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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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37話 見えないはずのものが見える

 二十一時過ぎ。

 手を繋いで去っていくバカ夫婦を見送り、俺は新田さんと同じ電車に乗った。

 「彼氏が彼女を家に送るのは当然でしょ!」という皇嫁の言葉に従って新田さんを家まで送ることになったのだ。

 新田さんも特に嫌がらなかったからな。

 電車はいつもより込んでいた。三が日最後、今日で休みが終わりの会社が多いからだろうな。大きな荷物を持った人はおそらく帰省帰りだろう。


「新田さん、今日は門限大丈夫だった?」

「え?ああ、うん、大丈夫。今日は許可もらってるから」

「そうか」


 うーん、その笑顔が微妙だな。

 本当は門限なんてないんじゃないか?

 まあいいや、それより俺は新田さんに聞きたいことがあった。


「新田さんて、武術とか学んでる?」

「え?……どうして?」

「いや、なんとなく」


 成人男性(新田おやじ)を一発で仕留めるなんて素人には無理だよな。


「昔、ちょっとね」

「そうか」


 ちょっと、ね。

 とてもそうは思えないが、そんなことを突っ込んでもしょうがないよな。

 

「それがどうかしたの?」

「実はさ、俺、ちょっと体を鍛えたいなって思っててさ」

「え?そうなの?」

「ああ」


 俺には化け物を倒す力はない。

 だが、だからと言って何もしないわけにはいかない。

 あの殺人鬼のとの戦い、まだ人間の姿をしていたとき、俺が武術を身につけていたらもう少しうまく立ち回れた気がする。

 またあんな化け物に出くわしたとき、倒すことはできなくても生き延びる可能性は高くなるはずだ。


「でも俺、どこで学べばいいのかもわからないからさ、もし新田さんがいいとこ知ってたら紹介してほしいなって」

「そうなんだ。でもバイトに武術まで始めたら大好きな妹ちゃんと遊ぶ時間がもっと減っちゃうよ」

「大丈夫、その分バイトを減らすさ」


 って、あれ?新田さんと遊ぶ時間は気にしないのか?

 一応恋人同士なったはずなんだが……。


「それだとバイト代が減って、月謝も必要だからさらに減るわよ。大丈夫?」

「まあ、なんとかなるだろう」

「そう、紹介するのは構わないけど、一つ確認させて」

「何?」

「強くなっても変なことに使わない?」


 なんてことを言うんだ。

 って言ってもからかっているような口調だから冗談だとすぐわかったけどな。


「ああ。正義のために使うよ」

「ふふ、期待してるわ」


 俺の言葉を冗談に取ったようだ。俺は本気だったんだけどな。



 新田さんのマンションへ向かう途中にある公園の前を通りかかったときだ。

 周囲の温度が一気に下がった気がした。


 ……この感じ、以前にもあったよな。


「なんか急に寒くなったね」

「……ああ」

「あ、あの人、あんな格好で寒くないのかな?」

「あの人?」


 新田さんの視線の先を見た。

 とほぼ同時ににゃっくが小さな声を上げる。


 まさか、新田さん……


 俺は新田さんの手をとった。


「え?」

「寒いから急ごう」


 俺は新田さんを引っ張りその場を急いで離れた。

 その場を離れると温度低下は収まった。


 やはりそうなのか。


 俺には新田さんに見ているものが見えなかった。

 新田さんが見たのはおそらく霊だ。新田さんには霊が見えるんだ。

 だがそのことに自分では気づいていない?


「進藤君?」


 ということは霊が見えるようになったのは最近なのか?

 そこで思い当たるのが、元旦に新田さんが俺のイヤホンをつけたことだ。

 あのイヤホンをつけ続ければ、脳のフィルターが壊れ、つけなくても霊やレイマが見えるようになる、とぷーこは言っていた。

 俺は未だにイヤホンをつけないと霊を見ることはできないが、新田さんはあの短時間でフィルターが壊れてしまったのか?

 そういえばアヴリルが言ってたな。

 レイマに狙われるのは「力」をもつ者が多く、そのレイマに新田さんは一度狙われている。

 もしかしたら新田さんが持つ「力」も関係しているのかもしれない。


「進藤君!」

「え?あ、ごめん、考え事してた。何?」

「何って、それはこっちのセリフよ。どうしたの、突然」

「え、いや、ちょっと寒いからさ」

「……」


 うわ、思いっきり怪しまれてる。


「さっきの女性、もしかして知り合い?」


 どうする?

 何も言わないのはまずいよな。悪霊に話しかけたりしたら大変だ。

 だが、どこからどこまで話せばいいんだ?


「進藤君!

「……話せば長くなる、かもしれないんだけど」

「じゃあ、どっか喫茶店にでも入る?」

「時間大丈夫か?門限とか……」

「私達、恋人同士なのよね?」

「え?あ、ああ、一応……」

「じゃあお互い隠し事はなしにしましょう」


 新田さんは真剣な表情をしていた。


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