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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
停職編(仮)
221/247

207話 兄思いの妹?

 自室には先客がいた。

 せりすと七海だ。

 二人はベッドの上で抱き合うように寝ていた。

 気配に気づいたのかせりすが目を開けこちらを見た。


「やっと帰って来たわね」

「やっと?もう、の間違いじゃないのか?」

「え?」

「本当は俺が思ったより早く帰って来て残念なんだろう」

「何言ってるの?」

「七海と二人っきりの時間を邪魔されたくないと思うのは当然だ。七海の可愛さは尋常じゃないからな」

「違うわよ。決めつけないでくれる?あと抱き合ってないから」


 せりすの言う通りせりすの腕は横に置かれ、抱きしめているのは七海だけに見える。

 普通の人間になら、だ。


「俺には見えるぞ。せりすの見えない手が七海をしっかり抱きしめているのを。それはラグナの力か」

「あなたの妄想の力よ」


 せりすは呆れたような表情を見せるがそれは演技だ。騙されないぞ。


「せりす」

「何よ?」

「まさかとは思うが、七海に抱きつかれて自分が一番好かれているなんて勘違いしてんじゃないよな?」

「してるわけないでしょ。これ、ベアハッグだから。七海ちゃん、ベアハッグ中に寝落ちしただけだから」

「なるほどな」


 こうなった状況は容易に想像できる。


「無断で俺の部屋に侵入しガサ入れをしようとしていたせりすに気づいたお兄ちゃん思いの、お兄ちゃん大好きの七海に見つかってとり押さえられた、ってところだろう。……無茶しやがって」


 七海の兄思いの行動に胸が熱くなる。

 そんな俺にせりすが冷たい目を向ける。


「そんなわけないでしょ。どうしたらそんな妄想思いつくのか知りたいわ。いえ、知りたくないわ」

「じゃあ、何で七海にベアハッグされたんだ?それ以外の理由は全く思いつかん」

「どんだけ想像力貧弱なのよ!決まってるでしょ。ぜりんごっこを無理矢理やらされたのよ。またアルタン役をね」

「アルタン?」

「記憶ない?」

「ない」


 せりすは頼んでもいないのにぜりんの説明を始めた。

 ぜりんは子供に人気の魔法少女もののドラマで、アルタンとはその中で登場した怪人でぜりんに魔法ではなくベアハッグで倒されたらしい、

 って、何じゃそりゃ。

 七海はせりすとぜりんごっこをするときは必ずせりすにアルタン役をやらせているとのことだった。

 ちなみにぜりんは人気が高く、グッズも売れており、現在第三シーズンが放送中で最近新たな魔法少女が登場したとのことだ。


 って、そこまで情報いらねえけど。

 ここまで詳しいって事はせりすも見てるな。

 確認しねえけど。

 だが、やっと七海がせりすのことを“あるねえ”と呼ぶ意味がわかったぜ。


「アルタンって、せりすに似てるのか?」

「似てないわよ。だから何でアルタン役やらされるのかわからない」

「じゃあ、アルタン役の女優が美人なんじゃないのか?」


 って、言ったらせりすはちょっと顔を赤くした。


「違うのか?」

「知らないわよ……人気はあるみたいだけど」


 その女優は最近ブレイクしていろんなドラマに出演しているらしい。

 ヒロイン役もやってるらしいので美人なんだと確信する。


「まあ、そんな事よりだ。今日はどうしたんだ?約束はしてなかったと思うが」

「約束してなきゃ来ちゃダメなの?」

「いや、そうじゃないが連絡しないのは不自然だろ?」

「いきなり来たら困る事でもあった?」

「いや、別に」

「……」


 ……ああ、そうか!

 せりすは俺にベタ惚れで、嫉妬深いんだったな。

 浮気調査でもしに来たのか?


「違うから!」


 せりすがきっと俺を睨んでいた。その顔は赤い。


 む?せりすは俺の心が読めるのか?


「何が違うんだ?」

「今、変なこと考えてたでしょ?!」

「変なこと、とは?具体的に頼む」

「む……な、七海ちゃんに聞かれてもいいの?」


 せりすさん、あなた、一体何を考えてたんですか?

 どうやら、心が読めたんじゃなく、顔がにやけてでもいたようだ。


「な、何よ?」

「いや。じゃあ、なんだよ?七海と遊ぶつもりで来たわけでもないみたいだし」

「……」


 せりすはちょっとの間首だけを動かし、辺りを見回した後で俺の机の方を指差した。


「みーちゃんに会いに来たのよ」

「それ、今考えただろ?」

「違うわよっ」

「で、みーちゃんは?いないようだが」

「私が来た時からいなかったわ」

「そうか」


 珍しいな。

 もしかして探偵事務所で自分のPCでもいじってるのか?



「じゃあ、私、そろそろ帰るから七海ちゃんどかしてくれる?」

「七海が邪魔みたいな言い方するな!」

「シスロリ」

「なんだって?」

「何でもないわよ。千歳も私が七海ちゃんとくっついてるのが気に入らないんでしょ?」

「確かにな」

「じゃあ、早く……」

「だが、話はそう単純じゃないんだ」

「……何言ってるの?」

「俺も今すぐにでも引き離したいと思っている。せりすの凶暴さが感染でもしたら大変だからな」

「……何ですって?誰が凶暴ですって?」

「だが、七海は自分の意志でせりすに抱きついているんだ」

「無視するな!」

「静かに。七海が起きる」

「……」

「ここで俺が無理矢理七海を引き離したとするだろ?」

「で?」

「七海が怒ったらどうする?」

「私はすでに怒ってるけど?」

「そんな危険を犯すくらいなら七海が自ら目覚めるのを待った方がいいだろう?」

「おい、こら、そこのシスロリ!無視するな!」

「例え、凶暴性が感染する可能性があったとしても」

「……」


 俺の客観的な意見にせりすは納得したかのように目を閉じた。

 と、思ったのもつかの間、キッと目を開き恐るべき行動に出やがった。


「さあ、七海ちゃん、起きましょうね」


 せりすが七海の体を揺らす。

 笑顔で声も優しい。だがその目は笑っていない。


「な、何やってんだ、せりすっ」

「さあ起きて。もうすぐ夕ご飯よ」

「無視するなっ!」

「お前が言うなっ!」


 しかし、七海の意志は固く、目覚める気配はない。


 流石だな!その強い意志を大好きお兄ちゃんが守ってやるぞっ!

 

「こいっ!三騎士!」

「はぁ?三騎士?何中二みたいなこと言ってるのよ?」

「お前が言うな!」

「誰が“お前よっ”!」

「せりすもさっき俺の事、“お前”呼ばわりしただろっ!」

「もう本当に許さないわよ……」

「もう遅い」

「え?……!?」


 俺の呼びかけで二騎士が姿を現した。

 にゃっくとウリエルである。

 やはりみーちゃんは家にいないようだ。


「にゃっく、ウリエル。せりすの暴挙を許すな。七海を守るんだ」


 ウリエルが大きく頷き、にゃっくは……大きくため息をついたように見えた。


「おい、にゃっく、まさか呆れてんじゃないだろうな?せりすは七海の安眠妨害しようとしてんだぞ。人類の敵と言っていい悪行をしようとしてんだぞ!」

「誰が人類の敵よっ…む?!」


 せりすの体がぴたっと動かなくなった。

 ベッドに押さえつけられている。


「む……む!?」


 何をした!とでも言いたそうな怒りのこもった目を向けるせりす。


「これは皇帝猫の能力の一つ。重力操作だ。よくやったぞウリエル」


 ウリエルが小さく頷く。


「むむっ?!」

「悪いが七海が自分から目覚めるまでじっとしていてもらうぞ。ウリエルとにゃっくは交代で……あれ?にゃっく?」


 辺りを見回すがにゃっくの姿はなかった。


 くそっ、遊んでるとでも思われたのか。


「仕方ない。ウリエル、しばらく頼む。その間に俺がせりすを説得する」

「い、いい加減に……しな、さ、いよっ!」

「流石だな。この後に及んでまで口が聞けるとはな」


 あれ?今の口調、悪役ぽくねえか?

 このシュチュエーションにちょっと興奮してるのか、俺?


「絶対、に……むぐ……」


 そっと手で口を塞ぐ。


「だから、七海が起きるだろう」

「……」


 じっとせりすを見つめるとせりすの顔が真っ赤になる。

 それが怒りのためか恥ずかしいのか判断つかん。


「手じゃなくて口で塞ぐか」

「……!?」


 思わず口から出た言葉でせりすの顔がさらに赤くなる。


「あ、思わず口から出ちまった」

「……」


 せりすがそっと目を閉じた。


 これはOKって事だよな!早くしろって催促までしてる気がするぞ!

 ならばその期待に応えねばならないな!


 と、背後から冷たい声がかかった。


「ーーあんた、寝てるせりすさんに何しようとしてるの?」


 母さんだった。


「へっ!?い、いや、こ、これは、せりすも寝てねえし!なあっ!?」


 返事はない。

 ただの屍になりきってる。


 きったねー!




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