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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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36話 告白する者、される者4

「じゃあ次、進藤の番」

「番てなんだよ?」

「私達にだけ恥ずかしい話させるつもり?」

「勝手に話し出したんだろ。それに俺にはないぞ、お前らのように人に自慢できる恥バナ」

「だ、誰が自慢してるのよっ!」


 いやしてるだろ。

 新田さんに同意を求めると「ふふふ」と曖昧な笑みで逃げられた。


「恥バナって、初めて聞く言葉だね」


 他人事のように言うがお前も同類だぞ皇。


 皇嫁は顔を真っ赤にして俺を睨んでいたが突然ニヤリと笑った。

 

「じゃあさあ、進藤、代わりに恋バナしてよ」

「なんだそりゃ」

「さっきの子が言ってた前の彼女の話」

「なんでそんなものしなくちゃならんのだ」

「私もちょっと興味あるかも」

「中学の時の同級生に会っただけだ」

「またまた。年始めなんだからパッと話して忘れよう、ね?」

「何が『ね?』だ。そういうのは普通、年の終わりだろ」


 皇が不安そうな顔をする。付き合いが長いから俺が本当に嫌がっているのが分かっているようだ。

 俺は甘酒を一気に飲み干す。

 にゃっくの視線を感じた。

 にゃっくも不安そうな顔をしている、気がした。


「大丈夫だ。甘酒なんかで酔うかよ」

「いやいや、進藤、猫に話しかけている時点でマズいよ」

「何をいってるんだ?にゃっくはすごい賢いんだぞ!人の言葉がわかるんだ!」


 それに化け物退治できるし、ボディガードも完璧にこなしている、

 って言ったらやっぱり酔ってると言われそうだな。

 


 女性陣は興味津々の表情で俺とあいつの話を聞きたがる。

 ……まあいいか。

 どうしても聞きたいって言うなら話してやろうじゃないか。


「あいつは昔告って振られた相手だ。付き合った事なんか一度もねえ」

「え?」

「……」


 女性陣の表情が変わる。やっとダメな話と気づいたようだ。

 だが、別に構いやしねえ。


「中学の時だ。俺には親友が二人いてな。いつも三人でよく遊んでたんだ。その一人が昨日会った奴だ。ぷーこのバカが俺の元カノと勘違いした奴だ。あいつは俺が告った時にはもう付き合ってる奴がいてよ。それがもう一人の親友だよ」

「進藤、もういいよ……」

「うん……」

「ごめん……」

「何ってるんだ。聞きたいって言ったのはそっちだろ。笑っちゃうよな。いつも一緒にいたのに全然気づかなかった。話してもくれなかった。俺はあいつらの事、親友だと思ってたのに俺はただの友達だったんだ……友達でもなかったのかもな」


 どんどん空気が悪くなるのがわかるが、俺の言葉は止まらない。


「それ以来、あいつらとは付き合いがなくなった。で、昨日、偶然再会したって訳だ。昔のことの筈なのにスッゲー気分悪くなったぜ。今更に悪くなったけどな!で、俺の恋バナは面白かったか?」

「……ごめんなさい」

「……ごめん」


 俺は皇の甘酒を奪い取り一気に飲み干す。


「ちょっと進藤……」

「俺の気持ちがわかるか!皇!」

「そ……」

「わかるわけないよな!幼馴染と結婚したリア充にはな!」

「ちょっと進藤、やっぱり酔っ払ってない?」

「甘酒なんかで酔うかよ!」



「……その話、私もちょっとわかるわ」


 ……は?

 新田さんに俺の気持ちがわかる、だと?


「私もね……」

「新田さんにわかるわけないだろ!振られた奴の気持ちなんて!」

「あ、そ、そうじゃなくて、私も親友……」

「モテまくってる奴に俺の気持ちが分かるわけないだろ!」

「……」


 俺の言葉に新田さんはカチンときたようだ。

 俺と新田さんはしばらく睨み合っていた。

 完全に俺の八つ当たりだ。それはわかってる。だがこの感情は抑えられない。


「……そうね 。私にはわからないわね!私、告白した事も振られた事もないしね!」

「新田さんも落ち着いて」

「そ、そうよ。もうこの話は終わり!ね!」


 皇夫妻が止めに入るが俺達はお互いムキになってる。俺は引くつもりはないし、新田さんも同じようだ。

 俺の中で最低な考えが浮かんだ。普通なら思っても絶対口にしない事だ。やはり皇の言う通り俺は酔っていたのだろう。


「……じゃあさ、俺に告ってみなよ」

「え?」

「バシッと振ってやるよ。そうすりゃ、告白と失恋同時に経験できるぜ」

「進藤、言ってる事無茶苦茶だよ」

「ほんと零みたい」

「つかさちゃん、一々僕の名前を出すのはやめてくれないかな」



 俺の挑発に新田さんは乗ってきた。


「進藤君」

「何だよ?」

「私と付き合って!」


 新田さんの投げやりな告白に俺はバシッと言ってやったね。


「わかった」

「……」

「……」

「……え?」


 あ、OKしちまった。

 にゃっく、そんなぽかんとした顔するなよ。



「……えーと、あれ?」

「進藤、僕は君という人間をわかっていなかったよ」

「進藤、汚い!零並みに汚ない!いいえ!瞬間的に零を確実に越えたわ!」

「つかさちゃん、それ酷いよ」


 俺の発言はさっきまでの重苦しい雰囲気を吹き飛ばしたようだ。


「進藤君、私に振られた時の気持ちを教えてくれるんじゃなかったのかな?私の聞き違いだったのかな?」


 新田さんは珍しく勝ち誇った顔をしている。

 いや、こんな顔初めて見るな。


「確かに断ると言った」

「そうよね」

「だが告られて初めてわかった。断る方も結構神経使うんだなって」

「即答したよね。そんなこと思う時間なんてなかったと思うけど」


 その通りだよ。考える前に言葉が出てたんだ。後からそう思ったんだ。

 なんて本当の事言えないよな。カッコ悪いし。


「彼女いるとか大嫌いだとか理由があるならともかく、ないのに拒絶することはできない」

「それは普通の告白の場合でしょ!今のはあんたが無理矢理言わせたんじゃない!」


 うるせえな、皇嫁。


「さっき新田さんが俺の事分かるって言った意味がちょっとわかったよ」

「……私はそういう意味で言ったんじゃなかったんだけど……もういいわ」


「それにさ、振られるってわかってたら本当に振られた奴の気持ちなんてわからないだろ」

「いやいや、言い出したのは進藤じゃないか」

「わかってるさ。さっきは頭に血が上ってて自分でも訳わかんない事言ってた」



「で、結局、二人は付き合うのかな?」

「こんなの無効に決まってるじゃない、ね、せりす」

「そうね、このままじゃ気持ち悪いわね。という事で振ってよ。私から振ったほうがいい?……それともこのまま付き合ってみる?」


 今日の新田さんはいつもと違って挑発的だ。実はこっちが本当の彼女なのかもしれない。


「新田さんに彼氏がいないなら」

「いたらそもそも告白しなかったけど」

「だよな。じゃあ、とりあえず付き合うという事で」

「……ふうん。まあいいけど」


 新田さんが悪戯っぽい笑みを浮かべた。



「進藤、私もあの子に倣ってこれからはあんたのことを『ちいと』って呼ぶわ!」

「呼ぶな」

「そうだよ、つかさちゃん。……僕はいいよね?」

「ダメだ」

「そうよ、言っていいのは私だけよね?」

「やめてくれ」


 あと、にゃっく、

 お前もそろそろそのぽかん顔をやめてくれ。


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