228話 オタ三姉妹
俺は静ちゃんと一緒に歩いていた。
その前を伊織ちゃんを挟むように右にゆきゆき、左にせりすが並んで歩いていた。
保護者、いや、幼い妹を見守る姉二人って感じだな。
伊織ちゃんのキャリーバッグは静ちゃんが引いている。
どう見ても妹の面倒を見ているお兄ちゃんという感じなんだが、実際には逆なんだよな。
前の三人は俺の知らないアニメかマンガの話で盛り上がっている。
そんな三人の姿を見て俺は驚くべき事実に気づいた。
「なあ、静ちゃん」
静ちゃんは俺の言葉に反応して顔を向けてきたが、その顔は無表情だった。
これは月見症候群を患っているからであって俺を嫌っているからではない。
……はずだ。
俺は話を続ける。
「俺達は今、後世の歴史家が語るであろう一場面に立ち会っているのかもしれないぞ」
静ちゃんは理解できないというように首を傾げる。
うむ、やはり気づいたのは俺だけか。
「前を見ろよ。オタ三姉妹が一堂に会してしているんだぞ」
静ちゃんは微かに頷いたようだった。
信号が赤になった。
それを待っていたかのようにせりすが俺に殴りかかって来た。
どうやら俺達の話が聞こえていたようだ。
「うわ!?イテ!やめろ!」
「せりすさん、私の分も」
「わかってるわ」
「わかるな!」
俺と静ちゃんはオタ三姉妹に従い、ある店に入った。
「9800円になります」
店員さんに言われてスマホでデジタル決済する。
梱包されたおもちゃを受け取り嬉しそうな顔をする伊織ちゃん。
よかったな。
……ん?
「いやっ、ちょっと待て!」
伊織ちゃんが不思議そうな顔で俺を見る。
そりゃこっちのほうだ!
「なんで俺が伊織ちゃんのおもちゃを買ってんだ?」
「ロリシスだからでしょ」
「何を言ってるの?」って顔でせりすが言いやがった。
「俺はロリコンじゃねえし、伊織ちゃんは俺の妹でもない」
「そんなこと私に言われてもね」
確かに。
なんで俺が払うことになったのかと思い返して見る。
伊織ちゃんがレジにおもちゃを置いた後、俺を見たんだ。
その瞬間、何故か俺が払うものだと思ってしまったのだ。
折角、飯を静ちゃんに奢ってもらったのにそれ以上の出費をしてしまった!
俺の金のほとんどは七海のために使うと決めているのだ。
あと、ほんのちょっとはせりすのために。
流石に今から静ちゃんに請求するのもカッコ悪すぎだからできないが、このまま一緒に行動するのはまずいぞ!
また出費させられそうだ。
そうなる自信がある!
さっさと別れたほうがいいな。
だが、別れる前に静ちゃんの連絡先はゲットしておきたいな。
「なあ、静ちゃん、よかったら連絡先交換しないか?」
そう言うとすぐさまスマホが俺に目の前に差し出された。
……伊織ちゃんのだが。
「えへへっ、しょうがないのよお」
伊織ちゃんは俺をサイフだと思ってそうなんで遠慮したいのだが、そうすると静ちゃんに拒否されるだろう。
同じシスコンだからわかるのだ。
選択の余地はないな。
俺が伊織ちゃんと連絡先を交換すると静ちゃんともすんなり連絡先を交換することが出来た。
これで今回の旅の目的は果たしたな!
いや、違うか。
「私は嫌よ」
なんかうるさい奴がいるな。
声のする方を見るとゆきゆきが睨んでいた。
「私はお断りよ!」
ほんとエセお嬢様は構ってちゃんだな。
「何度も言わなくても聞こえている。てか、欲しいなんて言ってないぞ。自意識過剰」
「な……」
ゆきゆきが顔を真っ赤にして更に厳しい目をして睨んでくる。
むむっ?
更に厳しい顔ができるのか。
後、何段階変身できるか興味が出て来たぞ。
しかし、みんなに甘やかされて育ったお嬢様は面倒臭いな。
そんなゆきゆきをせりすが宥める。
「まあまあ。私が後でお仕置きしとくから」
「特大でお願いします!」
「任せて」
「任せてじゃないぞ。お仕置きされるのはお前のほうだからな」
「なんでよ?」
「後でじっくり教えてやる」
「やれるもんならやってみなさいよ」
俺の挑発に乗ってくるせりす。
うむ、今日のせりすは間違いなくM気分だな。
俺の体、持つかな?
「……せりすさん、この男、通報したほうがよくないですか?」
マジで失礼な奴だな、ゆきゆき。
「そうね」
おいこらっ!暴力嫁!
愛しい夫に対して失礼すぎないか!?




