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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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203話 子猫とじじい

 リビングに道着を来たおじいさんが現れた。

 澄羅道場の師範だろうか。

 見た目は六十歳後半くらいか。腕には頭のでっかい子猫が抱かれていた。


「おや、お客様かね……く、貴様か!」


 おじいさんとは面識があるらしく、その目に憎しみの炎が灯るのが見えた。


 このおじいさんはおそらくせりすの祖父だろう。

 何か因縁があるらしいがさっぱりわからん。

 とりあえず挨拶はしとかないとな。


「お邪魔してます」

「わかっとるならさっさと出て行け!」


 何この嫌われよう?


 事情を知るためせりすを見る。

 目が合ったがふっと逸らされた。


 それ、説明拒否って事か?

 まあいいか。

 ミズキとは会ったし、話もした。

 これで用事は済んだんだろう。

 俺は平和主義者だからモメる前に退散するとしよう。


「じゃあ、俺はこれで……」


 去ろうとする俺の前にミズキが立つ。

 ちょうどじいさんとの間に入った感じだ。

 ミズキがじいさんに文句を言う。

 まだ話は終わってないから邪魔するな、と。


 ミズキは居候のくせに態度デカイな。

 部外者だから何も言わねえけど。


 言うまでもないが、向こうの世界の言葉だからじいさんは理解できない。

 理解出来ないだけならまだよかったのだが、じいさんはミズキの行動を曲解した。


「……貴様、孫娘をたぶらかしただけでは飽き足らず、ご客人にまで手を出したのか!!」

「誤解です」

「人のヨーグルトを勝手に食うヤツの言葉など信用出来るかっ!」


 どうやら俺には余罪があったようだ。

 って、このじいさんも食い意地が張ってるな。スラ族の遺伝なのか?

 いや、じいさんはスラ族じゃないから関係ないか。


 無駄な気はするがミズキとの関係を説明するか。

 いや、待てよ。

 じいさんは組織の事知ってるのか?


 俺が楓さんに目を向けると更に怒声が飛んだ。


「貴様!楓にまで色目を使うのかっ!」

「そんなわけないでしょ!」

「そうですよ。誤解ですよ」


 こりゃダメだな。このじいさんには何言っても無駄だ。


 もうさっさと退散したほうがいいな、と思ったときだ。

 じいさんに抱かれていた子猫がぴょんと飛び出し、ちょこちょこと俺の前にやって来た。

 子猫はにゃん太郎(仮名)だった。

 最初見たときからにゃん太郎(仮名)だと気づいていたが、面倒な事になるかもしれないので今までスルーしてたのだ。


 にゃん太郎(仮名)は俺の周りをキョロキョロ見渡し、俺を見上げる。


 他の皇帝猫がいないか尋ねているようだな。


「にゃっく達は来てないぞ」


 俺の言葉が理解出来たのか、寂しそうな表情をする。

 記憶では別れるときアヴリルがにゃん太郎(仮名)を抱いていたはずだ。


「楓さん、なんでにゃん……」

「貴様!“たま”までわしから奪う気か!!」

「ん?たま?お前、“たま”っていう名前なのか?」


 小さく首を傾げるたま?


「お父さん、“ゆき”だって言ってでしょ。ね、ゆきちゃん」


 だが、ゆきちゃん?は無反応。


 こいつ、どの呼び方にも反応してねえな。

 全部気に入らない?

 それとも既に名前があるのか?

 さっぱりわからん。


 こいつの名前の事はともかく、これでじじいの怒りは頂点に達したようだ。


「……貴様、生きてこの家から出られると思うなよ」


 全身に殺気を纏ったじじい。

 

 普通に戦ったら百パーセント俺が負ける。

 それだけの実力差があるのが今の俺にはわかる。

 もちろん、そのまま戦ったらの話だ。

 俺には魔法がある。

 肉体強化魔法アディ・ラスを使えば武術の達人であろうと簡単には負けはしない。


 とはいえ、使うと色々問題だろうな。


 と、どこか楽しそうにミズキが話しかけて来た。


「チトセ、このじいさんなんて言ったんだい?」

「生きてこの家から出さないってさ」

「へえ、家から出さないのは賛成だね」

「冗談じゃない」

「じゃ、僕が仕留めてあげようか?」

「やめてくれ」


 あやめ様と互角に戦ったというのが嘘だったとしてもミズキはじじいに勝つだろう。

 ラグナを使わなくてもだ。

 それほどの力の差がある。

 とはいえ、ミズキが上手く手加減できるのか不安だし、手加減できたとしてもそのあとここに居づらくなるだろう。



「騒がしい」


 声のした方を見るとあやめ様が立っていた。


「こ、これはそのじゃな……、そう、このガキがお客人を襲おうとしててだな」


 こら、じじい。

 よくそんな嘘が出てくるな。


 もちろんあやめ様はそんな嘘に騙されたりはしない。

 それを示すように冷たい目をじじいに向ける。


「……それで?」


 痛い痛い!

 その視線を直接向けられているわけじゃないのにそばにいるだけでキツイぞ!

 当人はたまったもんじゃないだろう。

 事実、


「す、すまんかった!」


 そう言ってじじいは逃げていった。

 こうして澄羅道場に平和が戻ったのだった。


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