52話 容疑者たち?
冬休みが終わり、久しぶりの大学だ。
今日から一週間講義の後、後期試験が始まり、二月から三月いっぱいまで冬休みとなる。
もしかしたらこれが最後の春休みになるかもしれないな。
俺は大学が始まる前にもう一度葉山医院で検査を受けていた。
もちろん、前もってクララへの魔粒子供給はオフにしてだ。
アヴリルも立ち会い、今回は魔法ではなく、組織が開発したという魔粒子測定装置を使用した。
結果、俺の魔粒子保有量はDランクの魔法使い程度であることが判明した。
魔法使いのランクは上位順にS、A、B、C、Dとあり、俺は最下位ということだ。
最下位と言っても一般人と比べ魔粒子保有量は数倍以上の差があるらしい。
突然、魔粒子保有量が増えることはないそうなので、やはり俺は何者かの力によって魔法使いにされたようだ。
こういう場合って、漫画とかだったらもっとランク上にするもんだよな?
SやAとは言わないが、せめて中間のBランク位にして欲しかったぜ。
って言ったらアヴリルに生意気よ!、と怒られた。
何でもほとんどの魔法使いはCランク止まりらしい。
最も、今の俺は魔法を一つも持ってないんだがら魔粒子保有量だけ高くても仕方がないんだが。
っていうか、魔法使いにするっていうなら魔法もつけろよな!
これじゃあ、バッテリー持ってるけどスマホ持ってない、みたいなものじゃないか?
……まったく。
そうそう、にゃっくも診てもらったんだが、予想より回復が早いらしい。
これは俺の魔粒子を吸収しているからだと考えている。
その証拠に最近では毎日のように俺の布団の中に入ってきていたのに、クララをハイブリッドモードで装着して寝たときは布団に入ってこなかったんだ。
あと、みーちゃんだが、ついに休眠に入ってしまい、今では俺の可愛い妹の縫いぐるみと化している。
俺の可愛い妹は無理に起こそうとはしないので今のままでも問題ないと思うが、にゃっくが元気になったらみーちゃんと交代するつもりだ。
午前中の講義が終わり、俺と皇が学食で日替わりランチ(三百五十円)を食べていると、新田さんが女友達と一緒にに入って来るのが見えた。
新田さんと会うはあの日以来だ。
あの日、無事家に帰れたかメールを送り、その返信を貰ったきりだった。
何話していいかわからないんだよな。
うちの母親が余計な事するからな!
新田さんもこちらに気づいたので、お互い会釈する。
皇も新田さんに気づいたようだ。
「その後どう?」
皇の言うその後とは新田さんとの事だろう。
曖昧な質問なのは誰に聞かれるかわからないからだ。新田さんは人気者だからな。
内心はどうあれ、付き合っているのは間違いないから、他の奴らに知られたらちょっとした騒ぎになり、俺は不特定多数の者に恨みを買うことになるだろう。
「別に。普通かな」
「そうなんだ」
「お前んとこは順調なのか?」
「うん、その事なんだけどさ。ちょっとね」
「オメデタか?」
「違うよ」
「じゃあ、離婚か?」
「両極端だね。違うよ。それでね、ちょっと相談があるんだ。今日講義終わってから時間ないかな?」
「いいぜ。俺も話があったんだ」
そう、俺も皇に確認、もとい、尋問しなくてはならないことがあったのだ。
講義を終えると俺達は喫茶店、青い宝石へ向かった。
全般的に値段はちょっと高いが内装も雰囲気も気に入っている。何よりここは俺が属している組織、S13(セクション・サーティーン)の息のかかった店だから、大事な話をするのに向いている。
え?アヴリルの姿をした侵入者のことはいいのかって?
アレは人がどうこうできる存在じゃない、天災のようなものだ、と俺の直感が告げているんだ。
なら、何処にいようと同じだからアレのことは考えない事にしてる。
「……へえ、感じのいいの店だね。駅前にこんな店があったんだ。よく知ってたね。あ、新田さんに?」
「んなわけあるか。たまたま見つけたんだよ」
「そうなんだ」
俺達は各々注文をした。
さあ、さっそく尋問を始めようか、容疑者、皇零!
「まず俺からでいいよな?」
「どうぞ」
「母さんから聞いたんだが、おまえ、俺の妹の名前知ってたんだってな?それをずっと黙ってた。いや、隠しても無駄だぞ、聞いた時、その場には新田さんもいたんだ。否認するなら新田さんを証人として呼ぶからな」
「証人て……僕、容疑者みたいだね。別に否認なんてしないよ。別に隠してるつもりはなかったんだけど、進藤が知られたくなさそうだったから、言わなかっただけだよ」
「事実だと認めるんだな?」
「うん、まあ……進藤、ちょっと目が怖いよ」
「それはお前にやましい気持ちがあるからじゃないか?」
「絶対違うと思うよ。あ、かわいい名前だよね、ななみちゃ、」
「名前を安易に出すんじゃない!誰かに聞かれたらどうするんだ!」
俺は周囲を警戒するが、幸い辺りに俺達以外の客はいない。
「進藤、進藤、不審者……」
「何⁉︎どこだ⁉︎」
「いや、進藤の動きが不審者みたいだって」
「なんだと?」
「落ち着いてよ。妹ちゃんの名前は別にパスワードでも何でもないんだから。ここに本人もいないんだし」
「甘すぎだな、皇」
「え?」
なんでこう俺の周りには、不用心な奴ばかりなんだ?
「いいか、皇。もし、この話を聞いている奴がいたらどうするんだ?『その世界一可愛い妹とやらを一度見てやろうか』と思う奴もいるだろう」
「そうかな?っていうかいつ世界……」
「いるんだよ!」
「あれ、確定になったの?」
「でだ、俺はまあ、尾行されたとしても気づくと思うが、皇、お前はきっと尾行されても気づかず、そいつは俺の可愛い妹を見てしまう訳だ!」
「ちょっと、声大きいよ、進藤」
「そうしたらどうするつもりだ?ん?どう責任取るんだ、皇!」
「ちょっと、ちょっと、なんかもう僕が付けられたみたいになってるよ。仮定の話でしょ。落ち着いて」
「む、……確かに。ちょっと俺らしくなかったな」
「いや、ともて進藤らしかったよ」
「ともかくだ、俺が確認したいことはひとつだ。妹の名前を知ってることを俺に隠していたのは、将来、自分に息子ができたとき嫁にする為の布石ではないんだな?何か企んでのことじゃないんだな?間違いないな?」
「違うよ。ってこの話何度目かな?」
「そろそろボロが出るんじゃないか?」
「はあ。僕って信用されてないんだね」
「お前というか、生まれてくる子供をだ」
「困ったもんだよ」
「とりあえず、今回はこれで許してやるよ」
「ありがとう、っていうべきなのかな?」
「あくまでも今回は、だからな」
「はいはい。あ、でも安心したよ。新田さんと順調みたいだね」
「なんのことだ?」
「だって、お母さんに紹介したんでしょ?」
「……さあな。次はお前の話だぞ」
「あれ?違うの?」
「いいから、さっさと話せよ」
「……うん、じゃあ、なんかね、僕の部屋、盗撮か、盗聴されてるんじゃないかって、つかさちゃんが言うんだ。その、進藤に」
「……は?何だって?」
「いや、僕は信じてないんだけど、一応確認しようかと」
「お前の嫁にも困ったもんだな。大体俺はお前ん家に行ったことないだろ。場所だって知らん。なんでそんな話になったんだ?」
「はっきり言わないんだよね。だから進藤、なにか心当たりないかなって」
「そんなものあるわけ……」
ん?……待てよ。
「進藤?」
「もしかしてこれか?」
俺は皇に以前皇嫁に送ったメールを見せる。
『昨晩はお楽しみでしたね』ってあれだ。
「送り狼するな、とかうるさかったからな」
「……うん、きっとこれだね、騒ぎ出した日もこのくらいだった気がする」
「そうか、本当にお楽しみだったんだな。適当に書いたのに」
「あ、あははは」
「ま、夫婦なんだし。別におかしくないだろ」
「まあそうなんだけどね、ほら、僕達結婚したけど、まだ一緒に暮らしてないじゃないか。だからあまり夫婦っていう実感がないんだよね。どっちかというと恋人って感じのままなんだよね」
「ああ、そうだったな」
「今度部屋探そうかって話はしてるんだけど」
「お前んとこ金持ちなのか?それとも嫁の方が」
「普通じゃないかな」
「じゃあ、家賃はどうするんだ?お前バイトしてたっけ?」
「今はしてないけど、試験が終わったら春休みはずっとバイトする予定なんだ。そのあともバイトはするつもりだけど、親からもちょっと援助してもらうつもり」
「そうか」
「あ、それでね、もう一つ、進藤に話があったんだ。これはお願いなんだけど」
「断る」
「まだ何も言ってないよね?」
「売り子も、コスプレもやらん」
「違うよ」
「じゃあ、何だよ?」
「ほら、進藤っていろんなバイトやってたよね?」
「ファミレスなら辞るぞ。っていうか辞めたと言ってもいいかな」
「え?そうなの?」
「今月いっぱいの予定だが、もうシフトには入ってない。試験勉強とかもあるから行く時間ないしな」
「じゃあ、春休みは?」
「ちょっと用事があるんだ」
「……そうなんだ。うん、次があるよ」
何が次なんだ?
……ああ、もしかしてさっきの態度で勘違いさせたか?
オレが新田さんに振られたショックでバイトを辞めたとでも思ったのか?
仮に振られたとしても俺には可愛い妹がいるんだぞ。
だが、訂正するのも面倒だ。気づかなかったことにしよう。
「何言ってるかわよくわからんが、それで?バイトを紹介して欲しいのか?」
「違うよ。バイトはもう決まってるんだ。実はね、僕、出版社に漫画の持ち込みを何度かやっててね。そのツテで、漫画家のアシスタントもやったことがあって、今度の春休みもすることになってるんだ」
「ほう」
これか。新田さんが皇嫁から聞いた皇の怪しいバイト。
「それじゃあなんだよ?」
「うん、この春休みはそれ以外に新作を描いてまた持ち込みをしようと思ってるんだけど、話がまったく浮かばなくてね。それと僕の描くキャラは個性が弱いらしいんだ。だから誰か参考になりそうな人が現実にいたりしないかなぁ、って思ったんだ」
「俺は至って普通だぞ」
「まあ、それは置いといて、今までバイトしてて面白い客とか、話なんか聞かなかったかなぁ、と」
「何で置いとく?」
「さすがに友達はね、後で恨まれそうだし」
「お前、何か勘違いしてるようだな。俺はちょっとシスコンの至って普通のどこにでもいる大学生だぞ」
「いやあ、ははは」
「なんだその笑いは?」
「まあまあ、で、どうかな?」
「そんなのネット漁ればいくらでも出てくるだろ?」
「それも考えたけど、下手したら盗作になっちゃうかなって。それにほら、実際の話を聞けた方がいいアイデアが浮かびそうだしさ。進藤って変な友達多いでしょ?」
「お前とか、お前の嫁とかな」
「いやいや」
「じゃあ、恥を自慢げに話すバカ夫婦の話を……」
「チェンジで」
「……お前」
「あ、違うから!そういう店、行ったことないから!知識があるだけだから!つかさちゃんに変なこと言わないでね!」
「そういうことにしておこう」
「ほんとだよ!」
「わかったわかった」
「頼むよ、つかさちゃん、ああ見えて嫉妬深いんだから」
「ああ見えて、ってなんだよ?俺には最初からそう見えてたぞ」
「それはいいから。で、何かないかな?」
「ーー仕方ないな。じゃあ、そうだな、」
俺は以前出会ったおかしな客の話をする事にした。




