35話 告白する者、される者3
出迎えた店員に名前を告げると一旦奥に戻り、別の者が現れた。
初老の男性で最初に対応した店員より役職は上のように見える。
「お待たせ致しました、進藤様。ご案内致します」
「よろしく」
俺達は彼の後に続く。
「でも、よくこんな高級な店の予約取れたよね。あの短期間で」
「まあな」
「実は話する前に予約してたとか?」
「してねえよ」
「まさか……進藤の家って金持ちなの?」
「だったらバイトなんてしてるかよ。たまたまだよ」
流石に「猫がここの会員で予約してくれたんだ」、なんて言えねえし、言っても信じないだろう。
しかし、みーちゃんはホントにここの会員なんだろうか?
案外、所長の会員証を利用しただけなのかもしれないな。
……いや、それどころかここは組織と関係した店なのかもしれない。
そう思うと前を歩く店員も組織の人間に思えてくる。
……そんなわけないよな。
「進藤って運悪そうに見えるだけど……あ、そうか、悪運が強いんだ」
「なんだと⁉︎」
この嫁は何かと俺に突っかかって来るな。結婚してなければ俺に気があるんじゃないかと思っちまうぜ。
……こいつ、本気で俺を嫌ってるのか?
案内された先は個室だった。
おいおい、マジかよっ⁉︎
室内の装飾も結構豪華じゃないか?︎俺の選んだコースの値段からは考えられないぞ。
俺が驚いたくらいだ。
みんなもどこか緊張した顔をしている。
「進藤、ほんと大丈夫?」
皇が不安そうな顔をする。皇嫁が皇の腕をぎゅっと握るのが見えた。
「私も少しならなんとか……お父さんにお年玉もらったばかりだし……」
新田さんも不安そうだ。
ん?お年玉だって?
俺は『大学生はいらんだろ』って言われて貰ってないぞ。
いや、今はどうでもいいか。
「心配しなくて大丈夫だよ。誕生日祝いを本人に払わせるわけにはいかないよ。それにお前らも大丈夫だ。最初に話した金額だけで。万が一予算オーバーしても俺が払うさ。」
「心強いね」
「ちょっとかっこよかったかも」
「そんなことないさ」
「そうよ!進藤が予約したんだから当然よ!もともとそういう約束だったし、感心するとこじゃないから!もしかしたら零みたいに自作自演かもしれないわ!」
「そんなことするか!」
「つかさちゃん、僕そんなことしてないよ」
で、また恥をまき散らし始める皇夫妻。
しかし、みんなにはああ言ったが、ほんと大丈夫だよな?
俺、桁見間違えてなかったよな?
みーちゃんは普段頼りになるが、どこか抜けてるとこある気がするんだよな。
ぽかしてないか不安になってきたぞ。
恥をまき散らし、すっきりした顔?で皇が疑問を口にする。
「この席の配置変じゃないかな?」
「なんで猫が上座なの?それに一緒のテーブルで食べるんだ?」
「これ、にゃっくが主賓みたいだね」
その通りなんだよな。
猫用の椅子は特別製のようでその足は長く、みんなと一緒のテーブルで食事できるようになっている。
ペットというより完全に人と同等の扱いだ。
そんなこと書いてなかったと思うんだが。
やっぱりみーちゃん、ぽかやっちまったか?
「私は全然気にしないわよ」
「ありがと」
流石新田さんだ。
皇嫁も文句ばかり言わず見習って欲しいものだ。
って、目が合っちまった。
「何よ?なんか文句ある?」
「別に」
俺がキャリーバッグを開けるとにゃっくはジャンプしてバッグから飛び出し、華麗に着地する。
半目なのは不機嫌なのではなく眠いのだろう。自分のいた世界では冬眠するらしいしな。
今日のニャックの服装はニット帽にマントだ。
部屋の中は十分暖かいからこの姿で問題ないだろう。
ちなみにキャリーバッグの中も毛布やカイロで暖房対策はバッチリだ。
「にゃっくちゃん」
新田さんはにゃっくを抱き上げるとニット帽の上から頭を撫でて、席に座らせる。
気のせいか、ちょっと緊張してたような……。
「ところで、なんでマントなの?」
「気に入ってるんだ」
「変な猫」
「でも似合ってるだろ」
「まあね」
皇嫁は文句を言いながらもにゃっくの頭を嬉しそうに撫でる。にゃっくは特に抵抗することもなくされるがままになっている。
うむ、帽子をかぶせて正解だったな。
なかったら間違いなくアホ毛を立てて奇声を発してたぞ。
各々好きな飲み物を注文した。全員ソフトドリンクだ。未成年だから当然か。
にゃっくの分は既に決まっていたので選ぶ必要はなかった。
「じゃあ、始めるか。一日遅れだけど新田さん、誕生日おめでとう!」
「「おめでとう!」」
「にゃ」
「ありがとう!……あれ?」
「……ねえ、今、この猫もお祝いした?」
「偶然だろ」
ホントは偶然じゃないと思う。にゃっくは人の言葉を理解できるからな。
しかし、いつもの無口なにゃっくらしくないな。寝ぼけてるのか?
料理はどれも豪華だった。少なくとも俺は今まで食べたことない。
金額が不安になってくるが、なるべく考えないようにした。
料理の味はそのときの気分でも左右されるからな。
にゃっくに目を向けると黙々と食べていた。
もうちょっと表情を出せよ。
みーちゃんは楽しみにしてたんだぞ。
あ、普通の猫はわかりやすい表情しないからこれでいいのか。
食事中の話は年末の同人誌即売会の話から始まった。
新田さんや皇嫁と同じく俺も途中で帰ったから最終的にどれだけ売れたかは知らなかったが、十五部売れたそうだ。
結局、半分も売れなかったんだな。それでも本人は満足そうだからそれでいいか。
そこからまたも皇夫妻が恥をまき散らした後で、俺の話になった。
「進藤ってロリコンなのよね?」
「アホか。シスコンなだけだ」
「だから進藤、それ胸張って言うことじゃないから」
「待ち受け画面、妹ちゃんだったりして」
「そんなわけねえだろ」
「ほんとに?」
「そんなのは当然だろ」
しょうがない。可愛い妹を持っていない者達に説明してやるか。
「俺の妹ほど可愛い奴はいないんだぜ。スマホの待ち受け画面にして、万が一変な奴に見られたら大変だろ。最近は物騒だからな」
「また始まった……」
皇のたわごとは無視だ。
「だからと言って画像が入っていないわけじゃないぜ。何十枚か保存している」
「何十枚って……」
「必要だろ。見れば一発で元気が出るんだ。心が癒されるんだぞ」
俺はアルバムアプリを起動し、最近撮ったベストショットを見せてやる。
魔法少女ぜりんのコスチュームを着て俺が買ったステッキを上げて決めポーズをとっているやつだ。
「僕はロリコンじゃないけどほんと可愛いよね。ぜりんのコスチュームも似合ってるね」
「俺もロリコンじゃねえぞ」
「ほんとすごくかわいい!」
「……確かにかわいいわね」
「まあな!」
皇嫁の言葉に「超」とか「すごく」が抜けてたがまあ今日は大目に見てやるよ。新田さんの誕生日に免じてな。
「その画像見られたらどうするのよ?」
「見るときは背を壁に向けたりして最新の注意を払ってるし、スマホには覗き見防止シートを張っている」
「「……」」
「……進藤君、うちのお父さんみたい」
なんてこと言うんだ、新田さん!
「いや、新田さんには悪いけどあそこまで酷くない」
「そうかなぁ。どっちかというと進藤君のほうが酷そうなんだけど」
「え?進藤ってせりすの親に会ったことあるの⁈」
「ああ」
「無理やり押しかけたのね!」
「何決めつけてるんだよ。そんなんじゃねえ、たまたま会ったんだ」
しかし、皇嫁は俺の言うことを信用しない。
確かにたまたま会ったんじゃないけどな。
「ヤバいよ、せりす!こいつ、零と同じ手を使う気よ!なし崩しに親に認めさせる気よ!」
「失敬な!」
「酷いなぁ、つかさちゃん。僕、そんな手使ってないよ」
で、また恥を撒き散らす皇夫妻。
はいはい、いちゃつくなら他でやってくれ!
デザートは餡蜜アイスだった。正月ということで甘酒がサービスで付いてきた。
念のために言っておくが、これはアルコール一パーセント未満なので未成年が飲んでも違法ではない。
そうでなければ出した店側も罰せられるからな。
俺は餡蜜はそれほど好きではない。少なくとも自分で買ってまで食べようとする物ではなかった。
だが、この餡蜜アイスはあっさりして美味しかった。
それにこの甘酒だ。こんなうまい甘酒は初めてだぜ。
甘酒のおかわりはOKとのことだったのでみんなおかわりを注文した。
俺もな。
だが、忘れてはいけなかったんだ。
法律で酒類に分類されないだけでアルコールは入っているということを……。




