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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
停職編(仮)
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209話 新宿ダンジョン再び

 俺はダンジョンに挑んでいた。

 そう、新宿地下街という現代のダンジョンに。

 目的地はオタショップだ。以前、行ったことがあるはずだが記憶が曖昧でどこにあるのかよくわらん。


 日曜日だからか、いつもこうなのかはわからないが地下街は人が多く行き来している。

 俺もだが、向こうもちゃんと前を見て歩いていないので何度もぶつかりそうになった。


 ……やっぱだめだ。さっぱりわからん。

 店の名前もわからんから地図検索もできん。

 店名がわからなくても検索すれば普通はそれらしい店がヒットするはずだが、なぜか見つからない。

 歩き疲れたので壁にもたれかかり休憩がてらぼんやり通行人を眺める。


 やはりオタクレベルゼロの俺が探すなんて無謀だったか……帰るか。


 と、諦めかけた時だった。

 前方を美しい少女が通り過ぎた。

 その少女には見覚えがあった。


 ラッキーだぜ!

 このまま彼女の後をついていけば着くんじゃないかオタショップ!


 その少女を見失わないように後を追いかける。


 頼むからオタショップに行ってくれよ!


 徐々に人通りが少なくなっていく。


 なるほどな。こんな人気のない場所にあるのか。

 俺なんかが見つけられるわけねえわ。


 などと考えているとその少女が突然立ち止まり、後ろを振り返った。

 その少女は俺と目があった瞬間、


「げっ」


 と整った顔からは想像のできない声を出しやがった。

 失礼な奴だ。

 その少女は立ち止まったまま腕を組んで俺を待ち構える。

 少女まで脇道はない。

 逃げるのも変なのでそのまま進む。

 そばまで来ると少女は心底嫌そうな顔で言った。


「下手な尾行だったわね」


 あー、やっぱバレてたか。


「あなた、一応探偵なのよね?こんな素人丸出しの尾行して恥ずかしくない?」


 こいつ、俺が探偵事務所で働いてる事(実際には働いてねえけど)を知ってんだな。

 どこまで俺の情報漏れてるんだよ?

 大丈夫かこの組織のプライバシー保護はよ。


「はっはっは、何のことかな?ゆきゆき」


 そう、相手は同じ組織の一員でかつてレイマを倒すため共闘したゆきゆきだ。本名は……なんだったけ?


「ゆきゆき言うなっ!」

「え?みんなそう呼んでんだろ?」

「呼んでないわよ!そう呼ぶのは伊織ちゃんだけよ!」

「伊織ちゃん?……ああ、静ちゃんのお姉ちゃんね」


 どう見ても小学生にしか見えなかったが静ちゃんの姉のようだった。


「静ちゃんて……あなた、大和くんと親しいの?」


 ゆきゆきはどこか警戒するような目で尋ねる。


「いや、別に」


 確かに“静ちゃん”なんて呼ぶ関係じゃない。

 だが、アイツにはどこか親しみを感じる。

 雰囲気がどことなく四季薫に似てるからだろうか?


「……ああ、そういえばあなた、両刀だったわね」


 どこか馬鹿にしたような笑みを浮かべるゆきゆき。

 

 年上に対してその態度はどうかと思うが、心優しい俺は気づかないふりをしてやる。

 決して指摘すると面倒くさいことになりそうだとか思ったからではない。

 ていうか、俺が関わる女はみんなこんなんばっかだな。

 もちろん、七海は除くぞ!

 七海は大きくなっても絶対こんなんにはならない!させはしない!

 それはそれとして、しっかり間違いは訂正せねばな。


「その情報間違ってるぞ」

「ホントぉ?」

「なんだ、その疑いの目は?」

「まあ、あなたがどんな趣味だろうと私には関係ないけど」


 この野郎、信じてねえな。


「ところで今日は静ちゃんは一緒じゃないのか?」


 不機嫌そうな表情で睨むゆきゆき。


「なんで私がいつも大和君と一緒にいると思うわけ?」

「何ムキになってんだよ」

「ムキになってないわよ!」


 いやいや、ムキになってるぜ。


「で?」

「ん?で、とは?」

「なんで後を付けてたかって事に決まってるでしょ。ナンパなら無駄よ。さっき言ったわよね?私はあなたに興味ないって。せりすさんに言いつけるわよ?」


 自意識過剰だな。


「ちげえよ。実は俺、オタショップ探してんだ。これから行くんだろ?連れてってくれよ」

「な、何勝手に決めつけてるのよっ!」


 顔を赤くして睨みつけるゆきゆき。

 って、ほんとこいつの本名なんだっけ?

 いや、そもそも俺は本名知ってたのか?


「私はオタクじゃないから!」


 自分の存在を完全否定するゆきゆき。


「なんでオタクが私の全てになってんのよっ!」


 やべっ、声出してたか。


 だが、確かになんでゆきゆきがオタクだと思ったんだろう?

 なんで後をついて行けばオタショップに行けると思ったんだ?

 証明できん。

 と思ったのは一瞬だった。

 そういや、せりすのこと知ってたじゃないか。

 はい、証明終わり。


「何黙ってるのよ?」

「悪い。ちょっと考え事をな。それはともかく頼むよ。大丈夫、知り合いに会って彼氏と勘違いされないように離れてついて行くから」

「だから、なんで私がそんなところ行くと思ってるのよっ!?」

「え?行かないのか?じゃあ、なんでここにいるんだ?」

「あなたには関係ないでしょ!」


 どうやら図星を突かれてムキになっているようだな。

 このままだと本当に行くのをやめるかも知れん。

 それじゃあ困るからこっちから手を差し伸べてやるか。


「わかったよ」

「それはよかったわ。これ以上理解力が足りないと手が出そうだったから」

「物騒だな。じゃあ、こうしないか?俺のためにオタショップ連れて行ってくれよ。自分のためじゃない。人助けならいいだろう?」

「絶対嫌っ!」


 すごい剣幕で睨みつけるゆきゆき。

 普通の人間なら逃げ出していただろう。

 マゾなら「ありがとうございます!」とか叫んで喜んでいた事だろう。

 どちらでもない俺はどうにか踏む止まることが出来た。


 とはいえ、

 うーむ、どっかで交渉を間違えたようだな。

 一体どこで……って最初からだな。


 だが、ここで唯一の手がかりを逃すわけには行かない。


「困ったな」

「へえ、それは良かったわ」


 と、心底嬉しそうな顔をするゆきゆき。


「しょうがない。せりすには悪いが諦めるしかないか」

「え?」


 せりすの名を聞いてゆきゆきの表情が変わった。


「ちょっと待って。あなた、せりすさんに頼まれて買い物に来たの?」

「そんなところだ」

「じゃあ、せりすさんに直接聞けばいいじゃない」


 ぐっ……正論だが、それはできない。


「まあ、その、頼まれたっていうか、サプライズしたいんだ」

「ああ、そういう事」

「ああ、だが、店が見つからないなら仕方ない」

「……ったわよ」

「ん?」

「連れて行ってあげるわよ」

「本当か?」

「ええ。せりすさんのためなら話は別よ」


 ホッとしたので、思わず口が滑ってしまった。


「助かった。でもよ、オタじゃない俺が探してる時点で察しろよ」

「……」


 やべっ、また余計な事言っちまった。


「言っとくけどね、私は最初からこの趣味だったわけじゃないから。伊織ちゃんに染められたのよ!」


「あ、そういうのいいから」と思わず出そうになった言葉を今度は必死に抑え込んだ。


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