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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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49話 雪の日にて

 俺が目を開けた瞬間、目の前に新田さんの顔があった。


「あ、」


 俺から素早く離れる新田さん。


「あの、朝ご飯出来てるから!」


 そう言って俺の返事を待たず部屋を出て行った。


 ……なんだ?

 ん?


 俺の布団の中で俺の可愛い妹がみーちゃんを抱いて寝ていた。

 バスケットの中で寝ていたはずのにゃっくもいた。

 恐らく早く起きた新田さんがまだ寝ていた俺の可愛い妹達を俺の布団に移したのだろうが、なんでにゃっくまで連れて来た?


「……んん?」


 俺の可愛い妹がもそもそと動き出した。

 時間を確認すると七時を少し過ぎたところだった。


「起こしちゃったか。まだ寝てていいんだぞ」

「……んー、ちいちゃんは起きるの?」

「ああ」

「じゃあ、あたしも起きる」

「そうか、じゃあちょっと待ってな。準備するから」

「ん」


 俺は布団から出ると机の引き出しを開け、新田さんに気づかれないようこっそり充電していたクララを装着する。その際、右腕の一部が赤くなっているのに気づいた。


 虫に刺されたか?

 いや、コレは最近見たぞ。そう、アラサー女医にやられたシッペだ。

 ……まさかな。


 机の上から有線ケーブルで充電していたスマホを取るとクララを起動させ、腕が動くのを確認する。

 服を着替えたあと、にゃっくをバスケットに戻し、みーちゃんを抱えた俺の可愛い妹にぽんちょを着せて一緒に下に降りた。


 リビングに入ると朝食が並べられていた。

 ごはんと味噌汁、そして目玉焼きという在り来りの朝食だ。


「七海も起きたの?」

「ん」

「そう、じゃあすぐ準備するから待っててね」

「ん」

「母さん、お客の新田さんをこき使うなよな」

「失礼ね。強制はしてないわよ。新田さんは自分の意志で手伝ってくれたのよ」

「ほんとか?」

「ねえ、新田さん?」

「え?ええ、まあ、ははは……」


 その反応ではっきりした。

 強制ではないが、自主的でもない。

 おそらく「手伝ってくれる?」とでも聞かれたのだろう。

 そう言われたら普通、嫌とは言えないよな。


 ……まさかと思うが、寝てるところを起こして手伝わせたんだじゃないだろうな?

 まだ”陰から応援”は継続中のようだ。


 時折、新田さんが俺に向ける視線が気になった。

 俺が気づくとすぐに視線をそらす。


 見ていたのは右腕?

 やはり俺の腕が治っていないことに気づいてる?


 

 八時を過ぎても電車の復旧の目処は立っていなかった。雪も止んではいなかった。

 俺はバイトを休むことにした。行けないんだからしょうがないよな。


「これはもう今日も泊まっていくしかないわね」

「は、はは……まだ時間ありますから……」

「そうね、ふふふ」

「ははは……」


 お互いに嫌な笑顔で見つめ合う。

 これは俺の可愛い妹の教育に良くない。


「そうだ、新田さん、ちょっといいかな」

「あ、うん」


 俺は新田さんを連れて俺の部屋に戻った。



 俺は母親が付いて来ていないことを確認してドアを閉めた。


「俺、新田さんに聞きたいことがあるんだ」

「私もよ」

「そうだよな。まず俺からでいいか?」

「ええ」


 やっと聞けるぜ。ここまで来るの長かったな。


「新田さんのお母さんは化け物が見えるんだよな?」

「そうみたい。私の家系、母方なんだけど、代々霊感が強くて化け物が見えたんだって」

「その、退治とかもやってたとか?」

「昔はしてたらしいわ。でも私が生まれてからは力が不安定になって引退したんだって。あの日も思うように力が出せなかったって……」

「そうなんだ。その、お母さんは化け物を倒す組織とかに入ってるのかな?昔でもいいんだけど」

「さあ?そこまでは聞かなかったから。今度聞いてみる」

「ああ。もしよかったら俺にも教えてほしい」

「うん。もし、あったら進藤君入りたいの?」

「うーん、まあ、ちょっと考えるかな」


 ほんとはもう別の組織に入ってるんだけど。


「進藤君が武術を学びたいって言ってたのは化け物が関係してたのよね?」

「ああ。知っての通り、ほとんどの化け物は物理攻撃が効かないんだけどね」

「そうなのよね……」

「それでお母さんはなんで今まで新田さんにそのことを話さなかったんだ?」

「私が力を持ってなかったからだって。見えないほうが安全な場合もあるらしいの。そういう話を聞くことで目覚める場合もあるからって。母さんは私には普通の人生を過ごして欲しいって思ってたみたいなの」

「まあ、親ならそう思うか」

「進藤君は化け物のこと、お母さんとかには話してないのよね?」

「ああ。心配させたくないし。さっき新田さんが言ったように下手に話して力に目覚めたりしたら大変だからな。特に妹の可能性は無限大だからな」

「進藤君、危ない目してるわよ」

「失敬な!」



「私もいい?」

「ああ」

「その、進藤君の腕。本当は治ってないのよね?」

「それは……」

「少なくとも感覚はないのよね?私、今朝確認したから」

「確認って、やっぱりあの腫れは新田さんか?」

「ええ。進藤君の腕が折れるのを覚悟で思いっきりシッペしたわ」

「……なんだって?」

「でも進藤君は起きなかった。……あっちは起きてたけど」

「なんだって?」

「な、なんでもないわ!」


 この人、寝ている俺に何したんだ?


「そ、そんなことより!」

「いや、今の話はそんなことで済まされるようなもんじゃ……」

「そ、ん、な、こ、と、よ、り!腕は治ってないのよね⁈︎」


 ……ふう。しょうがないな。


「ああ。感覚はない。腕の方はたまに動かなくなる」


 ほんとはクララがないとまったく動かないんだが。


「……」

「まあ、動くんだからそのうち良くなるんじゃないか」

「更に悪化する可能性もあるわよね?」

「じゃあ、やっぱり俺の右腕になってくれる?」


 新田さんは顔を赤くして、


「……考えておくわ」


 とだけ言った。

 どうやら今日から「俺の右腕」になってくれる気はないようだ。

 いや、まあ、はい、と返事されてもちょっと困ったけどな。


「もう一ついい?」

「ああ」

「……私が化け物と遭遇したのはアレが最初じゃないわよね?」

「……それは俺にはわからないけど……」

「集団記憶喪失事件のことよ。あれも化け物が起こしたことでしょ?巻き込まれた私を進藤君が助けてくれた。そうなんでしょ?」

「……記憶があるのか?」

「最近、それらしい夢を見るの。最初はただの夢だと思ったわ。でも何度も同じ夢を見るうち、実際に会ったことじゃないかしら、って思うようになったわ。そしてあの化け物と遭遇して、やっぱり実際に起こったことなんだって確信したわ……違う?」

「ああ。そうだ。化け物と戦ったのは俺じゃないけどな」

「やっぱりあれは本当だったんだ……」

「あまり深く考えないほうがいい。もう済んだことだ」

「でも!私、あの黒い化け物が人を……」

「だから考えないほうがいい!」

「……」


 強引にでも話題を変えるか。


「そうだ、なんでにゃっくをわざわざバスケットから出したんだ?」

「……え?にゃっくちゃんは最初から一緒に寝てたわよ。だからてっきり進藤君が寂しくて自分で連れて来たんだと思ってたわ」

「そんなバカな」

「そんな嘘ついてもしょうがないじゃない」

「そうだよな」


 じゃあ、にゃっくが自分の意志で?

 寂しかったとか?

 ありえんな。

 孤高の戦士にゃっくの行動とは思えない。

 じゃあ、母さんが?

 それも変だよな。

 うーん、謎だ。


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