 大和は伊織ちゃんをおんぶして店を出て行った。

 高校二年生の姉を弟がおんぶしている姿に違和感はまったくなかった。



「ーーとまあ、そんな感じだ」

「いやあ、なかなか興味深かったね。特にその子供高校生、僕も見たかったなぁ。漫画とかでは小学生くらいの姿の高校生や大人が登場したりするけど実際にいるんだね。進藤は運がいいね」

「運がいいのか?よくわからんが」


 皇は今の話で何かいいアイデアが閃いたらしい。

 俺はこの後用事があるといって一緒に帰るのを断り、一人残った。

 紅茶を飲む。


「すっかり冷えちまったな。でも美味い」


 この話で俺は皇に言わなかったことがある。

 話している途中でゆきゆきにアヴリルや葉山先生と似たものを感じたことを思い出したんだ。

 魔法使い?になったからか、今の俺はそれが何かわかる。

 ゆきゆきは魔法使いだ。

 俺と同じS13に所属しているのかはわからない。

 なんでもS13に敵対する勢力があり、その中にも魔法使いがいるそうだからな。

 ゆきゆきが敵でないことを祈るのみだ。


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