218話 せりすVSガブリエル
ガブリエルが人を見下したような態度で俺を見る。
一体何しに来やがった?
にゃん太郎(仮)を助けに来たのかと思ったがそうでもなさそうだ。
にゃん太郎(仮)を見向きもしねえし。
そうなると俺になんか要求があるんだろうが、こいつ、めちゃくちゃプライド高いから自分からは言わねえだろうな。
だがよ、その態度だけで理解しろっていうのは無理がありすぎるぞ。
「ねえ、千歳。この子マントしてるけど千歳グループに入……!?」
せりすが言い終える前にガブリエルがジャンプ一番せりすに襲いかかる。
だが、せりすはガブリエルの猫パンチを避けた。
「ぷーこちゃんとは違うのよ!ぷーこちゃんとはねっ!」
せりすが「どうだ!言ってやったぜっ!」みたいな顔で俺を見た。
俺はよくわからんがとりあえず頷いてやる。
せりすははっとした表情になり、顔を赤くして睨んできた。
何でだよ?
……まあ、かわいそうな人を見る目をしていたかもしれんが。
ガブリエルは攻撃を避けられた屈辱にちっちゃな肩をぷるぷる震わせていたが、再びせりすに向かって攻撃を仕掛けてきた。
さっきより早く、常人であれば避ける事は不可能だったろう。
しかし、今度の攻撃もせりすはかわした。
ラグナを使ったのだ。
「ちょっと!何なのよっ?!あっ、千歳ね!あなたがけしかけてるんでしょ!」
「んなわけあるか!ガブリエルが人の言うこと聞くかよ!」
俺はガブリエルとせりすの攻防を見物しながらどこでガブリエルと出会ったのか思い出そうとしたがダメだった。
ガブリエルがどんな奴かは知ってるんだ。だが、どうやって出会ったのかが思い出せない。
せりすはガブリエルを知ってるようだからせりすと一緒にいた時に出会ったのだろうか。
そうだとしてもあのマント、間違いなく母の手作りのマントだ、がガブリエルに渡った経緯は知らないようだ。俺もな。
ガブリエルは強い。
にゃっくと同等の力を持っていたはずだ。
だからせりすには悪いがガブリエルが本気になったら勝てないだろう。
ガブリエルが本気にならない、つまりだ、やっぱり俺に何か頼み事があるのだろう。
全然わからんが。
ふと、ぷーこに視線を向けると大の字になって倒れたままだった。
そのぷーこの頬に肉球をぐいぐい押し付けている子猫がいた。
にゃん太郎(仮)である。
どうやら、スタンプ猫パンチを取得しようとしているようだな。
うむ、ぷーこなら実験台に丁度いいだろう。
あのバカも愛する皇帝猫の実験台になるんだ。喜んで体を差し出すだろうから止めたりはしない。
と、にゃん太郎(仮)と目があった。
ちょこちょことこちらへやって来るにゃん太郎(仮)。
足元でおっきな瞳が俺を見つめる。
気づくと俺はにゃん太郎(仮)を抱き抱えていた。
そっとその体の割にでっかい頭を撫でてやる。
幸せそうな笑みを浮かべるにゃん太郎(仮)
と、そこに無粋な叫び声が割って入る。
「千歳!何一人和んでるのよ!手を貸してよ!」
せりすはガブリエル相手に苦戦していた。
それはわかっていた事だ。
最初、ガブリエルはせりすを見くびっていたのだ。
以前、会った時の力を基準に攻撃を仕掛けたのだろう。
ガブリエルは現在のせりすの力を完全に把握したようで、せりすに大怪我させない程度の力でせりすを追い詰めている。
「ちょっと聞こえてるでしょ!?」
せりすの焦りが声に出ている。
俺はにゃん太郎(仮)の可愛い顔を見る。
「せりす、負けを認めろ。妹養女化計画を断念しろ。そして俺のお仕置きを素直に受けると約束しろ。そうすればガブリエルを説得するよ、とにゃん太郎(仮)が言ってる」
にゃん太郎(仮)が不思議そうな顔で見る。その頭を撫でてやる。
「なに言ってるのよ!やっぱり、グルなんじゃないっ!」
「それは違う。偶然利害が一致しただけだ。さあ、全面降伏するんだ。そうしないと”ぷーこのように”なるぞ」
「!!」
俺の言った意味を理解し、せりすの美しい顔が青くなる。
ぷーこのように顔が肉球痕まみれになる自分を想像したのだろう。
「ああなったら、二、三日家から出れねえぞ」
「ひ、卑怯者!……!?」
ガブリエルの攻撃が顔スレスレを通り過ぎた。
「……今のはスタンプ猫パンチ。ガブリエルの奴、仕上げに入る気だな」
「く、解説してる場合!?」
「ああ。今の俺にできる事はにゃん太郎(仮)の言葉を伝えることだけだ。『やはく降参して千歳のお仕置き受けた方がいいよ』と言ってるぞ」
「嘘つけっ!」
諦めの悪いせりすは必死に抵抗してるがもう時間の問題である事は明らかだ。
ラグナの放出が不安定になり、全身を覆うのが不可能になっている。
「もう無理だろ?素直に負けを認めろよ。『認めたほうがいいよ』ってにゃん太郎(仮)も言ってるぞ」
「絶対嫌!」
「確かに妹養女化計画を断念したくない気持ちはわかる。みんなを説得するのも難しい事はわかってる」
「そんな計画ないって言ってるでしょ!このシスロリ!」
「ロリコンじゃない!シスコンだ!」
「威張るな!……!?」
一瞬隙をつきガブリエルのスタンプ猫パンチがせりすにヒットした。
右頬にちっちゃな肉球痕が見える。
「……あーあ」
「え?え?ちょ、ちょっとまさかっ?!」
「自分じゃ見ないか。ついたぞ。肉球痕」
「……」
ガブリエルは攻撃をやめ、見下した笑みを浮かべる。
「まあ、それくらいならマスクでなんとか隠せるだろう。店とかで食事は無理かもしれんが」
「……ゆるさない」
「まあまあ。ガブリエルも悪気があったけじゃないし」
なんてな。悪気しかねえよな。
「許さないわよ!千歳!」
「へ?なんで俺?」
ゆっくりこちらへ近づいてくるせりす。
ガブリエルはひねた笑みを浮かべたままで動かない。阻止する気はないようだ。
せりすはガブリエルとの戦いでラグナを使い切った。
体力も大半を削られた。
一方、俺も魔法は使えないし、体力も残ってねえ。
しかし、客観的に見てまだせりすのほうが強い。
向こうは格闘術もあるからな。
にゃん太郎(仮)を見る。
「戦術的撤退をした方がいいよ」と言ってる気がした。
決して俺がそう思ってるわけじゃない!
軍師にゃん太郎(仮)の提案に乗ったのだ!
と、俺より先に撤退行動に移っている者がいた。
匍匐前進で入口に向かうぷーこだ。
こいつ、いつの間に。
「おい、こらっ!何一人で逃げようとしてんだ!」
「うっさいわね!私には関係ないでしょ!あんたらの痴話喧嘩に巻き込まれてたまるか!」
ぷーこの匍匐前進は速かった。その動きは黒い悪魔を想像させる。
ぷーこが道場の入口にたどり着いた時だった。
「あらあら、ぷーこちゃん。お部屋にいないと思ったらこんなところにいたのね」
そこに現れたのはせりす母だった。




