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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
停職編(仮)
222/247

208話 お仕置きを君に

 大学の校舎。

 講義がすべて終了し、帰宅のため出口に向かって歩いていると背後から近づいてくる足音に気づいた。

 その人物に絶対に会ってはならないと直感が告げる。


 ここは気づかない振りをして次の角を曲がった所でダッシュだな。


 だが、それは相手も予想していたようだった。

 角を曲がり、ダッシュしようとしたところで肩をがしっと掴まれた。


「なんで逃げるのかしら?」


 振り向くと満面の笑みを浮かべたせりすがいた。


「なんだせりすか。脅かすなよ」


 ごく自然にびっくりした表情をつくる。


「……へえ、気づいてなかったんだ?」

「あ、ああ」


 すっげー疑ってるな。

 まあ、その通りなんだが事実を認めるわけにはいかない。


「まあ、いいわ」


 せりすはそう言って腕を組んできた。

 普通だったら大喜びするところだが今の俺はそれどころではない。

 せりすの真意を知っているからだ。ラブラブだからではなく、俺を逃さないために拘束した事を。

 せりすが顔を寄せて耳元で囁く。


「で、いつにする?」

「なんのことだ?」

「決まってるじゃない。お・し・お・き」

「お仕置き?」

「そ」

「せりすにか?」


 笑顔が消え、むっとした表情をするせりす。


「千歳に決まってるでしょ」

「なんで俺が?」

「なんの罪もない私に罪を着せてお仕置きしようとしたでしょ?」

「さあ、何のことだ?」


 としらを切ったがもちろんわかってる。

 七海に黒竜うんぬんを教えた犯人をせりすだと決めつけていたことだ。

 知っての通り真犯人はぷーこだった。



 あの日、

 ぷーこはみーちゃんを引き渡すまで俺ん家に居座る気満々だった。

 ぷーこの回収及びお仕置きを組織に丸投げするつもりでキリンさんに電話をかけたが、繋がらずメールも出したがいつ来るかわからない返事を待ってられない。

 そこでちょっと気が引けたが、他に当てがなかったので、せりすの母親に相談することにした。

 連絡はすぐにつき、すぐに回収に来ると約束してくれた。

 その言葉に嘘はなく三十分も待たずにせりす母は現れた。

 ぷーこはせりす母の顔を見るなり恐怖の表情で叫んだ。


「げっ!関羽!!」

「うふふ、誰が関羽ですか。さあ、訳のわからないこと言ってないで帰りますよ。人様にご迷惑をかけてはいけません」

「め、迷惑なんてかけてないわよっ!ちいとの方があたしに迷惑を……ぐえっ」


 ぷーこは最後まで言葉を続けることはできなかった。

 せりす母が目にも留まら速さでぷーこの前に移動すると右手でその首筋に軽く触れた。

 途端、ぷーこは奇声を発して気を失ったのだ。


「じゃあ、失礼しますね」

「あ、はい、ありがとうございました」


 せりす母は気を失ったぷーこをまるで荷物を扱うかのように雑に小脇に抱えると去っていった。

 ほんの数分の出来事だった。


 ちなみにみーちゃんはぷーこがいる間はどこかに隠れていたようで、ぷーこが連行されたあと、自室に入ると何事もなかったかのように俺のパソコンをいじっていた。



 せりすは真犯人がぷーこだと気付いたな。

 タイミングからして昨日うちに遊びに来た時か。

 おそらく純真無垢な七海はせりすの誘導尋問に気づかず話してしまったのだろう。

 もちろん七海に罪はない。すべてぷーこが悪いのだ。

 ……いや、ちょっと待て。

 それだと疑問が残るぞ。

 もし七海から聞いたのだとしたらあの場で問い詰めて来なかったのは何故だ?

 七海が大好きお兄ちゃんの不利になる事をしたと知って傷つくのを防ぐためか?

 せりすの中にも最低限七海を思う気持ちがあったという事だろうか?



「聞いてる?」

「あ、悪い。せりすの言ってる事が何のことか考えてた」

「それで思い出した?」

「いや、さっぱりだ」

「往生際が悪いわね。って、それは前からわかってたけど」

「失礼だな」

「事実でしょ」

「じゃあ、はっきり教えてくれよ」

「そうやって誤魔化してる時点で確定ね!」


 確定、だと?

 まだはっきりしていないって事か。

 これはまだワンチャンあるって事じゃないか?


「話が進まないからはっきり言ってあげるわ」

「頼む」

「七海ちゃんに黒竜云々を教えたのはぷーこちゃんでしょ?」

「ぷーこか、そんな奴いたな。まだ生きてたのか」

「あんだけ大騒ぎしてそれだけ?やっぱり千歳もぷーこちゃんが犯人だとわかってたわね。だから何も言わなくなったのね」

「何を言ってるんだ。俺は心の広い人間だぞ。起きてしまった事よりこれからの方が大事だろ?」

「嘘よ。千歳はそんな人じゃないわ!特に七海ちゃんが絡むとね!」


 躊躇なく断言したよ。


「じゃあ、どうしてぷーこが犯人だと思ったんだ?」

「千歳の周りでオタクっていったら皇君とぷーこちゃんしかいないでしょ?」

「あとせりすな」


 補足したらキッと睨まれた。


「私は違うって言ってるでしょ」

「まあ、それはそれとして……」

「それとしてじゃない!事実よ!」


 うるせえなあ。

 俺から見たらそんなに違いないぞ、って言ったら殺されそうなので黙っておいた。


「ぷーこが犯人だって確かな証拠があるんだろうな?」

「あくまで抵抗する気ね。まあ、いいわ。昨日、帰りに道場寄ったのよ」

「澄羅道場か」

「ええ、ちょっとむしゃくしゃする事があって少し汗を流そうと思ったのよ」


 と、まるで俺に原因があったかのような目を向ける。

 俺は堂々と顔を逸らしてやったぜ。

 そしたら強引に顔を正面に向けさせられた。


 くそっ、単純な力比べじゃせりすには勝てん。


「いてて。無茶すんなよ。それでどうしたんだよ?ジイさんでも投げ飛ばしてスッキリしたか。よかったな。じゃあ、話はこれで……」

「終わらないわよ。ぷーこちゃんに会ったのよ」


 ……あ、ぷーこが連行された先は澄羅道場か。


「ぷーこちゃんがね、『今度は絶対みーちゃん返してもらうから!ってちいとに言っといて』て走っていったの」

「誰がちいとだ。……走って行った?」

「ええ。すぐ後をミズキが追いかけて行って連れ戻されたけど」

「そうか。世界の平和は守られたな」

「何を大げさに。千歳の家だけでしょ」

「何を言ってんだ?世界は七海を中心に回ってるんだぞ。正しい表現だろう」

「はいはい。ちなみにミズキも千歳に何か伝言があったみたいだけど言葉わからないから」


 と、せりすはどこか楽しそうに言った。


「それで?」

「あの発言からぷーこちゃんは最近千歳の家に行ったのよ。もう犯人に間違いないでしょ!」


 くくくく……せりす、詰めが甘い、甘すぎるぞ。


「それじゃあ、ぷーこが犯人とは言えないな」

「な、なんでよ!?」

「ぷーこが七海に教えたと言ってないんだろ?」

「そ、それはそうだけど。間違い無いわ!なんなら今から確認しに行く?」

「いや、必要ない」


 俺はせりすの目をじっと見る。


「な、何よっ?」


 優しい笑顔で言った。


「ありがとう、せりす」

「え?」

「さっきはああ言ったが、おそらく犯人はぷーこで間違いないだろう」

「認めるのね!じゃあ、お仕置き……」

「自分だけじゃなく皇の無実も証明できたんだ。それで十分じゃないか?」

「な……そ、そんなわけないでしょ!千歳は私を犯人扱いしたんだからお仕置きを受けてもらわないとダメよ!」

「確かに疑って悪かった。だが幸いにも俺はまだお仕置きをしていない。もし俺がお仕置きした後なら何倍にも仕返しする権利がせりすにはあっただろう。だが、俺は何もしていない。そうだろ?」

「な、……納得いかないわっ!」

「どうしてもお仕置きしたいのか?」

「当然よ!」

「じゃあ、間をとってこうしないか?俺がせりすにお仕置きをして、せりすが俺にお仕置きされる」


 せりすは一瞬「ん?」って顔になってすぐにその目がつり上がる。

 その表情もいい。


「馬鹿じゃないの!それ、どっちも私がお仕置きされるじゃない!」

「俺はお仕置きされるのは嫌いだが、せりすはお仕置きするのもされるのも好きなんだろ。だからお互い納得できる提案だと思うんだが」

「誰がお仕置きされるのが好きですって!?千歳はまだ私のことをわかっていないみたいね!」


 いや、十分わかってるぞ。


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