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23話 皇帝猫よ永遠に

 レイマは頭を吹き飛ばされても死んではいなかった。

 そもそもあれは頭ではなかったのかもしれない。レイマと化した時点で人間とは構造が異なっていたんだ。


 ぷーこが死んだ⁈


 だが、

「まだメインカメラがやられただけよ!」


 そう叫び、首を失ったぷーこ(改)は立ち上がった。

 叫んだのは飛ばされた頭の方だ。

 本体の首からは大量の出血、はなくコードや機械類が現れていた。

 ほっとしたもののすぐに疑問が湧く。


「お前、どこにいるんだ⁈腹の中か⁈」

「腹の中などいない!」

「なに⁈じゃあ、どっかでリモートコントロールしてるってか⁉︎」

 俺のスマホは相変わらず電波が途切れている。こいつのは<領域>にも届く特別製ってわけか?


「ふふふ」

「ふざけるなよ!」

 俺とにゃっくだけ危険に晒しやがって!

 生きて帰れたらどうしてやろうか!このやろう!


「動けるならさっさと戦いに参加しろ!にゃっくだけじゃきついだろ!」

 にゃっくは明らかに劣勢だった。にゃっくの名誉のために言っておくがこれは寒さの影響が大きいと思う。以前より動きが明らかに鈍いのだ。もし万全の状態ならにゃっくだけで倒すことができたかもしれない。


「しまった!」

「今度はなんだ⁉︎」

「サブカメラはサングラスだった!」

 サングラスは額に乗せていた。

「……」


「大丈夫、サブサブカメラがあるから」

 左手の掌がパックリ裂け目が現れる。そして右手でランドセルから縦笛を引き抜いた。縦笛が赤く発光する。

「行くわよ!化物め!」

「……いや、もうどっちもバケモンだよ」


 ぷーこ(改)の戦闘力は明らかに低下していた。全身の発光も止まっている。

「なんでスーパーモードを使わないんだ!」

「それはね、」

 声は頭から聞こえるがもう口は動いていない。バッテリーが切れかかっているのか?

「スーパーモードを発動するには頭の回路が必要だったらしいの。飾りじゃなかったのね」

「おまえのと違ってな!」

 おれは即座に突っ込んでいた。



 俺の見る限りこいつは四季が倒したレイマより弱い。その証拠に俺は赤い目に見つめられても身動きできない程の恐怖は感じていない。いや、確かに慣れはあると思うが、それでもこいつは前の奴より弱い。

 

 スーパモードを使えないぷーこ(改)ではレイマを抑えることができなかった。サブサブカメラを内蔵した左腕がレイマの触手で吹き飛ばされるのとほぼ同時にランドセルが後方へ射出された。

 ランドセルが開き、中から飛び出したのは、


「みーちゃん⁉︎」


 ぷーこ(改)を実際に動かしていたのはみーちゃんだったのか?

 ぷーこはただ声を当てていただけだったのか?


 みーちゃんは着地と同時にレイマに突撃する。みーちゃんはトナカイの服を着ていた。前に来た時に母がプレゼントしたやつだ。まさか着る日が来るとはな。みーちゃんなら戦闘服とか持ってると思ったんだが。

 まあ、これでサンタとトナカイが揃ったな……今はどうでもいいか。



 「……まずいな」

 ぷーこ(改)によって結構ダメージを負わせたはずであるが、レイマは尋常ならざるスピードで修復していく。問題はまだある。レイマが戦いに慣れてきていることだ。

 当初優勢だったのは、レイマ自身が変態した体に慣れていなかったからだったんだ。今は触手攻撃の精度が高くなり完全に避けるのが困難になりつつある。二騎の皇帝猫は服のあちこちが裂け、血が滲んでいる。どれもかすり傷だが、このまま戦いが長引けば非常にまずい。


 何か俺に出来ることはないか考えるが何も浮かばない。今俺が近づけば一瞬で触手の餌食だ。

 そのときぷーこの歓喜の叫びを耳にした。

「援軍よ!」



 辺りを見回す。

 いた!


 俺はてっきりぷーこの師匠達が助けに来たかと思ったが違った。

 皇帝猫だった。

 応援を呼んだのはみーちゃんだろう。やっぱり頼りになるな、みーちゃん!

 新たに現れたのは三騎。その中の一騎はアメリカにいるはずのアルカポネだ。

 写真とは違い、防寒用?にスーツと帽子を被っているが、葉巻をくわえ、勝ち誇ったような顔は見間違えようがない。


 皇帝猫達がレイマに向かって突撃する。

「来てくれたのね!アルカポネ!それに……ジュウベイ!……マサムネ!」

 ジュウベイとマサムネは今考えただろ。


 ぷーこがジュウベイ、マサムネと呼んだ猫は片方の目に眼帯をしていた 。

 左目に眼帯をし黒装束を纏っているのがジュウベイで右目に眼帯をし陣羽織に兜を被っているのがマサムネだろうか。



「……ん?」

 皇帝猫達のさらに後ろから皇帝猫とは異なるものがついてくるのに気づいた。

「ドラゴン⁉︎」

 その姿は西洋のドラゴンにそっくりだった。

 ロールプレイゲームでラスボスを務めるほどの超強力なモンスターだから説明は不要だよな?

 だが、そのサイズはとても小さい。

 たぶん全長三十センチメートル程度だ。

「ラサロンじゃない!」

「ラサロン?」

「そう、ラサロン!皇帝猫と双璧をなす存在よ!ことわざにもあるでしょ、竜猫相搏つって!」

 ねえよ。


「味方なのか?」

「バカね!当たり前でしょ!もう勝ったも同然ね!」

 おまえにだけはバカと言われたくねえよ。


 ぷーこの言葉を聞き、俺も勝利を確信した。

 かといえばそうではなかった。

 この竜、ラサロンか、は様子が変だ。どこか困惑顔をしているように見える。

 その表情は愛くるしく好感が持てるが、ぷーこのいう強さを全く感じない。

 皇帝猫達についてきたのは戦うためではなく、みんなが向かうから、みたいな感じでどこに向かってるのかも知らずについて来たんじゃないか?

 ラサロンは足を止めると、右手?に持ったぺろぺろキャンディーをぺろぺろしながら目をきょろきょろさせる。


 やっぱりここがどこかわかっていないんじゃないか?


 「ふぃふー」


 そのどこか間の抜けた鳴き声を聞いた瞬間、俺は確信した。

 こいつはハズレだ。


 ラサロンは俺と目が合うととたとたとそばにやってきた。そして皇帝猫達に向かって、


 「ふぃふー」


 と声援?を送り始める。

 自分で戦う気はまったくないようだ。まあ、だからって俺にコイツを非難する資格はない。俺も同じだからな。


 俺が皇帝猫達の戦いに目を向けていると下から視線を感じた。顔を向けるとラサロンがお腹をさすりながら何かを要求するような目を俺に向けていた。

 その手にはすでにぺろぺろキャンディーはない。

「腹が減ったってか」


 お前は試合観戦にでも来たつもりか。まったく。

「生憎だが、食いもんは持ってないぞ」

 俺の言葉を理解したらしく悲しそうな顔をした。

 ……ほんとおまえ、何しにきたんだよ。


 俺はとりあえずジャケットのポケットを探ってみるとガムがあった。そういや一週間くらい前に買ったな。

「食うか?」

「ふぃふー!」

 くれくれと催促するラサロン。

 俺からガムを受け取ると口に放り込み、もぐもぐしながら観戦を再会する。


 いやもう緊張感なしだぞ。これで死んだら洒落にならん。俺はゆるんだ気を引き締めた。



 皇帝猫が五騎になり、最初は優勢だったがまたも膠着状態になっていた。


「……まさかあのレイマ、遊んでやがるのか?」


 ……いや、遊んでいる、というのは正しくないな。奴はにゃっく達で戦闘経験を積んでいるんだ。早く今の体に慣れるために。にゃっく達はいつでも倒すことができるからと。



 アルカポネは息が上がっていた。


 そりゃそうだろう。葉巻なんかくわえてるからだ。

「そんなもん捨てろよ!」

 だが、アルカポネは捨てない。それがトレードマークだからだろうか。


 ジュウベエ?とマサムネ?は時折眼帯をズラす。ここから見る限りではその目に異常は見られない。

 コイツ等の眼帯は飾りだな。邪魔なだけなのに外さないのはそれがトレードマークだからだろうか。



 アルカポネが触手を間一髪で回避するが、葉巻の先端をかすり摩擦で火がついた。


 ごほっ、


 アルカポネは慌てて葉巻を吐き出した。


「って吸えねえのかよ⁉︎」

 アルカポネは顔を真っ赤にしてレイマに襲いかかる。


「……さっきより攻撃力上がってねえか?」


 ジュウベイ?も眼帯をいちいち上げるのが面倒になったのか、ついに外して放り投げた。マサムネ?もほぼ同時に放り投げた。

 ジュウベエ、マサムネの動きも格段に良くなる。


 お前達もまだ本気じゃなかったんだな……っていうか、最初から真面目にやれよ、お前ら!



 気づくとみーちゃんは戦列を離れ、大破したぷーこ(改)のそばで何か作業をしていた。


 なにやってるんだ?


「……みーちゃん、核爆発させる気ね」

「……は?」

「薄々感づいていたでしょ。私は核エネルギーで動いてるの」

「そんなことわかるか!って大体核ってなんだよ、ありえ…」

「自爆してあいつを道連れにするつもりね!」

 俺の言葉を遮りやがった。まあ、確かにのんびり話している状況じゃないけどな。


「バカ大生、私のこと忘れないでね!」

「いや、まあ、いろんな意味でおまえのことは忘れられねえよ、っていうか俺まで吹っ飛ぶだろ!」

「大丈夫。私のは超小型だから。一キロほど離れれば大丈夫よ。十秒くらいで」

「できるか!それに放射能だってあるだろが!」

 だがその心配は無用だった。嘘だったのだ。

 みーちゃんがぷーこ(改)をいじっていたのは不安定になっていた<領域>を安定させるためだったようだ。周辺に生じていた揺らぎが収まるとみーちゃんは戦線に復帰した。


 またも膠着状態から劣勢になりつつある。ぷーこ(改)の<領域>もいつまでもつかわからない。夜間で人通りが少ないとはいえ、こんな戦いを人に見られては大変だ。レイマが襲いかかるかもしれないしな。


 そのときだ、にゃっくが吠えた。

 俺はにゃっくの鳴き声を初めて聞いた。

 てっきり声がでないのかと思ってたぜ。

 

 皇帝猫達がレイマを中心に散った。五芒星の形に見えなくもない。そこで皇帝猫達は被りものを捨てた。

 

 ……ちょっと待て。まさか……

 

 皇帝猫達が一斉に声を上げると全身の毛が逆立つ。頭からアホ毛、じゃなかった逆毛レーダーもぴょんと立った。

 それを見てしまった俺とラサロン。


「でけー!、やりてぇ!XXXXX!!!」

「ふぃふー!ふぃふぃふー!」


 俺は下品な言葉を連発し、思わず顔を背ける。それでも俺の絶叫は止まらない。五騎のアホ毛を一度に見た影響か?

 

 レイマも何か絶叫しているようだがさっぱりだ。っていうかレイマにも性欲があるのか?

 皇帝猫達とレイマの戦う音だけが聞こえる。

 そして衝撃音とレイマの絶叫が聞こえ、

 静かになった。

 俺の絶叫が止まった。ついでにラサロンも。



 恐る恐る顔を向けるとまさにレイマの最後の一欠片が消滅するところだった。

 勝てて良かったぜ。にゃっく達もがんばったが、レイマが油断してくれたのも大きいな。あいつが本気を出していたら勝てたとしても犠牲が出てたかもしれねえ。


 しかしだ、

 俺が卑猥な言葉を叫んでいる間に決着がつくって……こんなんありか?とても人に話せねぇぜ。

 ……話す相手はいないか。



 皇帝猫達は一列に並び、各々決めポーズをとったりしている。


 俺に向かってな。


 端っこにはラサロンもどさくさ紛れに並んでいた。

 またもみんながやるからやっている、と言う感じだ。

 にゃっくは並びはしたものの、どこか面倒くさそうに見え、みーちゃんに至っては、ぷーこ(改)の本体をじっと見つめていたりする。

 ジュウベイとマサムネはいつ拾ったのかまた眼帯をしていた。


 どうやってつけてんだ……あれっ?

 二騎とも同じ方に眼帯してるぞ、どっちか逆じゃねえ?まあ、いいけどよ。


 それよりも、

「……もしかして俺にご褒美よこせって意志表示じゃないよな?」

 にゃっくとみーちゃん以外が大きく頷く。


「こいつら……」

「あたしもー!」

 生首が何か言っていたが、まあ気のせいだろう。生首が言葉を発する訳がない。


 みーちゃんがぷーこ(改)の<領域>を解除したあと、俺が近くのコンビニで買ってきたご褒美、食いもんを五騎と一匹が美味しそうに食べまくる。みーちゃんはやけ食いしているように見えるな。

 この街を救った報酬とすればささやかなものだが、俺には結構痛いぞ。

 本来、この報酬はみんなで払うべきものだよな?そして俺も危険手当をもらってもおかしくないと思う。

 いや支払うべきだ!

 とはいえ誰も信じないだろう。真実が明らかになるそのときまでは。


 ……そのときっていつくるんだ?



 腹が膨れたものからか、一騎、また一騎と去っていく。

 アルカポネは俺が葉巻の代わりに買ってやった禁煙タバコをくわえて去った。

 誰が見てもはっきりわかるほど不満げだったが、葉巻なんかこの辺に売ってないんだよ。たぶんな。

 それにおまえ、吸えないんだからそれで十分だろ。

 アルカポネの後をちょこちょことラサロンがついて行く。


 ……あいつ、大丈夫か?


 生首はバッテリーが切れたのか、もう声はしない。ぷーこ(改)だが回収班が来るらしくそれまでみーちゃんが残るようだ、と俺はみーちゃんのゼスチャーでそう悟った。


 にゃっくとみーちゃんは去り際にアゴを預け合った。


「じゃあ。俺達も帰るか、にゃっく」



 俺達が帰宅すると東京のテロも決着していた。警察の特殊部隊によって鎮圧されたと報道されていたが、果たして本当なのだろうか。

 


 事件から三日後、俺とにゃっくは藤原探偵事務所に向かっていた。

 事件後、ぷーことみーちゃんに連絡がつかなくなったからだ。それほど珍しいことではないが、ちょっと気になったんだ。

 事務所のドアに休業中との張り紙がしてあり、インターホンを押しても、ノックしても誰も出てこなかった。


 やっぱり俺の嫌な予感はよく当たるな。


 ビルから出て駅へ歩き出したが、にゃっくがついてこないのに気づいた。

 俺をじっと見つめるにゃっくの目を見て「皇帝猫を探せ!」に書いてあったことを思い出した。


 皇帝猫は禍のあるところに現れる、

 だったよな。

 アヴリル達によってこの街のレイマは一掃され、にゃっく達皇帝猫の活躍で殺人鬼もいなくなった。

 この街の禍はすべてなくなった。もう皇帝猫がこの街に残る理由はない。そういうことか。

 禍がなくなったとわかったのは嬉しいが、にゃっくと別れることはまったく考えてなかった。


「……行くのか?このまま家にいてもいいんだぜ?」

 にゃっくは小さく首を横に振った。

 無理強いはできない。レイマに苦しめられている、にゃっくの力を必要とする人達がいるのは間違いないんだ。


「……そうか。できたら妹にあいさつしていってくれ。お前のことすごく気に入ってたからな」


 にゃっくの後ろ姿を見送っていると電話が鳴った。皇からだった。

 俺は皇と遊ぶ約束をし、待ち合わせ場所へ向かうため駅へ向かった。



 その夜、俺が家に帰ると俺の可愛い妹が出迎えてくれた。そしてその腕の中には、

「にゃっく⁈」


 そう、にゃっくが俺の可愛い妹の腕の中にいた。

 にゃっくは俺と目が合うとばつが悪そうに視線を逸らした。

 俺は母から話を聞いて納得した。


 にゃっくは俺の可愛い妹に別れのあいさつをしに来てくれたのだ。

 勘のいい俺の可愛い妹はそれが別れの挨拶だと気づき、別れてなるものかとにゃっくを追いかけ回し、ついには泣き叫びだした俺の可愛い妹の姿を見て、にゃっくは罪悪感を感じてわざと捕まった、というところだろう。


「また会えてうれしいぜ、にゃっく」


 これからどんどん寒くなるんだ。寒いのは苦手なんだろ。少なくとも春まではいろよ。

 戦士にも休息は必要だろう?


ここまで稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。

23話で第一部完です。

週一更新を目指していましたが、今回で話のストックがなくなりましたので今後は不定期連載になります。


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