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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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31話 俺以外の祭り

 俺と皇は月ヶ丘アリーナ内の漫研のサークル席で待機していた。もうすぐ午前零時、一月一日だ。

 開場を待つ間、皇に俺の可愛い妹が俺のクリスマスプレゼントをいかに喜んだかを詳細に教えてやっていた。

 皇が困惑したように見えるのは気のせいだろう。俺の可愛い妹の話を聞いて嫌がる奴がこの世にいるはずがないのだ。


「ーーというわけで、妹は大喜びだった」

「それはよかったんだけどさ」

「ん?」

「プレゼントはサンタが渡さなくてよかったのかな?」


 ……は?今、皇は何を言ったんだ?


「妹ちゃんはサンタクロースをもう信じてないの?」

「……何を言ってるんだ、皇」

「え?」

 

 なんだその不思議そうな顔は。本当にわかっていないようだな。

 なら説明してやらねばならない。


「もし本当にサンタクロースからのプレゼントだって信じたらどうするんだ?」

「え?えーと、それでいいんじゃ……」

「いいわけあるか!」

「え?え?」

「そんなことしてサンタなんていうどこの馬の骨ともわからない奴が俺より好感度上がったらどうするんだ!」

「え?そんなこと……」

「あるんだよ!前回、それで父親が大爆死したんだ!ザマーミロ!はっはっは!」

「お、落ち着いて進藤。周りの目が痛いよ」


 そんなこと知るか!


「今回は特に妹が欲しくてたまらなかったアイテムだぞ!俺がプレゼントしなくちゃだめだろうが!」

「うん、ごめん、僕が悪かったよ。だからもうちょっと静かにね、ね?」


 皇は自分の間違いにやっと気づいたようだ。

 まったく、そんなことは普通、ちょっと考えればすぐわかることだろう。



 時計は午前零時を過ぎたが始まる様子はない。


「もう零時過ぎたよな?中止か?帰るか?」

「進藤、それは自分の願望だよ。初めてなんだからトラブルだってあるよ」

「それは残念だ」

「なんか機嫌悪いよね。ごめんね、無理なお願いして」

「それだけじゃない」

「そうなの?」

「今度バイトに入った奴がダメダメなんだ」

「それでストレスが溜まってるの?」

「ああ」


 言うまでもないが、ぷーこのことだ。

 隙あらばサボろうとしやがる。男共は甘いし女性陣はイラついて俺に文句をいう。

 ほんとまいったぜ。



 皇がイベントを満喫してる間、俺は一人店番をしていた。

 ちらりと山積みになった同人誌に目をやる。始まって一時間ほど経つがまだ一冊も売れていない。


 ま、売れようが売れまいが俺には関係ないからな。


 周りのサークルが売り込みを行なっている中で、俺は今回の店番の報酬である「ここどこ戦記」を取り出して読み始める。


 確かに皇のいう通りのようだ。

 このマンガに登場する怪物は俺が遭遇したレイマと容姿、能力が非常に似ている。

 この作者はレイマのことを知っている。

 ということはこの作者はぷーこ達の組織の人間なのだろうか?

 もしそうならその目的は一体なんだ?ゆっくりと世間にレイマや異世界の存在を知らせようとしていたのだろうか?

 ……違うな。

 だったらもっとうまく宣伝するはずだ。

 うん、さっぱりわからん。



 「ここどこ戦記」を読んでいる間に何故か二冊売れた。

 いや、何故か、っていうのは漫研に失礼だったか。

 でもなあ、始まる前に読ませてもらったのだが正直に言って漫研作成の同人誌は絵はそこそこ、ストーリーはイマイチだ。

 まあ、皇が描いたマンガだけはなかなか面白かったけどな。

 アニメかマンガのパロディみたいだがその元ネタを知らない俺でも笑えたからな。



「楽しんでる?」


 聞き覚えのある声だった。本を読むのをやめ、顔を上げる。


「……アヴリルか?」

「よくわかったわね」

「まあな。ぷーことは雰囲気が違う」

「ふふ。あ、そのイヤホンつけてるんだ」

 

 一目でわかるか。

 俺がつけていたワイヤレスイヤホンは、霊など普通の人間には見えないものを見ることができるアイテムだ。

 人が多い場所には霊も集まる、と聞いたことがあるからこの会場に入ってからつけて様子を見ていたのだ。

 にゃっく達が万全な状態でない今、霊達に気づかれ襲われる可能性があるが、霊を見る度に動揺するのもまずい。周りには挙動不審な奴にしか見えないからある程度慣れておく必要があると思ったのだ。アレキサンダーのような無害の霊もいるし、全ての霊が攻撃的なわけじゃないしな。

 幸い、今はみーちゃんが定期的にパソコンを見てるので、もしもの場合には組織へ連絡してくれると思っている。

 みーちゃんから渡された手紙に書かれていたメールアドレスに送ってもいいしな。


「何かいた?」

「いや。で、今日は何の用だ?」

「それはもちろん、」

 そういってアヴリルは同人誌を手に取る。


「これを買いに」

「んなわけないだろ?」

「ふふ」


 アヴリルが俺に顔を寄せる。

 鼓動が早くなるのを感じた。

 アヴリルは美しい。

 それはつまり同じ姿のぷーこも美しいということになるのだが、不思議なことにぷーこにされてもなんとも思わなかっただろう。

 その前に頭ぐりぐりをお見舞いしていたに違いない。


「まだ、メール来ないんだけど?」

「……なに?」


 あのメールアドレスに送ればアヴリルと連絡がつくのか?

 

「あれはお前のアドレスなのか?てっきり探偵事務所のジジイかと思ってたんだが」

「酷いわね。自分の祖父に向かってジジイなんて」


 ……は?今なんて言った?


 アヴリルが俺から視線を外した。アヴリルの見ている方向へ目を向けると皇が戻ってくるところだった。


「じゃ、返事待ってるから」


 そういうと千円札を置いて離れていく。


「おい、おつり!」

「ぷーこの迷惑代にとっておいて」

「全然足りねえよ!」


 しかし、アヴリルは振り返ることもなく人混みに消えた。


 あの爺さんが俺の祖父だと?

 父方の祖父ではない。

 となると死んだと聞かされていた母方のほうか?写真は残っていないと聞いており一度も顔を見たことがない。

 今までは気にしていなかったが考えてみると不自然だよな。

 アヴリルの言ったことが本当なら何故母さん達は嘘をついたのだろう?

 いや、それよりも俺の家族は組織とやらと関係しているのか?

 今度ばあちゃんのところへ行くからそのときに聞いてみるか。


 っていうか、またぷーことアヴリルの関係を聞きそびれたぜ。

 

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