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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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41話 不機嫌な女医

 新田母が呼んだのはタクシーだった。


「私も行くわ!」

「え?」

「せりすは私と一緒に帰るのよ」

「でも私のせいで進藤君もにゃっくちゃんも怪我したのよ!」

「いや、新田さん、それは……」

「さ、急ぎましょ!」


 真っ先にタクシーに乗り込もうとした新田さんを新田母が止めた。軽く引っ張ったようにしか見えなかったが、その反動で新田さんは危うく倒れそうになった。


「いい加減にしなさい。これ以上進藤君に迷惑をかけてはだめよ」

「で、でも……」

「それにね、もし付いて行ったりしたら絶対お父さんが後でもっと迷惑かけるわよ」


 うげっ、新田おやじのこと忘れてたぜ!

 こんな時間に一緒にいるだけで問答無用でフルボッコにされそうなのに、その上、付き合うことになったと知ったらと思うとゾッとする。

 絶対会いたくないぞ!


「そうだよっ、新田さん!俺達は大丈夫だよ。ちゃんとあとで連絡するからさ。もう夜も遅いし、おや……新田さんのお父さんも心配してるよ!」

「……わかった。絶対連絡してね!」

「ああ」


 俺が新田母を見ると笑顔で小さく頷いた。

 新田母には聞きたい事が色々あったが、今は俺とにゃっくの治療が先だ。

 俺はキャリーバッグに入ったにゃっくと共にタクシーに乗り込んだ。



「すみません、これ何処に向かってるんですか?」

「……」

「病院に向かってるんですよね?出来るだけ急いでください」

「……」


 タクシーの運転手は一言も喋らなかった。

 だから何処に向かってるのかわからなかった。

 これが適当に拾ったタクシーならもう犯罪に巻き込まれてる状態だが、新田母が呼んだタクシーだ。恐らく余計な事は喋らないように指示されているのだろう。


 ……だよな?


 俺は家族に連絡してないことを思い出し、母の携帯に『今日は友達の家に泊まる』とだけ書いて送った。

 キャリーバッグを静かに開けるとにゃっくは眠っていた。呼吸は大分落ち着いていたのでホッとした。といっても俺は医者じゃないから予断は許さない状況ではある。

 俺は右手に力を入れてみるがまったく力が入らない。指一本動かせない状態のままだ。

 手は勿論のこと、服の上から腕を触ってみるがまったく何も感じない。

 新田母の言葉が頭に浮かんだが、それほど悲観はしていない。

 殺人鬼に負わされた怪我だって簡単に治ったんだ。

 この腕だってすぐ治るだろう。

 そう思っていた。



 タクシーが到着したのは俺が殺人鬼に怪我を負わされた時に運び込まれた葉山医院だった。

 出迎えたのは誰がどう見ても不機嫌そうな顔をしたアラサー女医、葉山真夏だ。

 なんでアラサーとわかるかといえば、前にぷーこがそう呼んでいたからだ。当然その後、頭をグリグリされていた。


「気持ちよく寝てたところをよくも叩き起こしてくれたね」


 それがアラサー女医の第一声だった。

 実際に叩き起こしたのは新田母だと思うが、俺達のためだから反論はしない。


「睡眠不足でシワが取れなくなったら責任取らせるよ」


 表面上は苦笑いで誤魔化したが、


 一日でなるかよ!


 と心の中で叫んだのは言うまでもないよな。



 にゃっくの外傷は大したことはなかった。それよりも疲労のほうが深刻だった。手当てを受け、今はベッドで点滴を受けながら寝っている。


「この子にはあと一本打つから。それと当分安静だからね」

「大丈夫なんですよね?」

「安静にしてればね。この子は無理し過ぎだね」


 アラサー女医……もとい葉山先生はため息をつくと携帯電話を取り出した。どうやらメールが届いたようだ。


 あ、スマホじゃないんだな。

 そういえば、アヴリルもガラケーだったよな。


 葉山先生はガラケーを無造作に白衣のポケットに突っ込んだ。


「あー、面倒臭いなぁ。これは私の仕事じゃないんだがな」


 何のことかはわからないがとりあえず謝っておいたほうがいいか。


「すみません」

「許さん」


 即答だった。


 なんでだよ?

 適当に謝った俺も悪いが、何を許さんのか理由ぐらい言えよ。


 だが、葉山先生が話し始めたのは許さん理由ではなかった。


「君にはある程度話してもいいということだから説明しよう。これは私の仕事じゃないんだがな。最近人手不足で困ったもんだ」


 葉山先生は本当に面倒臭そうだった。


「まず最初に断っておくが、君をここに運ぶように指示した者について質問しても無駄だ。その相手が誰か知らないし興味もない」

「……へ?」

「あと誰彼構わず今回のことを話さないように。それは君のためでもある」


 先を越されたな。

 まあ、新田母と組織の関係は本人に直接確認するか。


「わかりました」

「では本題に入ろう。君はこの子、皇帝猫がこちらの世界の生物じゃないことは知ってるね?」

「はい」


 前回、葉山先生は俺に怪我の原因を聞かなかったし、どう治療したのかの説明もしなかった。だから、もしかしたら葉山先生は組織に場所だけ提供しているのかもしれないと思い、俺も詳しく聞こうとしなかった。だが、皇帝猫のことを知っていることで葉山先生も組織の一員だと確信した。


「じゃあ、皇帝猫は冬眠する生き物だってことは?」

「聞いた事はあります」


「皇帝猫を探せ!」のページに書かれてたよな。


「皇帝猫は冬眠することで蓄積された疲労を回復する。だが冬眠の効果はそれだけじゃない。それまでの経験に応じてパワーアップするんだよ」

「そうなんですか」


 昔、宿屋に泊まるとレベルアップするってRPGやったな。あれに近い感じか。


「逆に冬眠をしないとどんどん疲れが蓄積されていき、本来の力が出せなくなっていく。パワーダウンしていくのさ」


 げっ、レベルダウンするってことかよ。


「わかりました。もう無理はさせません」


 といってもにゃっくはプライド高いからな。事件が起きたら言っても聞かないだろうなぁ。


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