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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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48話 お泊まり

 結局、新田さんはうちに泊まる事になった。

 新田さんが家に連絡を入れた直後、俺のスマホに脅迫電話がかかってきた。


『娘に何かあったら殺す』


 うむ、

 もし一線を越えてたら『手遅れですよ、お義父さん』と言えたな。

 ……その後、死んでたかもしれんが。


 ちなみにどうでもいい事だが、俺の父親は帰宅するのを諦め、会社に泊まる事にしたらしい。



「新田さん、ご飯作るの手伝ってくれるかしら?」

「あ、はい」

「今のうちに"我が家の味"を覚えておけば後で楽よ」

「あ、はは……」

「冗談よ。ふふふ」


 母さん、目が笑ってねえぞ。


「七海ちゃん、離してくれるかな?お母さんの手伝いしたいの」

「ん!」


 俺の可愛い妹はあっさりと新田さんから離れた。

 これには流石に俺も驚いた。

 新田さんが俺に不審な目を向ける。


 俺が仕組んだとでも思ったのか?

 冗談じゃないぜ。

 俺は俺の可愛い妹を救出、じゃなくて引き離そうとしてたじゃないか!


 解放された俺の可愛い妹が向かった先は俺ではなく、寝ているみーちゃんだった。

 抱き上げ、よしよし、と頭を撫でる。

 みーちゃんが不満そうに見えたのは気のせいだろう。


「七海」


 俺が呼ぶと俺の可愛い妹は俺に駆け寄り、ちょこんと俺の膝の上に座った。


「よし、救出成功だ!ミッションコンプリート!」


 あ、思わず声に出ちまった。


 直後、冷たい視線を台所の方から感じた。


「新田さん、どうしたの?」

「なんでもないです」


 ……気のせいだな、うん。


 気のせいだから声のする方を見なかった。


 俺の可愛い妹がそばにいるだけで心が癒される。


 落ち着いて来ると疑問が湧いてきた。

 新田さんのことだ。

 あんな事のあった後だ。いくら引き止められても普通は帰るはずだ。

 俺だったら間違いなく帰ってた。


 一体、新田さんに何が起こったのだろうか?


 ……はっ、そういうことか!


 俺の可愛い妹だ。

 俺の可愛い妹の可愛さは尋常じゃない。

 俺の可愛い妹の可愛さに新田さんは一瞬で心を癒されたんだ。


 種明かしされた手品のようにわかればなんてことはなかったな。

 ……だが、ちょっと待て。これはマズイぞ。

 このことは決して他人に知られてはダメだ。

 悪用されたら大変な事になる。

 

「ちぃにぃ、だいじょうぶ?」


 "ちぃにぃ"とは言うまでもなく俺のことだ。最近、俺の可愛い妹はテレビの影響か、呼び方をいろいろ試しているようだ。他に"ちぃちゃん"、"おにぃ"などと呼ぶ事もある。"にーたん"は呼ばれなくなった。これはちょっと寂しい。


「ん?……ああ、これか」


 頬をさする。まだ消えてないのか。見えんからよくわからんが。

 だが、流石俺の可愛い妹!お前だけだよ、俺の心配してくれるのは!母さんは笑ってやがるし!


「大丈夫だ。やっぱり七海はやさしいな。敵討ちもしてくれたし」

「んん?」


 ああ、秘密にしないとな。

 新田さんに真実を知られたらマズイよな。


「なんでもない」


 しかし、すごい演技力だな。本当に言ってる意味がわからない、って顔だったぞ。

 将来、大女優になれる素質は十分だな。

 させる気ないけど。


 俺は俺の可愛い妹の優しさに感動し思わず頬ずりなんかしてみる。

 ああ、癒されるなぁ。


 どんな事があっても俺は俺の可愛い妹を守るぞ!


 と決意を新たにしたとき、再び台所の方から冷たい視線を感じた。

 今度はさっきの二倍だ。


「あの顔、相手が妹じゃなかったら完全に変質者よ。そう思うでしょ?」

「そうですねぇ、『おまわりさん、ここです!』って状態ですね」

「やっぱり誰かが目を覚ましてあげないと、ねえ?」

「そ、そうですねぇ……」


 ……俺の事じゃないよな、うん。


 確認する必要がないので声のする方を見なかった。



 新田さんの料理の腕は母さんに言わせるとそこそこらしい。

 こういう場合、下手でも誉めるものだよな?

 相当酷かったのか?

 実際、出てきた料理は見る限り新田さん効果は全く現れていない。

 味もいつもと変わらない。

 あ、"我が家の味"が変わったらまずいから、これはこれでいいのか。


 相変わらず俺の可愛い妹がごはんを食べている姿は微笑ましい。

 眠っているみーちゃんにご飯を食べさせている姿も可愛い。

 無理やり口に押し込んでいるように見えるのは気のせいだろう。


 羨ましいぞ、みーちゃん。


「千歳、にやにやしながらご飯食べるのやめなさい。気持ち悪いわ」


 なんだと!



 食事が終わり、食後のデザートを食べ終わった後のことだ。

 あ、いつもデザートが出るわけじゃないぜ。今日はたまたまだ。

 新田さんの分は親父の分だったものだ。

 無駄にならなくてよかったぜ。


「新田さん、年長者からのアドバイスをするわ。千歳、あんたも聞きなさい」

「なんだよ?」

「新田さん、あなたは美人よ」

「え、あ、そんなこと……」

「ちょっと若い頃の私にそっくり」

「そ、そうですか」

「それ、自分を褒めてねえか?」

「黙って聞きなさい」


 じゃあ、突っ込ませるようなこと言うなよ。


「でもね、美人だからと言って、彼氏なんていつでも出来る、なんて思うのは大間違いよ。選り好みしてて行き遅れた、なんて事は珍しくないの」

「は、はあ」

「私の友達にもいるわ。私程ではないけど、そこそこモテた自信過剰な女が」

「それ、本当に友達だったのか?」


 げ、睨まれたよ、はいはい。


「でもね、その子は理想が高過ぎてね、完全に行き遅れ。今じゃ、以前の面影もないわ」


 それ、悪口だよな?そいつ、絶対友達じゃないよな?


「あんたもよ!千歳!」

「何がだよ?」

「妹を大事にするのはいい事よ。でもね、チャンスは何度も訪れないのよ!次があるなんて思わないで、これが最後だと思ってガンバリなさい!いいわね!母さん陰ながら応援するから」


 陰ながら、ね。

 じゃあ、その言葉、新田さんに向かって言うなよな。

 新田さん困ってるぞ。


 実際のところ、俺は新田さんのことをどう思っているのか?

 さっき妹を膝に乗せながら考えていた。

 新田さんのことは好きなのは間違いない。

 俺は他人を命がけで何度も助けるほどお人好しじゃない。

 恋人同士になる事までは考えられてもその先まではまだピンと来ない。


 そもそも新田さんは俺の事をどう思っているんだ?

 さっきの行為は自責の念から来ているようだったしな。



「新田さん、お風呂どうぞ」

「あ、はい」

「あたしもぉ!」


 そう言って、俺の可愛い妹が新田さんにしがみつく。


「じゃあ、俺も」


 って言ったら新田さんに睨まれた。

 別にやましい気持ちで言ったんじゃないぜ。

 此処最近の新田さんは俺の想像を超える突拍子もない行動ばかりしている。

 子供というのは悪いことを真似したがるものだから、万が一にも俺の可愛い妹が真似なんかしたら大変だろ?

 それ以外の理由はないんだ。

 ……ほんとだぜ!


「しょうがないわね……じゃあ、二人で入って来なさい。七海はママと入りましょ」

「ん!」

「……え?」


 どこが陰ながら応援だ!

 思いっきり陽に当たってるぞ!真っ赤に日焼けするほどにな!

 って、いうか、俺の可愛い妹はさっきから母さんの言うこと素直に聞いてるよな。

 ……まさか、今までのことはみんな母さんが仕組んでるんじゃないのか?


 スマホのアラームが鳴った。クララのバッテリー切れが近づいていることを知らせるアラームだ。


 すっかり忘れてたぜ。

 俺の右腕はクララを装備しないと動かない。もし、一緒に入ることになったら流石に装備したままって訳にもいかないだろから動かないことがバレてしまう。

 それを演技だと疑われる可能性もあるが……。


 仕方ない。お互い納得する妥協案を提示するか。


「じゃあ、新田さんと七海で入るといい。俺は脱衣所で待機してる」


 って言ったらまたも睨まれた。


 結局、俺の可愛い妹は母さんと一緒に入る事になった。言うまでもないが俺と新田さんは別々だ。


「もう、新田さん強情なんだから」

「あの、強情とかそう言う問題じゃないと思いますけど」



 新田さんの布団は俺の部屋に敷かれていた。

 客観的に見ても考えられない状況である。

 まだ母さんは"陰からの応援"を続けるようだ。

 ちなみに新田さんが着ている服は俺が寝間着代わりに使っている予備のスウェットだ。

 下着は……わからん。流石に聞けんよな?


「あの、」

「ほら、お泊まり会は、寝る前のお喋りが楽しいんじゃない」

「えーと、そうかもしれないんですけど、それは同性ど……」

「大丈夫よ。七海も一緒だから」


 そう言って母さんは新田さんの言葉を遮り出て行った。

 母さんの言うことは正しい。

 俺が俺の可愛い妹のいる前で教育上よろしくないことをするわけがない。


「何かあったらどうするつもりなのかしら?」


 俺の可愛い妹を抱きながら俺を不審な目で見る新田さん。


「さっきのこと忘れてるのか?」


 最初に迫ってきたのはそっちだろ!と続けたいところだが、妹がいるので我慢した。


 新田さんはぷいと視線を逸らす。


 やはり無かったことにしようとしてるな!

 

 部屋にはみーちゃんとにゃっくも連れて来ている。にゃっくはバスケットの中で眠ったままだ。

 バスケットの中で眠るにゃっくを見て新田さんはほっとしたようだ。

 新田さんがそっとそのでかい頭を撫でるがにゃっくは身動き一つしない。


「新田さん達がベッドの方を使うといいよ」

「え?でも、」

「流石に妹が下で俺がベッドってわけにはいかないだろ?」

「……」


 ん?

 なんで睨まれた?

 なんか間違ったこと言ったか?


「……そうね。じゃあ、七海ちゃん、お兄ちゃんのベッドで寝ましょう」


 俺の可愛い妹は無言で頷いた。

 っていうか、もう半分眠ってるな。


 万が一のため、みーちゃんも新田さん逹の寝るベッドに寝させる事にした。


 みーちゃんがあの状態じゃ、ボディーガードの役目は果たせそうにないか。

 今日は徹夜だな。妹にもしもの事があったらマズイからな。

 俺がベッドの方に顔を向けると新田さんが睨んでいたのでゆっくりと天井に向きを変えた。

 ……頬が痛いのは腫れが引いていないからだな。


 で、

 気づいたら朝だった。


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