222話 千歳の友達
俺が友達に会いに行くと言うとせりすが馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「なんだ、その笑みは?」
「知らないの?今日、皇君はつかさと出かけるって言ってたわよ」
「皇じゃねえよ。高校の友達だ」
せりすは優しい目で俺を見る。
だからなんだその目は?なんかムカつくぞ。
「千歳、そんな見栄を張る事ないのよ?」
「は?見栄?」
何を言って……ああ、なるほど。
前に母さんにバカ嫁以外友達いないって図星刺されたの根に持ってんだな。
で、俺に八つ当たりか。
なんと心の狭い女だ。
「……何、人を哀れそうな顔で見てるのよ?」
お、やべえ、やべえ。つい顔に出ちゃったか。
「悪いな。だが、友達と会うのは本当だぜ」
せりすがふう、とため息をつく。
「そこまで言い張るなら証拠を見せてもらうわ」
「いや、別に言い張ってはいないが、って証拠?」
「私は暇じゃないんだけどね。ちょっと準備するか待ってて」
そう言って階段を上がって行った。
え?もしかしてついてくる気か?
そんなくだらん理由でついて来るって思いっきり暇だろ?
待ち合わ場所には珍しく全員揃っていた。
「遅いぞ!」
いつも時間通り来ない奴らなので多少遅れてもいいだろうと思ってたんだが、そういうときに限って早く来てやがった。
「悪いな」
「こりゃ今日はお前の奢り……!?」
せりすの事をたまたま俺と一緒の方向を歩いている通行人だと思っていたようだ。
そのせりすが俺の連れと気づいて俺の友人である……まあ、名前なんてどうでもいいのでA、B、Cとしとく、の友人Aがちょっと顔を赤らめながら言った。
「その美人誰?」
うん、わかる。
俺も最初にせりすを見た時そうなったからな。
性格含め色々知り尽くした俺はもうその初々しさを取り戻すことはないけどな。
「彼女は俺の嫁の……」
「「「嫁!?」」」
見事にハモったな友人A、B、C。
「初めまして新田せりすです」
「は、初めましてっ、って、あれ?苗字違う?」
「ああ、そういう設定か!」
「はい、そういう設定みたいです」
「おいこらっ、何言って……」
「千歳とは同じ大学なんです。さっきそこで偶然会ってこれから友達に会うなんて面白い冗談をいうからついてきたんです」
「どこが面白かったんだ?」
「おお、なるほど!」
何がなるほどなんだ友人A?
「わかるわかる!」
「だよな!」
何がわかるんだ?何が「だよな」なんだ友人BアンドC?
せりすが少し不安そうな表情を見せる。
「もしかしてお邪魔でしたか?」
「「「全然!」」」
「ありがとうございます」
三人はせりすの笑顔にころっといっちまいやがった。
なんてちょろい奴らだ。
「いやーほんとビックリしたぜ!」
「そうそう!お前に嫁どころか彼女が出来るわけねえだろ!」
「いやー笑った!今年一番のジョークだぜ!面白くなかったけど!」
「笑ったんなら面白かったんだろ。どっちなんだ?まあ、冗談じゃな……」
「それであなた達はいくらですか?」
「「「え?」」」
せりすが言葉足らずとはいえ、とんでもない思い違いをする三バカ。
「ああ!進藤とはそういう関係か!もちろんタダでお相手しますっ!ひゃほっー!」
友人Aはどうやらせりすをやり◯と勘違いして男を金で買おうとしてると思ったようだ。
お前はどういう思考してんだ?
夫の目の前でいい度胸してんな。
「バカか!お、俺はいくらでも金出しますよ!うっしゃー!」
友人Bはせりすが援交に誘っていると思ったようだ。
お前も夫の目の前でいい度胸してんな。
「内臓でも心臓でも差し出します!」
友人Cはせりすが臓器売買の商人に見えたようだ。
お前だけは理解できん。てか、心臓渡したら死ぬぞお前。
「待て待て!こういうのは俺が最初だって決まってんだろ!」
「「誰がいつ決めた!?」」
「……あなたちは一体何をいってるの?」
せりすの冷めた目を見て三バカが騒ぐのをやめる。
やっと三バカは自分達が勘違いしたと気づいたようだ。
「大体お前らな、せりすは俺の嫁……」
「もしかしてだけど私、ビッチ、とかに見えたのかしら?」
「と、とんでもございません、サーっ!」
「その通り、サー!」
「右に同じ、サー!」
「サーって、お前ら何言い出してんだ?」
三バカの目には俺が写ってないようでスルーされた。
「それでっせりすさん!さっきのその、いくら、というのはなんの事だったのでしょうか?」
なんで敬語になってんだよ?
せりすが笑顔で言った。
「決まってるじゃないですか。いくらで千歳の友達役をやってるのですか?」
「「「……」」」
「私を騙すために雇われたのでしょ?結構上手く演じてますね。もしかして役者志望とかですか?」
「「「……」」」
しばしの沈黙。
「……は、ははは」
「冗談うまいですね、せりすさん。今年一番のジョークです」
もう更新されたのか。今回も面白くなかったけど。
「おい、せりす、みんな引いてるぞ」
ここにきてやっとせりすは状況を理解したようだ。
俺に皇以外にも友達がいたという衝撃的な事実に。
って、そんなショック受けることか?!
せりすにさっきまでの余裕は消えていた。つつっと額から汗が流れる。
……うむ、せりすには立ち直る時間が必要だな。
しばらくそっとしてやろう。
「おい、いつまでもバカやってないでそろそろ移動しようぜ」
「あ、ああ」
「そうだな」
「とりあえず、スタぱ行くか」
俺達の後をせりすはとぼとぼついてきた。
うむ、いつも勝利の後は虚しさだけが残るな。




