224話 陰謀を探れ
「お前の浮気がバカ嫁にバレたぞ」
「……え?」
俺は待ち合わせのファミレスに着くと先に来ていた皇に事実を告げる。
バレているとは思わなかったのだろう、皇は呆気にとられた表情をする。
「開き直るなり、別れるなり好きにしろ」
「ちょ、ちょっと進藤っ!」
「まあ、お前の気持ちはわかる。あのバカ嫁の相手を毎日してりゃ、浮気したくもなるだろう」
「ちょっと進藤!僕、全然身に覚えがないんだけど!?」
「同情はするが、手は貸さない。アリバイ作りに俺を頼るなよ」
「なんで僕が浮気したことが既成事実になってるんだよ!?ちょっとは僕の話を聞いてよ!」
「じゃ、これからが本題な。実はな……」
「いやいや!まだ終わってないから!僕が浮気した事で話を終わらせないでよ!」
あー、めんどくせえ。
「俺はな、お前らバカ夫婦のスキンシップに付き合う気はない。やりたきゃ周りを巻き込まず二人でやれ」
「いやいやいや!そんな事言わずにさっ、まず経緯を教えてよ。なんで僕が浮気したなんて話になってるの?いつ、何処で?」
「そんなもの自分の胸にでも聞いてみろよ」
「進藤!」
もう、ほんと面倒だなぁ。
「昨日、せりすに聞いたんだよ。バカ嫁がお前が浮気してるって泣きついて来たって」
「昨日?つかさちゃん、普通だったけど」
「いつもの情緒不安定だろ」
「いつもって、進藤、言い過ぎだよ!」
「そりゃ悪かったな」
「まったく心がこもってないよ」
そりゃ、込めてねえからな。
「それで、僕が浮気したと勘違いした理由は何?」
「どっかの駅でお前が女と仲良くしている姿を見たんだとよ」
「駅?どこの?」
「知らん。で、ホテル街へ消えたんじゃないか」
「それ、進藤が付け加えたんだよね?」
「近からずも遠からず、ってところだろ」
「遠いよ!全くのデタラメを言わないでよ!」
「ともかく二人で解決しろよ。間違っても俺を巻き込むなよ」
「……善処するよ」
なんだその顔、思いっきり巻き込む気だな。
まあ、俺は無視するけどな。
「じゃ、本題だ」
「まったく……僕に相談したい事があるんだよね?」
「ああ。実はな」
先日の三バカについての話をした。その間、皇はじっと聞いていた。
いや、所々でタブレットに何事か書き込んでいる。
恐らく、マンガのネタにでもする気なのだろう。
「……という事で、俺は三人の友達を失ったわけだ」
「なるほどね。……進藤と新田さんって結婚してたんだ?」
何を白々しい。
「バカ嫁に聞いて知ってただろ」
「うん、まあね。おめでとう進藤。やっと言えたよ」
「ありがとう、と言っていいのかわからんが」
「え?嫌だった?」
「だったらすぐ別れてる。その経緯を考えるとちょっと複雑なだけだ」
「経緯って?」
「知りたいのか?」
「うん、是非!」
「だが断る」
「ちぇっ」
「そんなに知りたいならせりすに聞けよ」
「いや、それはちょっと無理」
「もしかしたらバカ嫁が聞いてるかもしれないぞ。それが真実かはまた別の話だが」
「うん。実は聞いてる。けど進藤の話も聞いてみたい」
「間違いなく違うだろうな。お前らの大好きな”藪の中”だ」
「いやいや。僕達の話は僕の話が真実だから」
皇が満面の笑みを浮かべながら言った。
「それで相談て“俺の嫁“の事?だったら“俺の嫁“って言うのは二次元だけじゃないよ。アイドルや声優とかにも使ったりするよ」
「そんなどうでもいい話の事な訳ねえだろ」
「じゃあ何?」
「あれからせりすがしきりに俺の友達はまだいるのか、いるなら会わせろ、とか言い出してな」
「そうなんだ」
「お前、どう思う?どんな意図があると思う?」
「そうだねえ……進藤はどう考えてるの?」
好奇心旺盛の表情で俺をみる皇。
「せりすってさ、マトモな友達ってバカ嫁しかいないだろ」
「断定なんだ」
「あ、マトモって言うのは性格のことじゃないぞ。何でも打ち明けられる友達って意味だ」
「そこ、わざわざ言うとこ?」
「ああ、悪かったな。夫のお前にはわかりきった事だったな」
「マトモじゃないというなら進藤も負けてないよ」
「ははは、面白くない冗談だ」
「うん、冗談じゃないからね」
皇は相変わらず冗談が下手だな。
それが自分でもわかってるからだろう、皇が描くマンガにギャグマンガはない。
少なくとも俺は読んだ事はない。
「で、どう思う?」
「そうだねえ……」
「やっぱ、前回ので味をしめて俺の友達を全てなくそうと企ててると思うか」
「え?僕、何も言って……」
「で、どうしたらいいと思う?」
「ちょっと待ってよ。流石にそんな事考えてないと思うよ」
「皇、すぐに考えを翻すのはよくないぞ」
「いやいや、僕最初からそんな事言ってないから!その考えは進藤のだから!」
「じゃあ、理由は何だ?」
「それは……言葉通り会ってみたいだけ、とか?」
「甘いな皇。お前はせりすの事を全然分かってねえ。あの女はやる女だ」
「酷い言いようだねえ」
皇が笑い出す。
「何笑ってんだよ」
「あ、ごめんごめん。なんかさ、立場が逆転してるみたいで」
「どういう意味だ?」
「以前はどちらかと言うと進藤が新田さんの事好きだったと思うんだけど、今は新田さんが進藤に夢中みたいに見えるからさ」
「そうか?」
「うん。なんでそうなったのかな?」
「知らん」
記憶があちこち消えてるから本当によくわからん。
「話を戻すぞ。確かに他の理由も考えてみた。例えば、友達が欲しいとかな。だが、俺の友達から作りたいって言うのは違和感がある」
「確かにね。友達欲しいならつかさちゃんに友達紹介してもらうよね」
「それはないだろう」
「え?なんで?」
「そいつらはみんな性格に難があるに決まってるからな」
「なんで断言するかな?」
「類は友を呼ぶからな」
「進藤、思いっきりブーメランだよ」
「それだとお前が変だと肯定してるぞ」
「まあ、自分でもちょっと変わってるかなとは思ってるからね」
「そうか。なら今、俺はマトモだと証明されたな」
「え?」
「変な奴に変と思われた、という事は俺はマトモと言う事だ」
「いやいやいやいや!それはない!!」
何だこいつ、今までで一番強く否定したぞ。
「そんな事よりだ、バカ嫁から何か聞いてないか?」
「聞いてないよ」
「そうか。お前は?」
「うーん……僕も思い浮かばないなぁ」
全くの無駄骨だったな。この役立たずめ。
「進藤、今なんか酷いこと思わなかった?」
「全然」
俺、そんなに顔に出るのか。
皇如きにまで読まれるとは……。
「進藤、また失礼な事考えてない?」
「ない」
うむ、もっと気をつけないとダメだな。
「……あのさ、進藤」
「ん?」
「つかさちゃんの事だけど、“バカ嫁”っていうのやめてくれないかな」
「なんでだ?喜んでなかったか?」
「うん、でもやっぱり人前でバカ嫁って言われるのは……進藤もお嫁さんもらったんだからわかるでしょ」
「わかったよ」
「ありがとうっ」
「じゃあ、それとなくあのバカにも聞いといてくれ」
「うん、わか……って、嫁のほうを消しちゃダメだよ!」
うるさいなあ。




