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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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34話 告白する者、される者2

 一月三日の夕方。

 俺がペットキャリーバッグを片手に待ち合わせ場所に着くと既に皆揃っていた。


「遅い」


 皇嫁が不機嫌そうな顔で文句を言う。まあ、皇嫁が不機嫌なのはいつものことだよな。


「時間前だろ」

「主催者が一番最後っていうのは問題でしょ!」


 むっ、それは正論だな。


「悪かったよ」

「まあまあ、つかさちゃん」

「時間前に来たんだからいいわよ」

「みんなやさしくてよかったわね」

「ああ、涙出て来るよ」

「?……進藤?」


 皇が俺の顔を覗き込む。


「……なんだよ?」

「……ひょっとして体調悪い?」


 鋭いな。

 体調が悪いと言うより気分が乗らないだけなんだが。

 

「いや、別に。さあ行こうぜ」

「う、うん」



 俺達が店に到着すると立ち塞がる者がいた。


「ぷーこ⁉︎」

「待ってたわよ!ちいと!」

「”ちいと”言うな!」


 この”ちいと”はぷーこが俺につけたあだ名だ。

 バイト先は大学生ばかりだから流石のぷーこも俺のことを”バカ大生”と呼ぶのはまずいと思ったようで、その代わりにこいつは俺の事を”ちいと”と呼ぶようになったのだ。

 間違いなく千歳の『ちと』と『チート』を組み合わせた言葉だ。失礼なやつだ。俺はイカサマなんかした事ないぞ!

 新田さんと皇夫妻が事の成り行きじっと見守っている。

 視線が痛いぞ。


「お前、何しに来た?」

「あら?あたしが何も知らないと?」


 そういって俺の持つペットキャリーバッグを指差す。


「返してもらうわよ!みーちゃんを!」

「……なん、だと?」

「ふふふ、驚いたようね。あたしにはわかるのよ!みーちゃんの匂いがそのバックからするわ!」

「うそつけ!」

「じゃあ、見せなさいよ!」


 俺は無言でバスケットを開ける。

 中からにゃっくが顔を出し周囲を窺う。


「……え?にゃっく?え?なんで?」

「それはな、俺の家に住んでるからだ」

「そ、そんなはずは!」


 そういってキャリーバッグの中を覗き込む。


「こらっ、やめろっ!この大きさで二騎……二匹も入るか!」


 何故みーちゃんではなくにゃっくが来ているのか?



 みーちゃんは朝から気合いが入っていた。間違いなく俺より上だった。

 俺は昨日の加藤早苗との再会で嫌なことを思い出し、まだ引きずってたんだ。


 情けないのはわかってるよ。でもしょうがないだろ。


 みーちゃんは影の主催者としての責任か、はたまた久しぶりのご馳走が楽しみでたまらないのか、出かけるのは夕方にも拘わらず朝食後から玄関でスタンバっていた。

 それがまずかったようだ。


 今日、俺を除く家族は母方のばあちゃん家へ行くことになっていた。

 俺は探偵事務所の所長が本当に俺の祖父なのかばあちゃんに確認したいと思っていたので一人で会いに行く理由ができてよかった。いきなり一人でばあちゃんに会いに行くなんて不自然だからな。


 家族が出かけた後、俺が昼飯を食うために下へ降りると玄関にみーちゃんの姿はなく、リビングではにゃっくが丸まって寝ていた。

 不審に思い、家中を探し回ったがみーちゃんの姿がないので母に電話をかけたところ、俺の可愛い妹がみーちゃんを連れて行くと言い出し、一緒に行くことになったらしい。

 恐らくだが、俺の可愛い妹はみーちゃんが玄関でスタンバッていたのを見て、『俺をばあちゃん家へ連れて行け』とアピールしていると思ったのだろう。


 そういうことは俺にちゃんと言えよな。

 まあ、俺が反対したら面倒だからわざと黙ってたんだろうがな。


 悪いな、みーちゃん。

 今度一緒に行こうぜ。


 で、にゃっくを連れてきたというわけだ。料理のキャンセルも勿体無いし、いつも俺の可愛い妹のボディーガードしてもらってるからな。

 だがこれは結果的に正解だったな。

 みーちゃんが来ていたらぷーこと鉢合わせするところだったぜ。


 ……もしかしたら俺の可愛い妹は予知能力があるのかもしれねえな。

 あの可愛さなら十分ありえることだ。



「……しょうがないわね」

「何がしょうがないんだ。何が」

「うるさいわね!ほらっ、そろそろ時間でしょ、行くわよ」


 そう言って店に入ろうとするぷーこの腕を掴む。


「ちょっと待て。お前は部外者だろ」

「あたしも食べたい」

「なら、自分で予約して自分の金で食え」

「へえ、そんなこと言うんだ?」

「なんだよ?」

「いいのかな?ほんとにそんなこと言っていいのかな?」

「だからなんだよ?」


 ぷーこは新田さん達の顔を見回し、


「元カノとはより戻ったの?」

「「「!!!」」」

「な……」


 このアマッ!

 今の言葉でこいつの情報は好い加減だとわかったが、ここでそれを説明する気はない。

 俺は財布から千円札を抜き出すとぷーこの顔に押し付けた。


「これで腹一杯食ってこい!」

「あたしも安く見られたものね。この程度でこのあたしが引き下がるとでも?」


 といいつつ、千円札を自分のポケットに突っ込む。


「このままここにいたら何も食えんぞ」

「……」


 俺とぷーこはしばし睨み合い、


「今回だけだからね、ちいと」

「ちいと言うな!」


 ぷーこはスキップしながら去っていった。


「あの子、バイトの子だよね?」

「ああ」

「同人誌即売会にも来てたよね」

「かもな」


 ほんとは別人だと思うが、絶対とは言い切れんしな。


「あれで引き下がるんだ」

「あいつは質より量なんだよ。牛丼なら腹一杯食えるだろう」

「それより元カノって……」

「さあ入ろうぜ」


 俺は皇嫁の言葉を遮りさっさと店の中に入った。

 ……はあ、気が重いぜ。


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