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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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24話 再会

「やられたー」

 倒れた俺の目に入ったのは見慣れたリビングの天井だった。

 さっきまで俺は世界征服を目論む悪の組織ワルンの怪人だった。

 だが超絶可愛い魔法少女ぜりんによって倒されたのだった。



 魔法少女ぜりんは今子供達の間で絶大な人気を誇っている特撮テレビドラマだ。

 その名からピンとくるかもしれないが、魔法少女ぜりんはゼリーを食べることによって魔法少女に変身する。

 いうまでもなくスポンサーはお菓子メーカーだ。ぜりん人気で関連商品が売れに売れ、株価は高値を更新しており、皇の話では映画化が決まったらしい。


 今、世間では魔法少女ぜりんと以前ぷーこが話していた魔法使いパピポとで人気を二分しているらしい。

 魔法少女ぜりんと魔法使いパピポは特撮とアニメという違い以外に視聴者層も異なる。

 魔法少女ぜりんの主人公木の下ぜりんが小学生であることからわかる通りターゲットは小学生かそれ以下の子供だ。それに対し魔法使いパピポの主人公パピポは高校生でそれ以外の層を狙って作られている。

 そのためか変身シーンにも大きな違いがある。

 魔法少女ぜりんは変身の際、レオタードのような姿になるのだが、パピポは素っ裸だ。もちろん?テレビ放送では発光して見えなくなっているが、セルではその発光が取り除かれているらしい。

 俺がぜりんに詳しいのはロリコンだからでも皇の趣味が感染したわけでもない。

 すべては俺の可愛い妹のためだ。

 パピポはぜりんと人気を二分しているとネットで知ったので参考にちょっと調べてみただけで一度も見たことはない。



「せいぎはかつぜりん!」


 魔法少女ぜりんのコスチュームをまとった俺の可愛い妹が右手のステッキを振り回して決めゼリフを叫ぶ。

 左腕にしがみついているパートナーの妖精が眠そうな顔をしながら魔法少女の叫びに呼応して右前足を上げた。

 いうまでもなく妖精役はにゃっくだ。

 にゃっくはあの殺人鬼との戦いのあとは寝ていることが多く、起きているのはごはんを食べている時か、俺の可愛い妹にせがまれて遊んでいる時だけだ。

 今回もにゃっくは眠っていたところを魔法少女ごっこに強制参加させられたのだが、嫌な顔もせず(少なくとも俺には見えない)見事期待に応えた。

 相変わらずよくできた猫だぜ。



 本来、怪人役は父親がやるものと日本の法律で決まっているはずだが、あいにく父親は仕事でいない。

 そこで魔法少女を影から助けるお兄ちゃん役をやるはずの俺が怪人をやることになったのだ。


 ……さて、どうするか。


 俺は怪人役に慣れていないのでいつ「怪人」から「大好きお兄ちゃん」に戻ったらいいのかわからなかった。

 実はすでに一度倒されており、そのときは俺の可愛い妹が変身を解く(着替える)前に「大好きお兄ちゃん」に戻ってしまい、早すぎると怒られてしまったのだ。


 同じ過ちを犯すわけにはいかないので薄目を開けて俺の可愛い妹が変身を解くのを待っているのだが、とてもご機嫌な様子でまったく変身を解く様子はない。それどころか魔法少女ぜりんの主題歌を歌い始めた。

 その天使のような、いや、女神のような歌声に俺はウトウトし始めた。


 どんっ


「うっ」


 俺は何かが腹の上に落ちてきた衝撃で目が覚めた。

 それは女神だった。いや、俺の可愛い妹だった。


「びっくりしたなぁ」


 どのくらい眠っていたのか、

 俺の可愛い妹はすでに変身を解いていた。


 一人で着替えられたか、偉いな。

 ん?にゃっくがいないな。


 と思ったらリビングの隅で丸くなって寝ていた。


「にーたん、外に何かいるぞぉ!」

「なに?」


 俺の可愛い妹が外を指差す。その先に見えるのはアレキサンダーの犬小屋だった。


 まさかアレキサンダー⁈

 いや、でもアレキサンダーは成仏したはず。それに普通の人間に霊が見えるはずはない。


 そこで俺は大きな間違いに気づいた。


 俺の可愛い妹の可愛さは普通じゃない!


 俺は起き上がると俺の可愛い妹を後ろに下がらせた。

 リビングから窓越しに犬小屋をジッと見つめると中で何かが動くのが見えた。


 確かになにかいる!

 今の俺はあのイヤホンをつけていないから霊的なものではないはずだ。


 正体を確かめるため外に出ようとした俺は俺の可愛い妹がキッチンに向かったのに気付いた。

 間違いなくぜりんに変身するためにゼリーを取りに行ったのだ。


「ちょっと待つんだ。今日はあと一回しか変身できないんだぞ」


 そう、魔法少女ぜりんは一日三回しか変身できない設定なのだ。

 これはゼリーの食べ過ぎを注意するために菓子メーカーが要求した設定だと俺は思っている。


 俺の可愛い妹は素直に従った。


 うん、いい子だぜ。


 俺がにゃっくを抱きかかえると半目で俺を見た。


「妹を頼む」


 にゃっくはすぐに状況を理解したらしく小さくうなずくと、俺の可愛い妹の肩に乗った。


 よし、これで何かあっても俺の可愛い妹は大丈夫だろう。



「さぶっ」


 外に出ると自然と言葉が出た。

 まだ昼前だというのに外は暗く、空を見上げると雲が覆っていた。

 そしてぱらぱらと白いものが落ちてくる。


 雪だ。

 寒いわけだぜ。


 俺は犬小屋に慎重に近づくとそっと中を覗き込んだ。

 小さい白い生き物が寒さに身を震わせていた。


「……みーちゃん?」


 そう、それはあの殺人鬼との戦い以来姿を消していた皇帝猫のみーちゃんだった。



 みーちゃんはひどく汚れていた。

 俺はみーちゃんを抱きかかえ家に入ると、玄関で俺の可愛い妹とにゃっくが待っていた。

 にゃっくとみーちゃんは目が合うとお互いに小さく頷いた。

 みーちゃんに抱きつこうとする俺の可愛い妹に「綺麗にしてからな」と言って我慢させると風呂場に直行し、汚れた体を洗ってやる。

 みーちゃんはその間ずっとおとなしくしていた。

 その様子をまだかまだかと待っている俺の可愛い妹。

 にゃっくは危険がないとわかったからだろう、その姿はなかった。



 みーちゃんは温めたミルクを目を閉じながら飲んだ。

 いや、眠りながら飲んだが正しいな。


「みーちゃ、みーちゃ!」


 みーちゃんがミルクを飲み終わるや否や俺の可愛い妹がみーちゃんを抱き上げて頭をなでなでする。


「わっ、ちょっと……でけー!ちょうでけー!」

「ちょきー!ちょっきー!」


 ぴょん、と立った逆毛を見てしまった俺と俺の可愛い妹は絶叫した。

 いやー、卑猥な言葉が出なくてよかったぜ。俺の可愛い妹の耳を汚すわけにはいかないからな。



 今までどうしていたのか?

 ぷーこはどうしているのか?

 いろいろ聞きたいことはあるが後回しだな。


 俺の可愛い妹がみーちゃんを離さないし、肝心のみーちゃんは眠ってしまっている。



 買い物から帰ってきた母がみーちゃんの姿を見つけ無言で俺を見る。


 まあ、理由はわかる。


「しばらくみーちゃんを預かる事になった」

「ぷーこちゃんの猫よね?あの子はどうしたの?」

「ちょっと入院する事になった」

「ここ?」

 そういって母は自分のこめかみを指差す。


「そうだ」

「じゃあしょうがないわね」


 ……納得してくれたんだ、よしとしよう。



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