表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
216/247

202話 言葉の壁

 澄羅道場の門をくぐる。

 せりすは道場ではなく、母屋に向かうのでその後をついて行く。

 と、母屋から言い争う声が聞こえた。


 この声は楓さんとーーミズキ?


「せりす、ミズキがいるのか?」

「ええ」


 どこかそっけないな。


 楓さんとミズキはキッチンにいた。

 ミズキは俺に気づくと笑顔を見せた。


『チトセ!』

「久しぶり。こっちに来てたんだな」


 抱きついて来そうな勢いだったミズキの前に楓さんが立ちふさがる。


「千歳はせりすの彼氏だって言ってるでしょ!」


 いやあ、彼氏って言われると照れるな。

 てか、楓さん、いつから俺の事名前で呼ぶようになったんだ?


『近寄るなって、言ってるんだろうけどチトセは僕に会いに来てくれたんだよ!』

『え、そうなのか?』


 せりすを見ると少し困惑した顔をしていた。


「違うのか?」

「何が?」

「何がって、ミズキの願いで俺はここに来たって事だよ。本当なのか?」


 だったらせりすが不機嫌な理由がわかるぜ。

 って、せりすって昔からこんなに嫉妬深かったのか?


 だが、せりすの発した言葉は俺の質問に対する答えではなかった。


「千歳はミズキの言葉がわかるの?」

「は?そりゃどういう意味だ?」


『やっと言葉が通じる人が来てホッとしたよ!あやめはいつもどっか行ってていないし、他の人は言葉が通じないし!カエデは何ってるかわからないけどうるさいし!』

『何だよ、言葉が通じないって』

『会えるだけでいいと思ってたけど、まさかチトセも“僕達の言葉”を話せるなんてね!』


 ちょっと待て。

 今、なんて言った?

 俺がミズキ達の世界の言葉を話してるだって?


『どうしたんだい、チトセ』


 ……本当だ。

 ミズキは日本語を話していない。向こうの世界の言葉だ!

 そして俺も向こうの世界の言葉を話してる!?

 なんで……って、理由は一つしかないよな。

 暗出島で運命の迷宮に潜ったという事なら楓さんも話せるはずだ。

 俺だけ、というならフェニクス・チトセの魔法を覚えた時、言葉も一緒に脳に刻まれたのだろうか?

 いや、魔法を覚えたことが原因ならもっと以前から話せたのか?

 ……やめた。考えてもわかるはずない。



 楓さん、ミズキ、せりす、そして俺の四人はリビングでお茶を飲んでいた。

 お茶を入れたのは何故か俺だ。

 お客であるはずなのだが、ミズキには監視が必要とのことらしい。

 

「なんの監視だよ?」


 とは聞かない。

 その隙を与えられなかった。



 どこかギスギスした雰囲気で居心地が悪い。

 しかし、ミズキは全くそう感じていないようで楽しそうに話をする。 

 主に話をしているのはミズキと俺だ。

 ミズキはこんなにおしゃべりだったのかと驚くくらいよく喋る。

 ミズキの言葉がわかるのは俺だけなので、残る二人に訳してやる事になる。

 だから実質話をしてるのはミズキだけだ。


 訳してるだけとはいこんなに話すのはいつぶりだろうか。

 最長新記録更新中かもしれんな。



 ミズキが澄羅道場に世話になる事になった経緯はこうだ。

 俺と葉山先生が運命の迷宮を脱出後、残ったキリンさん、ミズキ、シエスは転送の紋章を探し続け見つけたものが三人用だった。

 だから一緒に転送してこちらの世界に残る事になった。

 ミズキはキリンさんにお願いして澄羅道場に向かった。

 目的は言うまでもなくあやめ様に会うためだ。

 どんな因縁があるかまでは話してくれなかったが、ともかく勝負をする事になった。

 勝ったほうが相手の言う事をなんでもきく条件であやめ様は勝負を受けた。

 で、結果はあやめ様の勝利。

 ミズキは僅差と言ったが、その話を訳した時、その場に立ち会っていた楓さんはあやめ様の圧勝だった、と訂正した。

 まあ、どっちにしろあやめ様が勝利したという結果は変わらない。

 あやめ様がミズキに命令した事は、こちらの世界の常識を身につけるまでは澄羅道場の敷地内から出るな、であった。

 今は俺が以前訓練していた時に使っていた離れの二階を使っているらしい。


 門下生にはあやめ様の遠い親戚で海外で暮らしていたため日本語が話せないという事にしており、極力皆の前では言葉を発しないように注意しているそうだ。

 ミズキも美人だから下心丸出しの門下生が言いよって来て対応に苦労してるらしい。


『いっそ、ラグナで消滅させてやろうかと何度思ったことか』

『頼むからやめてくれ。みんなに迷惑がかかる』

『わかってるよ』


 言葉のわからないミズキがすぐに一般常識を身につけられるわけもなく、どんどんストレスがたまり爆発寸前なのは誰の目にも明らかだった。

 そこでこちらの世界での数少ない知り合いである俺がガス抜きに呼ばれた、と言うわけだ。

 ちなみにさっきミズキと楓さんが言い争っていたのはデザートのヨーグルトの取り合いとの事だった。

 もう少しで本気の殴り合いになりそうだったらしいので、俺達の到着がもう少し遅れていたらどうなっていたことやら。

 ホント食い物の恨みは恐ろしいよな。


『まあ、戦っても勝ったのは僕だけどね』

「ねえ、千歳、今ミズキなんて言ったの?」

「え?いや、別に大した事言ってないですよ」


 この人達、カンが鋭いんだよな。

 それとも言葉通じてなくても悪口はわかるって言うやつか。

 どっちにしても面倒だよな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ