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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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42話 呪い

 葉山先生の医者としての腕はお世辞にもうまいとはいえなかった。


 というかにゃっくの手当をした時の手際の良さはどこいった?

 右腕が痛みを感じないのをいいことに適当にやってるんじゃないか?

 いや、絶対適当にやってるぞ、この先生。


「にゃっくのときとは大違いですね」

「うむ、私の専門は人だからね」

「にゃっくの時の方が丁寧に診察してましたよね」

「うむ、皇帝猫を診るのは初めてだったからね」


 くっそー、俺の嫌味にまったく動じてねぇ!

 てか嫌味だと気づいてねえのか?


「その反動ですか?俺の診察が大雑把だったのは」

「うむ?なにか問題あったかな?」

「ありましたよね?採血何度も失敗しましたよね?」

「あれば君の痛覚の検査を兼ねていたのだよ」


 嘘付け!



 診察しているとき、葉山先生に指摘されて初めて気づいたが、右腕は指先から肩まで黒く変色していた。

 といっても明るい場所で左右の腕を比べてやっとわかる程度の違いだ。

 少なくとも肩は化け物に触れていないはずなので触れた箇所から広がってきたのだろう。


「この黒いシミ?は、広がったりしないですか?」

「それは問題ないだろう。もしまだ広がっていたのなら今頃は全身に回っているはずだ」

「なるほど」


 とりあえず、これ以上悪化はしないようだな。

 と、葉山先生が俺の右手を握った。


「あの」

「誤解するなよ。診察だ。ガキはこれくらいで発情するから困ったものだな」

「してません!」

「まあ、それはそれとして何か感じるかね?下半身のことではないぞ」

「……いえ」


 葉山先生は手に力を入れているようだが、何も感じない。

 葉山先生が俺の腕をつねった。

 やはり何も感じない。

 葉山先生が俺の腕にシッペした。

 勿論、何も感じない。

 さらにシッペした。

 さらにさらに……。


「って痛いだろ!」

「なに?痛みを感じたのかね?どうやら閃きで生み出した治療法は正しかったようだね」

「どこが治療だよ!」

「痛みを感じるようになったのだろう?」

「い、いや、痛くはなかった」

「何?つまり君は私に嘘をついた、ということかな?」

「なんで俺が悪いみたいになってるんだ…ですか!大体あんなにシッペする必要はないと思いますが!」

「必要かそうでないかを決めるのは医者である私だ」

「いや、でも……」

「それに私は機嫌が悪い」

「やっぱり八つ当たりか!」

「冗談だよ。君を元気付けようと体を張ってみたんだがお気に召さなかったようだね」

「体張ったのが俺だからな!」


 くそっ、この先生、なんか苦手だぜ。


「気休め程度だが薬を塗っておこう」


 葉山先生が俺の右腕に塗った薬はいい匂いがした。キンモクセイの花の香りに似ている。


「って、塗ってるとこ、シッペして赤くなっているところじゃないか!」

「うむ、バレたか」

「真面目にしてもらえませんか?」

「うむ、ではお詫びに」


 といって俺の右腕を肩から指先まで包帯でぐるぐる巻きにした……。


 って、これ、年末イベントのコスプレで見たぞ。

 そいつ、右腕に封じられた黒竜がなんたらって叫んでた……。


「あの、この包帯意味あるんですか?」

「気に入ったかね?では一人でも巻ける方法を特別に伝授してあげよう」


 スルーかよ。


「いえ、結構です」


 ダメだ、このアラサー。

 家に帰ったら速攻でとってやる。


「それで俺の腕はどうなったんですか?治るんですよね?」

「うむ……君の怪我の説明をする前に『顔取り』との戦いについて詳しく教えてもらおうか」

「あの化け物はそういう名前だったんですね。初めて聞きました」

「こちらの世界の魔物じゃないからね」


 こちらの世界、ね。


「先生は『向こうの世界』の人間なんですか?」

「君にはどう見える?」

「見た目はアラ…、いえ、見た目じゃわかりませんが、話し方からすると『向こう側』の人かなと」

「ふむ」

「あの?」

「秘密だ。女性というものは秘密の多い生き物なのだよ」

「はあ、そうですか」



 俺は『顔取り』との遭遇から戦いの顛末を葉山先生に説明した。


「……なる程ね。どうやら私の知ってる『顔取り』とは能力が違うようだ。しかし、君はバカなことをしたもんだ。よく生きてたよ」

「そんなに危険だったんですか?手にさえ触れなければいいと思ったんですが」

「どうしてそう思ったのかい?」

「え?あ、いや、なんというか化け物の動きというか、直感というか……」

「……ふむ、まあいい。『顔取り』と言われてるけどね、アレが奪うのは何も顔だけじゃない。生物であればどこでも触れた箇所を奪い取る。それは『手』で触れる必要はない。どこでもいいんだよ」

「それって……」

「そう、本来なら君の腕は動かないどころじゃないんだよ。持ってかれてたところだ」


 つまり、腕が付いているだけ俺はまだ運が良かったってことなのか?


「それとだね、『顔取り』は、元の世界では誰でも見ることができた。これも違うね」


 ということは、

 こちらの世界に来たことで能力が変化した?それとも幽霊の顔でも奪ったのか?

 それを確かめる手だてはない。

 他にも『顔取り』がこちらの世界にいたとしても会って確かめたいとも思わないしな。


「それで俺の腕は?」

「簡単に言えば呪いがかかっているね」

「呪い?」

「そう、呪い」

「にゃっくも『顔取り』に触れましたよ。にゃっくは大丈夫なんですか?」

「皇帝猫はね、抵抗力が高いんだ。それにあの子は特別だ」

「特別?」

「君の話が本当なら『顔取り』を倒した時に使った技は、おそらく”ラグナ”だろう」

「ラグナ?」

「まあ、君が詳しく知る必要はない。知ったところで君が使えるようになるとも思えない。それ以上に説明が面倒だ」


 ……今度、アヴリルにでも聞いてみるか。


「それで呪いを解く方法はあるんですよね?」

「いくつかある」


 そういって葉山先生はニヤリと笑った。


 なんで嬉しそうなんだよ。


「まずは元凶、今回で言えば『顔取り』が自ら解く。だが、これはもうない」

「ええ、倒しましたからね」

「で、次が術者を倒す。それで自然と解ける場合がある。だがこれも今のところ効果なし。だだし、倒したことで呪いの進行は止まったようだね」


 黒いシミが肩で止まってたのはそのためか。

 って、待てよ。


「もし戦いが長引いていたら全身が動かなくなっていたってことも?」

「その心配はない」

「え?そうなんですか?」

「心臓が先に止まってる」

「そうですか……って、それダメだろ!」

「ちなみに元の世界の『顔取り』には呪いなんて能力はなかった」


 ちっ、スルーかよ。


「現状では君の呪いが解けるのか誰にもわからない。数分後には解けてるかもしれないし、一生解けないかも知れない、というわけさ」


 くそっ。呪いとは面倒だな。


「これ、人に移ったりは?」

「それは大丈夫だろう。私は検査のとき触っているがなんともないしね」

「それを聞いて安心しました」

「一応、今日一日、入院していきなさい。って言ってももう日付変わってしまったがね」

「はい。ありがとうございます」

「ちなみに私は夜の相手しないから」

「いや、別にそんなこと考えていませんよ」


 何を言い出すんだ、このアラサーは。


「うむ、そうか。じゃあ、以上だ」


 え?終わり?

 お茶飲み出したぞ。

 俺の分はないのか

 って、それはどうでもいいか。

 もう一つ、方法あるよな。


「まだありますよね?」

「何かな?」


 あ、わかってて知らん振りしてるな。


「魔法ですよ。呪いを解く魔法とかあるんじゃないですか?」

「君は魔法の存在を信じているのかね?」

「え?っていうか……」


 あれ?アヴリルがあるって……アヴリルのこと言ってもいいんだよな?……いいのか?


「それとも君は実際に魔法を見たことがあるのかな?」

「え?……あ、いや、だって前に殺人鬼…………怪我した特は魔法で治したんですよね?」

「誰がそんなことを言ったのかな?」

「いや、あの短時間で跡形もなく傷を消せるのは魔法かなって……」

「……なる程ね、やはり君の危機感のなさはそれか」

「え?」

「大怪我をしても魔法ですぐ治るんだと思っているから力もないくせに魔物に戦いを挑む」

「そんなことは……」

「あるんだよ。君は心のどこかで思ってるんだ。もしかして君は、自分だけは死なない、とでも思ってるのかい?」

「そんなことはない!」

「はっきり言っておくよ。魔法は確かに存在する。だが万能じゃない。こちらの世界では特にね。死者は蘇らないし、病気だってそうだ。すべてを治せるわけじゃない。確かに呪いを解く魔法は存在する。だがこの世界で使える者を私は知らない」

「なっ」


 ……認めたくないが、葉山先生の言ったことは正しいようだ。

 俺は魔法で治せるもんだと思っていた。

 実際に見たこともないのに……。

 この腕が治らないかもしれない?

 それが現実味を帯びてくると急に不安がこみ上げてきた。

 

「あ、もう一つ方法があるね」


 俺は無意識に俯いていたが、その言葉で顔を上げ、葉山先生を見た。


 うわっ、すげー意地悪そうな顔してるぞ。絶対ロクな事じゃないぞ。

 だが、どんな方法であろうと治る可能性があるなら知りたい。


「それは?」

「その動かない腕を切断する」

「なっ……」

「そして君の大好きな魔法で腕を再生させる」

「再生魔法……」

「ただし、成功したとしても新しい腕を今までのように動かすには相当なリハビリが必要だ」

「相当って……」

「もし君が右利きなら左利きになった方が早く普通の生活に戻れるだろうね」

「な……」

「失敗したら最悪腕は再生しない。どうする?試してみるかい?」

「先生は失敗する可能性が高いと思ってるんですよね?」

「ああ。成功率は、そうだね……、一パーセントかな。贔屓目に見てね。でもやるというなら止めない。いい実験データが取れるしね」


 俺は即答した。


「遠慮させてもらいます」



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