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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
停職編(仮)
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225話 フォーメーション

 一生の不覚だった。

 昨夜から今朝にも及ぶせりすとの“激闘”は終始俺が優勢だった。

 しかし、一瞬の隙をつかれ、俺は体内の魔粒子をせりすのムーンシーカーの能力、マナドレインでごっそり搾り取られた。

 いや、搾り取られたのはそれだけではないが……。

 こほん、

 ともかくだ、魔粒子を失った俺は回復が間に合わず、七海を幼稚園へ連れて行く役をせりすに奪われたのだ!



 幼稚園から帰ってきたせりすを俺は玄関で腕を組み仁王立ちで出迎えた。


「やってくれたな!せりす!」

「何をよ?」

「白々しいな。いいだろう。ハッキリ言ってやるよ。せりす、お前は俺が七海を幼稚園へ連れて行く事を羨ましく……」

「それはないから」

「……羨ましく思い、嫉妬に狂って俺を行動不能にしたな!」

「違うって言ってるでしょ。てか、私、二度と連れて行かないから」

「なるほどな」


 どうやらせりすも先生達の“洗礼”を受けたようだな。

 たった一度の洗礼で弱気になるとはな。やはりせりすは俺の敵ではないな、いや、ライバルとして情けない。



「お仕置きは後でするとしてだ。ひとつ確認しておきたいことがある」

「お仕置きなんてされないわよ。されるいわれないし」

「決定事項だから覆ることはない」

「……」

「で、先生達のフォーメーションにはどう対応した?突破できたか?」

「……は?フォーメーション?何言ってるの?」


 うむ、なかなかの演技だ。本当に知らないように見える。

 だが、俺相手には通用しないぞ。


「時間が勿体無いから説明してやる。先生達が寄ってたかって七海から引き離そうとしただろ」

「は……?そんなことされてないわよ」

「嘘つけ!」

「……千歳、あなたいつも何やってるのよ?」

「何もやってねえよ。ただ、時間一杯まで七海と一緒にいようしてるだけだ」

「……」

「前は幼稚園の中まで入っていけたんだが、最近は防犯上とか言い出しやがって入れてくれなくなったんだ。お前も入れなかっただろ?」

「知らないわよ。そんなことしようとしてないから。てかっ、千歳、やっぱりなんかやったんじゃないの!?」

「そんなわけないだろ。まあ、授業参観しようとした事はあったがその程度だ」

「……間違いなくそれでしょ」

「いや、それは関係ない」

「だからそれよっ!」

「確かに俺から強制的に七海を引き剥がそうとするようになった時期とは一致するがそれは違う」

「何故言い切れるの?」

「俺の直感だ」

「……馬鹿じゃないの」

「そう思うだろ。あの先生達は何考えてやがるんだか」

「私は千歳のこと言ってるんだけど」

「相手は女性だからな、下手に体の触れたらセクハラとか言われかねんし、七海を奪おうとする先生に触れずに七海をガードするのは厳しいよな」

「……何言ってんの?」

「そういえば、最近入ったあの新人の先生、中々やるよな」

「……」

「あの動き、おそらくバスケ経験者だな。あの体の入れ方……レギュラークラス、もしかしたらインハイ経験者かもしれん。せりすはどう思った?」

「だから知らないわよ!てか、ほんと何やってんのよ!いや、その先生達もだけど!」

「ここは休戦して情報共有すべきだと思うぞ。話によってはお仕置きを多少軽くしてやらん事もないかもしれん」

「ほんと馬鹿でしょ!」

「あくまでも情報共有を拒否すると言うんだな。更に罪が重くなるぞ」

「なんの罪よ!なんの!」


 どうしても口を割らない気だな。

 そこへ邪魔が入った。

 

「二人とも!ケンカなら自分達の部屋でしなさい!あ、今度汚したら自分達で洗いなさいよ!」

「……」

「……仕方ない。続き部屋でやるぞ」

「……」



 部屋に入るなり、せりすは俺にボティブローを放ってきやがった。

 

「ひ、卑怯だぞ!せりすっ!」

「気にしないで。七海ちゃんにバカ兄と拳で語るって約束したから」

「ふざけんなっ!お前が一方的に殴ってるだろ!」

「気にしないでって言ったでしょ。私も気にしないから」

「俺は気にするっ!」

「そんな事よりオウマ・スプローダって知ってる?」

 

 無理矢理話題を変えてきやがった。

 この強引さ、やはりこれ以上追及には耐えられないというところだな!

 もう一押しなのは確かだが、こちらも完全回復には程遠いからな、今すぐお仕置きするのは厳しい。

 ……仕方ない。とりあえず話に乗ってやって体力回復をはかるか。


「なんだそりゃ?人の名前か?」

「人、というか、アンドロイドの名前よ」

「アンドロイド?」


 まさか……。

 

「シエスの兄弟機か何かか?」

「自分では新型って言ってたわね。にゃんダリウム合金βで出来てるんだって」

「そんなこと言われても分からん。それよりまだそんな金あるのかよ。人の給料減給しといて。って、今は減給どころかゼロだけどよ」

「……」

 

 ん?なんだこの沈黙?って今、一瞬目を逸らせなかったか?

 減給って言葉に反応した?


「せりす」

「何よ?」

「なんか隠してないか?」

「隠してないわよ」


 ……怪しい。


「で、そいつにどこで会ったんだ?」

「幼稚園そばの喫茶店“ねこねこね”よ」

「ん?もしかして帰りが遅かったのは喫茶店に寄ってたからか?」

「そうよ」

「俺はてっきり七海と二人きりの時間の余韻に浸ってたのかと思ったぞ」

「馬鹿じゃないの」

「まあいい。それでなんか言ってたのか?」

「千歳に話があるらしいわ」

「俺に?内容は聞いてないのか?」

「千歳に直接話すそうよ」

「そうか」

「……」

「それで?」

「それだけよ」

「いや、まだ何かあるだろう」

「なんでそう思うのよ?」

「俺の直感がそう告げている」

「じゃあ、思い過ごしよ」

「せりす、素直に白状しないとお仕置きがキツくなるぞ」

「大丈夫よ。お仕置きされないから」


 せりすはにっこり笑顔で言いやがった。



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