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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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28話 ぷーこ、真実を語る?

 十二月二十四日。

 今日はケーキとチキンがよく売れる日だ。

 それ以外特に言うことはない。


「千歳、あなたはクリスマスに予定ないの?」


 く、その言葉を言ってしまったか、母上よ。


「バイトがあるんだよ」

「予定がないからバイトを入れたんでしょ?」


 うるせえな。


「ほら、新田さんは?」

「家族で過ごすみたいだな」


 と皇が言っていたな。情報源は皇嫁だ。


「皇君は?私、皇君のお嫁さんに会ってみたいわ」


 会わなくていい。


「大晦日にやるイベントで忙しいらしいな」


 それで嫁に文句言われているらしいが、そこまでいう必要はないよな。


 まだ何か言いたそうな顔をしてたのでちょっと早いが、バイトに出かけることにした。



 俺が卯月駅を出ると見覚えのある少女が目に入った。


「みーちゃん知らない?」

「……」

「みーちゃんが家出して大変なのよ。主にあたしのお小遣いが」

「……」


 客観的に見てぷーこは美少女だ。だがコイツに対しては全く恋愛感情が湧かない。

 同じ顔のアヴリルとは大違いだ。

 いったい何が違うのか?

 もちろん性格以外にだ。


 ……わからん。


 それはそれとしてだ、


「よくもまあ俺の前にのこのこと顔を出せたな。他に言うことがあるんじゃないか?

「お金貸して」

「……」

「お金貸してください、これで文句ないでしょ!」

 そう言って手を突き出すぷーこ。


「アホか!自分から誘っといて自分だけ安全なところにいやがって!死ぬかもしれなかったんだぞ!」

「……なんだそんなこと」

「……そんなこと、だと?」

「ほんとケツの穴の小さい奴ね!」

「お前のはさぞデカいんだろうな!」

「変態!ちょー変態!」

 ぷーこは自分の尻を手で隠す。


「お前が先に言ったんだろうが!」

「うるさいわね、しょうがないじゃない。あれには深い理由があるのよ!」


 俺達の言い争いを通行人がちらちら見ていくのに気付いた。

 駅前でこんな話をするのは目立つな。

 早く家を出たからバイトまではまだ時間があるし、あそこへ行くか。


「場所を変えるぞ」

「そう言ってホテルに連れ込む気ね!そんな手に乗るわけないでしょ!」

「勝手に言ってろ」

 

 俺はさっさとその場を離れる。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 言うまでもなく俺は無視。


「どこ行く気よ!」



 なんだかんだ言いながらもついてくるぷーこ。

 俺がぷーこを連れてきたのは以前、ぷーこそっくりの少女、アヴリルに連れてこられた喫茶店、<青い宝石>だ。


「何よここ。なんかボロそう」


 やはり、こいつはここを知らないのか。


 俺はぷーこの文句を無視し店内に入る。ぷーこはぶつぶつ言いながらも後からついて来てた。


「……へえ、中は案外いいじゃない。あたしを満足させられたらお気に入りにしてあげてもいいわね」

「お前は何様だ」


 店内に客は少なく、俺達は出迎えた店員に案内された席に着く。

 その席は他の客との距離が結構離れていた。これなら多少大声を出しても大丈夫だろう。


「俺はレモンティーだな」

「何頼んでもいいよね?」

「その言い方だと俺がおごるように聞こえるな」

「じゃあ、このオススメケーキセットを、あ、でもおごりならもうちょっと高いやつでいいか」


 ぷーこには俺の言葉が聞こえなかったようだ。

 まあ、いつものことだがな。


 ぷーこはスペシャルケーキセットとアイスティーを注文した。値段は千八百円(税込)だ。

 ちなみに俺のレモンティーは七百円(税込)だ。

 結構な値段だよな。


「じゃあ、深い理由とやらを聞かせてもらおうか」

「そうね、あんたの大きな誤解を解かないとね」

「誤解だと?」


 ぷーこは殺人鬼退治に出撃する時の出来事を話し始めた。


「あたしは一人で出撃するつもりだったの。『みーちゃん、あたし行くね、あんな奴だけど、放っては置けないの、べ、別にあいつのことなんてなんとも思ってないんだからね!』」

「そんな芝居いらねえ」


 ぷう、とぷーこは頬を膨らませる。


「あたしが、決戦兵器<プリンセス・イーエス>に乗り込もうとした時よ。みーちゃんはあたしがほんの一瞬見せた隙を見逃さずに、あたしの鳩尾にパンチを放ったの」


 うっ、と蹲る演技するぷーこ。

 だからそんな演技いらねえんだよ。


「『ど、どうして、みーちゃん……』あたしが気を失う直前に見たのはみーちゃんの死を覚悟した笑顔だったわ」


 死を覚悟した笑顔ってどんな笑顔だよ。


「それでみーちゃんは私の代わりに<プリンセス・イーエス>に乗り込んで出撃したってわけ。愛するあたしのために!」


 自分の話に酔ったぷーこはうっすら涙を浮かべてたりする。


 あほだ、こいつ。


 あほ話はまだ続くようだったが、店員が注文したものを運んできたので話は中断した。

 相変わらずのぷーこのばかっぷりに腹立たしいと思う反面、どこかホッとした。



 ぷーこは数分でケーキを完食し、満足げな顔をしながらアイスティーをずずっと飲む。


「もういいだろ、さっさと続きを話せ。俺はお前と違って暇じゃないんだ」

「何?その言い方。まるであたしがあんたより暇みたいじゃない」

「みたい、じゃない、事実だろ」


 ぷーこはまだ文句言いたそうな顔をしながらも続きを話し始める。


「あたしが病院で目覚めたときにはすべてが終わっていたわ。三日も経ってたのよ」

「病院?」

「ええ、緊急手術したのよ。もちろん手術は無事成功したんだけど、リハビリに時間がかかっちゃって会いに来るのが遅くなったの」

「……もしそれが本当ならどんだけみーちゃん加減知らないんだ。お前を殺す気だったんじゃないか?」

「違うわよ!皇帝猫の必殺技のひとつ、<全殺し一歩前>を使ったのよ!ヒットポイントを1だけ残すという技なの」

「うそつけ!大体なんだ、そのヒットポイントって、ゲームじゃないんだぞ!それにな、そんな技があるならなんで今までの戦いでにゃっく達は使わなかったんだ?」

「下っ端にしか効かないのよ」


 言い切ったよ、こいつ。自分を下っ端って。

 まあ、自分の言ったことの意味に気づいていないんだろうな。

 ばかだから。


「まあ、いい。おまえの力説に反論してやろう」

「ええっ⁉︎!今の完璧な説明に⁈」

「どこがだ!ーーまず、おまえがあのロボットに乗る気だったらしいがーー」

「<プリンセス・イーエス>よ!」

「名前なんてどうでもいいんだよ。あれの操縦席はランドセルだったんだろ?お前が乗れる訳ないだろう」

「げ、減量すればなんとかなるわよっ」

「どんなに減量したってお前の体がランドセルに入るわけないだろう!」

「う、そ、それは、そう、操縦席は換装式だったのよっ」

「ほう、じゃあ何を背負うつもりだったんだ?」

「え?えーと、と、トランクなんかどうかな?」

「何故俺に聞く?」

「えへへ」

「お前の言う通り、お前用の操縦席があったとしてだ、なんでみーちゃん用の操縦席があったんだ?」

「ほら、よく言うじゃない、『こんなこともあろうかと』って、あれよ、あれ!」

「だれが用意したんだ?」

「みーちゃんが極秘で開発してたのよ!そう、極秘で!」

「そうか」

「納得したのね!あんたの頭でもわかるように説明したんだから……って痛い!いたい!いたーい!」

「おお、わりい、わりい」


 俺はぷーこのこめかみをグリグリするのをやめた。

 ぷーこが目に涙を溜めて睨む。

 ちょっと罪悪感。ほんのちょっとだけな。


「あの戦闘時、手術してたんだっけか?」

「そうよ!」

「おかしいな」

「何がよっ!」

「ノリノリで声当ててたよな」

「そ、それはあたしじゃないわよ!ご、合成音よ!」

「そうなのか?」

「そうなのよ」

「ふうん」

「納得したのね?」


 するかバカ。


「それにしてもあのロボット、<プリンセス・イーエス>だったか。よく出来てたよな。最初ロボットだって気付かなかったからな」

「そうでしょ、あたし達の組織の科学は世界一ぃ!」

「特にあの”ガッツポーズ”は見事だったな」

「そうでしょ、そうでしょ!あたしが入れたのよ!」


 簡単に引っかかったな。俺の意図に気づかず自慢げな顔のぷーこ。


「ほんとはねっ、あのコマンドは<ファイナルパンチ>だったんだけど、あたしがこっそり入れ替えてたのよ!」


 やっぱりか、あの化け物、レイマのことをよく知ってるはずの皇帝猫が、確実に倒したかもわからない状況で安易にガッツポーズをとったりしないだろうと思ってたんだ。

 俺達をピンチに追いやったのはコイツだったというわけだ。

 バカには刃物だけじゃなくスキルも与えてはダメだな。

 俺の表情の変化でぷーこは口が滑ったと気づいたようだ。


「み、みーちゃんも同意の上だったのよ!」

「さっきこっそり、って言わなかったか?」

「言ってないわよ!」

「そうか、今度みーちゃんに会ったら聞いてみるぜ」

「そ、その前にちょっとあたしに話させて」

「聞こえんな。ーーもしお前の言うことが嘘だったらーーわかってるな?」

「くっ、お、覚えてなさいよ!」

 捨て台詞を吐いて逃げ出すぷーこ。


「勿論、忘れねえよ、お前がやったことはな」

「そ、そっちは忘れなさいよ!」


 やれやれだぜ。

 ぷーこのやった事は一歩間違えば死んでいるところだった。それでもぷーこに対して冷静に対処できたのは俺の可愛い妹のおかげだ。

 俺の可愛い妹にはいつまでも”尊敬できるお兄ちゃん”でいたいからな。


 ぷーこよ、俺の可愛い妹に感謝するんだぞ。


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