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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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47話 妹を救え!

 喉が渇いたな。


 十五分程クララを充電したので一時間位は動くはずだ。

 クララを装着し下に降りた。

 最初は冷蔵庫からジュースだけ取ってすぐに二階に戻るつもりだったが、リビングからの話し声が気になり、ドアを開けるとそこには帰ったはずの新田さんが母とお茶を飲んでいた。

 新田さんは俺を見て一瞬また冷たい目をしたが、すぐ顔を赤くして顔を逸らした。


 しまった!まだ紅葉消えてないじゃないか!


 当然、母も俺の顔についた紅葉に気づいているはずだが何も言わない。

 が、


 微かに頬が緩んだぞ。

 内心笑ってやがるな。

 

 だがそんなことは些細な事だ。


 何故、新田さんは俺の可愛い妹を膝抱っこしているんだ?


 俺は伊達に化け物と戦ってきたわけじゃない。すぐに状況を理解した。


 まさか新田さんがこんな暴挙に出るとは!


「新田さん、落ち着いて。要求は聞く。だからまず妹を解放するんだ」

「……進藤君、私が七海ちゃんを人質に取ってるように見えるの?」

「え?」

「……」


 違うのか?

 確かによく見れば、抱きついているのは俺の可愛い妹の方に見える。認めたくないが。

 って、ちょっと待て!


「新田さん、なんで妹の名前を知ってるんだ⁉︎」

「七海ちゃん?」

「んっ」

「まさか脅して?」

「……」

「って、いうのは冗談で」

「冗談言ってるように見えなかったけど」

「は、ははは、そう?」

「普通に教えてくれたわよ」

「何⁈皇にも教えてないのに……」

「知ってるわよ、皇君」

「……は?」

「最初に遊びに来た時に教えたわよ」

「なん、だと?」


 なんと個人情報保護に疎い母親なんだ!


「隠す事じゃないでしょ。隠せるものでもないし」


 く……、

 しかし、皇はそんなこと一言も言ってなかったぞ!やはり奴は自分に息子が生まれた時に俺の可愛い妹を嫁にしようと企んでやがるな!


「あんた、また変なモードに入ったんじゃないの?」

「なんだよ、それ」


 ともかく、俺は新田さんに素直に謝る事にした。


「ごめん、新田さん、俺の早とちりだったみたいだ。悪かった」

「わかってもらえればいいの……」

「さ、七海、ゆっくりこっちへ来るんだ。新田さんを刺激しないようにな」

「……進藤君、本当はわかってないよね」

「ほんと千歳は妹の事になると頭おかしくなるのよね。シスコン王になれるわよ、あんた」


 酷い言いようだな、おい!


「じゃあ、ちゃんと説明してくれよ。なんでこうなってるんだ?他に理由は思い浮かばないぞ」

「……私にはその考えが真っ先に思い浮かぶ方が信じられないわ」

「ごめんなさいね。度が過ぎたシスコンで。あ、でももしかしたら”誰か”にビンタされたショックもあるかもしれないわね。ふふふ」

「「……」」


「で、結局なんだよ?」

「七海が新田さんを玄関で見かけていきなり抱きついたのよ」


 なん、だと?

 俺の可愛い妹の方から抱きついた?

 俺の可愛い妹の大好きランキング一位である(はずの)俺の座を脅かす存在が現れたというのか⁉︎


「千歳、聞いてる?それでね、七海は離れようとしないし、雪も結構降ってたから、『止むのを待ったら』って母さんがお茶に誘ったのよ」


「じゃあ、本当に妹は自分の意思で?」

「ん!」

「あんたしつこいわよ。ごめんね、妹バカな兄で」

「いえ、それはわかっていたので、いえ、これ程とは思ってませんでしたけど」

「いや、可愛い妹を持つ兄として至って標準的だ」

「どこ基準よ、それ」



 大好きお兄ちゃんの登場にも拘らず、俺の可愛い妹は新田さんから離れようとしなかった。


「でも私、どこが気に入られたのかな?」


 新田さんが俺の可愛い妹を離そうとすると、俺の可愛い妹はがしっと腕と足に力を入れて離れまいとする。


「降参、降参よ、七海ちゃん」

「ん!」


 俺の可愛い妹は満足げな表情をし、力を緩める。


「ほんと仲がいいわね。まるで本当の義理の姉妹みたい」

「は、はあ……」


 なんだそりゃ!聞いたことねえよ!新田さんも困った顔してるぞ。


 しかし、本当に懐いているのか?


 俺は心を落ち着かせて改めて俺の可愛い妹を観察する。

 ぱっと見、確かに俺の可愛い妹は新田さんに甘えているように見える。

 しかしだ、見ようによっては新田さんにベアハッグをかけているようにも見える。


 そんなことをする理由はあるのか?

 

 例えば、大好きお兄ちゃんが平手打ちされたことを俺の可愛い妹は超感覚で察知し、敵討ちしているとか?


 ……十分あり得るな。というか二百パーセント間違いない。

 真実を知れば新田さんは切れるかも知れないから黙っておこう。今は妹の攻撃にやられた振りをしているが、新田さんは武術を身につけているのだ。


 しかし、この光景、どこかで見たことがあるな。

 最近見た気がする。記憶を辿り、気づいた。


 ……そうだ、これは何週間か前の魔法少女ぜりんでやってた話に似てるんだ。


 その週の話は誰にでも化ける事が出来る怪人が登場する回で、ぜりんは近所の優しいお姉さんに化けた怪人に捕まってしまうのだ。仲間の魔法少女ぷりんの機転で怪人の注意が逸れた隙に、ぜりんは怪人をベアハッグで倒すという、なんとも魔法使いらしくない話でネット上では論争が巻き起こった。


「あの怪人、なんて名前だったかな……確か、怪人アルター、いや違……」

「誰が怪人アルタンよ!」

「そう、それだっ、……ん?」


 新田さんは俺と目が合うとすっと逸らした。


 新田さんは一人っ子だよな。

 そんな新田さんが魔法少女ぜりんの事を知っている。

 つまり、やっぱり、そういうことなんだな。


 俺が追求しようか迷っていると、母が窓の外を見ながら言った。


「あら、雪更に酷くなってきたわね」


 母の言う通り、雪は強くなっており、庭には雪が積もり始めている。


「なんだ、これ、天気予報で言ってたか?」


 テレビをつけると丁度テロップが流れていた。

 大雪の影響であらゆる交通機関に遅れが出ているようだった。

 その中でも俺と新田さんがさっき乗ってきた、いつも通学に使っている路線は少し前に送電ケーブルが断線して運休しているらしい。今の所復旧の目処は立っていないという。


 あれ?

 あの路線の送電ケーブルって地下に敷かれてるんじゃなかったか?

 雪関係あるのか?まあ、どうでもいいか。


「危なかったわね、新田さん。さっき帰ってたら車内に閉じこめられてたかもしれないわよ」

「そうですね」

「今日は泊まって行きなさいよ」

「え、でも……」

「此の分だとバスやタクシーも大変な事になってるわ。それに七海ももっと遊んでほしそうだし」

「はあ、でもこれ、本当に遊んでるんですか?」


 新田さんも俺の可愛い妹の真意に気付き始めたようだな。

 それは甘えてるように見えて実は攻撃していることに!

 大好きお兄ちゃんの敵討ちなんだよ!……いかん、目頭が熱くなって来た。


「何、目にゴミでも入ったの?」


 まったく、我が母ながら子供の気持ちをまったく理解できていないな。

 新田さんはうとうとしている俺の可愛い妹をそっとはがそうとするが、それに気づきまたぎゅっと抱きしめる。


「お気に入りの相手にしかしないのよ」


 嘘である。

 何故なら俺は一度もされたことがないからだ。

 どうやら母は俺を新田さんをくっつけたがっているようだ。


 コレを逃したら後がないとか思ってんじゃないだろうな!


「大学に入って初めてなのよ。千歳が女の子連れてくるの」

「おい、いきなり何話出すんだよ!」


 以前ぷーこを連れてきただろう!

 母の中ではぷーこの存在は抹消されたのか?

 別にいいけど。

 あと俺が連れてきたと言うより新田さんが来たがったんだ。面倒だから言わないが。


「高校生の時はあったんですか?」

「ごめんなさい、高校生のときもなかったわね。男子校だったのもあると思うけど、中学の時に振られたショックをずっと引きずってたみたいなのよ」

「何ペラペラ人の個人情報話してるんだ!って、いうか何でその事知ってる?話したことねえぞ!」

「ご近所情報網をなめるんじゃないわよ」


 く、恐るべしだな、井戸端会議。


「きっとそれが原因だと思うんだけど、七海が生まれてからは七海一筋になっちゃって。面倒見てくれるのは助かるんだけど過保護で、七海が我が儘な子に育たないか心配なのよ。お父さんも甘やかすし」

「余計なこと言うなよ!」

「そうなんですね。なんか納得しました」

「いや、今の話、どこも納得できないだろ!百人が聞けば百人が否定するぞ!」

「あんたの言葉をね」


 母の言葉にコクリと頷く新田さん。


 く、俺の味方はいないのか?


 辺りを見回すが、にゃっくはこの場におらず、みーちゃんはだらしない格好で寝ていた。

 幸せそうな顔をしてるのは楽しい夢を見ているからで、決して俺の可愛い妹から解放されたからではないはずだ。


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