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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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26話 皇の相談

 俺と皇は小場Q百貨店の七階にある映画館にいた。

 この小場Q百貨店は以前、俺の可愛い妹の誕生日プレゼントを買ったところだ。


 予約しなくても大丈夫だろうと思って来てみたら次上映のチケットは完売だった。


「こんなに人気あったか?スペーストレック」

「うーん、まあ、今回は前人気が高かったからね。あとなんと言っても今日は千円で観れる日だからね」

「油断したなぁ。前もってネットで確認しておくんだったな」

「そうだね。どうする?三時間近くあるし、喫茶店にでも入る?」

「そうだな」


 ちょうどいい。新田さんの誕生日プレゼントの相談してみるか。皇もプレゼント贈るなら共同でってのもありだよな。



 俺達は六階のレストランコーナーにある喫茶店に入った。

 俺達はケーキセットを頼んだ。ケーキは二人ともいちごのショートだが、飲み物は俺がレモンティーで、皇はコーヒーだ。


「お前、コーヒー嫌いじゃなかったか?」

「寝不足なんだ」

「そりゃ、昨日頑張りすぎたか」

「うーん、誤解してそうなんで補足しておくとマンガを朝方まで描いてたんだ」

「そういうことにしておこう」

「事実なんだけどね」

「ところで、新田さんに誕生日プレゼント贈るよな?」

「うん。僕はつかさちゃんと一緒に贈ることにしたよ」

「何にしたんだ?」

「さあ?」

「……」

「つかさちゃん任せだから」

「役に立たんな」

「いやあ」

「ほめてねえよ」

「進藤はどうするの?もう決めた?」

「アクセサリーがいいかなぁと思って店で見てたんだけど……ってなんだ?」


 その困ったような表情は。


「進藤は新田さんの好み知ってるの?好きな色とかでもいいけど」

「知らん」

「と言うことは進藤の好みで選ぼうとしたの?」

「……そうなるな」


 皇の言いたいことがわかったぞ。

 身に付けるものだ。

 気に入らないデザインだったとしても彼氏からのプレゼントなら一度くらい着けてもらえるかもしれないが、俺はただの友達だからな。

 一度も着けて貰えねえかもしれん。

 下手したら即、売られたりして。


「僕はアクセサリーはやめた方がいいと思うな」

「そうだな……」


 だがあのブルーサファイアのペンダントは気になるんだよな。


「それでも贈りたいの?」

「いや、そうじゃなくってだな、その店でな、すごく気になったペンダントがあったんだ。プレゼントどうこうじゃなく、なんて言うのかな、見た瞬間すごく魅かれたんだ。自分用に買おうかと思ったんだが高いんだ、これが」

「へえ、珍しいね、進藤が妹ちゃん以外に魅かれるものがあるなんて」

「失礼なやつだな」

「こう言うのはどうかな?実はそのペンダントは人を死に導く呪われたアイテムで所有者を変えならがらついにこの街へやって来た、っていうのは?」

「それ、『ホープダイヤモンド』のパクリじゃないか?」

「だめ?」

「そういう問題じゃない、っていうかお前は俺を殺したいのか?」

「ははは」


「話が逸れたが、物はやめた方がいいかな。……飯でもおごるか」

 後に何も残らんし。


「それでいいんじゃない?デートだね?」

 なんだ、その嬉しそうな顔は?


「お前等も来るんだよ」

「ゴチです」

「アホか」


「そういや、今日は嫁来なかったんだな」

「うん、この映画に興味ないって。それに……」

「ちょっと待て」

 俺は今の皇の言葉に含まれた真実に気づいた。


「前は買い物について来たよな。」

「うん?ああ、あれは……」

「っていうことはお前の嫁、俺の妹に興味があるってことか!?俺から妹の情報を聞き出そうとしてたのか!」

「え?何言ってるの?あれはね……」

「お前の嫁、妊娠してるな!?男が生まれるとわかって俺の妹を嫁にしようと狙ってる……」

「違うよ、落ち着いてよ、進藤。あれは進藤がどういう人か見に来たんだよ」

「……本当か?神に誓うか?」

「……僕、やっぱり進藤が道を外しそうで心配だよ……もう手遅れかな?」

「どういう意味だよ?」

「そういう意味だよ」


 ぜんぜんわからんぞ。

 妹思いの優しいお兄ちゃんだろ。称賛されることはあっても心配されるようなことじゃないだろう。

 

「あとね、今日は新田さんと遊ぶんだってさ」

「取って付けたような言い訳だな」

「言おうとしたのを進藤が遮ったんじゃないか」

「まあ、そういうことにしておこう。新田さんにお前達の変な性癖押し付けるなよ」

「どういう意味かな?」

「そういう意味だ」


 新田さんが二人の影響を受け、自分の恥を嬉しそうに周りの人に話すようになったら間違いなく俺があのおやじに殺されるな。



「話は変わるけど進藤にお願いがあるんだ」

「なんだ?妹はやらんぞ」

「だから話を変えるって言ったよね。実はね、大晦日に月ヶ丘アリーナでやるイベントに漫研が出店することになったんだけど、スタッフが足りなくてね。出来れば手伝ってほしいなあと思ってるんだけど」

「無理だ。大晦日はシフトが入ってる」

「それは大丈夫だと思うよ。時間は夜十一時から翌朝の九時頃までだから」

「断る。それじゃ俺は徹夜になるじゃないか。それに正月朝一番に妹の顔が見れん」

「そこをなんとか。もちろん、ただとは言わないよ」

「ほう。それは『魔法少女ぜりん』の非売品か何かか?」

「違うよ。……ちなみに欲しいのは進藤自身じゃなくて妹ちゃんのためだよね?」

「当たり前だ」

「それを聞いてちょっとだけ安心したよ」

「なんだそりゃ?まあいい、今ので可能性はほぼゼロになったが、とりあえず言ってみろよ」

「進藤、『東京テロ』のときメールくれたよね」

「……ああ」

「あの事件、それと前に起きた『集団記憶喪失事件』もだけど、妙な噂が流れてるの知ってる?事件を起こしたのが実は化け物だって」

「……まあな」

 三流週刊誌で特集組まれてたしな。


「あの連続殺人鬼も実は化け物だって話もあるんだよ」

「……」

「興味あるみたいだね?」

「……それで?」

「その化け物が出てくるマンガがあるんだ」


 なん、だと?


「……偶然だろ?」

「あとムーンシーカーが使えるっていう能力も描かれてるんだ」

「……いつからムーンシーカーが特別な力が使える、っていうのが既成事実になったんだ?お前は見たことあるのか?」

「残念ながら僕はないよ。ムーンシーカーだってそんなに多いわけじゃないしね。でも興味が出たんじゃない?」

「……少しな」

 ほんとはすごい気になった。偶然に決まっていると思うが、もしもって事もある。


「その本はなんていうんだ?」

「『ここどこ戦記』っていうんだけど」

「『ここどこせんき』?聞いたことないな」

「マイナーだからね。有名だったら進藤だって知ってたはずでしょ?」

「まあそうだな」

「なかなか手には入らないんだけど僕は古本屋で手に入れたんだ。もし手伝ってくれたら進藤に貸すよ」

「いくらで買ったんだ?」

「四千五百円だったかな」

「バカだな、取寄せりゃよかっただろ?」

「いや、どうしても欲しかったんだよ。進藤のペンダントと一緒だよ。見た瞬間、欲しくなっっちゃんたんだ。後悔はしてないよ」

「……」

「進藤?」

「皇、お前の敗因はうっかり本の名を口走ったことだ」

「え?」

「確かに興味はある。だが買えばいい。なければ取り寄せればいい。それだけだ。古本屋で何倍もの金出すなんて馬鹿げてるぜ」

「そうかな?」

「という事で諦めろ」

「うーん、まだ時間はあるしね。気が変わったら言ってね」

「そんな日は何百年経っても来んな!」

「そこは千年って言うべきじゃないかな?千歳だけに」


 なんだ、その余裕は?



 映画を見終わり、夕食を済ませて皇と別れた。

 皐月駅の改札を出て数分歩いたところである事を思い出し、駅へ引き返した。


 小場Q百貨店へ出かける前のことだ。

 俺はみーちゃんにがま口を返すのを忘れていた事を思い出した。寝ているみーちゃんにがま口をつけようとしたところでみーちゃんは目を覚ました。器用にがま口を開けると、ロッカーの暗証番号が記入された紙を俺に渡してきたのだ。

「遅くなるぞ」と言うとそのでっかい頭で大きく頷き、そのまま眠ってしまった。



 レンタルロッカーの前でスマホのメモ帳を起動させ、ロッカーの暗証番号を確認して該当ロッカーを開けた。

 リュックが一つ入っており、中にはトナカイの着ぐるみとポーチが見えた。

 トナカイの着ぐるみは殺人鬼との戦闘後のままのようであちこち破れていた。


 そんなに気に入っていたのか?


 俺はリュックを担ぐと家に向かった。


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