33話 告白する者、される者1
月ヶ丘アリーナから戻り、一眠りすると夜だった。
エアコンがついており部屋の中は暖かった。いや、ちょっと暑いな。
俺の机の上にはみーちゃんがちょこんと座っており、自分のノートパソコンに向かって何か作業をしていた。
ちなみににゃっくは今日も俺の可愛い妹のボディーガードをしているはずだ。
俺はベッドから起き上がると机に向かい、自分のパソコンを立ち上げた。
新田さんの誕生会をする店を探すためだ。
が、
そこそこ高級で予算内で収まる店はことごとく予約でいっぱいだった。
やばいぞ!
店はすぐに見つかると思っていた。いや、どこかで新田さんは断ると思っていたのかもしれない。
もう少しランクを上げるか?
しかし、
同席する皇夫妻の食事代は決まっている。それを超えた場合はその分俺が払うことになっているのだ。
安易にランクを上げることはできない。
かといっていつでも行けるような店はさすがに失礼だよな。
延期もみっともないし。
……しかたないな、皇夫妻の分も出すのは癪だかランクを上げるか。
しかし、それでも店は見つからなかった。
これ以上予算を上げるのは無理だ。
……しょうがない。延期するか。
時期が時期だからな。わかってくれるだろう。
そう決断した時だ。俺の腕をつつくものがいた。
みーちゃんだ。
「どうした?」
みーちゃんが自分のノートパソコンの画面を指差す。
見ると、それは創作料理で有名な『月明』のウェブサイトだった。
コースの値段は少し予算をオーバーするが許容範囲だ。
だがな、
「みーちゃん、せっかく探してくれて悪いが、そこはさっき断られたんだ」
そう、『月明』は俺でも知ってる有名な店で真っ先に電話をかけたが予約でいっぱいだったのだ。
だが、みーちゃんが会員番号とパスワードを入力するとトントン進み、あとは予約ボタンを押すだけのところまできた。
「まじかよっ⁉︎』
みーちゃんが俺が見つめる。
最終確認しろってか?
ん?
人数が四人はいいとして、猫が一匹?
ほう、ここはペットの入店可だったのか。
みーちゃんも贅沢したいんだな。
みーちゃんのことだから、自分の分は自分で払うだろうし、俺が払うことになったとしても会員割引で値段が下がったので予算内に収まる。
どうせならにゃっくも連れて行きたいところだが、俺の可愛い妹のボディーガードで離れられないからな。
またの機会だな。
「OKだ」
俺の言葉を聞くとみーちゃんは予約ボタンをぽちっと押した。
一月二日。
家を出るまでは気分がよかった。
なんといっても新田さんの誕生会をする店が決まったからな。
だが、バイトのため駅へ向かう途中のことだ。
「千歳!」
突然名前を呼ばれた。
声のしたほうへ顔を向けると一人の女性と目が合った。
笑顔で手を振って近付いてくる。
「あれ?わからない?私よ、加藤早苗」
いや、わかってるさ。
中学以来だが見分けがつかないほど変わってはいない。
「ああ、久し振りだな」
加藤早苗はあまり会いたくない相手だった。
「千歳は光月大に行ってるんだって?」
「ああ」
「すごいじゃない!」
「まあ、結構勉強したしな」
「お前はどうしてるんだ?」
「私は東京の専門学校に通ってるわ。今は帰省してるの」
「そうか」
なんの専門学校か、とは聞かない。別にどうでもいい。
さっきまでの気分の良さは一気に吹っ飛んだ。
自分の心が沈んで行くのを感じる。
早くここを離れたい。
だが、加藤早苗はそんな俺の気持ちなど気づいていないようだ。
「千歳って、ロリコンだって噂だけど本当?」
「会っていきなり何だよ。どこ情報だ。嘘に決まってるだろ。俺はただのシスコンだ」
「それ胸張って言うことじゃないでしょ」
「俺は自分を客観的に見ることができるんだ」
ってこの言葉は昔誰かが言ってたな。
「それよりも誰がそんなこと言ってたんだ?」
「知ってどうするの?」
「仕事人に依頼しないとな。依頼料は千円で足りるだろう」
「安くない?」
「十分だろ」
加藤早苗はなんで俺に声をかけたんだ?
俺だったら気づいても気づかぬ振りして通り過ぎるところだ。
それとも向こうは昔のことなど大したことじゃないと思っているのか?
「そういえば先月の同窓会、なんで来なかったの?」
「その日はちょっとな」
っていうか、お前らに会いたくなかったんだよ。
「鉄は元気か?」
鉄こと城島鉄也は中学の時、親友、だと思ってた奴だ。
「さあ?」
「さあって、お前の彼氏だろ」
「もう何年も会ってないから」
「そうか」
別れたのか。
まあ、今更どうでもいいことだが。
俺達はお互いの現状を話して別れた。
実際に話した時間はせいぜい十分程度だ。だが、俺にはそれ以上に長く感じた。非常に苦痛な時間だった。
俺には幼馴染が二人いた。加藤早苗と城島鉄也だ。
加藤早苗は美少女というほどではないが十分可愛かったし、誰にでもやさしい性格から人気があったが、親しい男友達は俺達だけだった。
城島鉄也はいわゆる美形で噂になった子が何人もいた。だから城島鉄也は加藤早苗に恋愛感情はないと思い込んでいた。
それに加藤早苗は俺の事を好きだと思ってた。
そのとき何故そう思ったのかわからない。
中学二年の時、俺は加藤早苗に告白してフラれた。
ショックだった。
だが、それ以上にショックだったのがすでに加藤早苗と城島鉄也が付き合っていたことだ。
俺が親友だと思っていた二人は実は親友などではなく、ただの友達だったんだと知った。
それ以来、俺は二人と気まずくなった。
別々の高校に通うようになってからは会うこともなくなり、メールのやり取りすらしなくなった。
だがら二人が別れたのも今日まで知らなかった。
あれから四年ほど経ったが俺の心の傷は癒えてないんだと気づいてしまった。
情けないぜ。
だが、あのときの何ともいえない気持ち悪さが忘れられない。
あんな思いは二度としたくない。
だから俺は告白なんか二度としない。




