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番外1 ある殺人鬼の告白

 俺は必死に逃げ回る女の後を追っていた。

 その女を知っているわけではない。


 人気のない公園。

 そこでその女に会った。


「汚らしい」


 そう聞こえた。

 確かに俺は最近風呂に入っていない。

 だが、ほんの一ヶ月程度だ。

 ん?これは長いのか?

 自分の匂いを嗅いでみる。

 ……わからない。

 まあそんなことはどうでもいい。

 この女を見た瞬間、


 殺したい。


 そう思った。

 だから実行することにした。


 俺は歩いて追いかけていた。逃げても無駄なのだ。

 ここはもうただの公園ではない。

 俺が作り出した<領域>なのだ。

 だから叫ぼうが誰も来ない。

 ここには俺とあの女しかいないのだから。


 女は見えない壁に突き当たった。

 この状況が理解できないのだろう。

 怯えた表情で必死に助けを呼ぶ。

 無駄だと理解し俺に酷いことを言ってごめんなさい、と許しを請う。

 残念でした。

 俺は別にお前の言葉に怒ってはいない。ただ殺したいんだ。

 諦めてくれ。


 俺はあのネバーランド号事件の犠牲者だ。

 気がつくと俺はベッドの上だった。

 俺は自分の名前が思い出せなかった。

 俺の親戚という者から名前を知らされたが、実感がわかなかった。

 退院し元の生活とやらに戻ったが、本当に俺は以前こんな仕事をしていたのだろうか。

 何もかもわからない。

 最初こそ皆親切だったが徐々に俺に不満をぶちまけるようになった。


 月見衝動を起こす俺を皆が奇異な目で見た。


 まあ別段そのことになんの感情も持たなかったが、月数回、月見症候群の経過観察のために通院を強要されるのが面倒だった。

 数ヶ月ほどして俺は以前の生活とやらを捨てた。


 最初に殺したのは俺を追ってきた病院関係者だったと思う。

 俺のことを知っていたからな。

 俺はそいつのことを知らなかった。いや、もしかしたら面識があったのかもしれないが俺は人の顔を覚えられないのだ。

 男女、大人、子供くらいはわかるが、同年代ならもう見分けがつかなかった。

 これも後遺症なのかもしれない。

 だから目撃者がいたら必ずその場で殺した。そうしないと二度と見つけれないからな。


 巷では俺のことを現代の切り裂きジャックと呼んでいるようだ。

 俺は意識したことはない。切り裂きジャックとやらのことを調べたが、犯行がそれほど似ているとも思わない。

 俺は女だけでなく男も殺してきた。

 ニュースで流れている人数よりもっと俺は殺している。

 たまたま殺した奴のうち発見されたのが女だった、あるいは別の犯人と思われたようだ。それまで殺し方を統一してなかったからだろう。

 だが望むならなってやろうじゃないか。現代の切り裂きジャックに。


 俺は比較的軽症で医者には運が良かったと言われたが、今俺に切り裂かれている女にしてみれば俺が生きていたことは運が悪かったのだろう。

 恐怖の表情を残したまま絶命した女を見下ろしながら俺は自分の手を見た。

 俺の手はナイフのような形状に変化している。

 凶器が何か判明していないのは当然だ。俺の体の一部なのだから。

 切り刻んだあとだが手に血は付いていない。当然服にも血は飛び散っていない。

 血は全てこの手が吸い取っている。

 血こそが今の俺の食料だった。

 ナイフ状の手をもとに戻した。


 この体を変化させる能力は退院してからしばらくして気付いた。

 いわゆるムーンシーカーの能力ってやつだ。

 さっきの<領域>もそうだ。

 これは俺が名付けたのだが、この能力を使った瞬間、そう頭に浮かんだ。

 だから名付けたというより、これが<領域>というものだと知っていた、というのが正しいのだろう。

 どこから来た知識なのかなんてのはどうでもいい。使えればそれでいい。

 すべてのムーンシーカーが俺と同じ力を持っているわけじゃないはずだ。

 もしそうならもっと殺人事件が起きているはずだ。


 俺が特別なのだ!


 俺の殺人衝動は突然起こる。

 俺の中に何かが棲んでおりそれが俺に命令している。最近そう感じるようになった。

 最初は指しか変化させられなかったが、今はやろうと思えば腕全体を刃に変形させることができる。

 力が上がれば上がるほど俺の人間としての部分、心、肉体共に無くなっていくような気がする。

 だが、

 それがどうしたというのだ。

 今の俺にはそんなことはどうでもいい。


 女の財布から札を数枚抜き取り、その場を離れると<領域>を解除した。

 さあ、騒ぐがいい!

 また切り裂きジャックが現れたぞ!


 さてどうするか。

 まず風呂に入るか。

 違うな、代えの服を手に入れるのが先かな。


 がさっ。

 公園の茂みが揺れた。

 何かいる。

 ……猫か。

 俺は走り去る猫を見送ると駅ビルへ向かって歩き出した。


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