201話 妹の可愛さは尋常じゃない
日曜日。
せりすは午前九時に迎えに来た。
「時間丁度だな。もしかして玄関で待ってた?」
「そんな事するわけないでしょ」
「そうだよな。じゃあ行くか」
「ちょっと待って」
「ん?」
「七海ちゃんも連れて行く気?」
その言葉で俺は七海をおんぶしているのに気づいた。
「おお、すっかり忘れてたぜ」
七海を降ろそうとするが、七海はちょっと頬を膨らませて抵抗する。
無理に剥がせなくもないがそんなことをすれば心に大きな傷を残すかもしれない。
「仕方ないな。七海も一緒でいいか?」
「……何があっても知らないわよ」
それはつまり、話っていうのは魔物関係ってことなのか。
さすがにそれは連れていけないよな。
「七海、お兄ちゃんはお姉ちゃんと大事なお話があるんだ。だからな?」
「んーん!」
ぎゅっと力を強め、離そうとしない。
おお、大好きなお兄ちゃんと取られると思ってるのか。
かわいいやつだな。
「ダメだ。全力で説得したが無理だった」
「どこがよ」
彼女と妹の挟まれ困っている俺を助けたのは母だった。
「あんたいつまでバカやってるのよ」
そう言うと七海を俺の背中から引き剥がした。
「ほらっ、さっさと行きなさい」
「……早速嘘がバレたわね」
「嘘?何のことだ?」
「どこが『俺はシスコンじゃない』よ。思いっきりシスコン、いえシスロリじゃない」
「俺はロリコンじゃない」
「シスコンは認めるのね。やっぱり記憶失ったの嘘じゃない」
「せりすはまだ疑ってたのか。前に納得したはずだろ」
「ええ。で、騙されてたってさっき知ったわ」
「それは違う」
なんということだ。せりすにはわからないのか。
「へえ、聞きましょうか。今度はどんな言い訳するのか」
「言い訳じゃないぞ。俺はせりすの方が不思議でしょうがない」
「何がよ?」
「確かに俺はシスコンだ」
「あとロリコンね」
「話を折るなよ。以前もシスコンだったらしいがその記憶はない。これは本当だ。だから俺がシスコンになったのはここ数日での事だ」
「……」
「数日でも七海と一緒に暮らせば誰だって七海のかわいさが尋常じゃない事がわかるはずだ」
「……」
「あんなにかわいい妹だぞ。シスコンにならない方がおかしい。せりすも七海と遊んだんならわかるはずだろ?」
「私、そういう趣味ないから」
「昨日なんか全力で甘えに来たから全力で甘やかせてやったぜ!」
って、言ったら殴られた。
何故だ?
何故せりすには通じぬ?
同性だからか?
俺達は電車に乗った。
まだ行き先は教えてもらっていない。
ちなみに今日、皇帝猫は連れてきていない。
にゃっくは朝食後、どこかに出かけた。
みーちゃんは俺の部屋に引きこもり、ウリエルは七海の遊び相手をしながらボディガードをしてるはずだ。
電車を降り、見覚えのある道を歩いていた。
この先って、
「もしかして澄羅道場に向かってるのか?」
「そうよ」
「なんだ。それならわざわざ迎えに来なくても澄羅道場で待ち合わせでもよかったんじゃないか?」
「そうね」
全然、そうね、って顔じゃないんだけどな。
「まさかまた訓練か?」
「知らない。私は組織と関係ないから」
「あ、そうか。って、じゃあ組織と関係ないのか?」
「さあ。私はお祖母様に千歳を連れて来いと頼まれただけだから」
「あ、そう」
澄羅道場で訓練を受けた事は覚えてるが、その時の記憶が曖昧だった。
だが、気が重いこの感じ。あまりいい事はなかったようだ。




