195話 再び奴らが現れる
「どうにか着いたな」
葉山先生は安堵の表情を見せるが俺は全然安心できないぞ。
「いやいや、葉山先生、基地なんて何処にあるんだよ?」
森を抜けた後の平地。
地面には俺達のものではない足跡が所々にあるが建物は一つも見えない。
海岸ですらない。
「遮蔽装置でも使ってんのか?」
俺が好きな海外ドラマ、スペーストレックで敵側がそんな装置を使って身を隠していたことを思い出す。
って、こういう事は覚えてんのな、俺。
「うむ?なるほどな」
「何がなるほど、なんだよ?」
「今の君の観察力は大した事はないな」
「悪かったな!」
「魔王の加護がなくなったからか。以前からなのか。情報不足で判断できないな」
「今はそんな事どうでもいいだろっ」
「口の利き方は間違いなく以前より悪くなったな」
「それは済みませんでしたね!で、どうなんだよ?」
「そうだな。ん?ーー君の相棒は気づいているようだな」
「にゃっくが?」
葉山先生の言葉とほぼ同時ににゃっくが肩から飛び降りた。
にゃっくが見つめる方向を目を凝らして見る。
「ーーにゃっくが見つめる先、景色になんか違和感あるな。説明しにくいが」
「うむ、正解だ」
葉山先生が腕時計を操作すると、今まで何もなかった地面にマンホールの蓋のようなものが現れた。
「もしかして本当に遮蔽装置で隠されていた?」
「うむ」
「なんだよ、俺の言ったこと当たってたんじゃねえか」
「では行こうか」
おい、こらっ、無視すんなよ!……ったく。
にゃっくが俺達の前に出て止まる。
「ん?」
「ストップだ先生!にゃっくは何か異変を感じてるみたいだ」
「異変?」
程なくして、基地への入口の蓋がガタガタと動き出した。
誰か俺達に気づいて迎えに来てくれたようだ。
だが、開けるのに苦労しているらしく、なかなか蓋は開かない。
もともと建てつけが悪かったのかもしれないし、地震で歪んだのかもしれないな。
そう思った時、微かにだがうめき声のようなものが聞こえた。
……まさかな。
頭の中で船での悪夢が蘇る。
「なあ先生、こういう場合って伝った方がいいんだよな?」
「うむ、そうだな」
と言いつつ俺も先生も手伝う気はない。
俺は、いや、俺達はにゃっくと同じように違和感を覚え始めていたんだ。
やがて、入口の蓋がゆっくりと開いた。
そして出てきたのは……。
「……あ、あああ、あぁ」
「……やっぱりかよ」
言葉にならない声を発しながら入口から這い上がってきたのはゾンビだった。
なぜ嫌な予感だけは当たるのだろうか。
一人、また一人と入口から這い上がってくる。
それをにゃっくが皇帝拳でなぎ倒す。
……やばいな。流石のにゃっくも連戦で動きが鈍くなってるぞ。
「行け、“九十二”」
右腕に巻かれたワイヤー型のマグ、ナンバー九十二が俺の意思に従い、ゾンビに向かう。
九十二はゾンビの足に絡みつき、切断する。
「ぐ、ああああ……」
ゾンビが悲鳴を上げて倒れる。
これが生き物であればこのまま放っておけば出血多量で死に至るところだが、既に死んでいるゾンビには影響ない。だが、動けなくする事はできる。
「君はこの後に及んでまだ躊躇しているのか?」
「悪いかよ?」
「いや、それもよかろう」
葉山先生が腕時計を操作する。
「ーーライト・ロー」
葉山先生の掌から白い光が放たれ、にゃっくとゾンビに命中する。
「おいっ!?」
「問題ない」
葉山先生の言う通り、効果があったのはゾンビだけだった。
光を浴びたゾンビは崩れ落ち、灰となったが、にゃっくはなんともなかった。
「先生も魔法使いだったのか?!」
「うむ」
「じゃあ、なんで今まで戦わなかったんだ?」
「私は対アンデット魔法しか持っていないのだ」
「ああ、なるほど」
「それに肉体労働は得意な者、それしか能のない者に任せておけばいいのだ」
「なるほ、ど?」
これ以上この話をするのはやめよう。
聞かなくていいこと聞かされそうだ。
地上に出たアンデットを一掃後、今後どうするか相談したが結論はすぐに出た。
基地を進む、だ。
「基地には二十人くらいいたはずだ。全員ゾンビとなっていたとして残りは十人くらいだな」
「それくらいならなんとかなりそうな気がするな」
にゃっくも小さく頷く。
それに別の基地に向かう時間が残ってるとは思えないからそれ以外の選択肢はなかったと言っていい。
「ところで君はあのマグを“九十二”と呼んでいたようだが」
「ん?九十二は九十二だろ?他になんて呼ぶんだよ?」
「以前の君はケロロと呼んでいた」
「ケロロ?」
なんだ、それ?
「そういう名前が付いていたのか?」
「聞いているのは私だ」
「そうだな。悪いけど全く覚えてない」
「しかし、あのマグが九十二番という記憶はある、と?」
「ああ」
「興味深いな。君は魔法だけでなく他の知識も手に入れたようだ」
「そうなのか?いや、そうなんだろうな。だが、何が魔法と一緒に手に入れた知識なのかわからない」
少なくとも今はそんな検証をしてる暇はないしな。
「うむ。興味は尽きないが、この続きはこの島を脱出してからするとしよう」
葉山先生は入口から中へライト・ローを放った。
「アンデットが見えたのか?」
「いや。だが待ち伏せしているアンデットがいたら倒せていただろう」
確かにそうだが、逆に敵を呼び寄せた可能性はないのか?
どっちの選択が正しかったかは進んでみなければわからない。
俺達はにゃっくを先頭に基地に入った。




