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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
211/247

197話 帰宅

 目を覚ますと見慣れた部屋にいた。


「……探偵事務所か?」


 独り言に頷く者がいた。

 にゃっくだ。

 寝かされていたのは以前ぷーこが使っていた部屋だった。


 あの後、潜水艦に乗って島を脱出したんだよな。

 乗組員にゲスト用?の部屋に案内され、勝手に艦内を動き回らないようにと念を押された。

 部屋のものは好きに使っていいと言われたので冷蔵庫から果汁百パーセントのオレンジジュースを取り出して飲んだ。

 すぐ眠くなって来たのは島から脱出できた事で安心し、気が抜けたからだと思っていたが、この状況から考えるとジュースに睡眠薬が入ってたんだろうな。

 潜水艦がどこに向かったのか知られたくなかった、ってところか。



 事務所の中を見て回ったが俺達以外いなかった。


「じじいの野郎、逃げやがったな!書き置きくらい残すだろう普通!」


 部屋に戻り、所持品を確認する。

 リュックの中身は問題なかったが、組織から支給されたスマホと右腕に巻いていたマグ、ナンバー九十二がなくなっていた。


 スマホはどうでもいいけど九十二は残して欲しかったな。

 とはいえ、こちらの世界にあるマグは貴重なはずだから仕方ないか。

 ……あれ?

 右腕には他に何かあったような気がするんだが特に怪我はないし……まあいいか。


 部屋には着替えが用意されていた。

 流石に冒険者の格好で街を歩かせるわけにはいかないと思ったのだろう。

 用意された服はジャケットにスラックスでカジュアルな服装だった。

 有名ブランド物で俺が最初に着ていた服より高いのは間違いない。


 着替える前にシャワーを浴びた。

 スッキリしたところで用意された服に着替えてみる。


 サイズはピッタリだし、すげーカッコ良くねえか?

 間違いなく俺が着る事を前提に選んでるよな。

 めちゃくちゃ気に入ったぜ!

 この服、もちろんプレゼントだよな?

 返さねえからな!

 もし給料から天引きされてたら抗議するぞ!



「他のみんなは無事脱出できたのか?」


 キリンさんとアヴリルにメールを送る時、新田せりすが登録されているのに気づいた。

 何度かメールのやりとりしてるし、SNSキャットウォークに会話も残ってる。

 そのやりとりをした記憶はないが読むと胸が熱くなった。

 記憶は失くしても心のどこかが覚えているようだ。

 少なくとも新田せりすと友達である事は確かなようだ。


 新田せりすに連絡を取れば楓さんの事聞けるか。

 いや、聞いていいのか?

 新田せりすが組織の事を知ってるとしても俺の任務内容を知っているとは限らないぞ。

 記憶が中途半端に消えるってのは思った以上に厄介だな。


 スマホからメールの着信音が鳴った。

 キリンさんからだった。

 全員無事に脱出できたことと連絡があるまで普段通りの生活をするようにとの事だった。

 最後に、

 本当にありがとう

 と書かれていた。


 自然と笑みが漏れる。


「にゃっく、全員無事だってよ」


 にゃっくが小さく頷く。


「じゃ、帰るか」


 にゃっくと共に探偵事務所を後にした。



 予定より長く留守にしたが、親は大して心配してなかったようだ。

 軽く注意されただけだ。


 それだけ俺の事を信用しているのか、組織のアリバイ工作が完璧だったのか。

 前者だよな!


 で、だ。

 俺を一番心配していたのは妹の七海だった。

 俺の姿を見ていきなりジャンプして抱きついてきたのだ。


「ちいにい!おそい!」

「おう、悪い悪い」


 うーむ、俺ってこんなに妹に懐かれてたのか。

 その辺りの記憶が消えてるからさっぱりわからん。

 とりあえず妹の頭を優しく撫でてやる。


 ……ん?

 母さんが不審そうな目で俺を見てる?

 ……そうかっ!

 俺はシスコンだったらしいから、今のこの反応に違和感を覚えているのかも知れない。

 記憶を失ってる事を知られると面倒な事になりそうだから内緒にしといたほうがいいだろう。

 シスコンの演技をするんだ、俺!

 俺も妹をぎゅっと力加減に気をつけながら抱きしめる。


「七海、俺も寂しかったぞ!」


 これでどうだっ?


 母さんが更に不審そうな目で俺を見ていた。


 どっちなんだよっ!?



 俺の膝の上に妹が座り、妹がにゃっくをぎゅっと抱いている。

 父さんの全身から嫉妬のオーラが溢れているのがわかる。


 うーむ、この感じ。

 前にもあったような、なかったような。


「千歳、せりすさんにお礼言った?」

「ん?お礼?」

「あんた、自分が留守の間、七海と遊んであげてって言ったんでしょ?せりすさん、七海の面倒見てくれたわよ」

「そう、なんだ」


 全然記憶にねえ。

 てか、やっぱり俺と新田せりすは付き合ってる?

 それも親公認!?


「まったく、ちゃんとお礼言いなさいよ」

「わかってるよ」

「あのねえ、ちいにい、あたしね、あるねえといっぱいあそんだんだよ!」

「ん?あるねえ?誰だそれ?」

「せりすさんのことでしょ」

「ん?新田、じゃなかった、せりすさんがあるねえ?なんでそんな呼び方に……」

「千歳、あんた今、せりすさんて、その呼び方……」


 あ、新田せりすの呼び方間違えたっ?!

 付き合ってるなら名前で呼んでると思ったけど違ったのかっ?!それとも“さん”付けがおかしかったかっ?!

 まずいぞ!

 このままここにいたらボロが出そうだ!


「あ、じゃあ、俺ちょっと電話してくるわ!」


 そっと妹を下ろし、にゃっくを残して二階へ上がった。


 にゃっくが恨みがましい顔つきに見えたのは気のせいだろう。


 

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